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第四部
291「Sランパーティー?」
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話し合いをなるべく手短に終えて司令部の天幕を出ると、かなりの人だかりができていた。
雰囲気は野次馬だ。何の野次馬かと一瞬思ったけど、みんなの視線がオレ達に向いている。
それに、天幕を出てきた時点で小さなざわめきが起き、小声で口々に色々な事を噂しあっている。
「あれがそうか」「流石に装備は良さそうだな」「悪魔殺(デビルスレイヤー)ってマジ?」「マジ強いのか?」「Sランパーティーらしい」「魔力抑えてて、分からへんなあ」「てかさ、女ばっかじゃん」「しかも可愛い子ばっか」「お前ナンパしてみろよ」「チーレムか。初めて見た」「男はフツメンね」「そう? 結構好みかも」「強い男がいいだけでしょ」「さしずめライオンの群れだな」「ハーレムかぁ。いいなぁ」
などと、軽薄な噂話に興じているのは『ダブル』、オレ達のご同郷の皆さんだ。
一方で「お噂は本当だったんだ」「あの方々が命の恩人か」「ああっ、俺はこの目で見た」「全軍の窮地に颯爽と現れたんだぞ」「敵将を討ち取られたそうだ」「凄いお力をお持ちらしいぞ」「世界竜の加護をお持ちだそうだ」「従者や奴隷はお連れじゃないんだな」
などと、背中がもぞもぞするような敬称や褒め言葉を囁き合っているのは、市民軍に属しているこっちの世界の人たち。
雰囲気が全然違う。
そして右側と左側といった感じで、二つのグループに分かれている事が、ノヴァの現状を端的に物語っているようにも思えた。
以前聞いた話では、ノヴァで『ダブル』は貴族とはいかないまでも特権階級的な扱いだ。何せ全員が高い魔力持ちだ。その上、高い知識と教養を持っているとされている。
それに対して、市民のうち特に市民軍の過半数以上は、ノヴァが世界中から買い集めた解放奴隷かその子孫だそうだ。
ノヴァの繁栄や文物に惹かれて移住してきた人たちも街には大勢いるが、特に市民軍の主力は一日でも早くノヴァの市民権を得るために戦う若い解放奴隷達が中心だ。
それはともかく、こんな晒し者状態は早々に逃げ出したい。
みんなも同じで、口々に「早く行こう」「早く戻ろう」などと小声で言い合いながら足早に去ろうとする。
ただ、野次馬に道が塞がれた状態なので、道を開けてもらわないと飛行場には行けない。
その気になれば、力任せにハイジャンプで飛び越えるという手も出来なくはないが、これ以上悪目立ちはしたくなかった。
仕方なくオレが口を開こうとすると、ハルカさんが軽く制して一歩前に出る。
「申し訳ありませんが、道を開けて下さいませんか。これより、お勤めで西にあるレイ博士の館に戻らねばならないのです」
よく通る声であり、さらに彼女が高位の神官のおかげだろう、こっちの世界の人たちは一斉にハッとなって、率先して道を開いてくれた。
つられて『ダブル』も続く。
面倒も多いが、こういう時は神殿の権威は役に立つ。
しかし、その人だかりが裂けた先に、突っ立っている男性がいた。
「悪魔殺(デビルスレイヤー)がどんな連中かと思って来てみれば、ガキに小娘ばかり。ガッカリだな」
明らかに挑発の言葉で、顔も態度も姿勢も挑発姿勢だ。
かなりの長身で体格もいい。装備も良さそうな戦士風、いや魔法戦士のようだ。
年齢は20歳前後だろうが、実年齢は分からない。
黒髪黒目で、雰囲気が日本人の『ダブル』だ。
ただ、挑発が演技がかっている。それに、本来はもう少ししっかりした人なのではないかとも思えた。
(確か前の会議の時に、幹部として席に座ってた一人だ)
その男にもハルカさんが口を開こうとしたが、今度はオレが一歩前に出てハルカさんを制する。
ハーケンでは売り言葉に買い言葉となった汚名返上の機会だ。
「何か御用でしょうか? 先を急いでいるので、要件があるなら手短にお願いします」
そうすると、男は少しとぼけたような表情を見せる。
「いや、顔を拝みに来ただけだ。腕が立ちそうなら、手合わせの一つでもと思ったが、見込み違いだったようだな」
「それじゃあ、用はないんですね。申し訳ありませんが、急ぐので通してもらえますか?」
