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第三部

206「猫耳メイド?(1)」

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「詳しいお話を聞く前に、その格好で大丈夫? とてもこんな場所にいる服装には見えないんだけど」

 困った顔のハルカさんが、怪訝な表情も加えて彼女の全身に視線を注ぐ。
 マントか毛布を持っていたら、その場でかけていたのは間違いない。
 まあそうだろう。彼女の言葉に、思わず深く頷いてしまうほどだ。

 見た感じ、大きなオタク街に居そうなフレンチメイドスタイルを、さらに肌の露出を多くした感じ。もしくはネットで見かける、風俗用のメイドスタイルだ。
 イメージ的にはほぼ下着。ハルカさんが上を着ろと暗に言うのも当然だ。

 ただ腰とお腹を絞ったエプロンドレスで、胸を強調しているデザインはオレ的にポイント高い。
 しかし、膨らんでいたら谷間が覗いているであろう胸もとは、非常に慎ましかった。
 細いおみ足は、すごく短いスカートとの間に絶程領域を持つオーバーニーハイで包まれている。
 腕は二の腕を申し訳程度に布で包んでいるだけで、肩も丸出しだ。

 とにかく、荒地や原野と言えるこんな場所に居るのは場違いこの上ない。
 ライトファンタジーなラノベやアニメならアリなのだろうが、この世界だと森に入ったら10秒で肌に傷が付きそうだ。

 さらに違和感があるのは、手に持っている武器。
 長い柄の先に、ごつい幅の曲刀が付いている。チャイナの偃月刀もしくは青龍刀というやつだろう。
 それならチャイナドレスの方が似合ったんじゃないだろうかとか思ってしまう。

 ただ、身長140から50センチ程度の小柄な女の子が持てる武器ではない。柄も金属製っぽいので、武器の方が当人の体重より重そうだ。
 『ダブル』でも、Aランクかそれ以上の戦士職じゃないと自在に振り回すのは無理だろう。仮に振り回せても、振り回した時の遠心力で肩の脱臼必至だ。

 そして背丈に対応するように、見た目の年齢は小学校高学年から中学生くらい。
 それだけならボクっ娘より少し背が低いくらいだけど、さらに幼児体型なので小学生に見えてしまう。

 顔立ちは人形のように整っているがやはり幼く、片目を隠している少し長めのボブカットの髪は薄い紫色。
 しかも猫耳と尻尾が生えていて、それぞれ動いている。
 人の耳はないので、どうやら獣人らしい。

(もう、属性乗せすぎ。誰の趣味だ? マジで)

 と、オレでも思うが、当人は澄ましたものだ。

「全く問題ございません。ご挨拶が遅れましたが、わたくし名をスミレと申します」

「和風な名前だねー」

「『ダブル』、でいいのよね」

「いいえ違います。しかし皆様が『ダブル』と呼ばれる方々については、わたくしの主人(あるじ)よりご指導いただいておりますので、委細は承知しております」

 その姿に一応相応しい礼儀正しい態度と言葉遣い、と言いたいとろこだけど違和感半端ない。
 そして身近な違和感といえば、もう一つある。

「なんか、クロに似てるな。なあクロ」

「流石は我が主、一目でお気づきになるとは、このクロ感服致しました」

「確かに、わたくしを一目で見破ったのは、あなた様が初めてにございます」

 何気ない一言への答えに、思わず内心で(えっ? 何に?)と問い返したが、クロは勝手に話を進める。
 勝手に話を進めようとしているのは、スミレと名乗った少女も同じようだ。
 3人はオレに怪訝な目線を向けている。

「格好だけは、誰の趣味なのかは分かるがな」

「そうよね。あの人で間違いないわよね。で、ショウは何が分かったの?」

「ボクにも教えてよ。この娘、何だか要領得ないし」

「だから、同じ猫の獣人だし、執事とメイドで、慇懃な口調。似てるだろ」

 取り敢えず思いつく事を並べていく。
 実際オレは何も分かっていないので、時間稼ぎに単に今あげたキーワードがクロと似ているという事を主張してみた。
 しかしシズさんが最初に納得した。

「……そういう事か」

「えっ? あの説明で何が分かるの?」

 シズさんの言葉に、ハルカさんがめっちゃ驚いてる。
 オレも激しく同感だけど、ここはポーカーフェイスをキープだ。

「スミレはクロと同じ、もしくは似た存在という事だろ」

「そ、そう思いました」

「ちゃんと説明して欲しいんだけど」

 オレの曖昧な答えに、徐々にハルカさんが不機嫌になっていく。茶化しているとでも思われたんだろう。
 しかしオレが何かを口にする前に、シズさんが恐らく誤解したまま仕切ってくれた。

