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第一部

084「仕切り直し(2)」

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「なるほどね。けど、シズさんの言ってたマジックアイテムが、とんでもない価値か危険性があるって証拠だよな」

 仕切りじゃないけど、アプローチを少し変えた言葉を投げかけてみる。

「そうだよねー。シズさんにも会って詳しく聞いとかないとね。そっちはよろしくショウ」

「了解。けど、ややこしいなあ。天沢に話聞いてもらった方が話し早いだろうに、何とかならないのか?」

「何度も試みてはいるんだよ。でも、それが出来たら苦労しないってとこだね」

 渋い顔をしているし、言葉に嘘は感じない。
 それに変に考えると、天沢が一気に少し面倒くさいヤツになってしまった気がするので、オレとしても苦笑しかない。

「シズさんかー。私はこっちでしか会えない上に、敵として会わないといけないのよね。お礼の一つも言いたいのに」

 ハルカさんが、心底残念そうに口にする。
 オレとの事を言っているんだろうけど、それはオレが伝えればいいだろうと思う。もっとも、それを言おうとしたところに、ボクっ娘が余計な事をのたまう。

「そうだよねー、今のシズさんってある意味、今回のボスキャラだよねー」

「あのなぁ、何て事言うんだ」

「ジョークに決まっているでしょ。でもショウって、他人の厄介ごと背負い込んでいくタイプ? ボクといい、ハルカさんといい、シズさんもそうだし。実は変な主人公属性持ちでしょ」

 そう言って覗き込むように、ぐーっとズームしつつオレを見てくる。

「主人公属性って……」

 ハルカさんが、すげーうさんくさげにオレとボクっ娘を交互に見ている。オレ悪くないのに。

「いや、そんな事はない筈だぞ。それにハルカさんに逢うまで、女子とこうして話す事すらほとんど無かったし」

「フーン。それよりさ、どうする?」

 オレに話を振ったくせに軽く流して、一転して真剣な表情を向けてくる。
 そうするとボクっ娘らしさが消えて、歴戦の戦士のような風格すら出てくる。

「どうするも何も」

「また『帝国』軍が邪魔というか、魔女退治かお宝獲得競争に関わってくるのよね」

「一昨日みたいに絶対邪魔するね、あいつらは。無口だからよけい怖いよ。お話上の敵みたいに、ペラペラと悪事を喋ってくれればいいのに」

「そんなおバカならやりやすいよなー」

「それより、地上ルートとなると戦力欲しいわね。『帝国』軍もそうだけど、魔物との遭遇が続いたら着く前に消耗するわ」

「とはいえ、こっちは三人。しかも地下や建物だと、一人は戦力激減だもんなあ」

「あ、馬鹿にしたな。ヴァイスがいなくても、けっこうやるんだぞボクは」

 ボクっ娘が、弓を射る仕草をする。
 確かに『帝国』の兵隊に追われていた時の弓は、かなりの腕前だと素人でも分かる程だった。

「じゃあ、期待させてもらうよ。けど、三人ってのは変わりないだろ。三人じゃ厳しいだろ」

「そだよねぇ。……そう言えばさ、ショウって本当にビギナーなんだよね」

「ああ、前兆夢無しの一月半ほどかな。それがどうした?」

 そこでボクっ娘は、不思議そうな顔をする。

「ふ~ん。ねえハルカさんさん、ショウって最初から『帝国』兵と対等に戦えるぐらい強かったの? 逃げるボクの方へ突っ込んできた時は、嬉しいよりも返り討ちにあうんじゃないかって恐かったよ」