「なんだ、挑発には乗ってくれないんだな」
「乗って良い事はないでしょうから」
オレの言葉に、その男性が笑う。自然な笑みで、剣呑な雰囲気も霧散する。
馬鹿にもしていないし、あるとするなら自嘲だ。
「違いない。……いや、煽るような事をして悪かった。俺は雷の剣士ライトニング。ノヴァでは五指には入ると自負している。ま、あっちじゃただの機械工なんだけどな」
言葉の最後に皮肉っぽい笑みを浮かべ、態度もぐっと砕けた。
そうした表情は、確かに街のどこにでもいるような普通の人の雰囲気だ。
「えっと、オレはショウです。あの、何か御用でしょうか? だったら、手短にお願いします。急ぐのは本当なので」
「おう、悪かったな。止め立てして。手柄を取られて、悔しくて来ただけだ。それとな……」
そこで言葉が一瞬詰まり、真面目な表情に変化する。
「クソ悪魔に仲間が何人もやられた。中には『ダブル』じゃない奴もいたんだ。だから、仇を取ってくれた礼を言いたかった。ありがとう」
そう言って、かなりの深さで頭を下げる。
こっちは振り払う火の粉を振り払うって状況でしかなかったので、何だか居心地が悪くなりそうだ。
「いえ、オレ達のところまで逃げてきてた時には、以前会った時ほどの力はなかったように思いました。皆さんと戦ったからだと思います。確かに、手柄を横取りしたみたいで、ごめんなさい」
「謝ることじゃないだろ。それにあいつは、力が落ちていたとしても俺達じゃ倒せなかった。こちとらノヴァで五指とかイキってても、クソ悪魔一匹倒せないヘタレ具合だ。マジ、仇取ってくれてありがとな」
「……はい」
予想外に重い言葉をかけられて、最低限の返事をするのがやっとだった。
オレは、今まで仲間が戦いで犠牲になった事はなかったので、返せる言葉が思い浮かばなかったからだ。
少し立ち尽くしたオレの背を、ハルカさんが軽く押してくれないと、その場で立ち続けていたかもしれない。
視線でハルカさんに軽くお礼の気持ちを伝えると、彼女もそれに目で答えてくれて、そのあとは自然に歩くことができた。
そしてライトニングと名乗った男性とのすれ違いざまに「それじゃあ」と軽く挨拶して、その場を後にして飛行場へと向かう。
彼はすれ違いざまに「おうっ」とだけ応えてオレの肩を軽く叩き、視線を向けあって軽く笑みを交歓する。
こういう時は、軽くでも頭を下げるものではないだろう。
「煽ってきた時はどうなるかと思ったねー」
ボクっ娘が陽気な口調のように、みんなの緊張も解れたので飛行場に雑談しながら向かう。
こっちを見る人はまだチラホラといるが、寄って来たり人だかりにまではならない。
「けど、どうしてさっきは前に出たの?」
「ハーケンの時は、売り言葉に買い言葉で面倒になっただろ。その汚名返上をと思って」
「大人になった俺を見て欲しいって?」
「そこまでは思ってないけど」
「ま、今回は良い人で良かったわね」
ハルカさんとのやり取りで、他のみんなも軽く笑う。
オレも苦笑するしかない。
「そうだよな。けどオレ、あの人の言葉にロクに返事できなかったよ」
「向こうも言葉なんて望んでないでしょう」
「かもしれないけど、オレ今まで誰かを失ったりとか無かったから。……だから、無鉄砲弾はしないように気を付けるよ」
「ショウ一人じゃなければ、私か誰かがストッパーになるわよ。自分の特性殺してどうするのよ」
真面目に話したのに、またハルカさんに頭を小突かれる。
「えっ? 無鉄砲は欠点だろ」
「拙速を尊ぶという言葉もある。特に今回の戦いは、ショウが急かしてノヴァに来たから、簡単に引っくり返せたわけだしな」
「ボクはショウの無鉄砲なところ好きだよ。結果オーライな事は多いけど」
「みんな、こい、お兄ちゃんに優しいんですね」
みんなのフォローに、悠里が心底感心したように口にした。
妹の言葉ながら反論のしようがない。
「そうでもないよ。ショウの無鉄砲さがなければ、私は未だ狂った魔女に心を囚われたままか、『帝国』なりに『魔女の亡霊』として滅ぼされてドロップアウトだった」
「それを言えば、ショウが召喚初日にゴブリンに喧嘩売ってなければ、私もショウと出会ってないかもしれないのよね」
「なるほどー、そうなるんだね。ボクは、ショウが身バレしてたら、いつかは会いに来てただろうけど、こうしてみんなには会えてなかったんだね」
