上 下
503 / 528
第五部 『帝国』編

498 「報告(2)」

しおりを挟む
 外に出ると、ほぼ見送った状態でみんながいた。
 それぞれ輪になってちょっと雑談と言った感じだ。

「ん? 我が友よ、それにルカ殿達も。どうされた? 問題でもあったか?」

 オレ達が出て来たのを最初に見つけたのは、ずっとこちら、出入り口を見ていたマーレス殿下だ。

「いいえ、取り敢えず、今日の訪問は終わりました。念のためクロ達を連れて、次の人達は入って下さい。多分ですけど、すぐ済みます」

「そうなのか? ……うむっ、分かった。では、者共参ろうではないか」

「辺境伯、中の様子は?」

「なんもないだだっ広いホールがあるだけです。危険もない代わり、って、先に言ったらつまらないですよね」

「なるほど、百聞は一見に如かずだな」

 空軍元帥が、マーレス殿下の斜め後ろに、躊躇なくついて行く。
 その反対側を火竜公女さんが、いつもの優雅な物腰で通過する。

「ハルカちゃんは、目的達成できたの?」

「目処はついたわ。気遣いありがとう、男爵夫人(バロネス)」

「それは何より。事をなしたら、お祝いさせて頂くわね」

「それじゃあ、みんな行って来る。ところでショウ君、本当に僕が入っても良いのか?」

 最後にヒイロさんが、仲間に挨拶した後、遠慮がちの声と表情。
 それには笑顔とリップサービスが一番だろう。

「ヒイロさん達も戦ったんだから、十分に資格ありますよ。それでも気になるなら、『ダブル』代表くらいの気持ちで入れば良いんじゃないですか? 物語のクライマックスぽいですし」

「アハハ、確かにそうだな。じゃあ、行って来る」

「はい。けど、気負いすぎないで下さい」

「アドバイスありがとう」


 そうして4人が光の中に消えていくと、オレ達の周りに人だかりが出来る。
 多くは『ダブル』だ。

「中に何があった?」「マジで神々が居たのか?」「天使とか精霊とか居たのか?」「何か願ったのか?」「オレ達も入れないのか?」などなど、口々に聞いてくる。
 それをジョージさんが制した。

「まあまあ、皆んな。そんなにいっぺんに聞いても答えられないだろ。ちょっと場所を用意して話してもらわないか?」

 そしてそれから、オレ達の飛行船の前に移動して、オレ達を中心に半円状に皆んなが囲んでいる途中で、入ったばかりの4人が出て来た。
 出入り口で待っていた『帝国』の人達が、口々に殿下と呼ぶ声でそれが分かった。
 その間僅か3分と言ったところだ。

(なるほど、オレ達もこんな感じだったんだな)

 出て来た4人は、どこか狐につままれたような表情を浮かべている。
 まあ、ここはオレ達が声をかけるべきだろう。

「早かったでしょう。まだ数分しか経ってませんよ」

「そのようだな。で、何をしておる?」

 マーレス殿下が最初に気を取り直し、大股でズカズカと歩いて来る。

「何があったか皆んなが聞きたいと言うので、その準備中です」

「ならば、我らも話さねばならんな」

 殿下の言葉で他の3人も、オレ達の方へやって来る。そして合わせて11人で、経過を話すことになる。
 先に入ったオレ達が先行で、当たり障りない辺りを主にシズさんが話した。
 勿論だけど、ハルカさんやボクっ娘、いや二人のレナの事は伏せてある。ついでにレイ博士の事も。
 そしてマーレス殿下達だけど、少し戸惑いが見えた。

「話せない事があるなら無理に話さなくても良いと思いますよ」

 それに4人が視線を交わす。
 そして火竜公女さんが代表するようだった。

「御免なさいね。御察しの通り、四人の約束で、この場では話せない事が御座いますの。一部はそれぞれ墓まで持っていくほどのものよ。だから聞きたいと言うなら、話さない契約魔法を施した上で、同じように墓まで持って頂く事になりますが、お聞きになりたい方はいらっしゃるかしら?」

 全員が顔を見合わせたり困惑げな顔をするけど、首を縦に振る者はいなかった。
 火竜公女さんが続けた。

「では、お話出来る事だけお話ししますね」

「それとだ、『帝国』の者にはワシからあとで話がある。ただし、話すのは島で待っておる者共と合流してからだ」

 マーレス殿下が付け加えて、そこでようやく話しだした。
 そして何を願ったのか、何を聞いたのかについては、殆ど触れる事が無かった。
 そして空軍元帥の番の時だった。

「私の願いは、我が相棒の天鷲とずっと居る事だった。だが私は、既に妖人になり始めていて、願いを叶える必要が無かった。
 だが、他にも私と同じような想いの者がいるだろう。そして回答期限が7日後なので、まずはこの場で同じ想いの者は、考えた末で申し出てくれ」

「ただ残念ながら、この場にいる「客人」、『ダブル』だけが対象になります。もし他の場所にいるものに声をかけても、把握出来ないから無理だそうです。
 だから他に話しても構いませんが、神々の塔に居ない者は対象外だと正しく伝えて下さい」

「まったく、こんな美味い話があるなら、『ノヴァ』から根こそぎ連れて来るんだった」

「お気持ちはわかりますけど、愚痴を言っても仕方ないですわ。けど、キューブを探せばまた次の機会が巡って来ますわ。
 きっと世界中でキューブ探しが盛んになりますわよ、フフフっ」

「それなら一層、今回のものが100年間はここの訪問の鍵として使えない事も、しっかり伝えないといけませんね」

「我が国も、『きゅーぶ』の件は全面的に協力しよう」

 なんだか4人の間に、結束感が見られる。
 中でよっぽどの体験をしたか、とんでもない話でも聞かされたんだろう。

(真面目な勇者様だから、世界の謎とか、魔物の謎とか聞いてそうだなぁ)

 横目で4人を見ながらぼんやりしてると、マーレス殿下が視線を向けて来た。

「それで我が友よ、今後はどうする? 取り敢えず今宵はここで過ごすしかないだろうが、ワシとしては明日一旦島に戻り、皆を連れてここにもう一度来ようと考えておるのだが」

「そうですね。この島が一番安全ですからね。それじゃあ、万が一の為、明日オレ達も一緒に島に向かいます」

「なら、わたくし達もご一緒させて頂きますわ」

「うむ。ご配慮痛み入る」

 それで話も決まり、今晩は神々の塔の裾野の巨大なテラスのような場所で一夜を明かすこととなった。
 そして今夜は魔物との戦いの勝利の祝勝会も兼ねた大宴会といきたいところだけど、そうもいかなかった。

 『帝国』は島とバラバラ。ノヴァ組と『ダブル』達は見物に来ただけなのに、何やら棚ぼたがあると分かって喜ぶどころか半ば恐縮していた。
 そしてオレ達は、喜ぶのはもう少し先だ。
 けれども、人は食わねば生きていけない。

「まあ、そない深刻な顔せんと、うちのご飯食べてーな。昔の人は『ひもじい、寒い、もう死にたい』て言うたもんや。お腹減ってたら、人間ロクな事考えへんねんで」

「そうよ。ほらヒイロさん達も、いつまでも恐縮してないでね」

 ルリさんとハナさんは、夕食の準備をしつつずっと飛行船で待っていてくれた。
 こうして心身ともに温かくなる食事が食べられるのは、二人のお陰だ。
 そして船が無事なのは、うちの家臣の人達のおかげだ。

 塔に来た事、塔に入る為に魔物を倒した事、塔の中で光明が見えた事、それはそれで重要だと思うが、自分一人では何も出来なかった。
 そしてハルカさんを助けられそうだと、ちょっと浮かれ気分だった事を、目の前の料理と二人の変わらない態度で気づく事が出来たと思う。
 だから食事の前に不意に立ち上がり、素直に気持ちを伝えた。

「まだ結果には至ってないけど、今日はオレ達のして来た旅の目的が達成できそうな大きな節目に到達できました。
 それも、みんなのお陰です。オレだけじゃここまで来る事は出来なかったし、魔物も倒せてなかった。この飛行船も守れなかった。それに毎日、美味しいご飯も食べられなかった。
 全部できたのは、してこれたのは、みんなのお陰です。本当に有難うございます」

 そうして頭を下げたが、沈黙で迎えられた。

「……なあ、気持ちは嬉しいねんけど、そう言うのは全部終わった時にしようや。ぬか喜びなったら、ウチよう慰めへんで」

「そうよね。気持ちだけ頂いておくわね」

「だな。とは言え、もう俺の活躍できる余地がほとんどねえがな。今日の戦いも、側で見ててビビりっぱなしだったぜ」

「飛行船いじりは、俺の趣味みたいなもんだ。気にするな」

 縁の下の力持ちな人達が、それぞれ言葉をかけてくれたので、もう一度頭を下げた後、いつものように賑やかな夕食となった。
 そしてその日は、昼間の魔物との激しい戦いと、色々な事が起きたので、早々に寝る事にした。

 けど、同じベッドで寝たハルカさんの表情は、少し緊張と不安が混ざったものだったので、お互いベッドの端っこで寝ずに、寄り添って寝る事にした。

 もちろんだけど「疲れてるし、エロい事したら殺す」と脅された上で、だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...