358 / 528
第四部
360「『魔女』の成れの果て」
しおりを挟む
燃え盛る王宮への突入は、雷龍のライムの雷撃咆哮(ライトニングブレス)で始まった。
けれど、ライムも悠里と一緒に王宮内に突撃するわけではない。
峠は過ぎていたけど、王宮の人為的な大火災はまだ続いている。
燃え盛っていて上昇気流などはまだかなり激しく、上空で飛ぶ事や空中戦が難しいので空からの突入は無理だ。
それに、王宮内部は広いとはいえないので、ライムやヴァイスが十分戦える環境ではない。
だからボクっ娘も、巨鷲のヴァイスを火災の影響の少ないほどの上空で飛ばしているだけだ。
もっともヴァイスは、何かあれば緊急突入してすぐにも救援できる場所に位置している。
それは中に入るボクっ娘と魔法でつながれているので、中の様子を知る事も出来るからだ。とは言えそれでも、緊急事態に備えてに過ぎない。
そしてギリギリの距離からのライムの一撃で、ついに跳ね橋も兼ねていた王宮の門扉、城門が完全に粉砕された。
合わせてその辺りで倒れていた亡者の残骸も、ほとんどが吹き飛ばされる。
そしてその向こうには、可燃物が減って火勢が衰えたとは言え、まだ燃えている王宮の景色が広がっていた。
「私はまず魔法を撃つから、後ろに回るわね」
ハルカさんの言葉を受けて、手早く当面の陣形を決める事にする。
「ああ、前はオレが。クロ」
「はっ、お供いたします」
「アイも私を守るだけでなく臨機応変にな」
「ハイ。お任せを」
二体のキューブゴーレムが、恭しく一礼する。
何時もの事だけど、こうも恭しく接されると自分が偉くなったと勘違いしそうになる。
「ボクは適当な射点から援護に回るけど、大技とかの期待はしないでね」
「ボクも前でいいかな?」
「見届け人なんでしょ。後ろにいなさい」
アクセルさんにハルカさんがぴしゃりと言う。けど譲る気はないようだ。
「いや、せめて前に出させてもらうよ。よく見ておきたい」
「じゃあ、真ん中はオレがもらうんで、右をお願いします」
「心得た」
オレの言葉に、アクセルさんが自分の胸を軽く叩く。
芝居がかった仕草も嫌味無くできてしまうのが、イケメンの得なところだ。
「お待たせしました。えっと、私も前じゃなくていい?」
「敵の様子を見てからだ」
悠里がライムから降りて合流したので、一通り言葉の掛け合いが終わると、いよいよ突入だ。
「そうね。まずは魔法をありったけ叩きつけて、ショウの魔力相殺でどういう反応を見せるか、ってところね」
「それと耐火魔法は、保って10分程度だ」
「それじゃあ、飛び越えるわよ!」
シズさんがアイにお姫様抱っこされる他は、長さが10メートル近くある跳ね橋が崩れて途切れた状態の橋を軽々と飛び越えていく。
高い魔力持ちの身体能力がなければ出来ない芸当だ。それにこの程度なら、飛行組が持っている浮遊石の結晶を使うまでもない。
そして城門を抜けるまでは、後ろから『ダブル』の魔法職とアースガルズの弓兵が、敵の攻撃に備えて援護してくれる。
とはいえ、そこからでは王宮の奥への攻撃は難しいし、何より敵の姿が外からは見えていない。
分かるのは、王宮の中心辺りに何となく大きな魔力の反応があるという事だけだ。
「流石『煉獄』。まだよく燃えてるねー」
「それより、ネロは待ち構えてないみたいだな」
ボクっ娘が軽口を叩きつつも、真剣な眼差しで敵を探す。
シズさんはまだアイに抱っこされながら、探知魔法を幾つも放っている。
そして少なくとも、燃える亡者以外の姿はない。
ライムのブレスで僅かに残っていた亡者もほぼ一掃され、実体のない幽霊を中心にした残りの一部も、あっという間に倒した。
向かう先の魔力が濃いので詳細は判からないが、残すは死霊術師だけの筈だ。
状況確認のため、オレはクロに視線を向ける。
「クロ、判かるか?」
「反応は二つ。どちらもあちらです。距離は約25メートル。しかし片方は地下になります」
「私の探知魔法も似たような反応だ」
