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第一部

082「治癒魔法(2)」

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「ワケっていうか、ボクが面倒臭いやつだって事も話さないといけないでしょ。それに、女子同士の事情ってやつもあるでしょ。察してよ」

 そこまで言われると察せないほど鈍感ではない。
 ラノベやアニメなら、天然キャラを装ってすっとぼけるところかもしれないが、そこまで言われて察せないほど鈍感ではない。
 ただ、経験値の少ないオレとしては、女子同士思うところがあるんだろう、くらいに思うしかない。

「けど、シズさんの事はだいたい話したし、その流れで天沢のことも少し触れてるから、話さないわけにはいかないと思うぞ」

「うっ。確かにそうなるよね。……分かった。ハルカさんが落ち着いたら全部話すよ」

「了解。それで話戻すけど、要はオレたちに合流しようとしてたんだろ。それなら、ランドールに来るなりこの神殿なりで待っててもよかったんじゃないのか」

「ランドールは間に合わなかった。で、街道沿いを一度飛んだけど、それらしい二人連れは見つけられず。
 仕方ないからこの神殿に来ると思って1日待ったんだけど、全然来ないからちょっと先見とこうと思って出たら、王都の手前であいつらに絡まれて2日も逃げ回ってたんだ」

「せっかちだなぁ。オレらも多少寄り道してたのも悪いかもしれないけど。あと、どうして今現れたんだ。もっと早くは無理だったのか?」

 ホント、それならこんな事にならなかっただろう。ハルカさんの真相が知れたのは予期せぬ収穫だけど、他はマイナスばかりだ。だから少しきつい視線を向けてみた。
 しかしボクっ娘は、特に気負わず視線を返してくる。

「全然無理。これでも全力で飛んで来たんだよ」

「飛んで来たって、地球の裏側にでもいたのか?」

「おっ、ほぼ正解。ショウの話を最初の聞いたときは冒険で南極に行く途中で、南米、じゃなくて魔龍大陸にいたんだよ」

「南極に冒険って、えらくスケールの大きな話だな」

「そうだね。でもボクらならどこにでも行けるんだよ。ねーっ」

 そう言うと、鷲の首筋辺りを嬉しげにガシガシ掻くように撫でる。
 鷲は気持ち良さそうな仕草で応えた後、オレの方を向いて自慢げに小さく鳴く。

「やっぱ、飛べるって便利だな」

「飛べる中でも、ボクらは他と格が違うからね」

「へーっ。せっかくファンタジー世界に来たんだし、オレも飛んでみたいもんだな」

「もちろん乗せてあげるよ。2、3人乗せるくらい全然平気だし」

 そう言って、巨鷲の首元にガバッと抱きつく。
 スケールの違いからか、見た目でちょっと羽毛は硬そうだ。

「え、マジ。ヤバいくらい嬉しいんですけど。あ、そうだ、多分ランドールに一旦戻ると思うけど乗せてってもらえるか」

「それはいいけど、さすがに馬2頭は無理だよ」

「あ、そうか。じゃあハルカさんだけでいいや。オレ、下から追いかけるよ」

「飛びたいんじゃないの?」

 ぐーっと、体を折って下からオレを覗き込んで来る。

「それは後回し。あいつら置いてくわけにはいかないだろ。荷物もあるし」

「へーっ、結構ちゃんとしてるんだね」

「そうか? それより、あと一つ聞きたいことあるんだけど、いいか?」

「何?」

 オレの質問に、ボクっ娘が巨鷲に抱きつくのを止めて、こちらに体を向ける。

「連中に追いかけられている時、こいつを呼んだりできなかったのか?」

 そう、これは昨日からの疑問の一つだ。

「一定距離からじゃないと、通信とか念話みたいなテレパシー的なことは無理だよ」

「そういうもんなんだ。意外に不便だな」

「魔力を察知できる距離よりは遠くまで魔法を使って心の声は届くけど、多分1キロくらいじゃないかな。野外だったら直接眼で見つけて合図なり送る方が、よっぽど遠くから呼べるね」

「なるほどね。それでこいつは、時折勝手に飛んで行ってたのか?」

「違うよ。あいつらに見つかったら嫌だったから、王都の方には近寄らないでって言ってあったんだ。ねーっ」

 そう言って、また巨鷲の首をガシガシと撫で回す。
 それを見て、オレも巨鷲にちょっと触れたくなったが、言いだす前にハルカさんが目を覚ましたと神殿の人がオレたちを呼びに来た。


 彼女が寝かされていた部屋に入ると、神殿の質素な寝間着のような簡素な服を着た彼女が、ベッドで半身を起こしていた。
 数時間寝ただけだけど、顔色も少し良くなっている。

 廃村で一回と、神殿に戻ってからもあまり高位ではない治癒魔法をかけたというが、それなりに効果はあったみたいだ。
 ゲームっぽく説明すると、10点の負傷を時間ペナルティつきで1点ずつ回復させているようなイメージらしい。

「もっと寝てた方がいいんじゃないのか?」

「そうなんだけど、まだジクジク痛んで目が覚めたのよ」

 そう言って、お腹の負傷したあたりを自分で撫でる。

「簡単には治らないんだな」

「低位の魔法は、一時的な治癒か少しずつ治すのが精一杯だもの。私がもう少し良くなれば、自力で何とでもできるんだけどね」

「本当にごめんなさい。ボクのせいで」

 ハルカさんの姿を見るなり、ボクっ娘は涙ぐんでいた。
 「何度も言ったでしょ。あなたのせいじゃないわ」というハルカさんの言葉にも、「でもでも」と返している。
 オレもボクっ娘の頭をポンポンと軽く叩く。

