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第三部

258「空からの強襲(2)」

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 話ている間にも、ヴァイスが空中戦を開始していた。
 固まっているところに一気に突入していって、一見無謀と思って侮って迎撃しようとしてきたグリフォンや翼竜の群れに対して、交差する少し前にシズさんのマジックミサイルが乱れ飛んできて、4、5匹いたうちの半数が一気に騎手共々射抜かれていく。
 魔力と技量が桁違いなので、マジックミサイル1発でも、Cランク程度の魔物なら相当のダメージだ。飛んでいると、そのまま落ちていくものもいる。

 そしてそこにヴァイスが飛び込んで、鋭すぎる爪でグリフォンを1匹切り裂く。
 攻撃はそれで終わらず、戦場上空を通過するときに別の場所にいた翼竜を掴んで頭をぐしゃりと潰し、それを近くにいた別の翼竜に投げつけ、2体はもつれ合いながら地上に落ちていった。

 そしてそのまま、巨鷲以外に追従不可能な急上昇に転じる。

 さらにヴァイスは、オレ達が地上襲撃を開始する前にもう一回突撃を行い、これで空の一角が完全に空白地帯となった。
 魔物の群れの生き残りは、ヴァイスを恐れて多くが周辺の空から逃げている。
 これで安心して地上攻撃ができるというものだ。

 地上からはノヴァの軍からは大歓声が、魔物の大集団からは怨嗟の罵声が上がっている。
 まさに疾風の騎士の独断場だ。

「さあ、この隙に突入しますよ!」

「それじゃ、私の魔法のすぐ後に追い討ちお願いね」

「任せてください! 行こうライム!!」

 悠里の言葉にライムが機嫌よく咆哮するが、地上攻撃の一番手はライムの背に乗るハルカさんだ。
 オレの支えで『光槍陣』の準備を既に済ませており、ライムが雷撃咆哮(ライトニングブレス)を吐く直前に、15本もの光の槍が獲物を求めて殺到し、次々に強そうな対象を串刺しにしていく。

 空からの突然の攻撃なので避けることはできず、オーガ程度なら一撃で倒されていった。
 地龍も2匹が対象となったが、さすがに1発では倒れないまでも相当痛そうだ。

 そしてそこに、ライムの放電ブレスが最大パワーで炸裂する。
 放電で痺れて動けなくなるくらいなら運のいい方で、ブレスの中心部は感電死したり電子レンジ的な丸焼け状態だ。
 当然、反対側ではホランさんの炎龍が炎を吐きかけ、火炎と爆発が広がる。

 さらにその上空を通過していくところに、竜騎兵と同乗する獣人たちの投げ槍と弓矢の雨が降って、目標とされた魔物たちが次々に倒されていく。
 頭上からの攻撃は避けにくい上に急所に当たりやすいので、数が少ないのに有効打がとても多い。

 そして攻撃は一回だけではない。
 もう一度、若干角度を変えて空から侵入し、光の槍、ブレス、弓矢と手槍の雨が順番に降り注ぐ。そして今回は、さらにもう一度同じ攻撃を繰り返す。
 敵の数が多すぎるためだ。

 それでも3度も同じ攻撃を同じような場所に繰り返すと、さすがに戦場の一角の魔物の数が激減していた。
 倒した魔物の数は100や200では済まないだろう。
 西の魔物の時やエルブルスでも見たが、魔物の集団が倒された辺りでは、魔物から解き放たれた不活性の魔力が溢れ出して靄となっている。

「そろそろ、オレの番みたいだな。悠里、あの元気な地龍の上を通過してくれ」

「ハイハイ。けど、ハルカさんのためにもヘマすんなよ」

「周りに強そうな敵はいないし、初撃がダメなら走って逃げるよ」

「是非そうしてね、と言いたいけど、今日は一緒に飛び降りるわ」

「えっ? 行けそう?」

 少し意外だったので、思わず顔を向ける。
 そうすると彼女の顔には自信が溢れていた。マジのドヤ顔だ。

「ショウに色々教えたの誰だか忘れてない?」

「失礼しました師匠」

「分かればよろしい。じゃあ悠里ちゃん、後お願いね」

「はい、気をつけてください。こっちは適当に魔物を摘んでおきます。それじゃ、行きますよ!」

 舌なめずりした悠里がライムに指示を出すと、高度を下げて突入を開始する。そして「5、4、3、2、1」というカウントダウンまでしてくれる。
 おかげで二人して、タイミングよく地龍の背に降り立つ事ができた。

 そして飛び降りざまに、以前ドラゴンゾンビ相手にしたように、そのまま頭の上からオレの太いやつをズブリと突き刺してやる。
 地表の敵にブレスを吹き掛けようと首の動きを固定していたので、狙うのは簡単だった。
 剣を深々と突き刺すと、吐きかけた魔力の炎を口のそこかしこから漏らしつつ瞳が輝きを失い、首が支えを失って倒れていこうとする。

 ハルカさんの方は同時に地龍の背に降り立つと、そのまま数ステップ移動して地龍の心臓めがけて剣を深く突き刺す。
 しかも彼女の攻撃はそれで終わらず、剣を深く刺した先で剣の能力が解放されて、地龍の体がビクっと一度震える。
 これで元気だった地龍は一撃で絶命で、断末魔に暴れることすら不可能だ。しかも、しばらく放置していてもゾンビにもなれない。
 
