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第四部
288「悪魔達の陰謀(2)」
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「私達が不意に現れ、博士を助けて西の拠点を魔物ごと全滅させた。その一連の話を聞き、私達の参戦を得たノヴァの中枢部が、作戦予定日を変更した。魔物達は自分達の手順が狂ったので、せめて先制攻撃を仕掛けた。
そこに来る筈のない援軍が、足止めの為のエルブルスの魔物の群れをあっさり全滅させた上で、早々にやって来て暴れ回った。しかも魔物の軍の撤退を阻止したところで、ゼノがショウ達に退路を待ち伏せされたと勘違いした、という経緯になるんだろうな」
「は、はあ」
中学生の悠里では、まだ答えに行き着いていないらしい。残念ながら、オレもまだ半分くらいしか理解できていない。
「悪魔達は、こっちを各個撃破する積りで立てた作戦を全部パーにされた上に、逆に自分達が各個撃破されたようなものだよね。て事はさぁ」
「うん。今樹海の奥地から来ている筈の援軍か増援を倒せば、魔物の軍は全滅するんじゃないかしら」
「そうはいかないだろう。1騎逃したので、情報を持って帰られた。それに、前衛なりの魔物の軍の全滅も知っただろう」
「普通なら尻捲って逃げ出すよな」
「下品よショウ」
ハルカさんが軽くだけど顔をしかめる。
小説とかでは時折見かける表現なんだけど、お気に召さなかったようだ。
しかも悠里まで、ハルカさんに同調している。オレを見る時のいつもの表情だ。
「だがその通りだ。逆にこれでも進軍なりを続けるなら、奥地の魔物どもは余程自信があるのか、余程馬鹿かのどちらかだな」
「その辺は、ノヴァの軍が探ってくれるでしょう」
「そうだな。こちらは念のため周辺の偵察を密にしつつ、この館の防衛をしておけば大丈夫だろう」
「それは了解です。それで謎解きの段取りは?」
そもそもこの答えを導くための話だ。勿論、ハルカさんもそれは分かっている表情をしている。
さらにシズさんも答えに到達しているらしい。
口を開いたのはハルカさんの方だ。
「図らずも、私達が魔物達のノヴァへの攻撃計画を破綻させた。そして魔物達は窮地に追い込まれた。ここまではいい?」
全員が頷く。
「沢山の魔物を動員する計画だから、下手したら何年もかけて準備してきたと思うの。それでその計画は、魔物の群れと一緒に消えて無くなった。
つまり、今、樹海の奥地から来ているであろう魔物の軍が逃げ帰ったとしたら、南部の樹海もしくは樹海跡の魔物勢力は激減もしくは全滅よ」
一度に話したので、そこでハルカさんが飲み物に口をつけると、その間シズさんが話を継いでくれた。
「だから奥地の魔物共は、ノヴァの軍がさらに攻め寄せるなら、今まで南部にいた魔物の空いた穴を埋めなくてはいけない。仕切り直しをするにしても、完全には逃げ帰れないだろうな」
「ノヴァは、最低でもゴーレムによる開拓はずっと続けるだろうから、穴を埋めに来るのは確実でしょうね」
「要するに、悪魔達が周到に準備してた計画が南にいた軍団と一緒に消えて無くなったから、奥地の魔物は丸裸ってことかな?」
「丸裸まではいかないだろうが、相当手薄になるな」
「そこを突くんですか?」
オレの何気ない言葉に、全員の視線が集中する。全員が非難の視線だ。
しかも、またハルカさんに横合いから頭を弾かれてしまう。
「どうしてそう無鉄砲弾なの?!」
シズさんも、口に軽く結んだ手をあてて苦笑気味だ。
「フフフッ。手薄になれば、ノヴァの連中が黙ってないだろう。恐らくだが、まずは迫ってきていた増援なり本軍が回れ右したのを見つけた時点で、全力で追撃するだろう。
そして南部の森林火災が完全に収まれば、精鋭が奥地に攻め寄せるはずだ」
