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第一部

114「宝探し(2)」

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「金銀財宝とは言わないけど、マジックアイテムが魔石だけってショボイねー」

「これだけあれば十分でしょ」

「まあそうなんだけど、何て言うかジミだし」

「ゴーレムを安置そして稼働させるための施設か、ゴーレムがこの遺跡にあった何かを守るガーディアンだったといった所だろう。埋めた上に城を造って封じ、伝承すら残していなかったのだからな」

「その辺でしょうね。けど、物色はほどほどに、ね。いちおうアクセルの国のものになるんだから」

「あうっ、そうだね。これ返した方がいい、よね」

 その事にようやく気づいた残念なオツムしか持たないヤツが、気まずそうにアクセルさんの顔を伺っている。
 もっとも、アクセルさんは爽やかな笑みだ。

「攻め寄せた諸国の軍を退けたほどの魔物を鎮定してくれた報償の一部としてくれれば、むしろこちらは助かるよ。
 あれだけの魔物は、例え一軍を用いたとしても我が国だけで倒す事は不可能だった。加えてあのゴーレムだ。それこそ大国の精鋭部隊が必要だろうね」

「大国と言えば、『帝国』との関係って悪くなったりするんですか?」

「隣国を巻き込んで戦争当事者などと言い張ってくれば別だけど、隠密で動いていたみたいだしその可能性も低い。勝手に侵入してきた賊と同じだから、少なくとも表立って文句は言えないだろうね。
 彼らの残した装備も、埋葬用のもの以外は我が国が接収などするより、皆で分けてしまった方が後腐れないだろう」

「『帝国』かあ。結局、何しに来たんだろう。何も言ってくれなかったね」

「映画やドラマじゃあるまいし、敵がわざわざ前口上言ってくれるのは、お話の中だけでしょう」

 ボクっ娘の言葉にオレはうなずきかけたが、ハルカさんがウンザリげに突っ込みを入れる。
 ボクっ娘の方も分かって言っている風だ。
 分かってないのは、娯楽物に毒されたオレだけだったらしい。ちょっと自己嫌悪入りかけてしまいそうになるが、ボクっ娘がさらなる言葉の爆弾を投げつけてくる。

「あ、そうそう。あっちの棺みたいなところに、クロが置いてあったっぽい丸い窪みのある思わせぶりな台座があったよ」

「えっ? クロは破壊された水晶の珠ごと、あっちの大広間の玉座で発見されているぞ」

「うん。それも、なんだけど、多分あそこから入ってきたんだと思うよ。魔女の時の本体もあそこを通ったんだろうね」

 シズさんにボクっ娘が指差した先には、壁に小さな穴があいていた。通気口くらいで天井すれすれなので、よほど注意深く見ないと分からない。
 大広間の方も、後で確認しておいた方がいいだろう。

「つまり、この場所は一度誰かが見つけているがゴーレムを放ったらかして、水晶だけ持ち去ったということか」

「多分ね。あと他のお宝もそうかも」

「しかしこの場所の事も、ゴーレムの事も一切記録には無かった。……それほど危険と判断したという事だろうか……水晶を地下の玉座に戻したのも危険と判断したのなら、それなりに納得できるな」

 シズさんの言葉で気づく事がある。誰もが気付いたことだろうが、あえて口にしてみた。

「その最初に見つけた時、盗掘者にゴーレムは反応しなかったんですかね?」

「動かなかったとなると、ゴーレムは守護者じゃなくて保管されていただけって事になるのね」

「じゃああのゴーレムは、魔女が勝手に動かしただけってこと?」

 ハルカさんの言葉に、シズさんが首肯する。

「そうなるな。私と分かれて逃げ出した後にでも見つけて、足りない魔力を自分のもので補って、さらに支配下に置いたと考えれば、それなりに納得できるな」

「それに、あのゴーレムよりキューブが古かったら、ゴーレムの制御とかエネルギー源にキューブを使ってたのかも」

「あり得るわね」

「私もその予測には賛成だ」

 そこでオレは、また一つの事に思い至った。
 このゴーレムが、戦争が起きるより前に見つかっていたらどうなっていたか、と。

 戦争を止める抑止力になったかもしれないし、逆に戦争を激化させる原因になったかもしれない。戦争でこの国が敵を撃退できたかもしれない。

 もちろん、不用意に動かして暴走して戦争以前に大惨事になっていた可能性だってある。色々な可能性があったことだろう。

 そして同じ事をみんな、特にシズさんも思い至ったようで、自然と全員が沈黙してしまう。空気も重くなってしまった。
 その空気を払拭するように、遠くから元気な呼び声が聞こえてきた。
 全員が安堵したようにその声に反応する。

「向こうで呼んでない?」

「ジョージさんの声だ」

「じゃあ、死に損なったなって突っ込めるね」

 ボクっ娘が嬉しそうに言って、「おーい!」と叫びながら広間の方に駆け出していった。それをオレ達も追いかけるが、広間にマリアさんたちの姿はなかった。
 声は上から聞こえてきていたからだ。大広間に戻って見上げると、崩れた天井の片隅から4人が顔をのぞかせている。

