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第一部

058「憂鬱な報告会(2)」

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 学校からの帰り道、今日は天沢と一緒だった。

 怪談参加者全員を残して怪談の後のような部室を後にしたが、すぐに天沢が追いついてきた。意外な事に、天沢の表情や雰囲気は普通だ。話しの途中も、一番真剣かつ真面目に聞いていたとも思う。

「ゴメンな、グロ話しに付き合わせて」

「う、ウウン。私が勝手に残っただけだから。けど、すごいよね月待君は。そんな体験しても平気だなんて」

「全然、もうボロボロ。今、めちゃヘコんでるって。だから昨日、話したくなくて逃げたんだ」

 「あっ、やっぱり」と小さな声に続いて、それを慌ててうち消すように天沢が続ける。

「で、でも、『アナザー・スカイ』の月待君って、ネットとかに上がってる話しの中では、一番ハードな場所の一つにいるんじゃないかな。ネット上だと、もっと気軽な話題とか逸話だし」

「そりゃ、そういうのしか誰かに話したくならないだろ。けど、一通りゲロったら少し楽になったかも」

「そういうのあるかもね。でも、よかった」

「ん?」

「う、ウウン、何でもない」

(やっぱり天沢は、オレの事を心配してくれていたんだ)

 天沢の反応に、少し心が安まった。しかし、妙に真剣なのが少し引っかかるというか、チョット今のオレには重荷な気もしたが、天沢にはもう少し深いところを話してもいいような気がした。
 だからだろうか、オレが『アナザー』で感じたことを少し話してみた。

 話しの中には、ハルカさんとのいつもより少し踏み込んだ話しの内容も含まれていたが、端から聞けばヨタ話や妄想と切り捨てるような話しに最後まで付き合ってくれた。
 時折顔を伏せたりする事もあったが、オレの予想いや期待通りに真摯な態度で正面から聞いてくれた。そうした天沢の態度おかげで、部室の時以上に心が軽くなるのを感じた。

「でさ、部室では言わなかったけど、オレ昨日の夜『夢』を見なかったんだ」

 スルリとそんな言葉が出た。
 けど、次の天沢の反応はオレの予想を完全に裏切った。
 オレを見つめて、大きく目を見開いている。そうすると、大きな瞳の中でゆれる驚愕の様子までが良く分かるようだった。彼女の瞳に浮かんでいるのは、多分失望だ。

「み、見ないって、じゃあもう、卒業、しちゃうの?」

「いや、分からない。今日には復活するかもしれない。まだ昨日だけだから」

「そ、そうだよね。きっと大丈夫だよ」

「なんだ、妙に心配してくれるんだな」

「だ、だって、こうして月待君と話せなくなる、かも、しれないし……」

 天沢はだんだん声を小さくして、少し赤らんだ顔も伏せる。気弱な少女そのまんまな態度が妙にハマっていて、そしてかわいげがあった。

「別に『夢』の話しがなくなっても、今の状況変えなくてもいいだろ。オレら、その、もう友達だし」

「そ、そうだね。けど私は、もっと月待君の『アナザー・スカイ』での話し聞いてみたい」

「そうは言ってもなぁ」

「あと、それとね」

 「困ったなー」という自分でもわざとらしいと思う声のオレに対して、少し違う声色で天沢が言葉を続けようとする。

「ん? まだ何かあるのか?」

「えっと、その神官戦士さんの為にも、できるだけ戻る方がいいよ。あっ、ご、ごめんね、偉そうに言って」

 かなりの真剣味がこもった天沢の言葉だけど、オレにとっては一つの事実を突きつけられた思いだった。
 だからその気持ちのままの言葉が出た。

「いいや、確かにその通りだと思う。最初から分かっていた事だけど、こうして改めて言われると尚更そう思えるよ。オレが全面的に悪いからな。言ってくれてありがとう」

「ううん、全然。私何もしてないよ」

「聞いてくれて、答えてくれただけで全然違うよ。一人だったら、悶々とただけで終わりだった」

 本当に、天沢の言う通りだ。最低でも一度ちゃんと謝らないといけない。
 そのことを気づかせてくれただけでも、天沢に話してよかったと思えた。
 天沢の表情も、少しホッとしている事を思えば、二人分の気持ちをもっと真剣に考えなければならない。

「じゃ、じゃあ」

「おう、じゃあチョットばっかし頑張ってみるよ。『夢』を見るのは気持ち次第らしいからな。あ、そうだ、『夢』見ないってのは、ちょっとの間みんなには伏せといてくれ。頼むわ」

「ウン。えっと、『二人だけの秘密』ってやつだね」

 はにかんだ笑顔を浮かべる天沢は、オレの心に少し痛かった。
 そしてその夜は、向こうに行きたいと強く考えつつ眠りについた。おかげでなかなか寝付けなかったほどだ。

 けれども、その夜も『夢』は見なかった。
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