上 下
236 / 528
第三部

236「新たな領主?(2)」

しおりを挟む
「まずは長らく留守を守ってくれて、ありがとうございました」

 口調は真面目だけど、言葉遣いはいつもの調子だ。
 つまりこの部屋にいる人たちは、オクシデントの上流階級の社交辞令が不要な身内や仲間、もしくは友人だということだ。
 部屋全体の雰囲気も、ハルカさんの態度を受け入れている。

 また、オレ達3人も、同じような態度で接して良い関係だということを伝えている。
 飛行場でのバートルさんとの堅苦しいやり取りは、公の場だからなのだろう。
 それを肯定するように、竜人のバートルさんが口を開いた。

「気にすることはない。ハルカは真なる主人様に認められた人だ」

「ワシらなんざ、嬢ちゃんに頼まれて街や道具を作りに来てるだけだしな」

《それで、便りも寄越さず急に戻ってきたのは、ツガイの事だけではあるまい》

 最後に言葉ではないが、何かが伝わる感じで言葉が耳に響いてきた。
 そしてそれが、ドラゴンが魔力的、魔法的に話しかけてきたということが直感的に理解できた。
 後で聞いたこの原理は、微弱な魔力を振動させて言葉の形で伝えているそうだ。魔法の念話に少し似ている。

「みんなにこの3人を紹介して驚かせようと思ったのはあるんだけど、別の用が出来たから急いで来たの」

「確かに驚いた。ツガイに手練の獣人、それに巨鷲の使い手だからな」

「あの、ツガイって何の事でしょう?」

 できるだけ早く確認したかったので、誰かが口を開く前に挟み込んだ。
 そうすると竜人が、ハルカさんの顔を見て恐らく苦笑した。特に違和感とか感じなかったが、さすがに表情は読み辛い。

「話してなかったのか?」

「あえて必要もないかなーと思って」

 少し冗談っぽく話しつつ、目線をオレを中心にシズさんとボクっ娘にも向ける。

「それだけ信頼していれば大丈夫か。それよりも、まずはお互い名乗った方が良いかな? 私はバートル、見ての通り竜人の代表だ」

「そして嬢ちゃんが来るまでは、領主というか族長や長(おさ)をしとった。ワシはラルド。嬢ちゃんに頼まれて、街やなら何やらを作りに来ただけのもんだ。まあ現場の棟梁くらいに思っとってくれ」

「今はただのまとめ役だ」

《我は真なる主人様に仕えし者。『まだらの翼』と呼ばれている。新たな客人が来たというので見定めに参った》

 ハリウッド風ドーワフのラルドさんが一番わかり易い紹介をしてくれたが、他は今ひとつ飲み込めない。
 『まだらの翼』と名乗ったドラゴンは、ちょっと窓の方を覗いて見ると、確かに翼がまだら模様になっている。

 しかし名乗った程度で色々と分からないのはオレ達全員がそうなので、ハルカさんに視線を注ぐ。
 ハルカさんも、少し観念した表情を浮かべると口を開いた。

「えーっと、ざっくり説明すると、私、1年ほど前に世界竜『エルブルス』を偶然助けて、それで色々お礼を貰ったり一時的に託されたうちの一つが、この辺りの領主の権利ってことになるの」

「なるほどな。それは他では話せない話だな」

 シズさんの返答は、重々しいくらいに納得といった口調だ。
 ドワーフも竜人も、ドラゴンまでもが深く同意している。

「そうなんですか?」

「世界竜が人に助けられたなど、偉大な竜の名誉に関わる。それに話したところで誰も信じないだろうから、法螺吹き呼ばわりされるだろうな」

「シズさんは信じるんですよね」

「そういうショウもな。まあ、この方々の態度を見ていれば、本当だと思うしかないだろう。それに上位龍が嘘をつくとは到底思えない」

「あのさ、ボクら話を聞いて良かったの?」

「聞きたかったんでしょう?」

「いや、そうだけど、もっと小さな話だと思ってた」

 ハルカさんの少し悪戯っぽい顔に対して、ボクっ娘は半ばこっちの住人と言えるだけに少し困惑気味だ。
 シズさんの方は、今の所こっちの獣人としての常識を披露しているが、逆に混乱などは見られない。
 オレはと言えば、ハルカさんを信じるのと鵜呑みするのは違うとはいえ、判断材料がなさすぎた。

「えっと、ハルカさんを人の領主と呼ぶってことは、世界竜が本当の領主ってことですよね」

《その通り。そして貴殿がハルカとツガイになって領主を受け継ぐことで、真なる主人様との契約が正式に成立する。故に今この領地は、まだ真なる主人様のものであり、ハルカは「人の領主」、人を統べる権しかない》

