上 下
221 / 528
第三部

221「ゴーレムマスター(2)」

しおりを挟む
「真面目な人たちもいるんだな」

 まあ、ノヴァには役人とかもいる筈だから、そりゃ兵隊や軍人みたいな人たちもいるだろう。ハーケンの自警団だって、半分警察みたいなもんだった。
 などと一人で納得していると、博士がやや怪訝な目で見てくる。

「自分ら、その『S』以上だろ。スミレは命令じゃない限り嘘をつかないから、真実であると吾輩は信じる。けど、都合1日足らずで上級悪魔を含む1000体の魔物の群れを一掃するとか、どこの勇者パーティーだって感じだぞ」

「勇者パーティーじゃないよ。ハルカさん中心だから、三蔵法師の一行みたいなもんだよ」

「三蔵法師ね。そういえば大巡礼を始めたんだったか。しかしそれなら、ノヴァに用はないだろ」

「大巡礼は、自由に動くための口実のようなものです。本当は別の目的がありました。それで別の目的の答えをレイ博士、あなたが持っているかもしれないんです」

「さっぱり分からん。ちゃんと順序立てて説明してくれ。もはや一つしかない命の恩人だし、出来ることなら何でもさせてもらうぞ」

「一つ? 二つでしょう」

 ボクっ娘がもっとな言葉を口にする。そこで博士は、「しまったー」という表情を浮かべてしまった。
 無駄に格好つけだけど、コミュ力低いんだろうと思わず同類を見る目で察してしまう。
 けど、どうやら博士自身に何か秘密があるようだ。

 口が滑ったと言いたげな博士の表情からも、秘密があるのは確定だ。そして全員の視線を受けて、渋々という感じで博士が口を開いた。

「……自分ら、他言無用を誓えるか?」

「我が名と神々に誓ってって言えばいいですか?」

 ハルカさんの言葉に、博士胡散臭げな表情をする。

「『ダブル』同士でのその言葉、あんまり信用ならんな」

「では、ギブアンドテイクだ。こちらも他言無用の話というか相談がある」

 シズさんの一言で、博士のただでさえ細い目が更に細くなる。まさに糸目だ。
 そして小さく嘆息する。

「ギブアンドテイクねえ。吾輩としては、シズ君のその形(なり)に、魔導士の端くれとして興味があるが、その辺も聞かせてもらえるか?」

「聞きたいことに関わりがあるから、順番に話すよ」

「了解だ。で、吾輩から話せば良いのか?」

「そうだな。……クロ、キューブに戻ってくれないか?」

「畏まりました」

 シズさんの命令で、クロの人型が崩れてキューブに戻りオレの手元へとやって来る。
 それを見た博士は、糸目を大きく開いて驚いている。それにシズさんがニヤリと笑いかける。

「もうスミレの事は、ある程度知っている。これはそちらの秘密にはならないぞ」

「そ、そうだ、何故スミレが吾輩を元呼ばわりで、そっちの、えーっと名前は?」

「ショウです。自己紹介が遅れました」

「あ、うん、よろしく」

 素は意外にちゃんとした印象を受ける。
 そこからも、普段の言葉遣いなどが演技なのがよく分かる。

「ボクはレナ。シュツルム・リッター。ボクの相棒に会うんだったら、飛行場まで来てね」

「あ、ああ。そうか、君が話しに出ていた禁忌破りか」

「おっ、禁忌破りって厨二病みたいで格好良い!」

 なんというか、オレとボクっ娘と話すと途端に尻込みしている。見るからにコミュ強、陽キャじゃないパターンの反応だ。
 初対面には尻込みするタイプなのだろうか。そう思えば、さらに親近感が増しそうだ。

「はい、そうですね。……えーっと、ショウ君、スミレはどうも自分のことを新たな主人(あるじ)と言っているように思うのだが?」

 ただ、ボクっ娘のアクティブすぎる反応には、若干引いているっぽい。
 少し強引にオレへの話に戻す辺り、反応が少し露骨だ。

「ええ。魔力総量の多い人を主人認定するみたいです。で、この中ではオレが一番多いらしくて」

「吾輩もゴーレムを同行させて魔力は稼ぎまくって、街のたいていの連中には遅れは取らない積りだったんだがな。その件は納得だ。で、スミレを受け入れるのか?」

 意外に冷静な言葉だけど、最後の言葉には少し警戒感が感じられた。

「オレにはもうクロが有りますし、ロリ属性もないですから」

「ショウ君には、あの良さは分からんか」

 オレの言葉に安心したのか、格好をつけて小さく嘆息して遠い目をしながら言っても、ネタがダメすぎてキモオタにしか見えない。
 しかし話は続くようだ。

「それでショウ君は、オタクじゃないのか?」

「ボクはオタクだよ」

「うむ。その出で立ちには、強い拘りを感じるぞ」

 力強い「うむ」だ。『ダブル』のオタク率は高いというが、同志は意外に少なくて肩身は狭いのかもしれない。
 ボクっ娘も、言葉に応えて博士ににっこりサムズアップしてる。
 オタクという共通言語は、陰キャもコミュ力高められるアイテムだ。

