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第二部

155「奉納試合(2)」

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「魔力量はもちろんだけど、腕も随分あげたね」

「まだまだ要修行ですよ。けど、アクセルさん、まだ全然余力ありますよね」

「よく見ているね。じゃ、今度は空中戦だ!」

 アクセルさんはそう叫ぶと一気に飛び跳ね、オレの視界から一瞬消える。
 そう、人間というか普通の地上生物は、上方からの攻撃は死角になるなど隙が多い。
 猛獣が飛び上がって相手の頭上から獲物を捕えるのも、そうした点を利用してのことらしい。空の眷属が強いのも同様だ。

 そして魔力総量の多い魔力持ちは、自らの体重に対して圧倒的な身体能力を有しているので、上方からの攻撃、つまり三次元での攻撃を可能としている。
 風の魔法の使い手の魔法戦士の中には、空中で方向転換してきたり、場合によっては短時間だけど「飛ぶ」事もあるそうだ。
 そうした、人によって魔法で空中戦能力をさらに強化する場合もあり、アクセルさんもその部類の人だった。

 普通なら手も無くやられそうなものだけど、自分でも意外なほどアクセルさんの動きは見えていた。
 とはいえオレは、飛び跳ねるくらいしか空中戦は対応出来ない上に、まともな空中戦は一度もやった事が無い。

 しかしレナと一緒にヴァイスの空中戦につき合ったおかげで、三次元的に把握出来るようになっていたらしい。
 この時はそこまで分からなかったが、後でボクっ娘に教えてもらった。この体の優秀さには感謝感激だ。
 けどおかげで、上空からの鋭い一撃をなんとかさばく事ができた。

(重装備なのに、まるでおとぎ話の義経だな)

 空中戦が一段落すると、両者大きく距離を取った。
 接近戦、空中戦で埒が開かないので、アクセルさんとしては長期戦に備えてだ。
 しかしオレとしては、今まで防戦ばかりなので、内心大きな不満があった。
 そこで感情に任せて、今度はこちらが押し出してみる事にした。

 激しい剣戟が何度も行われるが、オレの大きめの振りはアクセルさんの剣に流され、盾で防がれる。
 鎧に擦る事はあったが、擦る以上は無理だった。
 しかし、しばらく戦ってみて一つ分かった事があった。
 そこで一計を案じてみる事にする。

 再びこちらから仕掛けるが、今度のオレは人対人の戦いという先入観を横に置いて挑んだ。
 アクセルさんをちょー強い魔獣と想定したのだ。

 そしてオレの破天荒というか無茶な攻撃で、それまで奇麗な『型』を維持し続けていたアクセルさんの『型』を崩す事に成功。
 その隙に右足を、アクセルさんの胴に蹴り込んだ。

 アクセルさんはオレの力任せの一撃で、十メートル以上吹き飛ばされ、それを止めるために片膝をつかなければならなかった。
 ゴロゴロと無様に転がったりしないところは流石だ。

 それに高い魔力持ちなので、蹴り込んでも特に支障はなさそうだ。
 普通の人なら内臓破裂などで死んでもおかしくないくらいの打撃だった筈だけど、お互い高い魔力持ちなのでマンガのように簡単に復活してくる。
 蹴った当初は追撃した方が良かったかもと思ったが、この復活を見てしないで正解だったと確信する。

 なお、ギャラリーはオレに対するブーイング気味だ。騎士らしくない戦いと言うことになるらしい。
 しかしアクセルさんは、機嫌良さそうにいい笑顔を満面に浮かべている。オレも笑い返し、アクセルさんの次の手を誘うように剣を構え直す。

 それに誘われるように、飛ぶようにアクセルさんが突撃して来て鋭い突きを放ってくる。
 そしてオレがそれに対処していると、フイに右手から大きな衝撃を受けた。
 シールドバッシュ。もしくはシールドアタックだ。
 ハルカさんも、魔物の群れと戦うときにたまに使う技だ。

 剣に気を取られていたオレはもろに食らってしまい、さっきのアクセルさんと同じように吹き飛ばされる。
 そしてオレがアクセルさんを蹴飛ばした一瞬後で思ったように、今度はアクセルさんが追い打ちを仕掛けて来た。
 けど、さっき思った事をされただけなので、体は何とか反応して捌ききる事ができた。
 かすり傷くらいはできただろうが、気にもならない。

「楽しいねショウ!」

「ええっ! けど、試合の限度超えてるでしょう!」

「ショウみたいに強い人は近隣にいないから、本当に楽しいよ!」

「意外に戦闘狂なんですね!」

「騎士は戦いが本分だからね!」

 キンキンキンというよりギャン、ガキンって感じで剣戟を交わしつつ、なんだか会話まで楽しむ。
 剣道だと「キエーっ!」みたい声出しするだけなので、こっちの体の運動能力の高さをこんなところでも実感する。
 とはいえ戦いはこう着状態だった。

 身体能力から魔力総量ではオレが勝っている事は分かったが、その差をアクセルさんの高い技量が十分以上にカバーしていた。
 それにアクセルさんは、まだ完全な本気じゃない。