「じゃあ、私もお兄ちゃんの無鉄砲のおかげで、皆さんに会えたって事になるのかー」
ボクっ娘と悠里が妙に感心している。
ただ、4人の感想はオレ的にはちょっと解せない。
「あのさあ、オレの無鉄砲をなんかいい話にしてないか? そりゃあ性格だから仕方ない面はあるだろうけど、やっぱり良くはないだろ」
「それこそ性格なんだから、良いも悪いもないでしょう。けど私は、今まで通りで良いと思うわよ。私的に、そういうところも含めてだから」
「昼間からイチャイチャ禁止。でもボクも、ハルカさんと同じ気持ちではあるんだけどね」
「私もだぞショウ。これはもう、悠里ちゃんに許可をもらって、ハーレムを作るしかないな!」
「えーっ?!」
いつになくみんなが好意的だ。
シズさんなんて、後ろから抱きついてきた。鎧を着てるから背中に当たる感触は堪能できないが、首に回して来た腕やすぐそばにきた顔に、思わずドキッとさせられる。
けど、シズさんがこうしてオレをちょっとからかう時は大抵理由がある。
それぞれライトニングさんの言葉に、何か思うところがあったのだろう。
しかし、悠里の罵声ならぬ一人で納得したようなツッコミが、オレの思考を現実に引き戻した。
「あー、なんか分かりました。アレですよね。出来る女はダメ男に惹かれやすいってフリですよね。けどダメですよ、お兄ちゃんなんかに。本気にするか、調子に乗るから」
オレは現実に引き戻されたが、悠里の天然すぎる言葉に3人が一瞬呆気にとられたあと、声を出して笑った。
悠里はやっぱり冗談で言っていたんだと納得顔だけど、何であれこれだけの仲間、いや女性に好意を寄せられるのは嬉しくもあり、有り難くもあった。
プレッシャーも半端ないけど。
「さあ、オチもついたし、博士の館に帰ろうか」
「そうだな……いや、ちょっと待った方がいいかも。しばらく空が混みそう」
「あ、ホントだ」
オレが空を見て呼びかけたので、話していたボクっ娘だけじゃなく、みんなも空を見る。
長く滞在しすぎたのか、オレ達が来る前に飛び立ったノヴァの空軍の偵察が戻ってきたようだ。
2騎一組だし、上空を警戒する竜騎兵や翼竜が友好の証を送ると、それに応えるのが遠望できた。
雰囲気は野次馬だ。何の野次馬かと一瞬思ったけど、みんなの視線がオレ達に向いている。
それに、天幕を出てきた時点で小さなざわめきが起き、小声で口々に色々な事を噂しあっている。
「あれがそうか」「流石に装備は良さそうだな」「悪魔殺(デビルスレイヤー)ってマジ?」「マジ強いのか?」「Sランパーティーらしい」「魔力抑えてて、分からへんなあ」「てかさ、女ばっかじゃん」「しかも可愛い子ばっか」「お前ナンパしてみろよ」「チーレムか。初めて見た」「男はフツメンね」「そう? 結構好みかも」「強い男がいいだけでしょ」「さしずめライオンの群れだな」「ハーレムかぁ。いいなぁ」
などと、軽薄な噂話に興じているのは『ダブル』、オレ達のご同郷の皆さんだ。
一方で「お噂は本当だったんだ」「あの方々が命の恩人か」「ああっ、俺はこの目で見た」「全軍の窮地に颯爽と現れたんだぞ」「敵将を討ち取られたそうだ」「凄いお力をお持ちらしいぞ」「世界竜の加護をお持ちだそうだ」「従者や奴隷はお連れじゃないんだな」
などと、背中がもぞもぞするような敬称や褒め言葉を囁き合っているのは、市民軍に属しているこっちの世界の人たち。
雰囲気が全然違う。
そして右側と左側といった感じで、二つのグループに分かれている事が、ノヴァの現状を端的に物語っているようにも思えた。
以前聞いた話では、ノヴァで『ダブル』は貴族とはいかないまでも特権階級的な扱いだ。何せ全員が高い魔力持ちだ。その上、高い知識と教養を持っているとされている。
それに対して、市民のうち特に市民軍の過半数以上は、ノヴァが世界中から買い集めた解放奴隷かその子孫だそうだ。
ノヴァの繁栄や文物に惹かれて移住してきた人たちも街には大勢いるが、特に市民軍の主力は一日でも早くノヴァの市民権を得るために戦う若い解放奴隷達が中心だ。
それはともかく、こんな晒し者状態は早々に逃げ出したい。
みんなも同じで、口々に「早く行こう」「早く戻ろう」などと小声で言い合いながら足早に去ろうとする。