「オレってそんなに強いのか?」

 本当によく分からない。素で首を傾げてしまう。
 剣の腕なら、今でもハルカさんに敵わない事は分かるけど、尺度がそれしかない。あとは、せいぜいアクセルさんくらいだ。

「人によって差はあるって言うし、ボクも人のことは言えないんだけど、余程のベテランならともかく、ちょっとチートかなあって。多分あいつら『帝国』軍でも精鋭部隊だよ」

「チートじゃないと思うわ。ショウにはちょっと悪いと思ったけど、この一ヶ月ほどこの辺り連れ回して色々戦ってばかりだったせいかも。稽古も実戦形式でみっちり仕込んだし」

 ハルカさんが真面目に言葉を並べていくが、聞いているボクっ娘は少し引いている。
 そのおかげで、オレがどういう風にされていたのかが、ちょっとだけ分かった。

「そう言えばそうだったね。ハルカさんさんって、見かけによらず鬼軍曹だよね。リアルは体育会系だったでしょ」

「えっ、そう? けどほら、鉄は熱いうちに打てって言うでしょ。それに、最初に厳しくする方がこっちには残りやすいって言うから、つい」

 ちょっと悪いの『ちょっと』を悪戯っぽく言ったくせに、ボクっ娘の鬼軍曹発言に、ハルカさんが少しばかり冷や汗をかいている風に見えるのは気のせいじゃないだろう。

 それにオレの視線を受けてハルカさんが少し困った風なので、少しフォローしてようと思った。
 別にスパルタと思わなかったし、いてくれて助かったと思う気持ちの方がずっと強かったから。

「まあ、あんなもんじゃないのか?」

「普通は、すぐにドロップアウトのパターンじゃなければ、もっとイージーだよ。けどまあ、そりゃ強くなるワケだ。
 ……あ、話しの腰折っちゃったね。話し戻すけど、少し大きな街に出てフリーのご同業か傭兵でも集める?」

「ある程度以上の強い人じゃないと意味ないし、いても簡単には勧誘できないだろうし、それに出来ればシズさんの事情も多少分かってもらわないといけないから厳しいわよね」

「そうだよねえ。こんな辺境に、都合良くフリーの『ダブル』がうろついてないだろうし、いてもパーティー組んでるだろうしなあ」

「じゃあ途中までって事にしたら?」

「それならボクがひとっ飛びしてギルドのある街まで行って、何人かスカウトしてこようか?」

「そうしてもらった方が、いいかもしれないわね」

 ハルカさんと二人っきりの時と違って、なんだか会話全般が少しゲームじみている。これが、本来『アナザー・スカイ』での『ダブル』同士の会話なのだろう。

(そりゃあ、ゲームみたいだって思っちゃうよな)

 と思ってばかりではいけないので、ひとっ飛びの言葉から思いついた事を口にしてみた。

「いっそ、空から一気に城まで行けないか? 黒ずくめの連中に隠すにしてももう今更な気もするし、運ぶぐらいならけっこうは乗れるんだろ」

「そうだねー。3人以上はヴァイスの背中にしがみ付くことになるけど、運ぶだけならフル装備の大人でも4、5人なら……」

「じゃあ、ボクも仲間に入れてもらえないかな?」

 開放感が欲しくて開けっ放しだった扉のところに、アクセルさんがバスケットを持ってきていた。

「あ、盗み聞きしてたわけじゃないんだよ。今来たところなんだ。それと、これ昼食ね。まだルカはしっかり食べた方がいいから、後ろのワゴンにも用意してあるよ」

「いつもありがとうございます。それより、どの辺りから?」

「ウン。ホントに、運ぶだけならって辺りから。で、少し話しを聞いてもいいかな?」

 今更感なオレ達は、何となく顔を見合わせてうなずいた。
 そこからはアクセルさんも加わり、アクセルさんにはオレ達の世界の事とかを幾分はぶいて説明した。


「なるほどね。事実だとしたら『帝国』軍はかなり厄介だ。それにボクとしては、確証がとれた時点で国の者として対処しなければならないだろうな」

「それはちょっと待って欲しいです」

「そうだろうね。でも、どうするにせよ戦力不足だ。城の周りにも無数の亡者や強力な死霊、さらには様々な魔物までがいて、誰も近寄れないっていう情報も届いている。
 2人が王都まで行けなかったのなら、情報以上だろう。多分『帝国』軍も同じじゃないかな。ボクは一気に飛ぶ案に一票だ」

