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第三部

199「もう一人の召喚者(2)」

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「妄想か本当か、自分で確かめればいいだろ。今どこに居る? オレはウィンダムに来てるんだけど」

「ウィンダムって、ウィーンと同じ場所だよな。1回行った事あるけど、お前の話と今まで関わりない場所じゃん」

 寝転びながら器用に首を傾げる。
 そう言えば、悠里は体も柔らかかったのを思い出した。

「そりゃあ、ついさっき来たところだからな。そういえば、いつから『夢』見てるんだ?」

「ん? えーっと、前兆の夢ってのは5月の連休くらいから。あっちに出たのは5月末くらいだったかな?」

「マジか?!」

 夜中なのに、思わず大声を上げてしまった。妹様も驚いている。
 いや、オレの方が驚いてる自信がある。

「静かにしろっての。てか何?」

「いや、オレ、五月末頃に前兆夢なしに『夢』見るようになったんだ。それはドロップアウトした誰かの代わりか、誰かの出現に巻き込まれたんだろうって聞いた。
 ……嘘だろ~。オレ、お前のオマケだったのかよー」

 そこで「ぷっ!」と妹様が吹いた。

「何、オマケって? 受けるんですけど」

「まんまだよ。お前が『夢』を見るのに引っ張られて、オレも『夢』を見る様になったらしいんだよ。おかげで前兆夢なしで、エラい目にあった」

「そういえば、そんな事も書いてたな。けどさ、私のお陰で『夢』が見られる様になったんなら、感謝の一つもして欲しいんですけどー」

「いや、ただの偶然だろ。それより、向こうで一回会おう。驚かせてやる」

 シズさんを見たら、目を丸くするくらいじゃ済まないだろう。
 いや、ボクっ娘に会うと話がややこしくなるから、会わない方がいいのかも。
 と一人で内心自爆していると、妹様も悩んでいた。

「私、まだ自由行動の許可もらってないんだよなー。お前がウロチョロしてるのが、すげー羨ましいくらい」

「へーっ。師匠でもいて修行してるとか?」

「そんな感じ」

「じゃあ、旅どころか戦闘もロクにしてないのか?」

「いいや、戦闘はけっこうしてる。魔物多いとこだし。言っとくけど、私らめっちゃ強いから」

 めっちゃドヤ顔だ。長年の経験から嘘を言ってない事だけは分かる。

「マジか。職業は?」

「秘密。それこそ、私に会えたら教えてやるっての」

「それなら、どこいるか教えろよ。どうせアースガルズ王国の辺りだろ?」

「ううん、全然違う。てか、秘密。あと、こっちでも向こうでも、私のことは誰にも言わないで」

 言葉の最後はかなり強い。

「ああ、いいけど、話すの止められてるとか?」

「そこまでじゃないけど……。てかさあ、なんでお前とこんな話してんだよ」

「悠里が話に来たんだろ。しかもオレのベッドの上でゴロゴロ転がって」

 依然として、話しながらゴロゴロしっ放しだ。
 自分の部屋じゃないって分かってないだろうと言いたいが、子供の頃は似たような感じだったのをふと思い出した。
 そして指摘したのに、止める気配もない。

 ゴロゴロしているせいで、セミロングの髪がかなり乱れているが、オレの前なら別に気にする必要もないと言いたげだ。
 しかしゴロゴロするのを止めて、こちらに顔と視線を固定してきた。

「何見てんだよ、エロオタク」

 そうは言うが、赤面も恥ずかしい表情もしてない。
 言動不一致だけど、言うべき事は言っとく事にした。

「エロい格好で寝転がってる方が悪い。少しは慎み持てよ、もう中三だろ」

「お前に相手に、そんなのいるかっての。てかさ、そんな事に気を使うって、マジキモい」

「向こうじゃ女の子と一緒に行動してるから、そういう事にも目が向くようになっただけよ」

「ふーん。どんな人? ノートにはほとんど書いてないじゃん」

 手で髪を申し訳程度に整えながら、興味深げに視線を向けてくる。
 もう「ちょっと」どころじゃない。爛々と瞳が輝いている感じだ。

「個人情報を簡単に話せるか。知りたければ会いに来い。いや、こっちが行く方が早いか」

「ああ、確かシュツルム・リッターが一緒なんだっけか」

「おお。めっちゃ強いぞ。それに移動がちょー楽になった」

「巨鷲(おおわし)を飛行機代わりとか、恐れを知らないって感じじゃね」

「当人がいいって言ってるからな。それにいいやつだぞ」

「いいやつねえ。けど、私らとは相性イマイチなんだよなあ」

 そこで再び、人のベッドの上でゴロゴロし始める。オレはキモいんじゃなかったのか? 妹様よ。

「自分のこと話さないんじゃないのか。ていうかさ、「ら」って複数なのは師匠の事か?」

「え? ああ、そんなとこ。ヤバっ、危うく教えるところだった」

「いやいや、勝手にボロが出てきているだけだろ」

「五月蝿い。それより、これってお前が作ったのか?」

 再びスマホに表示されているページを見せてくる。

「いいや。うちの学校の文芸部。オレ、もう身バレしてるから」

「迂闊なやつ。絶対、私の事言うなよ」

 ビシッと腕ごと指を突きつけてきた。
 それに手をヒラヒラとしといてやる。

「言わないって。言ったら、もっと寄ってきそうで嫌だし」

「ああ、近くにいると出現しやすいってやつ?」

「そう思ってるやつは、結構居るみたいだからな」

「まあ、気持ちはちょい分かるけど、絶対私の事話すなよ!」

 言うなり、バネのように跳ね起きて、一気に部屋を出て行こうとする。
 陸上してるだけあって、体の動きが無駄にいい。

「了解。まあ、どこにいるかは定期的に伝えるから、あっちで一回くらい会おうぜ」

「会わないっての!」

「そうかよ。じゃあ、お休み」

「うん、お休み」

 期待していなかったが返事があった。
 意外に機嫌がいいのか、他のことを考えていて無意識に返事したかのどちらかだろう。
 悠里も『ダブル』と分かってオレもちょっと嬉しいので前者だったらとは思ったが、鼻歌歌いながら短い廊下を歩いて自分の部屋に入ったので、どうやら前者だったらしい。

(そういえば、こんな長話、久しぶりだな)
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