ただ、野次馬に道が塞がれた状態なので、道を開けてもらわないと飛行場には行けない。
その気になれば、力任せにハイジャンプで飛び越えるという手も出来なくはないが、これ以上悪目立ちはしたくなかった。
仕方なくオレが口を開こうとすると、ハルカさんが軽く制して一歩前に出る。
「申し訳ありませんが、道を開けて下さいませんか。これより、お勤めで西にあるレイ博士の館に戻らねばならないのです」
よく通る声であり、さらに彼女が高位の神官のおかげだろう、こっちの世界の人たちは一斉にハッとなって、率先して道を開いてくれた。
つられて『ダブル』も続く。
面倒も多いが、こういう時は神殿の権威は役に立つ。
しかし、その人だかりが裂けた先に、突っ立っている男性がいた。
「悪魔殺(デビルスレイヤー)がどんな連中かと思って来てみれば、ガキに小娘ばかり。ガッカリだな」
明らかに挑発の言葉で、顔も態度も姿勢も挑発姿勢だ。
かなりの長身で体格もいい。装備も良さそうな戦士風、いや魔法戦士のようだ。
年齢は20歳前後だろうが、実年齢は分からない。
黒髪黒目で、雰囲気が日本人の『ダブル』だ。
ただ、挑発が演技がかっている。それに、本来はもう少ししっかりした人なのではないかとも思えた。
(確か前の会議の時に、幹部として席に座ってた一人だ)
その男にもハルカさんが口を開こうとしたが、今度はオレが一歩前に出てハルカさんを制する。
ハーケンでは売り言葉に買い言葉となった汚名返上の機会だ。
「何か御用でしょうか? 先を急いでいるので、要件があるなら手短にお願いします」
そうすると、男は少しとぼけたような表情を見せる。
「いや、顔を拝みに来ただけだ。腕が立ちそうなら、手合わせの一つでもと思ったが、見込み違いだったようだな」
「それじゃあ、用はないんですね。申し訳ありませんが、急ぐので通してもらえますか?」
「なんだ、挑発には乗ってくれないんだな」
「乗って良い事はないでしょうから」
オレの言葉に、その男性が笑う。自然な笑みで、剣呑な雰囲気も霧散する。
馬鹿にもしていないし、あるとするなら自嘲だ。
「違いない。……いや、煽るような事をして悪かった。俺は雷の剣士ライトニング。ノヴァでは五指には入ると自負している。ま、あっちじゃただの機械工なんだけどな」
言葉の最後に皮肉っぽい笑みを浮かべ、態度もぐっと砕けた。
そうした表情は、確かに街のどこにでもいるような普通の人の雰囲気だ。
「えっと、オレはショウです。あの、何か御用でしょうか? だったら、手短にお願いします。急ぐのは本当なので」
「おう、悪かったな。止め立てして。手柄を取られて、悔しくて来ただけだ。それとな……」
そこで言葉が一瞬詰まり、真面目な表情に変化する。
「クソ悪魔に仲間が何人もやられた。中には『ダブル』じゃない奴もいたんだ。だから、仇を取ってくれた礼を言いたかった。ありがとう」
そう言って、かなりの深さで頭を下げる。
こっちは振り払う火の粉を振り払うって状況でしかなかったので、何だか居心地が悪くなりそうだ。
「いえ、オレ達のところまで逃げてきてた時には、以前会った時ほどの力はなかったように思いました。皆さんと戦ったからだと思います。確かに、手柄を横取りしたみたいで、ごめんなさい」
「謝ることじゃないだろ。それにあいつは、力が落ちていたとしても俺達じゃ倒せなかった。こちとらノヴァで五指とかイキってても、クソ悪魔一匹倒せないヘタレ具合だ。マジ、仇取ってくれてありがとな」
「……はい」
予想外に重い言葉をかけられて、最低限の返事をするのがやっとだった。
オレは、今まで仲間が戦いで犠牲になった事はなかったので、返せる言葉が思い浮かばなかったからだ。
少し立ち尽くしたオレの背を、ハルカさんが軽く押してくれないと、その場で立ち続けていたかもしれない。
視線でハルカさんに軽くお礼の気持ちを伝えると、彼女もそれに目で答えてくれて、そのあとは自然に歩くことができた。
そしてライトニングと名乗った男性とのすれ違いざまに「それじゃあ」と軽く挨拶して、その場を後にして飛行場へと向かう。
彼はすれ違いざまに「おうっ」とだけ応えてオレの肩を軽く叩き、視線を向けあって軽く笑みを交歓する。
こういう時は、軽くでも頭を下げるものではないだろう。
