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第二部

142「『ダブル』との交流(1)」

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 オレたちが冒険者ギルドの模擬戦会場から出てくると、何組かのグループというよりパーティーが待っていた。

 1人だけが2人、数名のグループが3組。みんな冒険者風といえるイメージの人たちだ。
 ただ2人組の男性は、イメージがオレの苦手な「ウェーイ」な感じだ。お約束とばかりに、腰にチェーンを吊るしている。

 1人ずつなのはどちらも男で、片方は年長の熟練者風、もう片方はオレよりも駆け出しっぽい。
 あとはそれぞれ男女別々で4人ずついるが、女性組は見た目でJKやギャルな感じで、男性組は見た目がゲームでよく見るテンプレパーティーの構成だ。

 みんな別にオレに文句言いたいとか、讃えようと言う雰囲気ではない。どちらかと言うと、好奇心かそうでなければ何か期待を込めた雰囲気だ。
 そんな人達を色んな『ダブル』がいるんだなーと眺めていると、それぞれが軽く目配せつつオレたちに声をかけようとしていた。
 その機先をハルカさんが制した。

「もし、同行のお誘いでしたら、お断りさせてください。それに予定が詰まっているので、ゆっくりお話などできる時間がないんです。不躾(ぶしつけ)かつ失礼の物言いで申し訳ありません」

 その言葉で、半分くらいの人たちは口火が切れなくなった。
 明らかにしょんぼりしている人もいる。めげてないのはウェーイ勢だ。

「あーっ、マジかー。けどさ、人それぞれ事情有るもん、仕方ないよねー。本当は俺たち、みんなのパーティー入れて欲しかったんだけど、それは諦めるわー」

「けどけど、さっきのマジつえー君ってばビギナーなんだって。そりゃ、狐さん共々歓迎会開くしかないっしょ。もちろん、先輩な俺らのおごりで」

「それな!」

「うんうん。私らも歓迎するよ」

「ねーっ!」

 ウェーイ勢に女子パーティーが加勢した。多少下心はありそうだけど悪意は感じないので、断り辛い雰囲気だ。
 もっとも、オレ以外の3人は済ました顔だ。

「異種族にも関わらず暖かいお言葉、誠に痛み入る。ただ我らは、今宵もこの街に滞在するのなら、夕刻には『帝国』商館へと出向かねばならないんだ」

 シズさんの敢えて場を読まない口調な言葉で、場が若干固まった。やはりというか『帝国』は近寄りがたい存在なのだろう。
 顔が少し強張っている人もいる。

「マジで?」

「大マジ。昨日も『帝国』の商館に泊まってたしね」

「やはりな」

 ボクっ娘の言葉を受けるように、そこで今まで沈黙していたソロの男の片方が何だか思わせぶりに口を開いた。

「あんたら、ノール王国の件に関わってた人らだろ。昨日夕方、巨鷲と飛龍が飛行場に来たって話を聞いたが、それでハーケンに来たんだろ」

「ええ、昨日ノール王国から来ました。ここでの用件が済めば、すぐにも戻る予定です」

「なら、向こうの状況を教えてくれないか。これから行く積もりなんだ」

「ちょっとちょっと、俺らが話してるんだけど、割り込み酷くない?」

 ウェーイな人の少しきつめのツッコミにも、ソロの男は動じていない。

「済まない。俺は情報が欲しいだけだ。情報料を払うから、後で少し時間を取れないか?」

「10分程度なら」

「それでいい。ありがとう、あっちで待っている」

 そういうと男はその場を去って行った。
 そこで一瞬の間があったが、誰もが『帝国』の言葉を思い出したようだ。少し気まずそうな雰囲気が復活している。
 最初に復活したのはウェーイな二人だ。
 可愛い女の子たちを前にして、簡単には引き下がる気はないと言った雰囲気だ。

「それで、なんで『帝国』商館へ?」

「ボクらが『帝国』の飛龍を偶然拾ったから届けにきて、そのお礼にって泊めてもらったんだ」

「ヤバイな。もしかしてシュツルム・リッターかドラグーンだったりして?」

「さあどうだろうね」

 ボクっ娘が完全ではないにしても言葉をはぐらかすが、あまり気になってはなさそうだった。

「それより、夜の飲み会無理っぽいけど、お昼くらいなら、どうかしら?」

「おっ、それ良くない」

 次に復活した女子パーティーも、意外に食らいついてきた。それに「それな!」とばかりにウェーイ二人組も大賛成。
 ここまで言われると流石に断るのは、同じ『ダブル』そして冒険者としては失礼だろう。
 オレ以外の目線もそう言っている。

