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第五部 『帝国』編
375 「テルマエでの置き引き?(2)」
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「武器はどうします?」
「あの程度の輩、武器を用いるまでもあるまい。お客人もそうであろう?」
「けど、万が一は考えた方が……」
「お客人は慎重だな。では、これでよかろう」
豪快に笑って言った後、近に置いてあったブラシを二つ手に取ると、一つをオレへと投げて寄越した。
「ありがとうございます。まあ、何もないよりマシか」
「うむ。これに魔力か魔法を通せば、相手が何であれ問題なかろう」
「マースさんは魔法戦士なんですか?」
「ん? そうだな、魔導騎士の方が近いか。まあ、ワシにとってはどうでも良い事だが、とにかく獲物に魔法を通わす事はできるぞ」
「それは羨ましいです。オレは魔法ないんで、剣がないと役立たずなんですよね」
「それだけの魔力でそれはあるまい」
「まあ、矮鬼をひと蹴りで倒した事はありますけど、この魔力量相手だと心許ないですね」
そういうとマースさんが、こちらに向き直る。
目も真剣だ。
「格闘技は剣だけか?」
「はい。大剣と短剣以外は、念のための護身術くらいです。今は少し投げ槍とか練習してますけど」
「なるほどなるほど。では、無粋者が切りかかってきたら、お客人は牽制に徹されよ。ワシが相手しよう」
「申し訳ありませんが、お願いできますか」
「勿論。もとよりここは我れらが国。ワシが事を収めるのが筋というもの。ワシこそ、お客人の強さに甘えるところだった」
そう言ってまた豪快に笑いつつ、ズカズカと魔力の反応のある方向に進む。
そしてその先の魔力の反応から、恐らく戦闘に発展していると見て間違いない。
これが浴場じゃなくて銭湯だったら、くだらないオヤジギャクが成立するところだ。
それはともかく、その先は女風呂の方で、しかも脱衣所だ。そしてそこにはアイが番をしている筈で、戦っている片方はアイで間違いない。
アイの活性化した魔力の反応も、何となく感じ取る事ができる。
しかも近づいて分かるが、人数はもっと多そうだ。
加えて今、別の魔力の気配が複数動いた。
みんなの魔力で間違いなく、全員活性化した感じなので戦闘に入ったのが分かる。
それはマースさんも感じているだろうけど、マースさんは大股ながら悠然と歩みを進めるだけで特に急ぐという事はない。
サポート役のオレもそうせざるを得ず、堂々と並んで女風呂の方に向かう浴衣姿の男二人という、ある意味「事案」な状況となってしまった。
そしてだだっ広い造りの建物内を通り、いよいよ女風呂の方へと入るところで係員らしき人がオロオロとしていた。
「中の様子は?」
マースさんが慣れた様子で問いかける。
(マースさん慣れてるけど、街の警備隊とかしているのかな?)
などとオレが思っている間にも話は進む。
「お、恐らく、中で騒動が」
「賊はここを通っていないのだな?」
「はい、気がついたら、中から激しい音が。そして様子を見に行った者は戻ってきません。この場には私しかおりませんので、外の者に伝える事もできず」
「あい判った。あとはワシらに任せよ。行くぞお客人」
「ハイっ!」
マースさんの掛け声に応え、二人して女風呂の脱衣所へと突入する。
そしてそこは何とも言い難い景色だった。
修羅場というか戦いの場なのだけど、片方があられもない格好なので、思わず足が止まってしまいそうになる。
見えてはいけないところが見えそうだし、普段なら大喜びしそうな所が激しく揺れていたりする。
多少の耐性を獲得していなかったら、本当に足が止まっていた所だ。
「大丈夫かご婦人方!」
マースさんはそんな情景を全く気にするそぶりもなく、手にしたブラシで相手を打ち据え、一撃で昏倒させる。
魔力も殆ど篭っていたのに見事な一撃なので、魔力持ちの侵入者でもひとたまりも無かった。
(て言うかそのセリフ、オレが言っとかないと後が思いやられるそうだなあ)
などと思いつつ、オレも賊に戦いを挑む。
けどオレはブラシに魔力を込める事が出来ないので、ブラシを牽制に使って体に魔力を込めて力任せの拳や足蹴りを相手に見舞う。
護身術以上の格闘技は習っていないが、この体は多少の格闘技が刻み込まれているので、魔力に任せたスピードとパワーで戦いを挑む。
それに魔力量の多い身体だと、たいていの動きは何とでもなってしまう。
いわゆる「フィジカルお化け」状態だ。
