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第四部

346「援軍参集(1)」

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 その日の夕方遅く、予定通りハーケンから『帝国』の軍用の双胴飛行船がランバルト王国の都バルドルに到着した。

 軍用と言うだけあって重厚といえる姿で、男の子の心をくすぐる格好よさがある。
 そしてエルブルスのシーナで見た飛行船に似ていた。同じように、飛龍を載せる事が出来るからだ。

 後で少し詳しく聞く事が出来たが、『空中巡航艦』と呼ぶように長距離移動用の飛行船だ。
 船の全長は、パッと見の印象で50メートルくらい。この世界の基準だと大型の双胴船で、下から見ると横幅が広いシルエットになる。

 また、他の飛行船と同じ様に、巨大な浮遊石の上に主な構造物を持っている。
 その浮遊石は、速度を増すためか太いサーフボードのように成型されている。
 そして飛龍を乗せるために大きく、海で使う普通の船の軍艦よりも大きい。

 なお、この時代の海を進む船は、帆船というよりガレー船の技術しかないらしく、帆船の技術は『ダブル』が持ち込んでいる。
 それ以前に、『ダブル』は既に様々な内燃機関を主に実験レベルで実現して一部実用化しつつあるので、この世界の技術体系は混沌としている。
 けど『ダブル』の技術は、まだ未知の部類だ。
 そして空に浮かぶ船の方が断然速いので、大国や金持ちは様々な大きさの飛行船を用いる。
 その中でも軍艦は頑丈で高価だ。

 『空中巡航艦』は『帝国』でも最精鋭で、一部に結晶化された浮遊石を使用して上昇下降に利用しているなど、性能は普通の商船より格段に高いらしい。
 しかもそうした浮遊石の結晶や武装を操作するために、専用の魔力持ちが多数乗り込んでいるのだそうだ。
 そしてこの船の最大の特徴は、双胴の船体の間に飛行甲板がり、左右の船体内に龍舎があって4~8体の飛龍を載せて移動できる事にある。

 それを体長20メートルくらいの巨体を持つ鯨みたいな姿の雲龍4体が、2頭ずつ横並びに並んで引く。ちょうど4頭立ての馬車のようだけど、大きさは馬車の優に10倍以上ある。
 また、舵のような翼も各所に備えられている。普段は雲龍の操作とこれを合わせて上下左右に向かうので、飛行機やオレ達の世界の飛行船と少し似ている。それとも船に似ているというべきかもしれない。

 空を飛ぶ速度は、飛龍の3分の1くらい。
 けど、飛龍などが単体で飛ぶのと違い、交代で鯨龍を使役する事で1日中移動できるので、長距離移動には向いている。
 ただ、24時間運行は緊急時だけで、夜中は雲龍を休ませるため空の上に止まるのが普通だ。
 だから移動距離は、昼間だけ飛ぶ飛龍の半分程度になる。
 勿論、飛龍などの単独での高速飛行には全く敵わない。

 飛龍や巨鷲は1日800~1000キロくらい進めるので、400~500キロ進める事になる。
 他と比較すると、この時代の海を進む船が調子の良い時で1日約150~200キロメートル、地上を走る普通の馬が1日50~60キロメートル程度。だから、地形を無視した上に大量の荷物を運ぶことが出来る点を加味すれば、その効果は計り知れない。
 4体に船を運ばせるのも24時間連続飛行のためで、巡航とはよく言ったものだ。

 戦闘用の飛行船は『帝国』以外にも保有している国はあるが、やはりこの手のものは浮遊大陸に国がある『帝国』が一番沢山持っていて性能も高いそうだ。
 ただ、オレ達が目にしたバルドル到着時の様子は、アミューズメントパークの大型アトラクション状態だった。
 何しろ、『ダブル』達が甲板の際に鈴なりになっていたからだ。


「いやー、恥ずかしいとこ見せちまったな。何しろ飛行船とか空の旅なんて、兄弟達と違って珍しいからなあ」

 ジョージさんが、『帝国』の飛行船から降りて挨拶するなり頭を掻いている。

「飛行船はオレも乗った事ないですよ」

「そうなのか。まあ何にせよ、『帝国』の連中には少し迷惑かけたが、数は十分連れて来た」

 レンさんが少しドヤ顔だ。

「どのくらいですか?」

「取りあえず、アンデッドと戦えるベテランが20人ほど。他に、ビギナー含めて支援に30人ってとこだな」

「50人も」

 多いとは感じたが、すぐにハーケンを根城にしている『ダブル』の約一割が来るとは思わなかった。
 数は50人でも、この世界の兵士の数百人分に匹敵する。

「ああ。アンデッドはともかく報酬が出るし、何より飛行船に乗れるからな」

「それにしてもよく集まりましたね」

「時期が良かったぜ。ビギナー拾いでハーケン辺りに集まっていた上に、ビギナーが一気に増えたからな」

 近くではマリアさんとサキさんが、ハルカさん達と話している。
 タクミも他の一部ビギナーと一緒に来ていてたが、ビギナーはギルドの指導員が引率して集団行動状態で、今は話をする事ができないでいた。
 辛うじて、遠くから軽く手を振りあったくらいだ。