 地龍を仕留めて地表に降り立ち二人して視線を交わし合う頃には、後続のネコ科の皆さんも猫の眷属に恥じない身軽さで次々に飛龍の背から降りてきて、早速周囲の魔物へ攻撃を開始する。
 手練の者は、飛び降りざまに大物の魔物を仕留めたりもしていた。

 また少し別の場所ではホランさん達も飛び降りて、オレ達とは逆側の魔物を掃討している。
 さすが狼の獣人達だけあって、統制のとれた襲撃で効率的に魔物を狩っていく。
 手負いの地龍を攻撃する様は、まさに狼群だ。

 さらに獣人達が降りた竜騎兵達は、今度は低空に降りてきて飛びながら魔物をなぎ倒したり、掴んで放り投げたりしている。
 2騎がかりで地龍を持ち上げて、地上に叩きつけるという情景も目にした。
 これで戦場の中間部の荒れ地よりにいた魔物達は潰乱状態だ。

 そして次の目標を探していると、不意に横合いから魔力の気配が殺到してきた。

「おのれ、魔人どもめっ!」

 叫びながら襲ってきたのは、そこの指揮官らしい魔物。いや悪魔だ。
 しかもオレじゃなくて、オレより近かったハルカさんに襲いかかってきた。
 叫ぶ暇があるなら、コンマ一秒でも早く襲いかからないとダメだろと思うくらい、心理的には余裕があった。
 ただ乱入してきた敵は1体ではなかった。

 即座に対応しようとしたが、オレの方にはオーガ2体が襲いかかってきたので、仕方なくまずはそちらへの対処をする。
 なかなかにいい装備のオーガだけど、ガタイが大きいというだけで、魔力総量はちょっと強いオーガ程度で、悪魔にはなっていない。

 強さはCランク以上Bランク以下といった程度で、1体目を一太刀で、残り一体をワンステップで攻撃を回避した後でもう一太刀。
 しかし2体目は根性を見せ、オレに切られた後も攻撃を続けてきたので、さらにもう一太刀で倒す。
 鉄の鎧を着ていようが、今の剣なら紙切れ同然と言わないまでも十分切り裂くことができる。
 ガタイのデカさ、質量差さえ気をつければ敵ではない。

 オレがオーガを仕留めている間にハルカさんも悪魔を仕留めているものと思っていたが、オーガの影が消えた向こうには、防御全開の輝く姿で対処しているハルカさんの姿があった。

 悪魔がハルカさんを激しく攻撃していて、ハルカさんもかなり気合いの入った声を出して応戦しているので、間違いなく本気で戦っている。
 予想以上に強い証拠だ。

(油断大敵だな。守りの薄いオレが攻撃を受けてたら怪我の一つも食らってたかも)

 もしかして、いつぞや会ったゼノとかいう上級悪魔かと戦慄に近い感情が沸き起こったが、よく見れば見た目は若干似ているが違うヤツだ。
 ゼノの取り巻きという事もない。

 ただ、能力全開で戦う悪魔の魔力量は下級悪魔にしては高かった。
 しかし、ハルカさんの幾重もの守りは突破できそうにはない。それ以前に、攻撃を当てる事がどう見ても無理そうだ。
 いつもながらの美しいと言える剣舞に、敵の悪魔は翻弄されている。
 それに少し安心し、気をとりなおす。

「オレが前に!」

「ええっ!」

 それだけでオレの意図が彼女に伝わった。あとは連携して難敵を仕留めるだけだ。
 オレが加わってからはハルカさんは牽制程度にとどめて、格闘戦の主体をオレに移す。

 そしてハルカさんも補助的に剣で攻撃していると見せかけて、影で魔法を構築して十数秒後にマジックミサイルが散弾銃のように間近から悪魔を襲う。
 それと同時に、オレとハルカさんがどちらも剣を叩き込む。

 眼前でのマジックミサイルに一瞬気を取られ隙が出た相手に、ハルカさんが首を、オレが胴体を切り裂いて、悪魔は魔力の黒い霧を身体中から吹き出しつつ活動を停止した。

 しかしそれで終わらず、そのまま胸へもう一度突き刺し、グリッと剣を回して魔石を剣の先に乗せ、これでようやく退治完了だ。
 魔石を取り出した時点で、悪魔の体の崩壊も一気に早まった。
 かなりの大きさの魔石が出てきた。

「上級悪魔かな?」

「そうね、前に戦ったゼノほど力は感じなかったけど、この強さは間違い無いと思う」

「ここの指揮官かな?」

「だったらいいわね。彼が指揮官なら、これで勝ったも同然よ」

 そして二人の会話は事実だったらしく、魔物たちは一気に統制を失っていった。

(指揮官が突っ込んできちゃダメだろ。ま、オレも変わらないけど)


 そして周辺の魔物を潰し終わると、剣をかざして目標を指示する。
 その先には、合流前に襲撃されたノヴァの軍隊を攻撃する魔物たちの背があった。
 ノヴァの軍隊を分断していた魔物たちの一部は、逆に分断されることになったのだ。
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