「しかも樹海が燃えている間に、ゴーレムが軍隊が使う道を奥地に向けて作るだろうしね」
「魔王討伐みたいだね」
「みたいじゃなくて、ここまでくれば、そのものじゃないかしら。ゼノが全体の主将じゃないとしたら、あれ以上の悪魔がいるわけでしょう。それってもう魔王じゃない」
「沢山の魔物、魔獣も従えているしな」
雑談を交えた感じになってきているが、全員が同じ考えに至っている証拠だ。
オレもやっと答えが見えてきた。
「ノヴァの軍が奥地に攻め込む時に、こっちも一口乗るってことでいいですか?」
「正解よ。出来れば、ノヴァの軍が悪魔を締め上げて聞き出した話を聞けるだけでいいんだけどね」
ハルカさんは、溜息に近い口調だ。
ようやく及第点をいただけたらしい。
「それじゃあ、こっちがゼノから聞いた話を推論含めて教えて、それを取引材料にしないとな」
「そういう事だな」
「なんだか、悪巧みみたいだね」
「私には分っかんないです」
ボクっ娘と悠里は今ひとつ乗り気じゃない。
二人にしてみれば、戦って勝ち取ることに意味があるのだろうか。そうではなく、大人な交渉事とかが嫌いなだけだろう。
けど今は感情論ではなく、今の話はできるだけ早く伝えた方がいいだろう。
だからレナの方に視線を向けた。
「……なあ、レナ。今から飛べるか?」
「いいけど、中央の砦まで?」
「うん。今の話は早く伝えた方がいいだろう。ジン議員は話も聞かずに飛び出したから、伝えるために追いかけてきた的に言えば大丈夫だろ」
「もうちょっと、ちゃんとした言い訳の方がいいでしょうけどね。で、誰が行くの?」
「この5人でいいだろう。1騎で行くのも道中不用心だし、すぐに戻るならその間にここが攻撃されることもないだろ」
「そうね。偵察に出たみんなも戻って来る頃だし、館はみんなに後を任せて、今日中に戻れるように急ぎましょう」
時間はまだ昼の2時頃。片道30分なので向こうに2時間いたとしても、十分に戻ることができる。
念のため、エルブルスの警備隊のみんなとレイ博士に留守と警備隊への言づてを任せて、急いで身なりというか武装を整えて中央砦へと急いだ。
そこに来る筈のない援軍が、足止めの為のエルブルスの魔物の群れをあっさり全滅させた上で、早々にやって来て暴れ回った。しかも魔物の軍の撤退を阻止したところで、ゼノがショウ達に退路を待ち伏せされたと勘違いした、という経緯になるんだろうな」
「は、はあ」
中学生の悠里では、まだ答えに行き着いていないらしい。残念ながら、オレもまだ半分くらいしか理解できていない。
「悪魔達は、こっちを各個撃破する積りで立てた作戦を全部パーにされた上に、逆に自分達が各個撃破されたようなものだよね。て事はさぁ」
「うん。今樹海の奥地から来ている筈の援軍か増援を倒せば、魔物の軍は全滅するんじゃないかしら」
「そうはいかないだろう。1騎逃したので、情報を持って帰られた。それに、前衛なりの魔物の軍の全滅も知っただろう」
「普通なら尻捲って逃げ出すよな」
「下品よショウ」
ハルカさんが軽くだけど顔をしかめる。
小説とかでは時折見かける表現なんだけど、お気に召さなかったようだ。
しかも悠里まで、ハルカさんに同調している。オレを見る時のいつもの表情だ。
「だがその通りだ。逆にこれでも進軍なりを続けるなら、奥地の魔物どもは余程自信があるのか、余程馬鹿かのどちらかだな」
「その辺は、ノヴァの軍が探ってくれるでしょう」
「そうだな。こちらは念のため周辺の偵察を密にしつつ、この館の防衛をしておけば大丈夫だろう」
「それは了解です。それで謎解きの段取りは?」
そもそもこの答えを導くための話だ。勿論、ハルカさんもそれは分かっている表情をしている。
さらにシズさんも答えに到達しているらしい。
口を開いたのはハルカさんの方だ。