しかもいざ戦ってみると、逆に殺したりしないように気をつけないといけないほどだった。賊の大半の魔力総量はCランク程度しかない。中には魔力を感じない者もいた。
ただし推定Bランクが2人、推定Aランクが1人いる。遠くからは、この3人の魔力を感じとったのだ。
初撃でマースさんが倒したのは推定Bランクの奴だ。
そして推定Aランクとは、ハルカさんが徒手空拳で相手をしている。
ハルカさんは入浴中も最低限の魔導器を身につけているので、『防身』など魔法を展開してるからこそ賊と相対せていた。
しかしオレ達の方に視線すら向ける余裕もなさそうだし、当然声をかける余裕もない。
なお、予想より賊の数が多い。
すでに約半数が倒れていたけど、それでも10人近くがまだ立っている。
倒した者の多くは恐らくシズさんの魔法の矢で倒されたのだろうが、乱戦状態で自動追尾とはいえそれ以上の魔法は放てないようだ。
そして浴室の方でシズさんをボクっ娘が守っていて、この場で一番高い戦闘力を持つアイが他の多くを相手にしている。
というより、最初に大勢を一度に相手にしたのがアイで、すぐにハルカさん達も気づいて戦いが広がったと言った感じだ。
そしてオレ達が助太刀に入ったのがさらなる状況の変化となるのだけど、賊にとっては潮時だったようだ。
突然、2人が何かの巻物(スクロール)をそれぞれ広げると、すぐにも魔法が構築される。
そしてその魔法とは、一つはストロボやフラッシュのように一瞬強い輝きを作り出す目眩しの魔法。もう一つは、煙幕の魔法だった。
最初から逃げる算段を取っていたという事だ。
「逃すな!」
マースさんがとっさに叫ぶ。
だからというわけじゃないが、一番出口側に近いオレは負傷してもいいので一人でも取り押さえようと備えるも、こっちには来なかった。
そして煙幕が晴れると、荒れ果てた脱衣所の床に何人か賊が倒され、オレ達がそれぞれ身構えた感じで立っていた。
見た限り誰も攫(さら)われたりはしていない。
「逃げられたか」
賊は侵入した時と同様に、建物の窓から逃げて行ったらしい。
「あの程度の輩、武器を用いるまでもあるまい。お客人もそうであろう?」
「けど、万が一は考えた方が……」
「お客人は慎重だな。では、これでよかろう」
豪快に笑って言った後、近に置いてあったブラシを二つ手に取ると、一つをオレへと投げて寄越した。
「ありがとうございます。まあ、何もないよりマシか」
「うむ。これに魔力か魔法を通せば、相手が何であれ問題なかろう」
「マースさんは魔法戦士なんですか?」
「ん? そうだな、魔導騎士の方が近いか。まあ、ワシにとってはどうでも良い事だが、とにかく獲物に魔法を通わす事はできるぞ」
「それは羨ましいです。オレは魔法ないんで、剣がないと役立たずなんですよね」
「それだけの魔力でそれはあるまい」
「まあ、矮鬼をひと蹴りで倒した事はありますけど、この魔力量相手だと心許ないですね」
そういうとマースさんが、こちらに向き直る。
目も真剣だ。
「格闘技は剣だけか?」
「はい。大剣と短剣以外は、念のための護身術くらいです。今は少し投げ槍とか練習してますけど」
「なるほどなるほど。では、無粋者が切りかかってきたら、お客人は牽制に徹されよ。ワシが相手しよう」
「申し訳ありませんが、お願いできますか」
「勿論。もとよりここは我れらが国。ワシが事を収めるのが筋というもの。ワシこそ、お客人の強さに甘えるところだった」
そう言ってまた豪快に笑いつつ、ズカズカと魔力の反応のある方向に進む。
そしてその先の魔力の反応から、恐らく戦闘に発展していると見て間違いない。
これが浴場じゃなくて銭湯だったら、くだらないオヤジギャクが成立するところだ。
それはともかく、その先は女風呂の方で、しかも脱衣所だ。そしてそこにはアイが番をしている筈で、戦っている片方はアイで間違いない。
アイの活性化した魔力の反応も、何となく感じ取る事ができる。
しかも近づいて分かるが、人数はもっと多そうだ。
加えて今、別の魔力の気配が複数動いた。
みんなの魔力で間違いなく、全員活性化した感じなので戦闘に入ったのが分かる。
それはマースさんも感じているだろうけど、マースさんは大股ながら悠然と歩みを進めるだけで特に急ぐという事はない。
サポート役のオレもそうせざるを得ず、堂々と並んで女風呂の方に向かう浴衣姿の男二人という、ある意味「事案」な状況となってしまった。
そしてだだっ広い造りの建物内を通り、いよいよ女風呂の方へと入るところで係員らしき人がオロオロとしていた。
「中の様子は?」
マースさんが慣れた様子で問いかける。
(マースさん慣れてるけど、街の警備隊とかしているのかな?)