「それじゃ、お誘い受けさせてもらいますね。ただ、私たちはこの後ここと神殿で用事を片付けるから、その後で構いませんか?」

「オケっ! 全然構わない構わない。オレら昼間でもしてる、ちょーイケテル店確保してくるから、昼の鐘に広場で待ち合わせってことでいい?」

「参加者は、今この場にいるメンツでオーケー?」

 全員がそれぞれの表現で賛同した。しかし遠巻きに加わりたそうな人もいたので、ウェーイな二人は、その辺りにも近づいて行って声がけしている。
 ナンパより騒ぐのが目的なんだろうかと思えてくる。パーティーピーポーってやつなのだろう。


 「じゃ、後でねー」と分かれた後、ギルド内のカフェで途中で抜けた男のところに行く。
 黒ずくめで渋めなイメージを演出している感じの男は、オレたちも座れるだけのテーブル席を確保して待っていた。
 そして挨拶もそこそこに話を始める。

「向こうに行けば分かる事だから情報料はいいわ」

「そう言う訳にはいかない。内容に相当するだけ払わせてもらう。それで?」

 期待を込めた声と視線だけど、だからこそ言うべきことがある。

「『魔女の亡霊』は私たちが鎮魂しました」

「あんたは高位の神官って事か」

「神殿巡察官をしています」

「たいしたもんだな。それで他の亡者も?」

「その辺は雇い主の意向で詳しく話せないんだ。どうしてもってなら、向こうで聞いてみて」

「分かった。ドラグーンが多数飛んでいたという噂については?」

 ここで男は、さらに期待を込めてくる。
 そんなに強い敵と戦いたいんだろうか。

「相手が誰だかは言えないけど、だいたいはボクが落としたよ」

「やはり疾風の騎士か。あんたら凄いパーティーだな」

「成り行きで組んだメンツだけどね」

「で、魔物は? 状況からしたら相当の魔物が出現しているだろ」

「大物はもうだいたい倒されたよ。雑魚掃討も山は超えただろうって、アースガルズの騎士様が言っていたけど、王都とか魔化した森が残ってるね。報奨金も出てるから、それなりに稼げるかも」

「そうか。あっちのネット上で情報見かけて東から飛んできたんだが、大物喰いは間に合わなかったか。ありがとう参考になった。これを取ってくれ」

 そう言って小さな銀貨を一つ置いて、その場を去って行った。
 パッと見30代くらいにも見えるよく鍛えた体つきの男性で、雰囲気も一匹狼のようだった。
 とはいえ、この人との縁はあまり深くはなかったみたいだ。


 一匹狼っぽい男性と別れると、すぐにもギルドの銀行窓口に向かった。
 リアルだったらジュラルミンのケースが複数必要なくらい、とんでもない大金を抱えている。これを持ったままだと、どうにも居心地が悪い。

 所持金の方は、職員にかなり驚かれつつも8割ほどを預け入れる。
 しかしギルドに預けるうちの10%は、ギルド運営費を兼ねる手数料として自動的に取られてしまう。
 こっちでは金に頓着してないので気にならないが、あっち、現実だったら少し納得いかない金額かもしれない。

 残り2割のうち幾らかは、今後の神殿への喜捨やオレたちの位をスムーズにもらう為の「潤滑油」になる予定だ。
 残りのうちかなりで、ここで足りない物品の購入に充てる。

 そしてそのまま、買い物の一部をギルドで済ませてしまう。
 『ダブル』を中心に流通している品を得る為だ。
 ここでは、魔力補給できる例の高級チョコレートを大量に購入したりもしている。
 他にも、携帯しやすい『ダブル』由来の保存食やお菓子を買う等、ハルカさんの食いしん坊ぶりが遺憾なく発揮されていた。
 しかし『ダブル』がノヴァトキオでしか生産していないものも多く、こういう機会は外せないそうだ。
 と言っても一部は味噌や醤油なので、オレ的にはおなじみな食品だったりする。