 そしてお互いに手を振り大声で応えあうが、ボクっ娘以外は男ばかりが怒鳴っている状況に、すぐにも女性陣がウンザリしていまい、オレたちと同じルートで降りてくることになった。

 穴が空いたのだから飛び降りればいいと一瞬思ったが、戦士職じゃないとそこまで身軽ではないことを思い出したので、危うく言わずに済んだ。


「すげー。ヤバいでかさのゴーレムだな。魔女よりヤバかったんじゃないのか。どうやって倒したんだ?」

 ジョージさんが、ゴーレムの残骸の石を手にとって心底感心している。レンさんも似たような感じだ。

「『轟爆陣』で天井崩して、瓦礫でペチャンコだね」

「『轟爆陣』単体でダメだったの?」

「天井崩す時、一緒に一部は破壊出来たけど、直撃させただけじゃダメだったと思うわ」

「質量攻撃か。作戦勝ちだな」

「まあ、命知らずな攻撃の結果だけどね。全員生き埋めの可能性もあったし」

 マリアさん達への応答の最後に、ハルカさんが肩をすくめてオレに視線を向けている。
 なんだか後から怒られそうな目線だ。
 そして他の人の目線だけど、ゴーレム以外にも関心が向いているようだ。
 当然だろう。狐娘が一人増えているのだ。

「ゴーレムは分かったけど、そちらの獣人さんは?」

「彼女は『魔女の亡霊』に捕まって、意識を無くした状態で魔力を利用されてたみたいなの」

 女性陣が考えた設定だ。さらにシズさんは話さず、なるべく怯えた演技をしてもらう。
 今も言葉に合わせて、小さくうなづく仕草を見せている。
 果たして受け入れられるだろうかと思ったが、十分納得しているみたいだ。

「なるほど。それで生きたまま捕まってたのか。『帝国』軍の捕虜にしてはおかしいもんなー」

「生きた魔石か。酷い事するな」

「私たちも助けて驚いたわ。それと『帝国』の捕虜はいないわよ」

「だろうな。上での見た感じ炎の魔法の傷が多かったが、全員『魔女の亡霊』が倒したのか?」

 ここまで来たのなら、全部見てきている事だろう。
 そして戦いの後も、ほぼそのままなので隠しようもない。

「いいえ、何人かは私たちが倒したわ」

「もう敵はいない、で間違いない?」

「奥まで調べたけど、ネズミ一匹いなかったよ」

 そこでジョージさんとレンさんが、ガッツポーズの後でグータッチで喜びを現している。
 そして二人が、こっちを見てハモる。

「「ミッション・コンプリート。で、お宝はあったか?」」

 それに対してオレは、魔石の束を見せてニヤリと笑う。次いで、傍から首を出してボクっ娘も加わる。

「これっぽっちですけどね」

「もっとあるよ」

「おー、でかい魔石ばっかりだな。全部オートチャージ可能なやつか? だが、お宝ならこっちもあるぞ」

「お、なになに?」

「いい反応だ。実はレナさんじゃないと、お宝にならないもんなんだ」

 レンさんの言葉にボクっ娘が反応する。目の煌めきが違うって感じだ。

「テイムのご用命ってことだよね。何捕まえたの?」

「まあ、急ぎなさんな。オレたちの武勇伝もちったあ聞いてくれよ」

「ドラゴンゾンビ以外に何がいたの?」

「けっきょく、戦ったのはドラゴンゾンビだけだったんだけど、死んだ他のドラゴンの龍石を幾つも食ってたから、やたらしぶとかったんだわ。日数開けてたら他の龍石が定着して、ヤバい事になってただろうな。今日でよかったぜ」

「ホラ、龍石もこんなに」

 言葉とともに、レンさんが袋の中から幾つもの龍石を手に取って見せてくれた。

「初手のマジクッミサイルの集中攻撃に耐えたのもこのせいね」

「あの後も、全力で大立ち回りさ。それでも何とかごり押しで倒して、他に何かいないか調べて、最後にあいつが出てきた神殿の中を調べてみると、何とその中に……」

「ボクがライダーだけ倒した飛龍がいたんだね。船か国に戻してないって事は、他にテイマーもキーパーもライダーもいなかったんだ」

「まあ、そういう事だ。そのまま神殿に閉じ込めてあるから、後で頼むわ」

「え? 今から行くよ。可哀想じゃない。じゃあボクは、飛龍をテイムしてくるね。『帝国』に返すと、1年は遊んで暮らせるぐらいの礼金が貰えるんだよ~」

「返すって、戦った当人が連れて行って大丈夫なのかよ」

「大丈夫大丈夫! 残ってる目撃者はボク達だけだし!」

 ボクっ娘は、かなり不穏当な事を叫びながら、崩れた瓦礫をぴょんぴょんというイメージで地上に飛び上がっていった。
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