 そしてもう一人、見知った人と再会する事になった。
 『帝国』の将軍オニール・ゴードさんだ。
 とは言え公の場なので、ハルカさんが代表して堅苦しい挨拶を二言三言交わした程度だ。
 実直な人柄なので、私的な視線すらごく僅かに感じたくらいの反応しか無い。

 どうやら『帝国』から飛行船を指揮して来たらしいが、この人が関わってくれるのなら心強い。
 また、ランドーさんと供に『帝国』の竜騎兵の騎士が2人来ていて、船の中に飛龍が乗っているそうだ。

 そして強い人の事について話していると、お決まりな感じの言葉が話していた二人からきた。

「ま、この場の最強は、兄弟達だろ」

「巨鷲と雷龍の使い手に、大魔導士と聖女様だからな」

「オレはオマケですけどね」

 取り敢えず肩を竦めておく。
 謙遜しすぎても悪いと言われたが、普段接している彼女達を見ていると、自分の力足らずを日々実感させられるからだ。

「そのオマケが、あの悪剣のヴァーリを倒したんだろ」

「まあ、主に剣は交えましたけど、ハルカさんも短時間ですけど小馬鹿にする感じで相手してましたよ」

「あの人もヤバいな」

 二人が冷や汗気味に、ハルカさんの背中をチラ見する。
 そんな事はつゆ知らず、ハルカさんは女子トークに花を咲かせているが、こうして見ると普通の女子だ。

「魔力マックスの時は、当たらない上に、今じゃあ当たっても地龍の一撃ですら弾けるらしいですからね」

「マジでヤバい強さだな」

「でもさ、兄弟もヴァーリの剣は掠りもしなかったんだろ」

「あんな雑な剣技、力任せなだけで大した事無かったですよ」

 オレのちょっと強がった言葉に、二人が異議有りな表情をしている。
 一応聞いておくべきなのだろう。

「……あの口臭男って、どんなヤツだったんですか?」

「口臭って、そんな距離でやり合ったのか」

 盾役なジョージさんが軽く引いている。
 どうもあいつの剣は、正面から受けるものではないらしい。

「ええ。あいつの実力図る為に、剣を正面から受けてやろうと思ったんで」

「よくへし折れなかったなって、その獲物は『帝国』の業物だったな」

「はい。向こうの剣の方がどんどん痛んでましたね」

 そこでレンさんが軽く溜息を付く。
 ジョージさんも肩を竦めそうな表情だ。

「そうだな、ヴァーリは北の方では有名な傭兵だ」

「と言っても悪名でな。犯罪組織や奴隷商とも昵懇(じっこん)って話だし、何より粗暴で暴力的で、残忍だ。手下も、強さよりも素行の悪い傭兵か盗賊が多いって聞くな」

「敵地の村を文字通り全滅させた事も一度や二度じゃない。この辺りの戦争でも暴れたって噂だな」

「だから、ハーケンの冒険者ギルドは、あいつらに近寄るなって言ってるくらいだ」

 二人とも声色が厳しい。口にしている言葉も、単なる噂でない事を伝えている。

「ケダモノのリーダーってとこですね」

「あいつの方が、魔物より余程魔物だってのが一般評だな」

「だからこそ、死霊術師なんて外道野郎とも手を組んだんだろうがな」

「で、当人の腕は?」

 そんな鬱になる話より、腕前だけの方がオレ自身にも益が有る。
 久々の人間相手なので、自分の強さの判断基準に出来そうだからだ。

「冒険者ギルド基準で言うと、Sランクだな」

「『ダブル』以外で、オクシデントに100人いるかいないかの一人だ」

 意外な回答だった。Aランク程度だと思っていたけど、少なくとも魔力は多かったらしい。
 思わず口に出てしまう。

「えっ? あれでSランクなんですか? オレの感覚だとアクセルさんくらいじゃないとSランクじゃないんですけど」

「あのキラキラ騎士様、どんだけ強いんだよ」

「でもさ、ショウはそれ以上なんだろ?」

 レンさんが少し探る様に視線をオレに向ける。
 しかしオレとしては苦笑しかない。

「あいつを倒せると感じたくらいだから、魔力総量は上だと思います。ノヴァの戦争とかで、結果的に随分魔力は稼ぎましたから。けど、アクセルさんと比べたら、技量とかは全然ですよ」

 オレの技量という言葉に、二人が少し遠い目をする。

「技量か。オレも鍛え直そうかなあ」

「だな。もっとこっちに居たいしな」

「だよな、相棒。兄弟もな」

 そこでジョージさんが出したグーに、3人でコツンと合わせる。

「ですね、お互い頑張りましょう」

「おう。今度稽古につき合ってくれ」

「喜んで」

 と、なんかいい感じに話がまとまった感じはあるが、こういう思いを持っていないと、こんな過酷な世界だと、現代日本人のひ弱な心を持つ『ダブル』はドロップアウトしやすいのだろう。
 自然とそんな風に思えた。
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