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第三部

229「魔の大樹海全体の戦況(2)」

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「『ダブル』以外の市民、国民の方が、律儀さや忠誠心ではよっぽど頼りになるわね」

「で、その『ダブル』以外の戦力は?」

「主力はもちろん、吾輩のゴーレム兵団であるぞ。その数1千!」

 シズさんの言葉に、レイ博士が待ってましたとばかりに反応する。

「それは樹海外縁全体で、作戦参加はそのうち100体程度ね」

「増援の本命60体を忘れてもらっては困るぞ。吾輩の虎の子であるからな」

「吾輩の、ではなくノヴァのものだろう。予算と人員をどれだけ使ったと思っているんだ」

 その後も「そ、そうではあるが……」とブツブツ言っているが、まあ無視していいだろう。
 全員一致で、話が先に進む。

「今回参加するのは、騎士団200、魔導士協会と魔法大学から50、神殿50、冒険者ギルドが400。こっちの人で編成した市民軍は約2500いるけど、Cランク以上の魔力持ちは1割くらいといったところね。
 他に輸送とか後方支援に1000人以上の『ダブル』や市民軍が参加しているわ」

「もう少し時間があれば、他からの『ダブル』の呼集や、開拓地の屯田兵なども動員できるが、手持ちはこれだけだ。
 普段の兵力配置や予算を考えると、総力戦でもないと、これ以上は出したくもないしね」

「空軍は?」

 ボクっ娘が自分の守備範囲なので問いかける。

「巨鷲10、飛龍20。多少増減するかもしれない」

「『ダブル』には、格落とはいえ巨鷹や翼竜の使い手がいないのが痛いところね」

「翼竜は市民軍から10騎ほど参加するが、偵察と伝令用だな」

「目玉商品はないの?」

「ネームドは、Sランク込みで20名ほど。空軍からは、『空軍元帥』の天鷲、『火竜公女』の炎龍は出てもらうわ」

「男爵夫人(バロネス)、いや公女には御出座してもらうために、相応に骨が折れたがね」

 ネットでも聞いたことのある人の名前が突然出てきた。
 けど片方は、軍人じゃなくて通称通り貴族じゃなかっただろうか。

「軍の人じゃないからですか?」

「領地持ちの貴族で、基本勝手に世界中を飛んでいるからよ。まあ、今回はノヴァの危機だという事を聞きつけて、向こうから来てくれたんだけど」

「他にも何名か、半ば個人的に馳せ参じてくれている猛者はいる」

「ノヴァにいる軍やギルドの凄い人って、少ないんですか?」

 オレの素朴な疑問に、来客二人はまた苦笑気味だ。

「魔物と戦いたいってだけでギルドに属している人は多いけど、ノヴァにはあまり居ないわね。ただ、魔の大樹海の奥に行けば、Aランクは結構居るわよ。今も勝手に魔物を追いかけてる筈。
 そういう人には、可能なら撹乱、あと情報提供をお願いしているわ」

「とはいえ、魔の大樹海の外縁は弱いゴブリン程度しかいないから、ビギナー向けだという固定観念が強い。だから、魔物の大軍が攻めて来たと呼びかけても雑魚ばかりと考え、評議会の求めに応じて集まらないのが現状だ」

「ハーケンじゃあ何の話も聞かなかったけど?」

 ハルカさんの言う通り、何も聞いていない。浮島が傾くまで、結構のんびりしていた。

「かなり急だったので、陸路か海路で作戦に間に合うところにしか情報回してないのよ」

「アクアレジーナのギルドに寄ってたら、話が聞けたのかしら?」

「ええそうよ。今頃は、ハーケンにも話くらいは届いていると思うわ」

「あとは、ノヴァの勢力圏と、樹海とその近辺の『ダブル』への声がけくらいだな」

「あの、あっちのネット上で呼びかけたりは……」

 疑問だったので口にしたら、全員の視線がオレに集中する。
 全員が、何言ってんだこいつって目線だ。

「10年前ならともかく、今では無理だろう」

「そうなんですね」

「そういう事よ。それで、他からは?」

 ハルカさんが続いて聞くも、ジン議員の雰囲気が重い。

「ノヴァ以外の国か?」

「ええ」

「来るわけないだろう」

 ジン議員の言葉はどこか投げやりだ。
 ノヴァから距離があると言うより、相手にされてないか、してないのだろう。
 リンさんも小さくため息をつくほどだ。

 そのとき、「それなら」とハルカさんが口にした。
 口にするからに、アテがあるのだろう。

「それなら、もう少し日数作戦を遅らせるなら、私が領地まで行って声をかけてみてもいいわよ」

「エルブルスか……間に合うのか?」

 ジン議員の返答に、ハルカさんが小さく頷く。
 表情からすると、あまり気は進まない感じだ。

「呼ぶのは飛べる者だけ。往復に4日。説得と集合に2日として6日が最低ラインね」

「ハルカたちが時間を稼いでくれているから、作戦開始を数日ずらすのは十分可能と思うわ」

「それに来てくれるなら、1日は休息がいるだろうからプラス1日。念のため予備の1日を加えて、期日は8日間と言ったところだな。3日程度の延期なら問題ない。
 何より、空からの有力な援軍をさらに加えられるなら、それに越したことはない」

「それじゃあ昼には出発しようよ。1日半で余裕でエルブルスまで行けるよ。無茶すれば1日でも」

 ボクっ娘が、言葉の最後をやや悪戯っぽく口にする。
 途端に、ハルカさんとシズさんの表情が曇るのが分かる。そして二人してしばし見つめ合っている。
 しかし、深刻に考えるまでもない筈だ。だから小さく手を挙げてみる。
 救いを求める二人の目線が少し痛々しい。

「あのさ、昼からだと往きは1日半で、帰りは他の竜騎兵とかを連れてくるんだろ。それなら、1日は無茶じゃないのか?」

「あ、そうか。ハルカさん、増援は普通に飛べばどれくらいかかりそう?」

「竜騎兵だけになるから、復路は2日見てほしいわね。レナ達ほど速くないもの」

 しかしそこで小さく、シズさんの安堵のため息が入る。
 とはいえ、急がないといけないのは変わらないので、ハルカさんがそのまま続ける。

「けど、往きはできるだけ早く行きましょう。明日の夕方までに着けば、明後日には招集で集められると思うの」

「是非もなし、だな」

「ガチの戦闘速度は出さないから安心してよ。一昨日も普通の高速飛行はいけてたし、大丈夫だよ」

「あれでも、それなりに我慢してたのよ」

「同じく」

「巨鷲ってそんなに乗り心地悪いの?」

 二人の悲壮な表情に、たまらずリンさんが口にした。

「ゆっくり飛ぶ分には、むしろ乗りごごちはいいんだけど、速く飛ぶと嫌な感じで微妙に揺れるのよ」

「そうなのね。シュツルム・リッターが戦闘速度で人を運んだって話は初めて聞いたわ」

「だとしても、少しでも早く行けるのなら、お願い申し上げたい」

 ジン議員が本日二度目の頭を下げたので、これで決定と見ていいだろう。

「わ、吾輩は行かんぞ」

「むしろ、ついてこないで」

 博士の言をハルカさんが切り捨てて、この話も決まりのようだ。
 
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