そしてクロと魔法で確認したシズさんが示したのは、今いる王宮内の中庭の先にある王宮の唯一石造りの建物の中。
他は燃え盛っているけど、そこだけは燃えつつも健在だ。
とはいえ、天井は木造なので、すでに壁を残して崩れ落ちている。
『煉獄』は密閉度が高いほど効果が高いので、よく燃えたのだろう。
「あいつ以外にもいるのか。片方は玉座の間かな?」
「あの建物の中の構造は単純だ。正門から入ると、ロビーと短いが広い廊下、その先が広間になる。何しろあの大きさだ」
「そうだね。玉座の間も広いとは言えないな」
オレの言葉に、シズさんが答えアクセルさんが首肯する。
共に来た事がある口ぶりだし、実際そうなのだろう。
「確かに中は広くなさそうですね」
「ああ狭いぞ。この数だと、十分な接近戦ができないかもしれない」
「じゃあ、私とシズ、レナはロビーに布陣かしら?」
「外でもいいくらいだ。もう、扉も何もかも焼け落ちているしな」
「問題は地下の方か。何か知ってますか?」
相手は既に亡者となっているし、ラスボスの死霊術師はそっちだろう。
シズさんとアクセルさんが、共に首を傾げる。
「普通なら地下倉庫、地下牢の類いは、あっても別棟だ」
「地下に部屋は普通設けないからね」
「ウルズの王宮みたいに地下遺跡があるんでしょうか?」
オレの言葉にシズさんが少し考え込む。
「かもしれない。この辺りも、ウルズの遺跡と同時期に同じ国が統治していたからな」
「何でもいいよ。とにかく玉座の間の反応を確認。敵なら倒す。それで全部でしょ」
ボクっ娘が少し焦れていた。下手な考え何とやらと思ったのだろうか。
それとも、いつも厄介ごとが発生するので、ウンザリしているのかもしれない。
シズさんも同じ様に思ったようだ。
「どうかしたかレナ?」
「どうもしてないよ。余計な事は考えない方がいいでしょ」
「その通りだな。ありがとうレナ」
「ううん。それより、さっさと片付けようよ。熱くないけど熱いのは慣れないし」
「オレも同感。外道野郎はさっさと倒してしまおう」
と、仕切り直しで意気込んでみたものの、既に奥まで見えるので建物の外から中の様子をうかがう。
それなりの広さの部屋の中心に死霊術師は居たけど、待ち構えていたわけでも、隠れていたわけでもなさそうだった。
しかも様子が少しおかしい。
ただ、魔力の反応だけが高い。
「なんかアイツ、苦しそうだな」
「それに何か重なっていないかい?」
アクセルさんも同意見のようだ。
二人の錯覚でなければ、一昨日に戦った死霊術師ネロに、魔力の膜のようなものが重なっている。
燃えてもいないので防御呪文かもしれないが、苦しそうなのは解せない。
それに良く聞いてみると「やめろ!」「離れろ!」など意味不明の事を低く喚くだけで、敵意を見せていなければ、こっちすら見ていない。
「私達を迎え撃つ、と言った雰囲気ではないようだな」
シズさんの寸評だけど、全員が同意した。
「クロ、何か判るか?」
「魂は一つですが、魔力で構成された別の何かが重なっています。判別は不明。またどちらも、生者の反応はありません」
直立不動のクロが、正確に相手を分析する。
「手駒を増やそうとして、亡者の制御にでも失敗したんだろう」
「だと思う。因果応報ね」
「なら、一気に叩こうよ」
「賛成。って、私剣だから突っ込みたいんだけど」
うん。女性陣は容赦ない。
そしてオレの後ろでは、すぐにも魔法の構築が始まる。ボクっ娘も、威力の高そうな魔法の矢をつがえている。
全てが放たれると同時に、クロとアイを後衛の護衛に残して接近戦組は突入だ。
中衛だった悠里も、前に出てきた上に体の魔力を高め始めている。
そして弓矢、『光槍撃』、『炎槍』が一瞬の差を置いて突き刺さっていく。
弓矢などは、狙い違わずネロの首を射抜いた。
『光槍撃』は10本の槍で蜂の巣の串刺しにする。
そして、火災現場な上に『煉獄』の効果のせいで、シズさんの『炎槍』はいつにも増して痛そうだ。
