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第一部

096「乱獲クエスト?(2)」

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 ジョージさん4人組が主に会話しつつ、陣形などを整えていく。
 ハルカさん、アクセルさんも何も言わないが、マリアさんは指揮が手馴れていたからだろう。

「ハルカ、サキ、レン、遠距離からプチ蹂躙戦をしましょう。乱戦は避けたいわ」

「さっそく龍玉が役に立つ上に、明日には魔力も回復するから使い放題だな」

「じゃあ、サキさんこれ使って」

「はい」

 ハルカさんからサキさんに大きい龍玉が渡される。
 大きな魔石は、実質的に魔力を簡単に融通出来るので便利だ。

「それじゃ、遠慮なくいきましょうか!」

 会話はやはりマリアさん達が主に話してばかりで、オレとハルカさん、そしてアクセルさんはそれに従っている感じだ。
 そしてそれなりに警戒しつつ接近していったのだけど、モンスターの群れはドラゴンの死体に注意が向いているらしく、こっちを警戒するどころか気づいてすらいないようだ。

 けどいい加減頭数が多いので、一応ハルカさんにお伺いを立てることにした。

「なあハルカさん、アンデッド村の時の爆発魔法ってできる?」

「轟爆陣? アレは準備もいるけど、専用の触媒か最低でもけっこうな量の水がいるのよね」

「ハルカさんって『轟爆陣』使えるのか?!」

 ジョージさんは、かなりの驚き顔だ。

「ええ。魔力も自力だとギリだし、事前準備とかも必要だから半人前だけどね」

「それでもヤバいな」

「大賢者デイブの弟子なんですか?」

 サキさんの声は、どことなく羨ましいという声色だ。
 名前はアレだけど、大賢者デイブは相当高名な魔法使いなのだろう。

「いいえ、ちょっと知り合いだから教えてもらっただけ」

「デイブなら、ハルカだけじゃなくて私も知り合いよ。何年も顔見てないけど」

「トモダチではないんでしたね。それでいけそうなんですか?」

 サキさんは、話しつつ何か考えている感じだ。
 自分もゆくゆくは紹介してもらって覚えようとか思っているのかもしれない。

「触媒は一回分しか残ってないし、準備的にも今は無理ね。その代わり、どんどん串刺しにしていくから」

「たのんまーす」

 その言葉の辺りからエンゲージを開始したので、まずは最も遠距離攻撃ができるハルカさんの『光槍陣』と、サキさんの『旋風刃』が飛んでいく。
 サキさんは気圧操作系、いわゆる風系魔法の使い手だ。
 またマリアさんの魔剣『炎刃』も、遠距離投射が可能だった。

 『光槍陣』は一応避けられるが、遠距離でもこの速度を避けるのは至難の技だ。あまつさえ魔物は全部背を向けているので、避けられる筈もない。
 しかも相変わらず脅威度の高そうなやつに向かっていって、ほとんどを一撃で急所を射抜いていた。

 『旋風刃』は『旋風』の上位呪文のサード・スペルで、一直線上に並んでいる目標を全て強力なカマイタチで切り裂いていく。
 本来はそれほど長射程ではないが、増幅して距離を伸ばして魔法を放っていた。
 そして一応は避けられる魔法だけど、避けろという方が難しい相談だろう。

 マリアさんの魔剣は、普通は剣に魔法で生み出した灼熱化させた魔力による炎をまとわせて斬りつける。
 創作物でもよく見かけるようなイメージの派手目の魔法で、さらに期待を裏切らずその炎を剣を大降りすることで遠距離まで刃の状態で投射できる。見た目も派手だ。

 しかも魔法の炎が刃の形に圧縮されているので、横薙ぎか一線上のものを切り裂くように突き進んで行く。
 威力を重視する場合は一線で、攻撃対象が多くそして弱い場合は横薙ぎで放つ。
 今回は横薙ぎで、こちらも頑張れば避けられるが、低位の魔物程度が避けられる技量と速さではない。

