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第四部

329「神殿騎士団(2)」

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「だからボクらの事をシュツルム・リッターっていうドイツ語でみんな言う訳だね」

 ハルカさんの言葉に、ボクっ娘が追加する。この由来は、向こうでのネットにも上がっている情報だ。
 もっとも、シュツルム・リッターと呼ぶのは『ダブル』だけで、こっちの人に言っても通じないので、こっちの言葉で呼ばないといけない。

「どれくらい居るんだ?」

「中央に20騎、各方面に10騎ずつ居るかどうか。他に郵便屋さんで2、30騎って話だね。で、この3倍の数のジャイアント・ホークと、もっと多い天馬や飛馬で数を水増ししてるよ。数の上だと、ボクらはほとんど看板状態だね」

「案外少ないんだな」

 (100騎もいないのか)というのが正直な感想だけど、確かにそれならボクっ娘とノヴァ以外で見かけない訳だと納得もさせられる。

「疾風の騎士は、数が少ない上に良く言えば孤高、悪く言えば勝手だからねー」

 そう言いつつボクっ娘が両腕を上げて大きく伸びをする。

「説得力ありすぎだろ。それで、オクシデント全体だとどれくらいいるんだ?」

「竜騎兵の半分の200から300騎くらいって言われてるけど、4分の1はユニパー、要するにアルプスにある『里』って言われてる場所にいて、そこには子どもの乗り手が別に50人くらい居るよ」

「あ、そうか。子どもの魔力持ちは頭数に入らないのか」

 こういうところが、こっちの人と『ダブル』の違いだ。
 だから魔力持ちの数なども、単純に人口比率で割り出せない。

「相棒がいたとしても、魔力も技量も低いからね。逆に生涯を相棒と共にするって人も多いから、もう少し現役の数は多いって言われてるねー」

「竜騎兵も、エルブルスに『雛』て呼ぶ子どもの竜人の乗り手が何人かいたけど、その辺は同じなんだ」

「だね。ボク達も『雛』って呼ぶから、そこは同じなんだよね」

「『ダブル』の『雛』の質問いいかな?」

 のんびりとトリビアを話していると、向こうからタクミとビギナーらしい人達が近づいて来ていた。
 タクミ以外は4人。合わせて男3女2の構成で、タクミが新しく加わった形のようだ。

 見た限り、みんな雰囲気がオレより子供っぽい印象だ。
 職業は前衛と後衛が上手く分かれているが、それはタクミが入る事で前衛が補強された感じで、タクミが加わるのもなるほどと思わせる。
 ただ、タクミ以外の4人は少し緊張気味のようだ。

「おはよう。今後の相談か?」

「ああ。それで皆さん、少し相談に乗って頂けますか?」

「いいわよ」

 タクミがオレからハルカさん達に、体の向きごと変えてお辞儀までする。
 すると年少組は、すぐにも隣の空いているテーブルを動かしに向かい、あっという間に八の字型ながらテーブルをつなげて椅子を並べていこうとする。
 当然だけど、オレも途中から悠里の罵声を浴びつつ手伝わされる。

 それにビギナーの人達が恐縮して手伝おうとしたが、そこは僅かとはいえベテランの余裕で「まあまあ」と止めて、オレ達が接待する側に終始する。

 そして追加の飲み物を買い込んできて、一同がテーブルに付く。
 ちなみにクロはオレの懐の中で、アイは街中では目立つので宿で荷物番という名目で留守番なので、諸々は自分たちで行う。

「それでタクミには言ったけど、オレ達は『帝国』の商館に行って、後はそこでの『帝国』の動き次第。
 空の早便で本国と相互連絡をするまで待ってくれとか言われたら、最大で2週間くらい待たされる。だから、稽古とかなら最低でも数日はつき合えるぞ」