「クロ、元の姿に戻ってくれないか。できれば、スミレさんも」

「畏まりました」

「……見抜かれた以上、致し方ありません」

 二人はそういうと、どちらも服ごと体が崩れて黒い霧となって中心部に吸収されていく。
 そしてクロは真っ黒のキューブに、スミレと名乗った少女は、ロボットの骨格ような白銀色の骨格と紫色のキューブになる。

 デカイ青龍刀のような武器は、足元に転がっている。ドサッという重々しい音がしたから、やはり相当な重量のようだ。
 そして二つのキューブを見た全員が、感嘆の声をあげる。

「……なんで見抜いたショウも驚いてるの。実は当てずっぽう?」

「いや、シズさんだって驚いてるだろ。それにこれは驚くだろ。クロと少し違ってたし」

「確かにな。しかしこの骨格、どこかで見たぞ」

「多分だけど、あのオタク錬金術師が作ったんでしょう。工房で似たようなもの見たことあるわ。それで、スミレさんはレイって名乗る錬金術師に作られた、でいいのかしら?」

「正確には異なりますが、概ねその通りとお考えくださって構いません」

 クロと同じように、キューブの状態でも話せるようだ。
 そして今は、クロはオレの手のひらの上にあるが、スミレは自分の骨格の手の上にキューブがある。

「それ、どういう仕掛け? ロボットみたいに動くの?」

 ボクっ娘が興味津々の眼差しを向けている。
 オレも少なからず興味はある。て言うか、ない方がおかしいだろう。

「これは骨格のみで、魔力で擬似的に作られた体で動かしている形になります」

「それミスリルよね」

「左様です。骨格は全て純度の高い魔銀によって構成されております。また、一部結晶化した浮遊石を埋め込んでおりますので、非常に軽く仕上がって御座います」

「ミスリルって時点で、ほとんど全身武器か防具みたいなものね。幾らかかるのかしら」

「クロも同じような事できるか?」

「すでに行っている個体が存在する以上、可能かと」

「じゃあ、頼んで骨格を作ってもらってもいいかもな」

「持ち運ぶには不便でしょ」

「それもそうか。あ、もう人型に戻っていいぞ二人とも」

 世の中ままならないらしい。
 まあ、今はクロの事はどうでもいい。それより、だ。

「なあ、スミレさん、それで主人は? お救いいただけないかってのは?」

 元の姿というか、猫耳ロリっ娘メイドに戻った姿を見つつ問いかける。
 ようやく、最初の一言に戻ってきた。もっとまともな格好なら、すぐにも話ができただろうに。
 ただ、見た目の落ち着きから、助けるべき主人とやらは、殺されていないのならこの場にいないと考えるのが妥当だろう。
 目の前のサイボーグっぽい少女の言葉も、その予測を肯定していた。

「はい、今襲ってきた魔物達の一部が連れ去りました。しかし主人には利用価値があると考えている筈ですので、生命に別状はない筈です」

「我々が助けに行って、失敗した場合に殺される可能性は?」

 具体的な話になったので、シズさんが中心になって仕切り始める。

「その可能性は十分あると考えられますが、それでも本当のギリギリまで大丈夫です」

「なぜそう言い切れる?」

「魔の大樹海を開拓しているゴーレム兵団を停止できる一人が、主人だからです」

「あなたの主人は、ゴーレムマスターのレイ博士で間違いない?」

「間違いございません。ですがレイ博士は、暫定的な主人でしかございません」

 そういえばクロも暫定的とか言ってたな。
 まあ今はどうでもいい事か。

「それは分かったけど、連れ去られた先に心当たりは?」

「その点は問題ではありません。すでに彼らの拠点は確認済みです。また、私と主人は魔力的な接続から、方向と距離が常に把握可能です」

「神官の主従の魔法と似てるね」

「それとも、クロが計測が得意なのと似てるのかな?」

「我ら魔導器は、それぞれ単独で行動しておりますので、他個体との違いについては分かりかねます」

「そうか。なあスミレさん、あんたは人の形を取る以外に、何ができるんだ。て、聞いて良い?」

「その質問には、主人の資格を持つ者以外にお答えできかねます」

「主人って、やっぱり名付けた人か?」

「それもございますが。特に魔力の高いお方も含まれます」

 その言葉でピンときたオレは、すぐにもこないだハーケンの魔導士協会で買っていた魔力の放射を抑える指輪を外す。
 これで何か聞ければ儲けものという程度の軽い考えだったが、スミレさんがフラフラとオレの方に寄ってきて目の前で見上げる。
 そしてしばし見つめると、唐突にヒシと抱きついてきた。
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