「お見事!」

「オープンフィールドは、遠距離戦できるから戦いやすいな」

「こっちもじゃんじゃん行くぜ!」

 最初の一撃で100体以上いたうち3分の1近い魔物が倒され、流石の魔物達もこっちに気づく。
 しかし統率は取れておらず、バラバラに近づいてくる。
 それをレンさんの弓が、脅威度の高い順から狙い撃つ。

 遠距離戦自体には、魔法の一撃を終えたハルカさんとマリアさん、サキさんも連射しやすいマジックミサイルで加わり、面白いように魔物が次々に打ち抜かれていく。

 一見弓の意味が低いように見えるが、よく見れば弓の方が的確に望んだ敵を射抜いている。
 マジックミサイルは、乱戦だと結構適当に当たっている。

 その間接近戦をするオレ、アクセルさん、ジョージさんが後衛を守るように相手に近づき、故意に残されて突出してきた魔物を順番に倒していった。
 それほど強い個体はなく、後からドラゴンの死骸に近づいてきていた魔物の群れも各個撃破していく。
 ドラゴンがゾンビ化でもしたらヤバいが、そうならないようの措置はもう取ってある。

 そうして、わざと残した3つ首を近接戦担当の3人で囲む。
 後衛にもマリアさんとサキさんが陣取る。ハルカさんとレンさんは、それぞれ単独で残っているザコ敵を掃討してまわっている。

「いちおうアレが、ここのボスでいいんだよな」

「その割には微妙な感じですよね」

 みんな微妙な表情を浮かべている。
 オレも同じなのだろう。

「その場限りの合成獣系の魔物なんだろうけど、よく分からないね」

 アクセルさんまでが、肩を竦めそうだ。

「ライオンもドラゴンもイーグルもないな。キメラというより鵺か?」

「虎要素もないだろ」

「どっちかというと草食獣系よね。真ん中が山羊で胴体が牛だし」

「蛇要素はありますね」

 前衛3人の会話に、気がついたら後衛も参加してきた。
 魔物が減ったので、後ろにいる意味もなくなったからだ。
 そして雑談になっているように、澱んだ魔力のせいで魔物になった獣が複数くっついてしまう事は、珍しい事ではない。

 そしてサキさんの言う通り確かに蛇は要素はあったが、尻尾じゃなくて胴体から無規則に生えていた。
 頭は三つあるが、狼、山羊、熊と微妙なラインナップだ。胴体は牛っぽいが、前足は熊だろう。というか、足は6本ある。

 言い合いながら相手の出方を見ていたが、魔物は劣勢を自覚しているのか護りを固めている感じがする。

「埒が開かないわね。魔法を仕掛けてみる?」

「いや、せっかくだしオレが先に突撃して戦場を固定するから、接近戦メインで行こうぜ」

「バカジョージ、そう言って前もやられてたでしょ」

 サキさんの言葉が終わらないうちに、ジョージさんが剣と大きな盾をかざしつつ突っ込んでいく。
 それに対して微妙な姿のキメラが攻撃をしかけるが、ジョージさんが全ての攻撃をガッシリと受け止める。
 その前に、サキさんの防御魔法と能力向上魔法もジョージさんに飛んでいく。

 ただ流石に手数の多い魔物なので、一人では短時間しか止められないように見える。
 そこでオレとアクセルさんが左右から突撃して、それぞれ首を一つ相手取る。

 見た目はアレだけどかなりの力で、これが普通の人が戦っていたら、それぞれの首や腕の一撃で複数の人間を倒す事もできただろう。
 しかし魔物にとって相手が悪く、左右の首はすぐにも致命傷を受けて動きを止めてしまう。

 なまじ1つの体に3つの首があるより、3つの魔物に分かれていた方が脅威だっただろう。
 胴体に不規則に生えている蛇は面倒くさいが、中途半端な場所に生えているやつが多いので、相手にしなければいいだけだった。