突き刺さった途端に、松明どころかテッシュペーパーに火をつけたようなレベルで派手に燃え盛った。
思わずウルズでの戦いを思い出すほどだ。
普通の化け物なら、これだけで十分致命傷の筈だ。
けど一昨日の事もあるので、接近戦組も魔法の投射と同時に一気に駆けて、オレ、悠里、アクセルさんの順で斬っていく。
突入直前に、簡単なゼスチャアで決めた順番だ。
オレが最初なのは、魔力相殺を載せているからで、アクセルさんは今回の戦い用に国から対亡者用の魔法の剣を借りて来ているからだった。
そして魔法と矢が突き刺さり、複数の剣でズタボロに切裂かれる。
一昨日のような元気はまるでなく、敵意どころか意思すら感じられないほどだ。
けれども、近づいて始めて判った。
死霊術師と重なっていた存在が、死霊術師がオレ達の出迎えどころかまともな動きを見せなかった回答を教えてくれた。
「『魔女の亡霊』だ!」
「ああ、間違いない!」
「えっ、シズさん?」
死霊術師がオレ達の攻撃で滅びる直前、重なっていた何かが明確に人の形をとり、そして半透明ながら見知った姿となって、そしてオレ達に一度妖しい笑みを見せ、スーっと足下に消えた。
消えると同時に、死霊術師の魔力が一斉に下に向かう。そして足下の魔力が急速に増大し、石造りの床がガタガタと揺れ始める。
しかも地下からは、強い魔力の反応も感じる。
死霊術師だったものは、もはやバラバラで燃えるだけの「もの」でしかない。
「外へ!」というアクセルさんが叫んだ時には、建物の中に入っていた3人は一気に飛び出し、遠距離から攻撃していた3人と2体も外へと急ぎ逃れる。
そしてそのまま王宮の中庭まで後退した時には、王宮内で唯一の石造りの建物が内側に向けて崩れていく。
丁度地下が崩落して、そこに建物の壁等が飲み込まれていくイメージだ。
崩れる時にかなりの煙と衝撃の風が起きて、周囲の火災を吹き消す。そしてその煙と風は、澱んだ魔力を多分に含んでいた。
一見ゲームでラスボスを倒した直後のようだけど、この場合は出現シーンで間違いないだろう。
しかし後衛では、のんびり敵の出現を待つどころではなかった。
「我が主よ!」
「シズさん、大丈夫?!」
「シズっ!」
オレ達が後衛に追いつくと、シズさんがアイにお姫様だっこのまま抱えられ腕の中でうずくまっていた。
「何があったの?!」
「重なってた幽霊みたいなやつが、『魔女の亡霊』に見えた」
そして合流したオレ達に、ハルカさんが困惑した表情で問いかけてきた。
後ろからは『魔女の亡霊』は見えてなかったようだ。
けれども「やはり、そう、だったか」と、アイの腕の中でシズさんが顔を上げ少し苦しげに口を開いた。
顔色が蒼白だ。
「大丈夫、そうじゃないわね」
「取りあえず、魂なり心なりは持って行かれてないと思う。けど、さっきは、強い思念のようなものが頭を貫くような感覚があって、一瞬頭が割れそうだった」
「仕切り直ししたい感じですけど、詳しく話を聞く時間もなさそうだ」
そう、目の前の状況は刻一刻と変化しつつあった。
けれど、ライムも悠里と一緒に王宮内に突撃するわけではない。
峠は過ぎていたけど、王宮の人為的な大火災はまだ続いている。
燃え盛っていて上昇気流などはまだかなり激しく、上空で飛ぶ事や空中戦が難しいので空からの突入は無理だ。
それに、王宮内部は広いとはいえないので、ライムやヴァイスが十分戦える環境ではない。
だからボクっ娘も、巨鷲のヴァイスを火災の影響の少ないほどの上空で飛ばしているだけだ。
もっともヴァイスは、何かあれば緊急突入してすぐにも救援できる場所に位置している。
それは中に入るボクっ娘と魔法でつながれているので、中の様子を知る事も出来るからだ。とは言えそれでも、緊急事態に備えてに過ぎない。
そしてギリギリの距離からのライムの一撃で、ついに跳ね橋も兼ねていた王宮の門扉、城門が完全に粉砕された。
合わせてその辺りで倒れていた亡者の残骸も、ほとんどが吹き飛ばされる。
