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第一部

092「再前進(2)」

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 その日の夕方、改めて作戦会議が行われて方針が変更された。
 大きくは、周辺のモンスター退治をする隊。王都、そして王宮への道中を確保する隊。そして王宮に突入する隊の3つに分けることとなる。

 この際、道中を確保する隊は、ある程度王都で手に入れたお宝の分配対象とすることで了承してもらい、領主のアクセルさんからは倒した魔物の数に応じて国が報奨金を出すことになった。

 『ダブル』一人は熟練の兵士10人かそれ以上に匹敵すると言われるから、そんな連中が10人以上も魔物を倒して回ってくれるのなら、国としてはウェルカムな状況らしい。

 ちなみに『ダブル』たちが勝手に定めたランクが1つ違うと、どんぶり勘定ながら5倍の戦闘力差という事になる。
 つまりAランクだと、Dランクの兵士125人に匹敵することになる。
 そして『ダブル』はC、Bランクが中心で、Cだとこの世界の完全武装の騎士に匹敵する強さというのが曖昧な評価基準だ。

 そしてこの世界の騎士は、たいていは弱いながらも魔力持ちなので、常人より高い身体能力を持つから相当に強い。
 そしてそれに匹敵するか上回る『ダブル』は、この世界での騎士や兵士の精鋭かそれ以上という事だ。
 『ダブル』の約半数がBランク以上と言われるから、諸外国からは脅威として見られている。

 それはともかく、加えて突入前の情報収集と少しでも空の脅威を減らした方が良い考えられたので、予定通り空からの偵察を続けて行う事になった。
 しかし地上からの移動との連携するのが目的で、今まで最も進んだ王都手前の神殿辺りまで地上を進んだ後と決まった。



 かくして最初の空中偵察から3日後、オレたちは王都ウルズの道中で最後の安全地帯となる神殿にまで再びやってきた。

 2日の猶予があるので移動は1日前から行い、もう1日かけて準備と部隊の集合を行う。
 報奨金の話が出たので、尻込みしていた『ダブル』も大半が参加することになり、アクセルさんの国の兵士達と合わせると50人くらいの数になった。

 しかも日を置けば、さらに倍近い『ダブル』が周辺から集まるという話だった。
 加えて、旧ノール王国のアースガルズ占領地域の兵士の一部も魔物の鎮定や輸送に動員できる事になったので、最終的に100人以上が関わることになる。

 そして『帝国』への牽制として、アースガルズがノール王国占領地の本格的な治安安定化と、王都への再入城への足がかり作りに乗り出したという話を、アクセルさんの実家から国に働きかけて正式に布告してもらうことになった。

 とはいえ布告には相応の日数が必要なので、取りあえずはその噂を先に流した。
 しかしこれで『帝国』が王都から引いてくれれば楽になるし、オレたちの今までの行動もその一環ぐらいに考えて、個人的に警戒されないのではと考えられた。

 それでも神殿に入るまでに、神殿に監視がないかを調べた上で神殿に入ったのは夕方以後なので、『帝国』軍には気付かれていない筈だ。
 そして神殿に監視がないという事は、監視に割く戦力がないか必要性を認めていないかという事になる。

 あともう一つの可能性として、何らかの理由ですでにこの地からいなくなっているというのも考えられた。
 どうなっているかは、翌朝早くに空から王都上空まで偵察した上で判断する事になる。

 地上からの偵察案もあったが、ボクっ娘がやる気だったこともありまずは空からの偵察を行い、それでも情報が不足する場合に再考することとなった。


 そうして再びやってきた健在な神殿がある廃村には、オレ達が最初に来た時より後にアクセルさんが兵士と補給隊を入れていたので状況が改善していた。

 オレ達やマリアさんたち、そしておそらく『帝国』軍が周辺の魔物をかなり倒していたので、神殿と神殿まで来るまでの安全性が上がっていたおかげでもあった。
 神殿近辺の魔物の数も、大きく減っていた。

 そして神殿の建物は小さいので、廃村の比較的無事な家屋の壁などを利用して天幕が作られていて、ちょっとした軍隊が野営する感じになっている。

 なお、神殿まで来たのは、オレたち3人、アクセルさん、マリアさんたち4人、それにアクセルさんの部下が5名。他に戦力外の従者や荷物運びの人が数名。

 最後の人たちには、通り過ぎてきた村などを行き来しているので人数が変わる。他、戦力外の人たちの移動の際の護衛として数名の兵士が来ている事もある。
 馬車も3台が廃村に入ったので、物資はさらに豊かになった。

 そしてオレたち3人と見届け人を兼ねるアクセルさんが王宮に突入し、マリアさんたちが王都で退路と道中の確保をすることになっている。
 ただしマリアさんたちは、状況によっては王宮まで突入する。
 また、アクセルさんの部下は実力が足りてないので、アクセルさんの命令で突入には加わらず神殿に近い場所での道中確保に当たることになる。



「それで今日の空からの偵察だけど、十中八九『帝国』軍は警戒しているだろうね」

「じゃあ中止する?」

「あのシフトから見て残りは最低4騎いるから、空から襲われたら厄介だよ」

「ドラゴンだけじゃなくて、探知系の魔法でも警戒している可能性も高いでしょうね」

「迂回しても、王都上空あたりで待ち伏せている可能性が高いだろうな」

「ボクだったら、上と下から挟み撃ちだね」

「……逆にこっちが挟み撃ちできないかな?」

 誰かの言葉にボクっ娘が答える形での会議の途中、オレの何気ない一言に注目が集まる。
 多くは素人が何言ってるんだという顔をしている。

「地上と空から? 地上からはあんまり移動できないけど、どうやっておびき寄せるの?」

「襲われた後、逃げる振りしておびき寄せる、とか。ダメかな?」

「それだとボクとヴァイスの演技力にかかってるなー。でも面白そうだね」

 ボクっ娘はかなり乗り気だ。しかし地上攻撃組となる人達の反応は今ひとつだ。

「弓だと、魔力増し増しでも『帝国』の大柄な飛龍に一撃で致命傷は難しいぞ」

「魔法使えるのが3人もいるんだし、マジックミサイルの乱れ撃ちってのは?」

「マジックミサイルの射程距離は意外に短いのよね」

「低空におびき寄せるのは難しくないよ」

「そうなのか?」

「低空はボクらが苦手だってのを、トカゲの乗り手たちは知ってるだろうからね」

 飛ぶ当人が面白いと言った事で議論も活気づく。
 結局、空からの偵察も出すことになった。
 そして偵察で襲われた場合、空中戦で倒せればよし。逃げれてもよし。無理なら、低空におびき寄せる作戦を行う事に決まる。

 地上で待ち伏せは、神殿から数キロ離れた小さな尾根状になった場所の王都の反対側の灌木などに伏せて待機。弓も魔法もありったけ叩き付ける段取りとなった。

 そして空からそれなりに分かりやすい目印も決めておく。
 また待ち伏せる場合に備えて、サキさんが視力を大きく拡大する魔法があるので、こちらよりずっと早く状況を捉えて準備することになる。

 あとはさっさと飛び立つだけだ。
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