「ハルカさんの言う通り、もう気にするな。そんなに気にしてるなら、これから挽回すればいいだろ」

「うん。そう、そうだね」

 そう言って自身に言い聞かせるように何度もうなずいている。
 ただ、そうしたオレとボクっ娘を見るハルカさんの目線が少し痛い気がする。

「……ねえ、二人の関係聞いてもいいかしら。初対面じゃなさそうだし」

 女子は鋭いと思うほどでもない。ハルカさんもだいたい察している風で、事情を話しやすいようにわざわざ話を振ってやったんだぞ、って顔に書いてある。
 オレとボクっ娘は軽く視線をかわし合う。そうするとハルカさんの目が少しジト目になる。

「何から話せばいいかな? ちょっと複雑なんだけど聞いてくれるか?」

 ボクっ娘が話し出そうとしたのを軽く手で制して、二人を知っている者として、とりあえずオレが切り出す。
 やましいところはないし、ヘタレ過ぎるところは見せられない。と決意したのだけど、ハルカさんに手で制されてしまった。

「長話になりそう? それなら改めてでいいわ。とりあえず、レナさんはショウの向こうでの知り合いって事でいいのよね」

「ウン。でも事情があるから、落ち着けたらちゃんと話すよ。ハルカさんはまずは傷と体力回復して。そしたらボクが安全な場所まで飛んで送るから」

「ありがとう。その時に私も話さないとね。……じゃあショウ、こっち来て」

 首を傾げつつ側まで近寄ると、両腕の手首の辺りをガシッと掴まれる。
 そしてハルカさんは、ニコリといい笑顔で笑う。
 なんだかオレの事を「私のもの」とあえて新参に見せている感じにも見えるが、流石に気のせいだろう。

「じゃあ、ちょっと吸い上げるわね。昨日使いすぎたから、まだ魔力も全然足りないのよ」

「了解。好きなだけどうぞ」

 そう言うと小さな魔法陣が現れて、魔力移譲の魔法を行使する。もちろん与えるのではなく吸い上げるのだ。
 けど、前と違って足りない分を補充する感じで、興奮状態になったりはしていないようだ。
 血色も少し良くなったように見える。

 ただ、後ろではボクっ娘の「うわっ、ドレインだ」という小声が聞こえてくる。口ぶりからしても、やっぱりあんまり真っ当な事ではないらしい。

「あー、だいぶ復活できたかも。さ、ドンドンいくから、まだ力抜いててね。ちょっとダルくなると思うから膝付いてしゃがんで」

 そう言ってオレが座るのを確認すると、今度は魔法陣が二つ現れる。模様や文字も違っている。
 魔法が発現するとオレとハルカさんの体がぼんやりと光り、オレから彼女に何かが流れている気がする。
 そして確かに少し体がダルくなった。

「ごめんね。大きな魔法使うため、ちょっと体力というか生命力も少しもらってるの。即席の回復は、誰かから直にもらうのが一番効果的なのよ。……大丈夫?」

「ヒットポイントの移譲だね。そんなのも出来るんだ」

「一時的だけどね」

「ちょっとダルいけど平気だ。オレは無傷だし遠慮せずいってくれ」

「じゃ、お言葉に甘えて」

 そう言うと、もう一丁魔法がくる。
 後ろから「ボクのも吸っていいよ」という声がするが、それにはゆっくり首を振る。
「ショウとは主従の契約してるから、簡単にやり取り出来ることなの」と。その言葉にボクっ娘も納得したのか、それ以上何も言わなかった。

 そしてオレはしばらく彼女に体力を吸われたが、三度目でかなりダルくなってきた。

「ありがとう、ショウ。随分楽になったわ。さてと、ちょっと肩貸してね」

 そう言うと起き出して、オレの肩を借りながらも起き上がる。
 見た感じもう大丈夫そうだけど、このままだと一時的なものなのだろう。しかし今はそれでいいようだ。

 立って精神集中を始めると、ハルカさん自身を中心にして魔法陣が一つまた一つと浮かびあがっていいく。
 最終的に3つの魔法陣が出現して、サード・スペルの治癒魔法が彼女自身に発動する。

 彼女の体を淡い暖かい感じの光が包み、特に負傷した箇所が強く光っている。
 そして魔法が終わると、彼女の血色はさらに良くなっていた。
 魔法の凄さを見せられる思いだ。

「これで体は何とかなったわ。あとは無くした血と体力だけど、こればっかりは少し時間がかかるわね」

「魔法で全部治る訳じゃないんだな」

「そうね。一時回復は治癒魔法の応急処置だから、本当に穴を塞ぐくらい。しかも、負傷してから時間が経てば経つほど治癒は難しくなるの。大きな怪我って、放っておくと酷くなるでしょ。体力も消耗するし。けど、今の魔法は本格的な治癒だから、全治数か月が一瞬よ」

「ボク、自分の傷をサード・スペルの治癒魔法で完全に治すの見たの初めてだよ。やっぱり、ハルカさんすごいんだね」

 言葉だけでなく、表情も感心のものだ。
 やっぱりハルカさんは、凄い人らしい。

「そうなのか? 専門職だとサード・スペル使えるもんじゃないのか?」

「大怪我してるのを自分で治すのは凄く難しいって聞くよ」

「そうね、ここまでは私も初めて。けど、ショウがいてくれたから随分楽だったわ」

 そう言って、オレの肩をポンポンと軽く叩く。

「それって従者を従えて魔法行使できたから?」

「ええ。あと、信頼度というか無理矢理だとなかなかできないことね。治すより奪う、だから」

 なるほどー、とボクっ娘は一人ニヤニヤしながら納得している。
 そして元気にこちらに寄ってくると、オレとハルカさんの手を取った。

「ハルカさんも回復したことだし、明日にでも静養の為に安全なところに戻ろうか!」
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