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第三部

195「聖地ウィンダム(2)」

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 広々とした中央広場を中心に、市街のあちこちでも路上で音楽を奏でる人を見かけることができる。
 中には、ハーケンでも見かけたようなバンドマンとしか思えないご同輩がいたり、小さなギャラリーにご同輩が描いたとしか思えないモダンアートのような絵画が展示されていたりする。
 他にも、どこかで見たようなロボットやアニメフィギアのような大理石像まであったりした。

 なお、ここウィンダムに冒険者ギルドの支部はないが、『ダブル』の数は100人を超えるという。
 しかも世界の聖地の一つだけあって、日本人『ダブル』だけでなく他の地域から来た『ダブル』もかなりいるそうだ。

 言われてみれば、向こうでの欧米人っぽい人も見かける。アメリカ系なのだろう肌が真っ黒な『ダブル』というのも、見た目には凄く新鮮だ。
 しかもそうした人の二人に一人は、ちょっと間違ったオリエンタルスタイルだ。
 中にはニンジャやサムラーイな人もいた。

 そういえば、こっちで日本刀もしくはそれらしい刀剣を見たのはこれが初めてだった。
 日本のポップカルチャーものと違い、日本刀はそれほど凄いアイテムではないかららしい。それにオクシデントでは入手も難しく、さらに手入れ、そして修理が出来る人も少ないからだそうだ。

 そして、この近くの冒険者ギルドのある街はアクアレジーナになるが、それでも山を越えて400キロ近く離れているので、『ダブル』が多いのはかなり特殊ということになる。
 明日はそのアクアレジーナを経由して、2日かけてノヴァトキオを目指す予定だ。

「ウィンダムは、聖地巡礼で神殿行ったらすぐ発つんだよね」

「そうよ。もう夕方だから、明日朝一番になるけどね」

「なら、今夜は宴会だー」

「ウムっ」

 シズさんが実に頼もしい「ウムっ」すぎる。
 巡礼と言うより旅行気分が強過ぎる気がする。

「シズ、ウムっ、じゃないでしょ。それにレナも、宴会は昨日もしたでしょ」

「ハルカさん、おかーさんみたい」

「誰かがストッパーにならないとダメだから言ってるだけよ」

「せっかくの旅なんだ、少しくらい羽目をはずしてもいいだろ」

「羽目は外しすぎないでね。巡礼だから外聞もあるんだから」

 街に入ってオレがお上りさんで町並みをキョロキョロと見ている間に、女子三人組が賑やかに話している。
 そのせいで一歩遅れがちになり、三人は少し前を歩く形になっていた。
 そうして進んでいると、ハルカさんが不意に振り向いた。

「やけに静かだけど、迷子にならないでよ」

「どーせ、ボク達のお尻を見てたんだよ」

「私は尻尾で見えないと思うが?」

 そう言って5本の尻尾を器用に動かす。
 モフモフ好きなら、条件反射で飛びつきかねない光景だ。
 しかし残念ながら、オレにはその属性はない。

「初めて来る街だから、お上りさんになってただけだよ。みんなは来たことあるみたいだな」

「私は何度か。二人は?」

「ボクは郵便でたまに来てるよ」

「私は一度しかないな。神殿にはあまり興味がないので、観光半分だったな」

 シズさんが観光半分と言ったが、確かに街の規模の割に人は多い。
 それに宿を取るためそういった区画に来たが、宿の数も多い。それだけ巡礼者や学びに来る人が多いということだ。

 それに、神殿の衣装を着ている者も多い。黒と灰色、それに水皇の象徴色の藍色のローブや法衣が多い。
 それでも、さすがに魔法が使える白色の法衣をまとっている者は少ない。

 ちなみにオレ達も、ハルカさんを中心に神殿の作法に則った衣装を着ている。
 とはいえ、一番上のローブやマントだけで、他はいつもと変わらない。明日はもっとちゃんとした衣装で神殿に行かないといけないが、街中だとこれで十分だ。

 ただオレ達には、周りから視線が集まっている。
 それはこの街は基本武装は軽装以外禁止なのだけど、神殿巡察官の守護者として逆に武装をしていないといけないので、周りから丸分かりだからだ。

 その上ハルカさんは、上級神殿巡察官を示す結構派手な金色の紋章を首からぶら下げているので、周りからさらに注目されている。
 ハーケンだと神殿に詳しい人は少ないが、この街ではその証が何なのか知っている人が多いということだ。
 さりげなく彼女の胸元に目線を向ける人が多いが、別にエロ目的ではない。多分。

 おかげでと言うべきか、宿はかなり高級な宿の飛び入りだけど、ほとんどVIP待遇で泊まることができた。
 過剰な数のお付きの人など、断らないといけないところだったほどだ。

 ただ食事を外で楽しむというわけにはいかず、宿にあるレストランでの食事とせざるを得なかった。
 それでも色々サービスしてもらえたので、その点は嬉しい誤算といところだろう。