 にも関わらず、本当の長期戦になれば、魔力の消費量が多いでオレが不利になるのは確実だ。
 逆に、オレの強い一撃が決まれば、勝負は一撃でつくだろうと思えなくもない。

 そして見ている人はちゃんとその事が分かっていたのだろう、「それまでっ!」と高らかに試合終了の言葉が放たれた。

 これで双方の剣が相手の喉元にでも当てられていたら格好よかったけど、普通につばぜり合いをしている状態から一旦離れた時点で試合終了となった。
 もうちょっと、いや、もっと戦いたかったが仕方ない。
 声から数秒してからだけど、大きく息を吐き出す。

 アクセルさんが貴賓席に向けて優雅に一礼する横で、一歩遅れたオレも真似て礼をする。
 そこにテラスの玉座から立ち上がったカール23世国王陛下の声が、魔法で音量を増幅された形で響いてくる。


「双方見事であった。アクセルは、流石我が国が誇る近隣随一の騎士である。またショウとやらも、上級神殿巡察官ルカ殿の守護騎士に選ばれるだけの事はある。
 褒美としてアクセルには、新たな領土を与え一家を立てる事を正式に許し、守護騎士ショウには我が国の名誉騎士の称号を与えるものとする」

 王様も少し頬が上気しているので、楽しんでいてくれたらしい。だから上機嫌なまま、普通ならなかったであろうご褒美までもらってしまった。
 まあ、もらえるものは貰っておこう。

 そして拍手で全てが幕となり、ここでの能力のお披露目がオレとシズさんの守護賢人、守護騎士の認定も兼ねていたので、そのまま大神殿の大神官から認定の儀式が行われれた。
 しかも国王陛下以下が参列しての事になるので、普通より格が高いものとなった。

 もっとも、儀式自体は短かかった。
 大神官からハルカさんに渡された神殿のホーリーシンボルをそれぞれに授け、さらにオレにはお約束な騎士の承認の儀式を加える。
 オレが鞘に入った剣をハルカさんに掲げ、それを彼女がとってオレの両肩に軽く当てるやつだ。

 オレにとって少し意外なのはシズさんの儀式で、こちらも魔法の杖を剣と同じようにした。
 魔法を使う騎士がいる事もあって、儀式の形式が共通なのだそうだ。

 そして次はボクっ娘の儀式かと思ったが、独立不覊(どくりつふき)な疾風の騎士もしくは空士には特に儀式はない。
 基本的に、彼もしくは彼女の気持ち一つなのだそうだ。

 だからボクっ娘が従者の証を魔法で見せると、場が少しざわめいていた。疾風の騎士が神官の従者になるなど、滅多に無い事だからだ。
 この事ひとつでも、ハルカさんに大きな箔がついたことが伺い知れる。

 そしてそれで儀式は終わりなのだけど、まだ次の予告が待っていた。
 続いて、再び国王陛下の出番だ。

「皆も知っていると思うが、ルカ殿達は我が臣下のアクセルと共に、ウルズの王宮に蔓延っていた『魔女の亡霊』を鎮めておる。そこでこれより7日後、王宮にて栄誉を称えるものとする」

 その言葉で「わーっ」と歓声と拍手になって、ようやく今日の面倒ごとは終わりを告げた。


「良い試合だったわね。もう私じゃ、ショウには剣だけじゃ適わないわ」

「そんな事ないだろ」

 国が出してくれた馬車の中で、ようやくリラックスして話し合う事ができるようになった。

「技量だけならともかく、あんなガチの肉弾戦は無理よ」

「ハルカさん、魔法も凄いのに欲張り過ぎだよ」

「レナも空中戦に召喚魔法、弓、短剣と多芸じゃない」

「ボクの場合短剣は護身術で、弓や魔法はヴァイスと一緒に戦うためのセットなだけだよ」

 二人がお互いをある意味褒めているが、オレの旅の連れ達は確かにみんな多芸で、すごく優秀だ。
 オレのヒエラルキーが低いのも当然だった。特に優秀なのは、やはりシズさんだろう。
 とそこで、少し気になったので、話の流れで聞いてみることにした。

「そう言えば、シズさんって炎と補助魔法以外は何が使えるんですか?」

「前も言ったが、メインが炎というか温度変化だから、攻撃魔法には使えないが部屋を冷房したり氷も作れるぞ。それに第一列は、ほぼ全部の系統は摘んだな。前も言ったと思うが、治癒も少しは使える。
 他は、研究も好きだから錬金術は第二列くらいまではカバーしているよ。あと、欲しいと思った第二列の魔法をちらほら、くらいだな」

 うん、めっちゃ沢山という事だけは分かる。
 魔法極振りだけど、その魔法で多芸すぎた。
 ハルカさんも多いに感心している。

「その上で第五列まで使えるなんて、やっぱり凄いわね」

「私の場合、『好きこそ物の上手なれ』だよ。魔法は面白い」

 馬車での会話も弾んだけど、このまま国が用意してくれた宿舎に式典まで滞在予定だ。
 そしてしばらくのんびりすることになる。しかし全員暇ではなく、ボクっ娘は疾風の騎士が尊ばれているので、幾つかの街を廻る事になっている。

 一連の行事、式典でちょっとした有名人気分になりそうだけど、オレにとってはこれが片付けばようやく本当の目的の旅に出られるので、そちらへの期待と興奮、そして不安の方が強いと言うのが本音だった。
 
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