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第三部

259「合流(1)」

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「いや、本当に助かった。来援ありがとう、心より感謝します」

「予定より早く援軍に来てくれて助かったわ。皆さん、ありがとう」

 まだ戦いが続く戦場に、こないだ会ったばかりのジン議員と冒険者ギルドのリンさんの姿があった。
 大変だったのだろうと簡単に予想できるほど、戦場を駆け回って汚れた姿だ。
 身を清潔に保つ清浄化の指輪をしていてなお汚れているのだから、その苦労が偲ばれる。


 なお、オレ達が上級悪魔を倒して以後の戦闘は、魔物の包囲をオレ達が外からノヴァの軍勢が中から破り、そしてそのままその場の敵を挟み撃ちの形で殲滅。
 さらにノヴァの軍勢を囲んでいた他の場所の魔物の軍勢にも逆襲を仕掛けて、一気に戦いの勢いの主導権を握った。

 今は体制を整えて、砦を囲んでいた魔物の集団を内と外からほぼ一方的に攻撃しているところだ。
 そして指揮官の一人であるジン議員たちがオレに話かけてきたように、戦況が一息ついたところでもあった。

 オレ達の空からの突然の乱入で、戦いの趨勢というやつが一気にノヴァ側に傾いていた。
 もともとノヴァの軍の方が特に個々の戦力で大きく勝っていたので、奇襲で奪われた勢いや主導権を握ってしまえば後は一方的展開だ。

 Bランクの『ダブル』の集団相手では、装備のいいオーガの群れでも対抗は不可能だ。
 戦士職だけ魔法職だけでなく両者がうまく連携すれば、その戦力は何倍にも跳ね上がる。その事はオレも実体験で学んできた。
 その拡大された情景が、その後の戦闘で示されていた。

 しかもノヴァは魔法職が多いのだけど、その点がこの世界の国家が有する騎士団を中心とした軍事力との大きな違いだ。
 この世界では、魔法職が戦場に出ること自体が少なく、魔導師協会など国への協力を渋るのが普通だ。
 要するに魔法使い、魔導士は、研究や勉強ばかりしていて学者としての側面が強いのが普通なのだ。

 神殿も、神殿騎士団こそ魔物鎮定を任務としているが、神殿自体が戦場で負傷者を癒す事を積極的にはしないという。亡者や魔物相手ならともかく、国に一度そうした行いをすると、人同士の戦争で駆り出されかねないからだそうだ。

 その点冒険者組合は、魔法職ばかりか治癒職も多い。
 そして魔物退治が生業で『ダブル』の主な目的なので、魔物との戦争にも躊躇がないのが、この戦いにも反映されていた。


 もう戦場は、ノヴァの圧倒的優位で安定したと言って間違いなかった。
 オレ達がさらに戦闘に参加してもいいが、こっちの魔法職と竜騎兵は魔力をかなり消耗していたので、出来れば魔力は温存した方が良いという状況の為、こうして一見呑気に話をしている。

 魔力持ちは強力だけど、魔法使いは魔法を使いすぎると戦力ではなくなるし、戦闘職でも一定程度の戦闘をする場合、瞬発的に強いが長時間は続かないのは、この世界共通の弱点でもあるのだ。
 そして『ダブル』の弱点は、もう一つあった。

「ノヴァの軍、というより『ダブル』は逆境に弱いからね」

 苦笑まじりにジン議員が口にする。
 『ダブル』達の多くがこの世界はゲームのようだと言うように、自分たちは叩く側で叩かれる側にもなり得るという考えが乏しい。
 それは軍隊として動くと露呈しやすい欠点で、特に奇襲を受けると脆いところがあった。
 今回は、そこを魔物に突かれた形だった。

 ついでに言えば、さらにもう一つ弱点がある。
 チーム、パーティー程度ならいいが、大規模な集団となると、軍隊としての統制が難しいのだ。

 こっちに来ている自衛隊や警察の人などに訓練で是正させる行いはされているが、あまりうまくはいっていない。
 組織による束縛や集団訓練などが、『ダブル』に馴染まなかったからだ。
 そこで、見切りを付けた自衛隊の人達は、主にノヴァの市民軍を現代風に鍛えている。
 そのおかげで、ノヴァの軍隊の編成や訓練は、この世界の基準で見ると革新的だ。大国などは、スパイを派遣して強さの秘訣を探っている程だそうだ。

 おかげでノヴァ市民軍は、他国の軍隊よりもかなり強い。そしてこの戦場でも、市民軍は粘り強く戦っていた。
 今回の戦いの場合は、総数1万ほどいるうちの精鋭2000という事もあるが、この世界の並の軍隊なら砦は陥落していただろうとの事だ。
 だからジン議員の言葉に、周りにいた人たちも苦笑しかない。

「それで、これまでに何があったの?」

 それ見たことかという表情が垣間見えるハルカさんが、やや厳しいめの声で問いただす。
 同じような表情はシズさんもしていて、『ダブル』同士で馴れ合っている人と、あまりそうでない人との差を見せているように思えた。
 オレにとっては、自分はどっちになるんだろうと思わずにはいられない雰囲気だ。

「面目次第もないが、見ての通り翻弄された挙句、集結直前に奇襲を受けた」

「それは見れば分かるわ。どうしてこんな事になったの? 西の魔物の集団の話はしたでしょう。魔物たちが同じような事をしてくるとは考えなかったの?」

「そう言われると返す言葉もないわ。あの後の作戦会議でも強く言ったし、偵察を増やすとか対策は取ったのよ」

「魔物どもが一枚上手だったと?」

 シズさんの問いかけも声が厳しい。
 半年ほど前に本物の戦争を経験しているだけに、こういう時の言葉はとても重く感じる。

「リン君の言う通り偵察を増やした。それでルカ君たちが見たという翼竜の大群がノヴァに接近中だったのを発見したので、まずは先手と考え『空軍元帥』にまで御出座願って、その一掃をしてもらうことにした」

「それで疾風の騎士達がいないのね?」

「その通り。今頃彼らは、翼竜を中心とした空の大群を掃蕩(そうとう)している筈だ」

「でもさあ、逃げに回ると翼竜って面倒だよ」

 ヴァイスを降りてきたボクっ娘がボソリという。
 何やってんだかという冷めた目線が、いつものボクっ娘らしくない。いつものオタクルックが、とても浮いて見える表情をしている。
 こうしてみると、歴戦の勇士に見えてくるから不思議だ。

「だからこそ事前に掃討をと、満場一致で決まったんだ。
 さらに、西の集団の全滅で魔物どもが焦って動きが早まっていると見て、予定を早めて本軍を出し始めたら、今度は東側の魔物が砦を攻撃したとの急報だ」

「そこで、空軍から竜騎士団の主力を『火竜公女』に率いてもらって、さらに腕利き50名を背に乗せて向かわせたの。
 こちらは、今朝の時点で撃退に成功して掃討しつつあるって報告を受けているわ」

「それで、丸腰とは言わないまでも空からの援護が低下していたのに、魔物の攻撃はないと油断して移動中のところを奇襲されたってわけね」

「その通り。返す言葉もないよ。ただ、西の魔物の話を聞いていたので、これでもバラバラであそこに向かうのを『ダブル』達を説得して止めたのは正解だった」

「事情は大体分かったわ。とにかく、間に合って良かった」
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