「ここのしきたりとか流儀が分からないので、話が見えないんですが?」

《上位龍以上の龍には、明確に性別というものがない。だが、性別が存在する知性を持つ者たちとの契約で、何か無形のものを与える際には、雄と契約を交わすことになっている》

「さらに言えば、人の側は雌が権利を得た場合、そのツガイとなった雄が我らと契約を交わす事になっている」

 ドラゴンと竜人が合わせて説明してくれたが、要はハルカさんには権利がないが、ハルカさんの夫に権利が発生するという事になる。

「で、そのツガイがオレだと? ハルカさん聞いていい?」

「もう分かってるでしょう」

 オレの視線をハルカさんは真正面から受ける。
 だからこそ言葉を続けた。

「けど、ちゃんと聞きたい」

「そうね。えっと、私がここに同じ種族の男性を連れて来る時は、ツガイ、つまり旦那さんにする人を連れて来るって約束になってたの」

「へーっ、それで男の人とパーティー組まないって噂があったの?」

 すかさずボクっ娘のツッコミが入る。確かに納得しやすい理由ではある。

「男の人とは、臨時以外でパーティー組まないのは昔からよ」

「なら、よほどショウを気に入ってるんだな」

「最初は怪我をした捨て犬を拾ったくらいの感覚だったんだけどね」

 少し悪戯っぽく言ってるが、本当に最初はその程度だっかもしれない。けど、そんな事はどうでもいい。大切なのは、今どう思ってくれているかだ。
 その証拠に、シズさんの質問に対して否定の言葉は無かった。
 そしてさらに問題なのは、ツガイになったオレはどうなるのか、何をすればいいのか、だ。

「それでオレは何をすればいい?」

「する事はないわ。なるだけよ」

 オレの即答に、ハルカさんが安堵したように少し目を細めてオレを見てくれている。

(ウンウン。多少は頼られたいもんな)

 それに、ここの領地の人の前で、戸惑ったりしたら今後のことを考えると良くないという事くらいはオレにも分かる。分からないのは、何をするかだ。

「左様、エルブルス領とシーナの街の領主になっていただく。すでにハルカと交わした契約なので、あとは貴殿が了承するだけだ」

「分かった、了承するよ。それで何か契約書とか血判は必要? それとも魔法で契約?」

「いや、今の言葉で十分だ」

《うむ。我が聞き届けた。その声は真なる主人様にしかと伝えよう》

「あ、そうなんだ。それで領主って何をすればいいんだ?」

「て言うかさ、えらくあっさり受け入れるんだね。多分だけど、クーリングオフはないよ」

「他にも色々背負い込んでるハルカさんが、今までほっつき歩いていても出来てたことだし、なんとかなるだろ」

「お気楽だな」

 ボクっ娘とシズさんは少しばかり呆れ顔だ。しかし同時に納得もしてくれているようだ。
 だが、何があろうと、オレの進むべき道は最初から決まっているから、迷う必要はない。

「どこまでも付いてくってのはオレにとって大前提だし、それに少しでも横に並べるなら望むところだよ。流石に、ちょっと驚いてるけど」

「思ったより驚いてないのは、驚かしがいがなかったわ」

「こっちの世界に来るようになってからは、驚きの毎日だからな」

「そう言えば、そうだったわね」

 互いに視線を交わし、お互いちょっとおどける。二人の間では、今はそれで十分だろう。
 ただ、形式上オレの下に付く人達には、もう一つ聞きたいことがあるようだ。
 
《それで領主よ、まだ名を聞いていない》

「嬢ちゃん達もな」

「あ、そうでした。オレはショウ。よろしくお願いします」

「ボクはレナ。よろしくね」

「ルカ様より、シズの名を頂いている」

「了解した。それではショウ・エルブルス。これより貴殿がエルブルス領の新たな領主となる。外へ出る際には、それを証明する印も後ほどお渡ししよう」

 竜人が厳かに宣言した。

 それにしても妙な事、いや大変な事になったもんだ。
 ただ、それほど深刻に思えないのは、神経が図太くなったのか、感覚が麻痺しているせいなのだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

スウィートカース(Ⅱ):魔法少女・伊捨星歌の絶望飛翔

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
異世界の邪悪な存在〝星々のもの〟に憑依され、伊捨星歌は〝魔法少女〟と化した。 自分を拉致した闇の組織を脱出し、日常を取り戻そうとするホシカ。 そこに最強の追跡者〝角度の猟犬〟の死神の鎌が迫る。 絶望の向こうに一欠片の光を求めるハードボイルド・ファンタジー。 「マネしちゃダメだよ。あたしのぜんぶ、マネしちゃダメ」

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...