そしてその向こうには、可燃物が減って火勢が衰えたとは言え、まだ燃えている王宮の景色が広がっていた。
「私はまず魔法を撃つから、後ろに回るわね」
ハルカさんの言葉を受けて、手早く当面の陣形を決める事にする。
「ああ、前はオレが。クロ」
「はっ、お供いたします」
「アイも私を守るだけでなく臨機応変にな」
「ハイ。お任せを」
二体のキューブゴーレムが、恭しく一礼する。
何時もの事だけど、こうも恭しく接されると自分が偉くなったと勘違いしそうになる。
「ボクは適当な射点から援護に回るけど、大技とかの期待はしないでね」
「ボクも前でいいかな?」
「見届け人なんでしょ。後ろにいなさい」
アクセルさんにハルカさんがぴしゃりと言う。けど譲る気はないようだ。
「いや、せめて前に出させてもらうよ。よく見ておきたい」
「じゃあ、真ん中はオレがもらうんで、右をお願いします」
「心得た」
オレの言葉に、アクセルさんが自分の胸を軽く叩く。
芝居がかった仕草も嫌味無くできてしまうのが、イケメンの得なところだ。
「お待たせしました。えっと、私も前じゃなくていい?」
「敵の様子を見てからだ」
悠里がライムから降りて合流したので、一通り言葉の掛け合いが終わると、いよいよ突入だ。
「そうね。まずは魔法をありったけ叩きつけて、ショウの魔力相殺でどういう反応を見せるか、ってところね」
「それと耐火魔法は、保って10分程度だ」
「それじゃあ、飛び越えるわよ!」
シズさんがアイにお姫様抱っこされる他は、長さが10メートル近くある跳ね橋が崩れて途切れた状態の橋を軽々と飛び越えていく。
高い魔力持ちの身体能力がなければ出来ない芸当だ。それにこの程度なら、飛行組が持っている浮遊石の結晶を使うまでもない。
そして城門を抜けるまでは、後ろから『ダブル』の魔法職とアースガルズの弓兵が、敵の攻撃に備えて援護してくれる。
とはいえ、そこからでは王宮の奥への攻撃は難しいし、何より敵の姿が外からは見えていない。
分かるのは、王宮の中心辺りに何となく大きな魔力の反応があるという事だけだ。
「流石『煉獄』。まだよく燃えてるねー」
「それより、ネロは待ち構えてないみたいだな」
ボクっ娘が軽口を叩きつつも、真剣な眼差しで敵を探す。
シズさんはまだアイに抱っこされながら、探知魔法を幾つも放っている。
そして少なくとも、燃える亡者以外の姿はない。
ライムのブレスで僅かに残っていた亡者もほぼ一掃され、実体のない幽霊を中心にした残りの一部も、あっという間に倒した。
向かう先の魔力が濃いので詳細は判からないが、残すは死霊術師だけの筈だ。
状況確認のため、オレはクロに視線を向ける。
「クロ、判かるか?」
「反応は二つ。どちらもあちらです。距離は約25メートル。しかし片方は地下になります」
「私の探知魔法も似たような反応だ」
そしてクロと魔法で確認したシズさんが示したのは、今いる王宮内の中庭の先にある王宮の唯一石造りの建物の中。
他は燃え盛っているけど、そこだけは燃えつつも健在だ。
とはいえ、天井は木造なので、すでに壁を残して崩れ落ちている。
『煉獄』は密閉度が高いほど効果が高いので、よく燃えたのだろう。
「あいつ以外にもいるのか。片方は玉座の間かな?」
「あの建物の中の構造は単純だ。正門から入ると、ロビーと短いが広い廊下、その先が広間になる。何しろあの大きさだ」
「そうだね。玉座の間も広いとは言えないな」
オレの言葉に、シズさんが答えアクセルさんが首肯する。
共に来た事がある口ぶりだし、実際そうなのだろう。
「確かに中は広くなさそうですね」
「ああ狭いぞ。この数だと、十分な接近戦ができないかもしれない」
「じゃあ、私とシズ、レナはロビーに布陣かしら?」
「外でもいいくらいだ。もう、扉も何もかも焼け落ちているしな」
「問題は地下の方か。何か知ってますか?」
相手は既に亡者となっているし、ラスボスの死霊術師はそっちだろう。
シズさんとアクセルさんが、共に首を傾げる。