 横目でハルカさんを見ると、彼女は軽く頷く。

「ええ、それで問題ないわ。ただ、魔法や学問を教えるとなると、時間が欲しいところね」

「そうだな。数日では話にならないしな」

 彼女とシズさんが、そのまま軽く悩み始める。
 もうスパルタ教育な情景しか目に浮かばない。
 オレと同じ危惧を感じたのだろう、ボクっ娘が少し慌てて割って入る。

「ちょっと待ってよ。ビギナーにいきなり二人の魔法教えるとか、逆に危険過ぎるでしょ」

「確かにそうだな。ところで、魔法の属性とランクは?」

「それと、みんなギルドでランクの判定とかしてもらったの?」

 シズさんとオレの言葉に、ランクに関してはタクミ以外にもう一人がまだという回答だった。そして既に登録している3人は、一人がCランク認定の他は、Dランク。
 実戦経験については、タクミ以外に二人がこの周りで魔物と少し戦っていた。
 そしてその時点で、この場にいない一人が、早くも冒険は諦めて街暮らしを考えて離脱したそうだ。
 
「治癒魔法が使える子もいるし、バランスがいいわね」

 聴き終えてハルカさんが評した。
 魔法属性は、なしが2人、1つがタクミだけ、2つが1人、3つが1人。きれいなばらけ方だ。

「ボクらはちょっと特殊だもんね」

「えっ? 空中戦とかちょーいけてるじゃん」

(うん。エルブルスの常識を、この世界の常識と思っちゃダメだ)

 思わずそう言いそうになったけど、こういう時は具体的な数字を上げる方が良いが、そういうのはオレの役目じゃない。
 予想通り、シズさんが悠里へ口を開く。

「飛行職は全体の1%くらいだし、まともに空中戦をするのはさらに少ないよ」

「そうなんですか」

「ついでに言うと、空でその背から飛び降りるなんて、どこかの無鉄砲以外いないわよ」

 シズさん以外がいい感じに話が進めていると思ったら、ハルカさんの言葉で全員の視線がオレに集中する。
 シズさんまで肩を軽く竦めている。

「アレっ? オレ、ディスられてる?」

 ここは軽く道化になっておくべきとの判断からのオレの発言だけど、あまり効果的ではなかった。

「せめて浮遊石の結晶を持とうよ。空中で飛び出すとか、危ないどころじゃないから」

「みんなを信頼してるからやってるだけなんだけど」

「信頼しているなら、せめて了解とってね」

 ボクっ娘の「圧」がいつもより強い。
 反省しよう。

「アハハハ、やっぱりそうなんだ」

 タクミの納得げな様子に、こっちの面子もみんな笑う。
 ビギナーの皆さんは、あまり意味が理解出来ないので、どうしていいのか分からない感じだ。
 その混乱を引きずりつつ、ビギナーの一人が恐る恐るといった感じで問いかけて来た。

「あ、あの、皆さんって10日ほど前にノヴァを救った人達ですよね」

「少し手伝っただけよ。ネットの噂なんて本気にしないでね。見ての通り、みんなと大して違わないから」

 ハルカさんがやんわりと言葉を返す。こういう会話の間合いの取り方は流石だ。
 ただ、ビギナーの皆さんは納得はしていないようだ。
 一人が切り出したことで、一斉に口々に言い始めた。

「こっちでも色々噂が流れて来てますよ」
「一撃で一軍を全滅させたとか、ドラゴンやグレーターデーモンを一太刀で倒したとかって本当なんですか?」
「あ、あの、握手して下さい」
「どうやったら、そんなに強くなれるんですか?」
「チートってあるんですか?」
「怖く無いんですか?」

 などなど、その後しばらく質問攻めだ。
 周りに何人かいた『ダブル』が、昨日に引き続いて聞いて来ないだけマシだけど、ちょっと戸惑ってしまう。
 しかもその話が一段落するまで、今後どうするのかが決められなかった。

 結局、冒険者ギルドに付き添ったりはせず、オレ達は『帝国』の商館に挨拶に行って日程とかを決めて来たら、昼にまた広場で合流することになった。
 そして手順として、泊まっている宿から『帝国』商館に使いを立てて訪問したいと告げると、その使いが返事を持って戻って来た。
 しかもかなり早く、そしていつでも歓迎するとの旨と、できれば早く来て欲しいという内容が、迂遠とでも表現すべき遠回しの言葉で書かれていた。

 シズさん曰く、迎えの馬車でも出そうかという勢いらしく、行ってやるのが礼儀であり人情だろうという事だ。
 そして貸しも作れるだろうと、少し意地悪く笑みも浮かべていた。
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