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第四部

290「協力要請(2)」

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 しかし、タロー委員長で緩くなった雰囲気を、ゲンブ将軍が存在感だけで改める。

「さて、騒がしい奴もいなくなったので、もう少し具体的な話をしても構わないかな」

 一言一言が、ゲンブ将軍は重々しい。
 真面目で有能そうだけど、クラブの先輩とか上司にはしたくないタイプじゃないだろうか。
 体育会系は中学で多少は慣れたけど、存在感と言動が重々しいので少し息が詰まりそうだ。

 とはいえ、この場を逃げ出すわけにもいかない。
 小さく頷き、顔と視線の両方をタロー委員長とリンさんが出て行った出口から、天幕の中央に戻す。
 そうするとニシ大佐が、仕切り直しで口を開いた。

「それでエルブルス辺境伯らは、今後どうされるのかな?」

「ジン議員からは?」

 こちらもシズさんが再び口を開く。
 そしてシズさんの言葉に、ニシ大佐もジン議員も首を横に振る。

「それでは、レイ博士の屋敷の状況はお聞きでない?」

「済まない。まだそこまで詳しくは話せていない」

 ジン議員の言葉に、シズさんが小さく首肯して再び口を開く。
 話した内容は、ジン議員とリンさんに話した、博士の館でしばらく防衛のために待機するという話だ。
 それを伝え終わると、「なるほど」と一度は納得したようだ。
 しかし「その必要は恐らく無いでしょう」と切り返してきた。

「こちらは偵察情報待ちですが、状況次第では明日朝より空から追撃戦を展開予定です。特に空軍と空軍が運べる精鋭は、全力で出撃する予定です」

「そこでエルブルス辺境伯には、麾下の竜騎兵を率いて追撃戦に参加してもらえないだろうか」

 ニシ大佐の言葉を継ぐ形で、ゲンブ将軍が頼み事をしてきた。けどゲンブ将軍は重々しい口調のため、オレにはお前に拒否権などないと言われたような心境になってしまう。
 しかし、数日前のここでの『ダブル』達の態度が頭をよぎった。

「状況によっては、お引き受けします。けど、構わないんですか? オレ達がこれ以上功績挙げて?」

 オレとしては皮肉たっぷりに伝えたつもりだけど、ニシ大佐は涼しい顔のままで、ゲンブ将軍はシニカルな笑みを浮かべた。

「『ダブル』の全員が嫉妬深いわけではない。少なくとも軍司令部は君たちに非常に感謝しているし、一連の戦いぶりは頼もしく思っている」

「偶然と言う炎の壁も、ボーナスステージだと大好評でしたよ。それに、前線で猛威を振るった魔将ゼノを倒したのが君たちだという話は、もう広まっています。だから殆どの者のマイナス感情は吹き飛んでいますよ。あなた達は英雄だ」

 ニシ大佐の言葉に、その部屋にいた数名の幹部の人も頷いたりしている。
 気持ちにも嘘はなさそうだ。
 飛行場などでの雰囲気が違っていたのも同じ理由なのだろう。

(態度が少しでも変わったのなら、ゼノに命懸けで戦った甲斐もあったというもんだな。けど、持ち上げて何かをさせようって魂胆なんだろうな)

「ゼノの鎮定はみんなで頑張ったおかげだし、ノヴァの竜騎兵の皆さんの協力がなければ倒せませんでした」

「話は聞いている。謙遜は無用だ。それに謙遜も過ぎると嫌味になるぞ」

 謙遜したつもりはないのに、ゲンブ将軍から思わぬ助言をいただいてしまった。
 意外そうな顔をしているのは悠里だけで、他のみんなは少し苦笑気味だ。
 一応説明しておいた方がいいだろう。

「そんな事ないですよ。オレは、短期間で魔力は随分増えましたけど、技量が追いつかなくて恥ずかしいくらいです。それに魔法やドラゴン抜きじゃあ、あの化け物には逃げるより他ありませんでした」

「かもしれない。だが『ダブル』の多くは、人型の時のゼノと相対しただけで、腰を抜かすような者も少なくなかった。それを短時間でも1対1で相対するなど、普通出来る事ではない」

「流石は『煌姫』に同行するだけありますね」

「ニシ大佐、その名はもう言わないで下さい」

 ニシ大佐から意外な言葉が出てきた。
 いや、ニシ大佐が古株なら、以前のハルカさんのネームドを知っているのも普通なのだろう。

 オレがハルカさんに視線を向けると、小さく「昔の話よ」と少し恥ずかしげに告げる。
 まあ、若気の至り、黒歴史のようなものなのだろう。
 ゲンブ将軍まで、ほんの少しだけど苦笑いしている。腕に覚えのある『ダブル』だと、誰にも覚えがあるものなのだろう。
 ニシ大佐も、微苦笑しつつ軽く頭を下げた。

「失礼しました。私も別の者から、昔の二つ名で虐められたことがあるので、ついね。しかし、今だと別の二つ名が必要かもしれませんね」

「もう必要ありませんよ。ノヴァにはなるべく近づかない積りですし」

「では、協力してはもらえないのかな?」

 ニシ大佐が雑談で何かを引き出そうとしたようだけど、どうやら答えに行き着いていたらしい。
 
「ジン議員と最初に約束した日数はもう過ぎてますね。けど、あと数日なら協力しますが、それ以上は無理です」

「何か、他に用件でも?」

「友人が前兆夢中で、あと数日でこっちに来る予定なので、迎えに行く約束をしてるんです。出現は多分北の方になるので、ノヴァから離れる予定です」

「そして彼の友達を拾ったら、そのまま『帝国』にある空皇の聖地に行く予定よ」

「そうか、大巡礼中だったな。それに友人との約束は大切だ。了解した。数日だけでも、我々は助かる」

 ハルカさんが後を継いでくれたが、ゲンブ将軍は真面目な顔でオレ達の要件を快く了解してくれた。

「それでは、明日一日、できれば予備日を入れて二日の協力を正式に要請させていただきます、エルブルス辺境伯。ご助力頂ける日数を含めて、明日までに文書にもしましょう」

「要請をお受けします。確か、微力を尽くします、でしたね」

「領主よ、その場合は他にも飾るべき言葉が幾つかあるのだがな」

 シズさんのやれやれと言いたげな言葉に、天幕にいた人たちの多くが苦笑した。
 けど、高校生に貴族の領主の振る舞いを期待されても、困るというものだ。
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