「普通なら地下倉庫、地下牢の類いは、あっても別棟だ」
「地下に部屋は普通設けないからね」
「ウルズの王宮みたいに地下遺跡があるんでしょうか?」
オレの言葉にシズさんが少し考え込む。
「かもしれない。この辺りも、ウルズの遺跡と同時期に同じ国が統治していたからな」
「何でもいいよ。とにかく玉座の間の反応を確認。敵なら倒す。それで全部でしょ」
ボクっ娘が少し焦れていた。下手な考え何とやらと思ったのだろうか。
それとも、いつも厄介ごとが発生するので、ウンザリしているのかもしれない。
シズさんも同じ様に思ったようだ。
「どうかしたかレナ?」
「どうもしてないよ。余計な事は考えない方がいいでしょ」
「その通りだな。ありがとうレナ」
「ううん。それより、さっさと片付けようよ。熱くないけど熱いのは慣れないし」
「オレも同感。外道野郎はさっさと倒してしまおう」
と、仕切り直しで意気込んでみたものの、既に奥まで見えるので建物の外から中の様子をうかがう。
それなりの広さの部屋の中心に死霊術師は居たけど、待ち構えていたわけでも、隠れていたわけでもなさそうだった。
しかも様子が少しおかしい。
ただ、魔力の反応だけが高い。
「なんかアイツ、苦しそうだな」
「それに何か重なっていないかい?」
アクセルさんも同意見のようだ。
二人の錯覚でなければ、一昨日に戦った死霊術師ネロに、魔力の膜のようなものが重なっている。
燃えてもいないので防御呪文かもしれないが、苦しそうなのは解せない。
それに良く聞いてみると「やめろ!」「離れろ!」など意味不明の事を低く喚くだけで、敵意を見せていなければ、こっちすら見ていない。
「私達を迎え撃つ、と言った雰囲気ではないようだな」
シズさんの寸評だけど、全員が同意した。
「クロ、何か判るか?」
「魂は一つですが、魔力で構成された別の何かが重なっています。判別は不明。またどちらも、生者の反応はありません」
直立不動のクロが、正確に相手を分析する。
「手駒を増やそうとして、亡者の制御にでも失敗したんだろう」
「だと思う。因果応報ね」
「なら、一気に叩こうよ」
「賛成。って、私剣だから突っ込みたいんだけど」
うん。女性陣は容赦ない。
そしてオレの後ろでは、すぐにも魔法の構築が始まる。ボクっ娘も、威力の高そうな魔法の矢をつがえている。
全てが放たれると同時に、クロとアイを後衛の護衛に残して接近戦組は突入だ。
中衛だった悠里も、前に出てきた上に体の魔力を高め始めている。
そして弓矢、『光槍撃』、『炎槍』が一瞬の差を置いて突き刺さっていく。
弓矢などは、狙い違わずネロの首を射抜いた。
『光槍撃』は10本の槍で蜂の巣の串刺しにする。
そして、火災現場な上に『煉獄』の効果のせいで、シズさんの『炎槍』はいつにも増して痛そうだ。
突き刺さった途端に、松明どころかテッシュペーパーに火をつけたようなレベルで派手に燃え盛った。
思わずウルズでの戦いを思い出すほどだ。
普通の化け物なら、これだけで十分致命傷の筈だ。
けど一昨日の事もあるので、接近戦組も魔法の投射と同時に一気に駆けて、オレ、悠里、アクセルさんの順で斬っていく。
突入直前に、簡単なゼスチャアで決めた順番だ。
オレが最初なのは、魔力相殺を載せているからで、アクセルさんは今回の戦い用に国から対亡者用の魔法の剣を借りて来ているからだった。
そして魔法と矢が突き刺さり、複数の剣でズタボロに切裂かれる。
一昨日のような元気はまるでなく、敵意どころか意思すら感じられないほどだ。
けれども、近づいて始めて判った。
死霊術師と重なっていた存在が、死霊術師がオレ達の出迎えどころかまともな動きを見せなかった回答を教えてくれた。
「『魔女の亡霊』だ!」
「ああ、間違いない!」
「えっ、シズさん?」
死霊術師がオレ達の攻撃で滅びる直前、重なっていた何かが明確に人の形をとり、そして半透明ながら見知った姿となって、そしてオレ達に一度妖しい笑みを見せ、スーっと足下に消えた。
