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第五部 『帝国』編

461 「戦いの後(2)」

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 そして夕刻、神殿前に食事の準備がされていた。
 正面に神殿、左右に飛行船という戦いの時の配置のままで、各飛行船から魔石を用いた魔法の照明なども行われているので、焚き火やかがり火は最小限だ。
 そして周りから見えないよう、周囲を幻影魔法の一種で明かりが漏れないようにしてある。

 前線での野営と似たようなものなので、食事は最低限の形式だ。また机や椅子が全然足りないので、立食パーティー形式だった。
 そして、こちらからも人数を出していたけど、ほとんどは『帝国』がしてくれた。

「まずは、この戦いで倒れた者たちに。そして、地皇の聖地奪還と聖なる護りの復活を祝って、乾杯っ!」

「「乾杯っ!!」」

 マーレス第二皇子の音頭取りで、晩餐というには質素というか大雑把な感じの夕食が始まる。
 そしてすぐにオレ達にお声がかかる。

「この度、地皇の聖地の聖なる護りを復活させたのが、こちらにいらっしゃる上級神殿巡察官のルカ殿と、その供の方々だ。
 国内での魔物討伐、もしくはここでの武勇を直に見た者も多いだろうから多くは語らぬが、惜しみない感謝を『帝国』を代表して贈らせて頂く」

「お言葉痛み入ります。私達は神々の御心のままに動いただけに過ぎません。私達が事を成せたのは、『帝国』とマーレス第二皇子殿下、それにこの場にいらっしゃる方々、そして戦いに倒れた方々のご助力があればこそです。神々に仕える者として、心より感謝申し上げます」

 両者の多少面倒くさい言葉の交換に、この場にいる全員から感謝の拍手が盛大に贈られる。
 そしてそこからは、マーレス殿下の人となりがを反映してか、多少くだけた感じの宴会となった。この場にいる兵士や騎士も、他の『帝国』人に比べると権威がかっていない。
 
「それで我が友よ、お前が青鬼と言った連中、またここに来ると思うか?」

「悪鬼の体はすぐに再生するし、ここは澱んだ魔力も多いですからね。それに内陸部の徒歩の連中が、ここか森を焼いてる場所に迫ってきているとしたら、それを率いて再挑戦してくる可能性は高いのでは?」

「だろうな。それに偵察をしたが、逃げた連中は少し離れた澱んだ魔力の濃い場所に潜んでおる。こちらが戦力的に十分追撃出来ないのを知っての事だろうが、やはり増援を待っておるんだろうな」

「明日朝、オレ達が立つのに合わせて、せめて拠点まで戻っては?」

「普通に考えれば、それが最善だな。どうせ、この神殿に雑魚の魔物は入れんし、悪鬼どもが入ったところで連中にとっても聖地なれば破壊もできまい。こちらも心理面以外では守る価値はない。
 それに、兵は少ない上に消耗したし、お前達も旅立ってしまう。理屈では判るのだ」

 そう言ってマーレス殿下が腕を組んで考え込む。
 ただ口には肉の骨をくわえたままなので、ガキ大将がこれからの喧嘩の事を考えているように見えてしまう。

「本国からの援軍は?」

「昨日の森を焼いた話は、早便で知らせたから明日には到着するだろう。だがそこから待機している連中が即座に出撃しても、ここに来るまでさらに3日。
 ……やはり、退避しかないか。魔物の空中戦力も、半分程度残っているのだったな?」

「レナ、どうだ?」

 近くで元気に食べて喋っていたが、声をかけると冷静な目がこちらを向く。

「魔物の前衛の6割は逃げたよ。飛龍は2体しか倒せてないし。それに後から来たお馬さん達は、魔物化してない奴がほぼ無傷だから7割以上逃げた筈」

「結構逃げたんだな」

「無茶言わないでよ。あの数を、出来るだけ地表に行かせないようにするだけで精一杯だったんだから」

 そう言ってこちらを向いて立ち上がり、腰に手を当てる。大げさにない胸を反らしているが、ただのポーズだ。

「あ、いや、責めてるわけじゃあ。オレなんか、途中から周りの様子全然見る余裕なかったから、ただの無責任な感想だよ」

「どうだか。でも、ゼノ並みの悪魔を、よく抑えたよね」

「凄かったよね。私なんて、赤いのに押されっぱなし。ホランがいなかったら死んでたね」

「トモエの嬢ちゃんも凄すぎだろ。あいつの一撃を何度も止めるとか、どうやったんだ?」

「止めてないよ。良い刀だから受け流すだけ」

「剣が良くても、腕がないと無理だろ。俺なんて何度も吹き飛ばされて、情けないったらないぜ」

 そのまま周りにいた仲間達が雑談になった。
 静かなハルカさんとシズさんは、共に無心に食べるか飲むかしてる。
 どちらがどちらかは、言うまでもないだろう。
 するとそこで殿下がやおら立ち上がる。

「アーバス。一時撤退だ。晩餐後、早朝に立てるように準備を開始せよ。本来なら今すぐと行きたいが、夜は魔物の時間。危険すぎる。それと森を燃やしている場所にも、一時撤退を命じる伝令を今すぐ出せ。
 それと今夜の警戒はさらに厳重にする」

 
 言葉と共に、近くにいた近衛の騎士が恭しく礼を取る。
 アーバスと呼ばれた兜被りっぱなしな強い騎士の人だけど、その素顔は普通の30歳くらいのオッサンだった。
 そしてこの人も、ハリウッドの映画に出てきそうな風貌をしている。
 そしてその人が映画の1シーンのように応えると、『帝国』軍が動き始める。

 こうしてキビキビ動けるのは、精鋭の軍隊って感じがする。
 けどこれで、野外でのワイルドな晩餐も実質お開きだ。
 一方オレ達の方は、マーレス殿下に挨拶をして飛行船へと引き上げる事とした。
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