 部屋に関しては、こちらの要望で全員一緒の部屋。
 貴人向けで、3部屋続きの横つながりの部屋、コネクトルームというやつで、2つの寝室は女子3人とオレで別れる。
 そして真ん中の部屋がリビングを兼ねていたので、そこで明日の打ち合わせなどをする。

「みんなの衣装とか、明日早く起きて整える。それとも今から一回着ておく? それだと朝は多少ゆとりが持てると思うけど」

 ハルカさんがそう言うと、全員が同意する。

「夜もまだ浅いし、今から合わせておこう」

「シズさんは、朝苦手だもんねー」

「まあな。じゃあ取り敢えず」

「あ、はいはい、オレは隣で待機しておくよ」

 言いながら、オレ一人用の部屋へとそそくさと向かう。

「待機じゃなくて、出来るところだけでいいから着替えておいて」

「了解」

 そうして約30分後。「もういいわよー」という言葉を聞いて扉を開くと、三人は白い衣装をまとっていた。
 シルクっぽい白い布に金糸、銀糸を多用した豪華な衣装だ。
 なんでも魔法の布やミスリルを使った、本当に高価なものらしい。しかも、いわゆるテロ、暗殺対策で、防具としてもかなりの能力すら持ち合わせている。
 神殿も色々と複雑なようだ。

 オレの方も、下に着る衣服と龍鱗の鎧はすでに着替え済みで、あとは面倒な板金製の鎧などを装着するだけだ。
 これは一人では付けられないが、品は一級品で普段の簡単な胴鎧より防御力は高いし、付けてみて判ったが意外に動きやすい。
 通気性が悪いのが欠点なくらいで、防御力が求められる戦いの時は身に付けたいほどだ。

 もっとも、そんな状況は戦争にでも首を突っ込まないとないので、普段は浮遊石を埋め込んだ丈夫な鞄に詰め込んで、ヴァイスの足に他の荷物と一緒に括り付けている。
 はっきり言って、こういう時にしか身につけないものだ。
 そして明日はこの鎧の出番なので、続いてオレも鎧をつけてもらい見た目は守護騎士っぽくなった。と思う。

「馬子にも衣装ね」

「それオレの事?」

「他に誰がいるの。一番浮いてるじゃない」

「そりゃ三人とも凄く似合ってるけど、そんなに変か?」

 ガシャガシャと金属音をさせながら、自身を見てみる。

「大丈夫、それっぽいと思うよ。口を開かなければ、だけどね」

「それなら、ずっと兜被ってるからノープロブレム」

 そう言ってカシャンと兜の面あてを下げ、さらにサムズアップを決める。

「武装も象徴的にそれぞれ身につけてもらうけど、そっちはこないだ手に入れたもので十分よね」

「十分すぎでしょ。『帝国』製の逸品ばかりだよ」

「他の魔導具も付けていいんだったな」

「シズの場合はむしろ付けて。守護導師だし、それっぽい見た目の方が周りも納得してくれるわ」

「わかった。だけど、大巡礼は普通の巡礼と何が違うんだ?」

 そう言えば誰もまだ詳しく聞いていなかった。
 ていうか、普通の巡礼すらしたことないので、質問すら失念していた。

「大巡礼だって申告して、これはもう夕方に使いを出してるから、向こうで相応の儀式っぽいものを準備してくれている筈よ。
 あとは、御朱印帳みたいなアミュレットをアースガルズの大神殿でもらってるでしょう。あれに魔法と物理両方で刻印してもらうの」

「ボクは普通のお参りしかした事ないけど、やっぱり違うね。他には?」

「半分超えたとか、遠方から来たとかだともっと盛大で、その地域でも話題になるけど、最初の巡礼地だからそんなに注目はされない筈よ」

「じゃあ、この大げさな格好は?」

「神殿は権威も必要だから、ただの格好つけよ」

「身も蓋もないなあ」

「世の中そんなものよ。ここはおとぎ話の世界じゃないもの」

「もっともだな」

 ハルカさんの言葉へのシズさんの納得声が、やけに重く感じた。
 しかしハルカさんの話はまだ残っているようだった。

「あと、もう一つ」

「なにー? 面倒は嫌だよ」

「多分、多少面倒よ」

「ギャラリーか。まあ、これだけ見た目に拘るんだから、それを想定してだろう」

「もう私の身分も目的も神殿を中心に知られているだろうし、大巡礼ってやっぱり珍しいから、歓迎とかの名目の野次馬は相応に覚悟しておいて。ごめんね」

 そう言って片手で小さくみんなを拝む。

「ノープロブレム。オレ、兜かぶって黙ってるだけだし」

「ボクも黙っておいた方がいいよね」

「まあ、できる限りフォローするよ」

「よろしくね、みんな」

 苦笑気味のハルカさんは珍しいが、これは相応のギャラリーを想定して大分方がいいという事なのだろう。
 陰キャとしては逃げ出したいところだけど、明日のオレは今の出で立ちのままなら顔を晒す事もないから安心だ。
 ビバ、全身鎧。
 陰キャにはピッタリのアイテムだ。
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