「煽ってきた時はどうなるかと思ったねー」
ボクっ娘が陽気な口調のように、みんなの緊張も解れたので飛行場に雑談しながら向かう。
こっちを見る人はまだチラホラといるが、寄って来たり人だかりにまではならない。
「けど、どうしてさっきは前に出たの?」
「ハーケンの時は、売り言葉に買い言葉で面倒になっただろ。その汚名返上をと思って」
「大人になった俺を見て欲しいって?」
「そこまでは思ってないけど」
「ま、今回は良い人で良かったわね」
ハルカさんとのやり取りで、他のみんなも軽く笑う。
オレも苦笑するしかない。
「そうだよな。けどオレ、あの人の言葉にロクに返事できなかったよ」
「向こうも言葉なんて望んでないでしょう」
「かもしれないけど、オレ今まで誰かを失ったりとか無かったから。……だから、無鉄砲弾はしないように気を付けるよ」
「ショウ一人じゃなければ、私か誰かがストッパーになるわよ。自分の特性殺してどうするのよ」
真面目に話したのに、またハルカさんに頭を小突かれる。
「えっ? 無鉄砲は欠点だろ」
「拙速を尊ぶという言葉もある。特に今回の戦いは、ショウが急かしてノヴァに来たから、簡単に引っくり返せたわけだしな」
「ボクはショウの無鉄砲なところ好きだよ。結果オーライな事は多いけど」
「みんな、こい、お兄ちゃんに優しいんですね」
みんなのフォローに、悠里が心底感心したように口にした。
妹の言葉ながら反論のしようがない。
「そうでもないよ。ショウの無鉄砲さがなければ、私は未だ狂った魔女に心を囚われたままか、『帝国』なりに『魔女の亡霊』として滅ぼされてドロップアウトだった」
「それを言えば、ショウが召喚初日にゴブリンに喧嘩売ってなければ、私もショウと出会ってないかもしれないのよね」
「なるほどー、そうなるんだね。ボクは、ショウが身バレしてたら、いつかは会いに来てただろうけど、こうしてみんなには会えてなかったんだね」
「じゃあ、私もお兄ちゃんの無鉄砲のおかげで、皆さんに会えたって事になるのかー」
ボクっ娘と悠里が妙に感心している。
ただ、4人の感想はオレ的にはちょっと解せない。
「あのさあ、オレの無鉄砲をなんかいい話にしてないか? そりゃあ性格だから仕方ない面はあるだろうけど、やっぱり良くはないだろ」
「それこそ性格なんだから、良いも悪いもないでしょう。けど私は、今まで通りで良いと思うわよ。私的に、そういうところも含めてだから」
「昼間からイチャイチャ禁止。でもボクも、ハルカさんと同じ気持ちではあるんだけどね」
「私もだぞショウ。これはもう、悠里ちゃんに許可をもらって、ハーレムを作るしかないな!」
「えーっ?!」
いつになくみんなが好意的だ。
シズさんなんて、後ろから抱きついてきた。鎧を着てるから背中に当たる感触は堪能できないが、首に回して来た腕やすぐそばにきた顔に、思わずドキッとさせられる。
けど、シズさんがこうしてオレをちょっとからかう時は大抵理由がある。
それぞれライトニングさんの言葉に、何か思うところがあったのだろう。
しかし、悠里の罵声ならぬ一人で納得したようなツッコミが、オレの思考を現実に引き戻した。
「あー、なんか分かりました。アレですよね。出来る女はダメ男に惹かれやすいってフリですよね。けどダメですよ、お兄ちゃんなんかに。本気にするか、調子に乗るから」
オレは現実に引き戻されたが、悠里の天然すぎる言葉に3人が一瞬呆気にとられたあと、声を出して笑った。
悠里はやっぱり冗談で言っていたんだと納得顔だけど、何であれこれだけの仲間、いや女性に好意を寄せられるのは嬉しくもあり、有り難くもあった。
プレッシャーも半端ないけど。
「さあ、オチもついたし、博士の館に帰ろうか」
「そうだな……いや、ちょっと待った方がいいかも。しばらく空が混みそう」
「あ、ホントだ」
オレが空を見て呼びかけたので、話していたボクっ娘だけじゃなく、みんなも空を見る。
長く滞在しすぎたのか、オレ達が来る前に飛び立ったノヴァの空軍の偵察が戻ってきたようだ。
2騎一組だし、上空を警戒する竜騎兵や翼竜が友好の証を送ると、それに応えるのが遠望できた。
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