などとオレが思っている間にも話は進む。
「お、恐らく、中で騒動が」
「賊はここを通っていないのだな?」
「はい、気がついたら、中から激しい音が。そして様子を見に行った者は戻ってきません。この場には私しかおりませんので、外の者に伝える事もできず」
「あい判った。あとはワシらに任せよ。行くぞお客人」
「ハイっ!」
マースさんの掛け声に応え、二人して女風呂の脱衣所へと突入する。
そしてそこは何とも言い難い景色だった。
修羅場というか戦いの場なのだけど、片方があられもない格好なので、思わず足が止まってしまいそうになる。
見えてはいけないところが見えそうだし、普段なら大喜びしそうな所が激しく揺れていたりする。
多少の耐性を獲得していなかったら、本当に足が止まっていた所だ。
「大丈夫かご婦人方!」
マースさんはそんな情景を全く気にするそぶりもなく、手にしたブラシで相手を打ち据え、一撃で昏倒させる。
魔力も殆ど篭っていたのに見事な一撃なので、魔力持ちの侵入者でもひとたまりも無かった。
(て言うかそのセリフ、オレが言っとかないと後が思いやられるそうだなあ)
などと思いつつ、オレも賊に戦いを挑む。
けどオレはブラシに魔力を込める事が出来ないので、ブラシを牽制に使って体に魔力を込めて力任せの拳や足蹴りを相手に見舞う。
護身術以上の格闘技は習っていないが、この体は多少の格闘技が刻み込まれているので、魔力に任せたスピードとパワーで戦いを挑む。
それに魔力量の多い身体だと、たいていの動きは何とでもなってしまう。
いわゆる「フィジカルお化け」状態だ。
しかもいざ戦ってみると、逆に殺したりしないように気をつけないといけないほどだった。賊の大半の魔力総量はCランク程度しかない。中には魔力を感じない者もいた。
ただし推定Bランクが2人、推定Aランクが1人いる。遠くからは、この3人の魔力を感じとったのだ。
初撃でマースさんが倒したのは推定Bランクの奴だ。
そして推定Aランクとは、ハルカさんが徒手空拳で相手をしている。
ハルカさんは入浴中も最低限の魔導器を身につけているので、『防身』など魔法を展開してるからこそ賊と相対せていた。
しかしオレ達の方に視線すら向ける余裕もなさそうだし、当然声をかける余裕もない。
なお、予想より賊の数が多い。
すでに約半数が倒れていたけど、それでも10人近くがまだ立っている。
倒した者の多くは恐らくシズさんの魔法の矢で倒されたのだろうが、乱戦状態で自動追尾とはいえそれ以上の魔法は放てないようだ。
そして浴室の方でシズさんをボクっ娘が守っていて、この場で一番高い戦闘力を持つアイが他の多くを相手にしている。
というより、最初に大勢を一度に相手にしたのがアイで、すぐにハルカさん達も気づいて戦いが広がったと言った感じだ。
そしてオレ達が助太刀に入ったのがさらなる状況の変化となるのだけど、賊にとっては潮時だったようだ。
突然、2人が何かの巻物(スクロール)をそれぞれ広げると、すぐにも魔法が構築される。
そしてその魔法とは、一つはストロボやフラッシュのように一瞬強い輝きを作り出す目眩しの魔法。もう一つは、煙幕の魔法だった。
最初から逃げる算段を取っていたという事だ。
「逃すな!」
マースさんがとっさに叫ぶ。
だからというわけじゃないが、一番出口側に近いオレは負傷してもいいので一人でも取り押さえようと備えるも、こっちには来なかった。
そして煙幕が晴れると、荒れ果てた脱衣所の床に何人か賊が倒され、オレ達がそれぞれ身構えた感じで立っていた。
見た限り誰も攫(さら)われたりはしていない。
「逃げられたか」
賊は侵入した時と同様に、建物の窓から逃げて行ったらしい。
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