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第二部

134「アイテム引き取り(1)」

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「ふむ、そうですね。私もそろそろお若いご婦人方に楽しんでいただける話題に事欠いていたところです」

 お話に出てくる三下腹黒雑魚なら、「何をおっしゃる」や「本題とは」とか見え透いた言葉を返すところだろうが、向こうも前座や茶番は終わりと見ていたらしい。

 今までは、こちらの人となりや、話術や交渉術の力量を測っていたのかもしれない。
 そして出番を待っていたかのように、実直なヒゲのおっさんが一歩前に出てくるイメージで、存在感を雰囲気だけで醸し出した。

「茶番に付き合わせてしまい申し訳なかった。この度皆さんをお招きしたのは私の意向だ。この者は付き合わせたに過ぎない」

「何、若く美しくしかも素晴らしいご婦人方とお話できるなど滅多にないことですので、大変楽しませていただきました。それではゴード将軍、後はよろしくお願いします」

「心得た。ご配慮感謝する」

 そうしてエリート官僚が短い挨拶をして部屋から退出すると、さらにお付きの人や給仕も姿を消す。
 部屋にはオレたち4人と、顎髭のオッサンだけになる。ただ扉の向こうには、最低2人の魔力持ちの兵士か騎士が扉番として待機している。

 人払いが済むと、おっさんは一度椅子から立ち上がり、飛行場で見せたのと同じ膝をついた礼をとる。
 いよいよ本番と思って緊張したのに、意外すぎる展開だ。

「まずは皆様に深く感謝申し上げる」

「お礼は飛行場でお受けいたしました」

 ハルカさんも戸惑い気味のようだ。

「しかし理由をお伝えしておらぬ。貴殿らは、名も無き者として戦い『魔女の亡霊』に倒された我が部下達を、手厚く葬ってくださった。その事に対して、改めて深く感謝申し上げる」

 王都の『帝国』兵は全滅したと思っていたが、誰かが報告した上にあの後やって来て調べ上げた。もしくは再度調べた。
 つまり全部知っているのだ。
 おっさんの言葉は、その事も伝えていた。

 しかしおっさんには、オレ達をどうこうしようという雰囲気はない。当然だけど、陰謀や奸計を図ろうという雰囲気もなかった。
 頭を上げ椅子に座りなおすと、実直そうな顔で全員を一度見渡して再び口を開いた。

「さて、私は回りくどい事が苦手なので、単刀直入に申し上げる。貴殿らは、旧ノール王国の廃都ウルズで、何を見たのだろうか。
 また、我々が彼の地に派遣していた龍騎士らの最後について、何かご存じないだろうか。あれらは、私の部下だった。
 近隣諸国や神殿が手練れの疾風の騎士を遣わし、彼の地の亡者の鎮魂と鎮定に乗り出しているとも知らず、私の軽率な判断で向かわせ、そして得るものもなく散らせてしまった」

(オレ達が勝手に動き出した結果だから、国同士の情報収集などで分かる筈もないよな。けど、『帝国』の考えが分かってよかった。オレ達は亡者の鎮定を邪魔する奴を排除したってだけなわけだ。アクセルさんの仕事が早かったおかげだろう。マジ、グッジョブ)