「博士のオタルック・アンド・白衣もね」

「であろう。しかもこの白衣は強固な防具にもなっているんだぞ。で、自分は?」

「あー、一応オタクですけど、そこまでディープじゃないです。スミレさん、属性盛りすぎですよ」

「クロ君も大概だと思うが? えっ? 自分、もしかしてそっちの趣味? 流石に引くんだが」

「クロは勝手にあの姿になっただけです。それとオレは健全です」

「健全ではないだろ。ハーレムパーティー作ってる時点で」

 めっちゃ羨ましそうに、オタクからも指摘された。結構ショックだ。
 すれ違いざまにそう見られるくらいは許容できるが、「雰囲気が違うことくらい分かれよ、この陰キャめ」と言いたくなる。あくまで心の中で、だけど。

「そう見えますか、レイ博士?」

 ハルカさんが強い笑顔で問いかけるが、笑顔に迫力がありすぎてオレでも怖い。
 博士も一瞬で顔色が変わっている。

「ち、違うのか? いや、ハルカ君がそう言ってくるという事は違うんだろう。うん、分かった。で、真相は?」

 後退しつつも興味があることへの追求を止めないのは性分なのだろう。
 それとも何か別の理由があるんだろうか?

「私がショウとお付合いしています」

「私達は旅の仲間だ。その辺も多少は話すよ」

 ハルカさんのオレにとって嬉しい返答にシズさんのフォローが入るが、博士の口と目が大きく見開いている。糸目だけど。
 そして数秒固まったた後、突然立ち上がるとオレの首根っこを掴んで、部屋の片隅へと連れていく。
 腕を振り払う事もできたが、ここは素直に従うのが男というものだろう。
 なんだか事情が察せたし。

「し、ショウ君、どうやってハルカ君を口説いた?」

「話せば長いので、この場ではちょっと」

「そ、そうだな。だが昔のハルカ君は、女子としかパーティー組まないからレズ疑惑すらあったんだぞ」

「ハルカさん、有名なんですか?」

「そりゃ優秀だし、あれだけ可愛いいんだ、当然だろう。『ダブル』は元より多少見てくれが良くなると言うが、元が良くないと意味ないし……と話が逸れた。で、三行で言うと?」

「ハルカさんに拾われて、
 一緒に旅やら冒険して、
 命は結構張りました」

「二人とも丸聞こえよ。それとショウ、それ以上はプライベート。話さないでね」

「リョーカイ。オレも話す気ないよ。スンマセンね、博士」

 オレの言葉にハルカさんの肯定と取れる言葉が重なり、明らかにがっくりきている。一回くらいは、ハルカさんに告るかアプローチくらいしてるのかもしれない。
 しかし、意外にめげてないというか、席に戻りながらも強く問いかけてくる。

「それで、シズ君とはどうなんだ? 数年ぶりにノヴァに戻ってきたら狐獣人になってるし。男、もとい自分と一緒だし。それにあのボクっ娘とか、俺、オタクな可愛い彼女欲しかったんだ。スミレは格好だけ合わせてくれたけど、全然オタトークしてくれないし! あーもう、クソ羨ましいなあ! 俺もハーレムパーティー作りたかったっての!」

 めっちゃ早口だ。それに一人称を吾輩とすら言わなくなって、キャラ付けが崩れてる。
 そんなキレられても、はた迷惑だし、話が済んだら距離を置こうと思ってしまう。
 けど、一回絶叫までいくと、すぐに爽やかな顔に戻っていた。これは一種の賢者モードなのかもしれない。

「あー、スッキリした。ウン、ありがとうショウ君。さ、話の続きをしようか。で、何の話だっけ?」

 その言葉を受けたが、さすがに全員が一度記憶を遡っている。脱線しすぎた。
 そして最初に話の分岐点まで戻ったのはシズさんだ。さすが某国立法科。

「発端は、レイ博士の『一つしかない命の恩人』だな。で、他言無用でお互いの秘密なり相談事を話す事になった筈だが?」

「お~、そうだった、そうだった。で、吾輩から話すんだったな。……ゴホン、実はな吾輩『完全異世界召喚』状態なのだよ」

「えっ、それって……」

「そう。吾輩、もうこっちでしか生きとらんのだ。ビビッたろ」

 意外にあっけらかんと口にしたが、リアルでもう死んでるとか爆弾発言だ。
 特にオレ達、いやハルカさんにとって。
 そして異常に緊張というか真剣な空気に、博士が固まっていた。

「あ、アレ? 驚かしすぎた?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...