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第五部 『帝国』編

378 「帝宮にて(1)」

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 『帝都』。永遠の都『ゾディーク』。
 なんと3000年の歴史を誇る街で、近くの遺跡を含めると1万年を優に超えるそうだ。

 大西洋上に浮かぶ浮遊大陸「アトランディア」の、ほぼ中心に位置する盆地の中央にある。
 南と東に抱える巨大山脈から注ぐ2つの大河の合流点を中心にして街は広がり、少し先の西部には海と見まごうほど巨大な湖が広がる。
 二つの大河とその水運、さらに港にして水瓶となる湖があるからこそ、オクシデントでは破格の規模となる街が形成できた。
 
 街の総人口は100万に達し、それに似合う壮大な都市規模を誇っている。
 勿論、オクシデント最大の都市だ。
 ここに匹敵するのは、太平洋上の浮遊大陸にある『皇国』とも呼ばれる国の都と、オレ達の世界でのチャイナに当たる場所にある国の都くらいだと言われている。

 そしてその浮遊大陸全土に『帝国』が広がっている。
 浮遊大陸上に他の国家はない。更に『帝国』の勢力圏は、オクシデントの一部と暗黒大陸(オレ達の世界のアフリカ大陸に当たる)の一部、さらには西の邪神大陸(オレ達の世界の北アメリカ大陸に当たる)の一部にまで及んでいる。

 国の制度は、皇帝を頂点とした専制制度。
 元老院があるけど憲法や議会はない。
 地方貴族の力は比較的弱く、この世界では最も絶対王政に近いのだそうだ。
 その証拠に、皇帝に忠誠を誓う軍隊と官僚団が整備されている。

 まあ、この世界では王政以外の制度は、自由都市などに限定的な共和制があるだけなので、大きい以外は比較的普通の国という事になる。
 けど皇帝の座は、終身制じゃなくて禅譲が基本らしい。しかも選帝制で、男系の血統の中から競争によって優れた者が選ばれる。

 当然階級社会で、大きく皇族、貴族、騎士、そして庶民に分かれている。
 一方では、他の国と同様に神殿と魔導師協会が国の階級構造の外に位置している。

 そしてオレ達は、神殿組織内での上級神殿巡察官という階位を持つハルカさんとその従者なので、階級構造の外の存在だ。
 それ以前に、他の世界からの来訪者である『ダブル』もしくは「客人」なので、胡散臭い存在とすら言える。
 しかし今のオレ達は『帝国』の賓客で、しかも皇帝から謁見を求められた『帝国』のお客様という事になる。
 


「なんか、ギリシャやローマ帝国とか、ネットで見た幻のアトランティス大陸ってイメージだな」

「『帝国』には、古代文明、先史文明の遺産が多くあるからな。ここゾディークも何千年も昔に建てられた建物が、そのまま使われている設備も少なくないぞ」

「見た目そんな感じですね。ところでみんなは、『帝国』に来た事あるんだよな?」

 飛行場から降りて、お迎えの馬車の中で5人でのんびりと駄弁りつつ、車窓観光に洒落込んでいる。
 ヴァイスとライムは、飛行場から皇宮の距離があるので簡単に会いに行けないけど、ゴード将軍が責任をもって預かってくれているので安心だ。
 また甲冑ゴーレム姿のアイは、馬車の外でお付きの『帝国』の騎士達のようにオレ達の護衛についていて、クロは相変わらずオレの懐の中だ。
 
「私は2回来たわ。うち1回は素通りして邪神大陸まで行って、酷い目にあって回れ右でオクシデントに逃げ帰ったけど」

「ボクは数えてないけど何度か。まあ、ほとんど通過するだけだったけどね」

「私は一度きりだな。この街にも観光で来ただけだ」

「そっか。じゃあ、『ダブル』は少ないのか?」

 やはり『ダブル』歴が長いと、一度くらいは訪れる場所のようだ。
 確かに、あの浮遊大陸を見るだけでも、一見の価値はあるのだから、そう言う物なのだろう。

「少ないけど、邪神大陸に一番近い街に冒険者ギルドがあるわよ。まんま『浮遊大陸ギルド』って名前で」

「『ダブル』のガチ勢の巣窟だよね」

「Aランク率が一番高いという噂だな。それに魔王の本拠地の目の前にある街とか、ゲーム的に表現する場合もあるな。日本人以外の『ダブル』も結構多いはずだ」

「じゃあやっぱり、邪神大陸は危ないんですね」

「大陸全部が魔の大樹海みたいな場所で、沿岸部はともかく内陸部には本当の魔王や、大陸名通りの邪神までいるって言われているからねー」

「けどレナも、行ったことあるんだろ」

「地皇の聖地の上空までね。あとは、空のツーリング仲間と上空を強行突破したことがあるくらいかなあ」

 冒険をツーリング呼ばわりとは恐れ入る。
 けど、気負ったりドヤったりしてないから、ボクっ娘にとっては大したことでもないのだろう。

「空のツーリングねえ。オレ達に合流する前、南極行く途中だった時の仲間とかか?」

「そうだよ。ボクが加わってたのは、日本人中心のグループ。他に大きなのは2つか3つ、同じように世界中巡ってるよ」

「呑気なもんだな」

「飛行職の半分くらいはそんなだよ」

「私もそういうのが良いかも」

「じゃあ、どこかで落ち合った時に紹介するよ」

「うん。お願いね!」

 悠里まで怠惰な道に誘われてしまった。
 まあ、それはともかく、駄弁っているうちに『帝都』ゾディークの中心に位置する皇帝が住む皇宮に到着だ。
 けど、本当にだだっ広いので、最初の城門をくぐってもしばらくは馬車の中。
 堀と城壁の中は広く、城壁と一部の建造物以外は、城ではなく宮殿。皇宮と言われるわけだと実感させられる。

 と言っても、現代人が思い浮かべるベルサイユなど現存するヨーロッパの宮殿とは少し違う。
 政治を行う建物は、天井の高い大型の石造りが多く、神殿っぽい風格がある。
 式典などを行う玉座の間などは、1000人からの貴族や役人、軍人が参列できるほど広いらしい。

 オレ達が向かうのは、更に内側の城壁を超えた偉い人達の住居になっているエリア。
 2階から3階建の煉瓦造りの横に広がる大きな建物が幾つもあり、そのうち一つが皇帝が昼間の執務を行う建物だそうだ。
 そしてその建物の中にある謁見の間で、皇帝以下ごく少人数と会う事になっている。
 少なくとも事前に聞いた説明ではその筈だ。

 またオレ達の格好だけど、基本的に神官服もしくは神官っぽい服装。鎧などは着用しない。
 そして途中までは剣など武器を佩刀する事は許されているけど、控えの間でそれも預ける事になる。警護用ゴーレムのアイも、控えの間で待機だ。
 
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