 一方シズさんは、魔法の触媒に使う薬品を熱心に注文していた。
 ギルドの委員が出て来るほどだったから、相当危険な物を購入したのだろう。
 けど、オリジナルスペルには必須だし、量が必要なものもあるのでかなりの買い物になった。

 これでギルドでの用件は一通り全て終わり、何人か顔見知りになった人に手など振りつつ、次の目的地神殿に向かう。


「なあ、ここの神殿は聖杯はないんだよな」

 神殿の前で建物を見上げつつ問いかける。
 そうすると、並んで立ち止まっていたハルカさんが横目を向ける。

「昨日も言ったけど、聖杯は大神殿以上にしかないわよ」

「けど、念のため魔力移譲しといた方がいいんじゃないか?」

「慎重だな。だが私もショウの案に一票だ」

「シズが言うなら、そうしましょうか」

 後ろからの声に、ハルカさんが即答だ。

「オレの意見軽すぎない?」

「術を施す人の意見を尊重するのは当然でしょ」

「ドンマイ、ショウ」

 そんなやり取りをしつつ、一旦ギルドに戻って場所を借りて魔力移譲の魔法を使い、一時的にハルカさんの魔力のかなりを3人に移す。
 この街では許可のある場所でないと、一定以上の魔法は街の治安を乱す行為になるので多少面倒でも仕方ない。

 そうして神殿へと入るが、オレにとっては今までで一番大きく立派な神殿だった。
 ウルズの神殿の方が大きかったが、あそこには結局入らずじまいだし、入ったとしても焼け崩れていたから、今ほどの感動は無かっただろう。

 中の雰囲気はキリスト教会に近いが、十字架もなければキリスト像やマリア像もない。
 その代わり、色々な神々の像が伽藍の要所に立っている。
 なんでも、ローマ帝国時代の神殿に近いらしい。

 この世界の神々に主な神というのは実質存在せず、主要な神々は対等に近い関係だ。
 それでも大陽と月の神の存在感は大きく、実質的にな主神といえる。それと同じくらい星の神も同じくらい重要で、合わせて「天の三柱(みはしら)」と言う。

 オレが、お上りさんよろしくキョロキョロしていると、向こうから神官の一団が近づいてくる。

「神殿巡察官様、当神殿へのご来訪歓迎致します。このたびのご訪問は、如何様なご用件がおありでしょうか?」

「ハーケンの街に立ち寄ったので、ご挨拶に伺いました。喜捨をお受け取りください」

 ハルカさんの言葉で、予めオレが持っていた小さな袋を一歩前に出て差し出す。中には、それなりの金額が入っている。
 神官が寄付や喜捨はあまり行わないものだけど、よそ者なので挨拶としてしておく方が無難なのだそうだ。
 そしてこれで何事もスムーズに運ぶらしい。「潤滑油」とはよく言ったものだ。

「神殿巡察官様の神々と当神殿へのお心遣い、確かにお受け取りいたしました。何か御用がありましたら、何なりをお申し出ください」

「有難う御座います。では早速ですが、強い効力を持つ治癒薬、聖水を幾つか。また、こちらの二人に「清浄の指輪」を与えたく思います。ご用意いただけますか?」

「治癒薬、聖水については、ご所望されるほどの力があるか分かりませんが当神殿最高のものを、「清浄の指輪」と合わせてご用意致します。それではこの者に案内させますので、しばし別室でお待ち下さいませ」

 また堅苦しいやり取りが続くが、このハーケンは上客の冒険者も多く、神殿の規模に比べると質の高い治癒薬、聖水が手に入りやすいらしい。
 また「清浄の指輪」も、『ダブル』が欲しがるアイテムなのでストックが多い。何にせよ、これでオレも少し不潔に思えていた生活からオサラバだ。

 全ての品を手に入れるには、さらに寄付という形での代金が必要だけど、手に入れた金からするとたいした金額ではなかった。
 多少色をつけて最初に寄付してあるので、向こうも出し惜しみせず良い品を持ってきたが、高いとは感じなくなっていた。
 ビバ金持ち。

 ただ、冒険者ギルドと神殿での買い物で大量の荷物となり、その荷物役を仰せつかってしまった。
 なんだか現実世界での、女子の買い物に付き合わされた状況のようだ。
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