消えると同時に、死霊術師の魔力が一斉に下に向かう。そして足下の魔力が急速に増大し、石造りの床がガタガタと揺れ始める。
しかも地下からは、強い魔力の反応も感じる。
死霊術師だったものは、もはやバラバラで燃えるだけの「もの」でしかない。
「外へ!」というアクセルさんが叫んだ時には、建物の中に入っていた3人は一気に飛び出し、遠距離から攻撃していた3人と2体も外へと急ぎ逃れる。
そしてそのまま王宮の中庭まで後退した時には、王宮内で唯一の石造りの建物が内側に向けて崩れていく。
丁度地下が崩落して、そこに建物の壁等が飲み込まれていくイメージだ。
崩れる時にかなりの煙と衝撃の風が起きて、周囲の火災を吹き消す。そしてその煙と風は、澱んだ魔力を多分に含んでいた。
一見ゲームでラスボスを倒した直後のようだけど、この場合は出現シーンで間違いないだろう。
しかし後衛では、のんびり敵の出現を待つどころではなかった。
「我が主よ!」
「シズさん、大丈夫?!」
「シズっ!」
オレ達が後衛に追いつくと、シズさんがアイにお姫様だっこのまま抱えられ腕の中でうずくまっていた。
「何があったの?!」
「重なってた幽霊みたいなやつが、『魔女の亡霊』に見えた」
そして合流したオレ達に、ハルカさんが困惑した表情で問いかけてきた。
後ろからは『魔女の亡霊』は見えてなかったようだ。
けれども「やはり、そう、だったか」と、アイの腕の中でシズさんが顔を上げ少し苦しげに口を開いた。
顔色が蒼白だ。
「大丈夫、そうじゃないわね」
「取りあえず、魂なり心なりは持って行かれてないと思う。けど、さっきは、強い思念のようなものが頭を貫くような感覚があって、一瞬頭が割れそうだった」
「仕切り直ししたい感じですけど、詳しく話を聞く時間もなさそうだ」
そう、目の前の状況は刻一刻と変化しつつあった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!
カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地!
恋に仕事に事件に忙しい!
カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
異世界で俺はチーター
田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。
そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。
蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?!
しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
夜明けの続唱歌
hidden
ファンタジー
炎に包まれた故郷。
背を灼かれるように、男は歩き続けていた。
辺境では賊徒が跋扈し、都では覇権や領土の奪い合いが繰り返されていた。
怯えながら、それでも慎ましく生きようとする民。
彼らに追い打ちをかけるように、不浄な土地に姿を現す、不吉な妖魔の影。
戦火の絶えない人の世。
闘いに身を投じる者が見据える彼方に、夜明けの空はあるのだろうか。
>Website
『夜明けの続唱歌』https://hidden1212.wixsite.com/moon-phase
>投稿先
『小説家になろう』https://ncode.syosetu.com/n7405fz/
『カクヨム』https://kakuyomu.jp/works/1177354054893903735
『アルファポリス』https://www.alphapolis.co.jp/novel/42558793/886340020
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる