上 下
108 / 528
第一部

108「勝利」

しおりを挟む
 その後、ハルカさんがさらにオレにも治癒の魔法を施し、取りあえず一息つくことができた。
 しかし和んだ雰囲気も長くは続かなかった。
 調べようと動き始めたところで、瓦礫の下で粉みじんな筈のゴーレムのいた辺りが、突如振動を始めたからだ。

 全員に再び緊張が走り、まずはいったん後ろに後退しつつ、出来る限り戦闘態勢を整える。
 とはいえ、全力で戦闘できるのはボクっ娘一人だけ。
 そのボクっ娘は、肩に掛けていた大弓を取り矢をつがえる。

 けど、相手が頑丈なゴーレムだと、弓矢で太刀打ちできるのかというとかなり期待薄だ。
 その上、ハルカさんは魔法のを使いすぎで疲労が顔に出ていて、オレとアクセルさんは傷を塞いだけど身体の動きや体力が完全に戻っているわけではない。

 ゲームのように回復魔法一発で元気になれればと、ラチのないことを思ってしまう。

「あーっ、クソっ! 第三形態なんてゲームの中だけで十分なんだよ」

 オレの脳内妄想が、つい口に出てしまう。
 超焦りまくりな証拠だ。ボクっ娘ですら、冷や汗を浮かべてツッコム余裕がない。
 しかしゴーレムが復活という事はないらしく、ゴーレムの胸の辺りの岩がガタガタと揺れている。
 何かが出てこようとしているようだ。

「まだ倒しきれてなかったのかな?」

「分からない。けど、まだ魔導器はたぶんあの辺りだと思う。さっきゴーレム全体に薄く感じていた魔力を強く感じるわ」

「あちゃー、魔女の本体か。よしっ、魔力相殺でいいなら、さっきも言ったとっておきが1本あるから、出てきたらボクが一番魔力の大きいところを狙ってみるよ」

「無傷はレナだけだし頼める?」

「胸を叩いて請け負いたいところけど、ボクのは一点破壊系だから急所が一つじゃなかったら厳しいんだよね」

 ボクっ娘の言葉で、即座に作戦という程でもないものを組み上げる。

「じゃあ二段構えでいこう。まずはオレがツッコんで魔法の防御ごと魔女を叩き斬る。それでダメなら、レナが一番ヤバそうな一点破壊を頼む」

「りょーかい。でも、ボクをあんまりアテしないで、ショウが決めてね」

 そう言いつつも魔法の逸品らしい矢筒から、先ほどもチラッと見せた魔法の矢っぽいものを一本抜き出している。
 オレも負けてはいられない。最低でもヤツの力場を砕くのはオレの仕事だ、と思いつつ数歩前に出る。

「ショウの守りは私が。多分、一回、数秒なら防具と魔法でかなり耐えられるから、ちゃんと決めてね」

「ああ、ヤツの本体が動き出したら勝負だ。ヤツをゴーレムの中から引っ張り出せば何とかなるだろう」

「ええ」

「頼むねー」

「残念だがボクは戦力外だ。レナの防御に専念させてもらうよ」

 ジリジリと前に進むオレに、ハルカさんが並ぶ。
 アクセルさんは、大きな弓を構えるボクっ娘の前でガード姿勢に入っていく。
 ボクっ娘の弓矢も、何だか魔力を充填中らしく、どんどん光が増している。効果音すら聞こえてきそうだ。それに、オレの能力というものとは少し違う感じだ。

 そうして待ち構えていると、瓦礫の山からパラパラと破片が落ちる。
 そして来ると思った瞬間、瓦礫の中心部が弾け、魔力の奔流が瓦礫と同じく瓦礫となったゴーレムの隙間から吹き出す。
 さらにその奔流は、二つの鋭い先端部を形成する細長い竜巻を形成して、触手のように襲ってきた。
 まるで魔物のようだ。
 それ以前に、『魔女フレイア』はまだ滅びていなかった。

「チッ! しつこいヤツだ!」

「ホント! けど、向こうから、岩の中から出て来きてくれるみたいよ。もてるわね!」

「シズさんなら大歓迎だけどなっ!」

「へーっ、そうなんだ。ま、今は許してあげる」

 ハルカさんと減らず口を叩きつつも、オレは一身に魔力の奔流の中心部だけに意識を集中させ、魔女の本体が姿を現すのを待つことにした。
 なぜなら、先端が槍のように尖った魔力の奔流の一撃目は見当違いの場所に直撃していたからだ。

 どうやら、何らかの方法でちゃんとこっちの姿を認識なり確認をしなければならないらしい。
 だから本体が出てくる必要があるのだろう。
 ハルカさんも同じ考えらしく、一瞬交わした視線で互いの意志を確認しあう。

 だから、もとゴーレムの瓦礫が崩れ、黒い影がユラリと姿を見せる瞬間、オレ達は一気に駆けた。
 オレが攻撃、ハルカさんが防御。一人なら無理かもしれないが、二人ならという気持ちが二人の動きをシンクロさせ、寸分の狂いもなく瓦礫の中の魔女本体へと一気に肉薄する。

