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第四部

361「『魔女』との戦い(1)」

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 王宮の方を向いていたオレの目の前で、瓦礫が崩れて何か魔力の塊のようなものが浮かび上がりつつある。
 まるで澱んだ魔力の立体パズルだ。
 そしてそれが徐々に合体、合流して、一つになっていく。

 さらにそれは徐々に人の形となって、二ヶ月程前に相対した『魔女フレイア』の姿をとりつつあった。
 今のシズさんを人にした姿だけど、怒りで歪んだ美人の顔というのは何度見ても夜叉みたいだ。
 そしてその夜叉は「ようやく念願が叶う」と一人悦に入っていて、オレ達の事は目に入ってないらしい。

「『魔女の亡霊』だけど、前とは何か違うんじゃないか?」

「私もそう思う。アクセル、レナは?」

「何かってわけじゃないけど、その意見には賛成」

「ウルズで霧散した『魔女の亡霊』の魂の欠片なんだろうね。物語や言い伝えには、時折そうした亡者が登場するものだ」

 『魔女の亡霊』と一度相対した4人の中で、この世界の住人であるアクセルさんが、一番オカルトな説を唱えてくれた。
 けどここは、冷静で客観的な分析が欲しいところだ。
 そう思ってクロへと視線を向けると、短く首肯する。こういう時、一番頼りになるのがクロの分析能力だ。

「先ほど申し上げた通り、あの存在に魂はありません。魔物のような核もありません。加えて申し上げれば、わたくしのような魔導器も周辺も含めてございません。
 また、先ほどまであった中途半端な状態の亡者の魂は、既に消えております。あの存在の魔力に飲み込まれたと考えられます」

「あの死霊術師を飲み込んだのなら、承認欲求が強そうだな。で、地下の魔力の反応は?」

「地下に反応はなく、目の前の存在が該当します」

 まずは十分な回答だ。あれが今回のボスキャラって事だ。
 けど念を押したいというのが人情だ。

「その地下にあった魔力にも、核や魔石みたいなもんはないんだな」

「わたくしは探知しておりません。少なくとも多量の魔力の反応は感じられてません」

「じゃあ、あれは亡者でもないのか?」

「左様でございます。あの密度の高い魔力全体が魔導器に近い存在であり、魔力の暴走状態に近いと考えられます」

 オレとクロの質疑応答で、相応に答えが出たようだ。
 それで周りも少しホッとしている。誰だって、何か得体の知れないものと戦いたくはない。

「てことはさあ、目につくもの全部飲み込んで行くとか、手当り次第に攻撃するとかだよね。こないだのゼノの最後みたいに」

「あのキモオヤジがアレを抑えてたとかなら、シャレならないよな」

「以前から乗っ取られていたか、何らかの憑依をされていたって考えるのが無難でしょうね。そういう亡者も、噂や伝説の中にいるわ」

 年少組の言葉を、ハルカさんが取りあえずと言った感じで否定する。
 そこにシズさんが、まだ少し苦しげに言葉を添える。

「亡者じゃないだろうな。私はランバルトを一番憎んでいたから、死霊術師を操ってこの国を襲っわせたのかもな。死霊術師があの傭兵団を雇ったのも、破滅させる為だったのかもしれない。
 で、あの傭兵団が無惨な最後を迎えたと判った以上、次はこの国の番なんだろう」

「それで復讐を果たす為に、あの死霊術師を完全に乗っ取った、と?」

「どうだろうな。たまたま引っかかったのが、あの死霊術師だったのかもしれない。それより、そろそろ来るぞ。あいつは、私の魂なり体なりが欲しいらしい。そんな思念を感じる。
 だが『魔女の亡霊』に比べると曖昧だ。中身の無い出来損ないで、所詮は私の成れの果てのようなものなのだろうだ。気を抜かなければどうと言う事はない筈だ」

 シズさんが言う様に、少し先に見える『魔女の亡霊』もしくは『魔女』の成れの果ての魔力の塊は、ランバルトの王宮の火災に満足したように一瞥し終えると、視線を顔ごとシズさんに据えた。
 その様は、今までで一番感情と言うか目的意識を感じる。

 しかし、「なぜ私がそこにいる?」「いや、私はここだ」「私の全てを奪ったというのか」などと今ひとつ言葉に意味がみられない。
 魂なり核が無いせいだろう。

 この場合、オレ達だけの事を考えると、逃げるのが一番手っ取り早い。けど、ヤバいやつを人の溢れる町にやるわけにはいかない。
 この場で倒すしか選択肢はない。
 そして向こうに目的があるので、ある意味戦いやすい。
 誰もが同じ事を考えたが、やはり口にしたのはシズさんだった。

「私が囮になろう。みんなは、ヤツの関心が私に向いている間に倒してくれ。ただの澱んだ魔力の集合体なら、物理的に魔力を霧散させてしまえばいい筈だ」

「じゃあ、私はシズの守りに入るわ」

「済まない。アイも頼む。私も攻撃するが、あいつをより引きつける為だと思っててくれ」

「お任せを」


 アイの言葉を聞くより早く、攻撃組は『魔女』の成れの果てが本格的に動くよりも早く、接近を試みる。
 ハルカさんは、まずは自分自身に次々に追加の防御呪文を構築し始める。
 『防盾』、『防殻』、『防身』と三段構えな上に、ハルカさんの着込む鎧が光り輝く鎧をさらに構築する。魔道器の盾の方も、魔力で大きく光る盾が展開される。
 稽古の時に試したけど、全ての防御力と衝撃吸収力を合わせると、オレの普通の攻撃は歯も立たなかった。

 しかもさらに、シズさんを中心に防御魔法も次々に構築していく。そして仕上げに魔法陣を3つ展開して『防殻』の上位に当たる広範囲防御を行う『防陣』を構築するが、実戦で使うのは初めて見る。
 これは防御範囲が広い反面、固定型なので今まで使う機会が無かったものだ。
 オールマイティーなハルカさんだけど、今は防御に強い神官の面目躍如だ。
 さらにシズさんも、高位の耐火魔法をみんなに構築していく。
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