「図らずも、私達が魔物達のノヴァへの攻撃計画を破綻させた。そして魔物達は窮地に追い込まれた。ここまではいい?」
全員が頷く。
「沢山の魔物を動員する計画だから、下手したら何年もかけて準備してきたと思うの。それでその計画は、魔物の群れと一緒に消えて無くなった。
つまり、今、樹海の奥地から来ているであろう魔物の軍が逃げ帰ったとしたら、南部の樹海もしくは樹海跡の魔物勢力は激減もしくは全滅よ」
一度に話したので、そこでハルカさんが飲み物に口をつけると、その間シズさんが話を継いでくれた。
「だから奥地の魔物共は、ノヴァの軍がさらに攻め寄せるなら、今まで南部にいた魔物の空いた穴を埋めなくてはいけない。仕切り直しをするにしても、完全には逃げ帰れないだろうな」
「ノヴァは、最低でもゴーレムによる開拓はずっと続けるだろうから、穴を埋めに来るのは確実でしょうね」
「要するに、悪魔達が周到に準備してた計画が南にいた軍団と一緒に消えて無くなったから、奥地の魔物は丸裸ってことかな?」
「丸裸まではいかないだろうが、相当手薄になるな」
「そこを突くんですか?」
オレの何気ない言葉に、全員の視線が集中する。全員が非難の視線だ。
しかも、またハルカさんに横合いから頭を弾かれてしまう。
「どうしてそう無鉄砲弾なの?!」
シズさんも、口に軽く結んだ手をあてて苦笑気味だ。
「フフフッ。手薄になれば、ノヴァの連中が黙ってないだろう。恐らくだが、まずは迫ってきていた増援なり本軍が回れ右したのを見つけた時点で、全力で追撃するだろう。
そして南部の森林火災が完全に収まれば、精鋭が奥地に攻め寄せるはずだ」
「しかも樹海が燃えている間に、ゴーレムが軍隊が使う道を奥地に向けて作るだろうしね」
「魔王討伐みたいだね」
「みたいじゃなくて、ここまでくれば、そのものじゃないかしら。ゼノが全体の主将じゃないとしたら、あれ以上の悪魔がいるわけでしょう。それってもう魔王じゃない」
「沢山の魔物、魔獣も従えているしな」
雑談を交えた感じになってきているが、全員が同じ考えに至っている証拠だ。
オレもやっと答えが見えてきた。
「ノヴァの軍が奥地に攻め込む時に、こっちも一口乗るってことでいいですか?」
「正解よ。出来れば、ノヴァの軍が悪魔を締め上げて聞き出した話を聞けるだけでいいんだけどね」
ハルカさんは、溜息に近い口調だ。
ようやく及第点をいただけたらしい。
「それじゃあ、こっちがゼノから聞いた話を推論含めて教えて、それを取引材料にしないとな」
「そういう事だな」
「なんだか、悪巧みみたいだね」
「私には分っかんないです」
ボクっ娘と悠里は今ひとつ乗り気じゃない。
二人にしてみれば、戦って勝ち取ることに意味があるのだろうか。そうではなく、大人な交渉事とかが嫌いなだけだろう。
けど今は感情論ではなく、今の話はできるだけ早く伝えた方がいいだろう。
だからレナの方に視線を向けた。
「……なあ、レナ。今から飛べるか?」
「いいけど、中央の砦まで?」
「うん。今の話は早く伝えた方がいいだろう。ジン議員は話も聞かずに飛び出したから、伝えるために追いかけてきた的に言えば大丈夫だろ」
「もうちょっと、ちゃんとした言い訳の方がいいでしょうけどね。で、誰が行くの?」
「この5人でいいだろう。1騎で行くのも道中不用心だし、すぐに戻るならその間にここが攻撃されることもないだろ」
「そうね。偵察に出たみんなも戻って来る頃だし、館はみんなに後を任せて、今日中に戻れるように急ぎましょう」
時間はまだ昼の2時頃。片道30分なので向こうに2時間いたとしても、十分に戻ることができる。
念のため、エルブルスの警備隊のみんなとレイ博士に留守と警備隊への言づてを任せて、急いで身なりというか武装を整えて中央砦へと急いだ。
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