 穴から顔を出してオレ達を確認したと思われる魔女は、ここまでアクティブな行動を予測していなかったのか、寸前で放たれた魔力の塊の槍はどこか狙いが定まっていなかった。

 数本放たれた黒い槍のような魔力を束ねたトルネードは、一本がさっきまでオレの右足があった足下、一本がハルカさんの左脇すぐを通り抜ける。
 彼女の鎧が放つ魔力と激しくこすれ合う魔力の輝きが見られた筈だ。

 さらに二本は、オレたちが素早く移動していたので見当違いの所に投射された。
 そしてド本命らしい一本がオレの恐らく心臓あたりを捉えていたが、そこには一点集中した彼女の鉄壁の防壁があった。

 魔力と魔力が激しくぶつかり合う派手な煌めきが起きるが、オレはハルカさんを信じてその先を見据え、まずは左足を前にして軸に据え大きく愛剣を構える。

 その間も別の魔力の奔流がオレ達二人を襲い、二人とも身体の各所に小さな傷を作るが、もう遅い。

「うおおぉぉっ!」

 辛うじて人の姿を留める程度にまで原型を崩している魔女に、大上段から西洋剣術で最も強力な斬撃の型で振り下ろす。
 大上段から振り下ろす基本中の基本の技だけど、これで十分だった。
 なぜなら、オレ達は力場を割るのが役割だ。少し残念だけど、トドメは後ろで狙いを定めている筈のボクっ娘の仕事だからだ。

 そして魔力を込めたオレの一撃で、本来魔女を守るはずの強固な魔力の防御壁が、針で突かれたシャボン玉のように割れて瞬時に拡散していく。

 しかし次の瞬間、魔女の右手が少しだけ動いた。

 そこには、見た目が複雑な文様の入った漆黒のキューブを核とした15センチくらいの水晶玉が握られていた。
 中身がなければ占い師が使いそうな大きさだけど、恐らくこいつが『魔女フレイア』の実質的な本体だ。

 そして不意に不視線な動きをした右手は、上方から斜めに振り下ろされていくオレの剣の交差線上にあった。

(きっとシズさんが……)

 魔女本体の不自然な動きに対してふとに思った時には、剣先は水晶玉を一瞬半分にしたあと粉々に砕き、そのまま持っていた右手の半分を切り裂いていく。
 これでオレは一瞬無防備になるが、まだ続いている魔力の嵐に対して、ハルカさんの盾がオレを完全に守っていた。

 次の瞬間、「避けて!」という後ろからの鋭い声のすぐ後に、激しい光芒を放つほど魔力を帯びた矢が衝撃波と共に通り過ぎる。
 そしてオレとハルカさんが左右それぞれに飛んでそれを避けて着地する瞬間、水晶が命じた最後の攻撃命令を果たそうとしていた魔力で作られた魔女の体を、輝く矢が大砲の砲弾のように豪快に貫いた。

 確実に相手を捉えて貫いたと思える一撃だ。

 いまだ警戒を解かない四人の前で、魔女が断末魔の叫びのような魔力の軋みを産み出し、そしてその魔力の塊が一気に周囲にはじけて拡散する。

 それが『魔女フレイア』の最後だった。

 水晶が砕けた時点で勝負はついていたのかもしれないが、実に分かりやすい断末魔だ。

 魔女の体が拡散すると、空間の中の魔力の密度が急速に低下し、重苦しかった空気が一気に軽くなるのを感じる。
 これは魔法で天井に大きすぎる風穴を開けたのだけが原因ではない。
 思い返せば、あのときはまだ独特の重苦しさは無くなってはいなかったからだ。


(最後だけお約束な演出するんなら、他にももっとサービスしてくれればいいのにな)

 下らないことを思える程度に警戒を解いたオレは、ゆっくりとみんなの様子を見回した。
 ハルカさんは、小さな傷がそこかしこに出来ていたが、オレも似たようなものだった。

 アクセルさんは、文字通りレナの盾となったらしく、大きな盾はボコボコ、騎士らしい頑丈そうな鎧もそこかしこが吹き飛んだり、衣服が血でにじんでいたりする。
 後ろなので見えてなかったが、魔女からかなりの攻撃を受けていたみたいだ。

 最後に弓を射ったボクっ娘も、小さな傷がそこかしこに出来ていた。ただボクっ娘の場合は、基本的に軽装過ぎるのも原因だとオレは思う。

 そしてよく見ると、他の三人もそれぞれがそれぞれを見ている。そして全員の視線が、魔女の最後の痕跡があった場所に注がれる。
 もう月並みな言葉、お約束と笑われる言葉しか出てこない。

「滅んだのか?」

「恐らく」

「だよね。でもそれ死亡フラグっぽい」

「気配は完全に消えているわ」

 もうしばらく息を飲んで様子を見守るが、何の動きもない。
 強い魔力も、気配も感じられない。今度こそ終わったと思われた。
 倒したのだと言う実感が、ジワジワとこみ上げてくる。

 最初に歓声を上げたのは、やはりというかボクっ娘だった。

「いーっやったーーっ! コングラッチレーションズ!!」

 口笛を吹いたり、アクロバットしたりと忙しい。それを見て他の三人も笑いあう。
 ボクっ娘の、ゲームのアカペラの効果音につっこむ事も忘れない。

「いや、レベルアップは流石にないだろ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...