 けっきょく、攻撃魔法なしに蛸殴りで倒せてしまった。

 中盤からはマリアさんも接近戦に加わって、止めはマリアさんがサバトで使うより不気味な感じの山羊っぽい頭を、格好よく炎の魔剣で跳ね飛ばすことでケリがついた。


「これ見て」

 戦闘が終わった直後、サバトで使えそうな山羊の頭を軽々と掲げたマリアさんが全員に声をかける。
 悪魔の儀式にでも興味があるのかと思ってしまいそうだけど、首を持たない方の手で指差す先を見ればそうではないことが分かる。

「不自然な魔石が強引に付けられているわ」

「初めて見るな」

「龍石……龍核に近いわね」

 言いながらみんながその不気味な首を囲む。
 まるで儀式でも始めそうな絵図だ。

「サキ、鑑定できるか?」

「おおよそぐらいならいけると思う」

 そう言って魔法陣二つが現れ、鑑定魔法を行使する。

「操作系の魔法が封じられているわね。魔法自体はまだ発動中」

「操る方?」

「両方だと思います。これを付けたヤツを操って、さらに周りを操るみたいな」

 その言葉で、話を聞いていた全員が納得した。
 魔物が群れていた原因が分かったからだ。

「凝ったことする奴もいたもんだなって、そりゃ『帝国』軍の仕業だよな」

 ジョージさんの声は少し腹立たしげだ。

「こいつを使って、地上でも通せんぼしてたのか。けど、前来た時は王都への道中、そんなに魔物も出なかったよな」

「オレらの時は、大物はいなかったけどウジャウジャ出ましたよ」

「つまりショウたちが来る頃にこいつは放たれて、周辺の魔物を操って通せんぼしてたって事になるわけだね」

 オレの言葉を受けて、アクセルさんが妥当な答えを導き出す。

「どおりで苦労させられたわけだ」

 そしてアクセルさんの答えに、思わず溜息まじりの愚痴が出た。
 そしてちょうどその時、少し遠くの雑魚を片付けていたハルカさん、レンさんも合流してきた。

「おつかれー」

「何かあったの?」

「こないだ、オレ達に魔物がやたらと襲ってきた原因の一つが分かったよ」

 そして事情を説明するとハルカさんも一応は納得した。

「なるほどね。けど、レナの時はどうなるのかしら?」

 しかもオレと違ってメンタルにダメージは受けてない。
 やっぱり場数の違いかタフだ。オレも愚痴る気が吹き飛ぶほどだ。

「タイミング的に、王都に向かったのはオレたちとジョージさんたちの間になるよな」

「魔物の障害を置く前に入って、『帝国』が何か始めた時に王都に入り過ぎそうになったから、もっと怖い連中が出張ってきたってところかな?」

「レナも災難だったな」

「ボクがどーしたってー?!」

 話していると、ボクっ娘も空から合流してきた。
 そして豪快にかつ優雅にヴァイスがその場に降り立つ。

「うへーっ、乱獲クエストでもしてたの?」

「ドラゴンの死体に魔物がたかってたと思ったんだけど、ドラゴン倒したオレたちをやっつけに魔物の群れが来たみたいだ」

 そして残念キメラについて、同じ説明をボクっ娘にもすると「ゲーっ」て顔になる。

「ボク、ちょーアンラッキーじゃん。それより、乱獲クエストするなら呼んでくれてもよかったのにー」

「ひがまない、ひがまない。分け前はあげるから」

「いやいや、何もしてないのにもらえないよ」

「じゃあ、倒した証拠集めを手伝ってちょうだい。それなら分け前ももらってくれるでしょ」

 その言葉で倒した魔物の一部分の収集が始まる。
 魔物は数日で消えて無くなるが、本体から切り離した一部は残る事が多く、相対部位が魔物の報奨金が出ている場合の証拠とされる。
 また部位を取るついでに、大型や強い魔物の魔石収集も行う。

 それをしているとそれなりの時間がかかったが、その日は早めに就寝して明日朝早く前進を開始することとなった。
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