 それはともかく、国や組織の建前など無視して、いきなり真っ正面から突撃されてしまった。
 ハルカさんも3人に目線を向けて、どう返答しようかと悩んでいる。

 こういう時は、場数も踏んでいて度胸の据わっているシズさんの出番なのかもしれないが、今の姿を含めて『帝国』相手に微妙な状態なので話を切り出せないでいる。

 そうした中で口火を切ったのは、ボクっ娘だった。

「そう、だったんですね。もう分ってるだろうけど、あなたの部下のほとんどを倒したのはボクです」

「彼らがどう戦ったかお教え願えないか?」

 自然、オッサンがボクっ娘に顔ごと視線を向ける。
 その雰囲気は、まるで懇願するようだ。
 そしてボクっ娘が小さく頷く。

「うん。……隊長さんともう一人の騎士は、すごく強かったよ。ボクだけじゃ勝てなかったと思う」

「手練の疾風の騎士にそう評していただければ、彼らも本望だろう」

 口先だけでなく、本気で言っているのが分かる。
 誠実というより、これが武人というやつなのだろう。少しでも見習えればと思ってしまう姿だ。

「でも、隊長さんと思う人は、地上からの魔法で倒しちゃったんだ。戦う以上、空で倒さなくちゃいけないのに、ご免なさい」

「天駆ける騎士が気にすることではない。敵手を全力で倒すべく策を用いるのも、また騎士だ」

「うん、そうだね。でも小細工は色々したよ。でないと勝てなかったからね」

 その後、ボクっ娘を中心にどう戦ったのかをしばらく話した。
 おっさんは時折質問を挟むだけで、それを淡々と聞いていた。
 そして終わるとすぐにも次の話題へと移る。


「若き疾風の騎士よ、本当にありがとう。それで、王宮で我らが見つけられなかった遺骸について、何かご存知ないだろうか?」

「空中戦で落としたうち2人は湖に落ちたから、遺体の回収は無理だと思うよ。あの後、落とした飛龍の方は腐龍に化けたけど、人の遺体は無かったみたいだから」

 そこまで言ったところで、ハルカさんがその後を継ぐ様に言葉を続けた。

「竜騎兵隊の隊長ともう一人の龍騎士は、別の場所に葬りました。地図等ありましたら、後でお教えいたします」

「ルカ殿かたじけない。また遅れたが、貴殿が鎮魂までして下さったものを暴く形になってしまい、謝罪申し上げる」

「いえ、戻るべき場所があるのなら、戻されるのが筋でしょう」

 そこでどうしても気になる事があるので、端っこで聞くだけだったオレは小さく挙手した。

「あのゴードさん、その騎士の人たちを含めた遺品なんですけど……」

「戦いに倒れた者の遺品を得るのは、戦場での勝者の権利。若い戦士殿が気にされる事ではない」

 拒絶するような言葉だ。
 ただ、オレの言いたいのはそれではない。もちろん、ちょっと気兼ねしてはいるけど、オレもそこまでこの世界に無礼ではない。

「違います。この後オレたち、手に入れたけど使わない魔導器や物品を売り払う予定だったんです。
 けど、せっかくだから引き取ってもらえないかと。もちろん相場の値段で構いません」

 その言葉に全員の視線が集まる。
 非常識なという目線。呆れた目線。その手があったかという目線。そして意外なものを見る目線。
 おっさんも目を見開いて驚いている。

「……あ、いや、失礼。その言葉は予想していなかった」

「すいません。不調法の常識知らずな言葉でしたよね。忘れてください」

「いや、早まられるな。もし叶うのなら、我ら、いや我が国にとって益のある話だ。
 それにしても、今まで身代金を載せた上でのそのような交渉はあったが、個人でこのような話は初めてだったので、いささか混乱してしまった。神々に仕えておられるだけある。
 貴殿らがそれで良いのなら、喜んで応じよう。またこの件に関しては、我が名において全ての補償・安全をお約束しよう」

 そこですかさず、オレに変わってハルカさんが会話を引き継ぐ。

「我が供の不躾(ぶしつけ)なお言葉に最大限お答えいただき、誠に感謝致します。
 それでは、今こちらが持っている物品をご用意しようと考えますが、時間と、どこかふさわしい場所、見定め人などご用意いただけますか?」

「心得た。……そうですな、叶うなら今すぐにでもお願いできるかな。それとここは商館なので、十分な謝礼金をお払いできるだろう」

 最後の言葉は、おっさんなりのジョークらしくニヤリと笑いかけてくる。
 少なくとも不快には思っていないようだ。
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