 アクセルさんは、既に自分も行く気満々だ。多分だけど、ハルカさんが負傷したことに、何かしらの罪悪感なり義侠心、いやこの場合騎士道精神を感じたんじゃあないだろうか。
 アクセルさんの雰囲気から何となくそんな気がした。

「けど、『帝国』軍だと、竜騎兵がいるかもしれないわ」

「大丈夫。四人乗せても、ヴァイスとボクなら『帝国』軍の竜騎兵相手でも、空の一対一なら絶対負けないよ」

「そんなに強いのオマエら?」

「失礼だなあ。シュツルム・リッターは空中戦最強。トカゲなんかに負けないよ!」

 プンプンといった様子だけど、冗談ではない様なので、ここは素直に頭を下げる。

「悪かった。じゃあ、期待していいのか?」

「う~~ん」

 いつもより多く考え中だ。

(アレ、最強じゃねえの?)

「運ぶのはいいし、空中戦があるならお任せなんだけど、ボクらは遺跡の下には行けなくなるよ。空で目の前の敵が倒せても全部とは限らないから、警戒しとかないといけないだろうし」

「お前を降ろし後、ヴァイスはどこか安全な場所に単独で飛ばして返すってのは無理なのか?」

「できないワケじゃないけど、『帝国』軍はあそこで何かするつもりなら、警戒用にたくさんトカゲを準備して、いろんなところに配置してる筈だから、ヴァイスを返しちゃうと地上から逃げる時大変だよ」

「じゃあ今のところの暫定として、レナは送り迎えと上空からの援護。それに緊急時の空中戦をお願いね」

「ハルカさんさんに言われちゃうと、断れないなあ。よし、任された。これって『えあぼーん』って言うんだよね。ボク久しぶり」

 レナの現代語に、アクセルさんの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。
 その顔を見つつ、そのままハルカさんに視線を送った。

「それと、ハルカさんはこれから基本後衛な」

「え、でも、私が一番硬いわよ」

「ハルカさんの瞬間的硬さはオレも分かってる。いざって時は頼むかもしれない。けど、今回みたいな事になったら誰が傷治すんだよ。それと、魔法の鎧は消耗するから長期戦は不利なんだろ。
 それにだ、アクセルさんの気持ちも汲んであげろよ」

 ハルカさんがハッとした顔で、アクセルさんを見つめる。
 はにかんだような笑みを返すアクセルさんだけど、瞳は真剣だった。

「ウン。私も騎士の端くれだし、装備だっていい方だ。ルカほどじゃないけど、それこそ龍でも来ない限り、前衛は務められると思うよ。もちろん国のお役目ってやつもある。それとね」

 そこで、少し間を置いて続ける。

「ボクは騎士で、主君や国を守ることの中には、婦女子を守るというのもあるんだ。高位の神官や疾風の騎士とはいえ、女性を危地に送り出すのは、やっぱり思うところはあるんだ」

「うん。ごめんなさい。いいえ、ありがとう」

 ハルカさんの言葉に笑みを大きくするも、すぐに真剣な表情に戻った。

「お礼を言われることじゃないよ。あと、これも個人的な話しなんだけど、ノール王国と我が国は本来は友好的なつき合いがあって、ボク自身も見知った人がいたんだ。だから、何か遺品の一つでも見つけらればとも思っているんだよ」

 最後の件は初耳だけど、隣国同士なら知り合いの一人や二人はいるのが普通だろう。
 しかしこれでアクセルさんの同行は完全にオレ達の間で認められた事になり、あとは細かい調整となった。

 そしてまずは偵察を出すことになった。
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