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第一部

041「アンデッド退治(1)」

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 次の村に近づくと、村の郊外にあたる耕作地の間を走る街道上に、人が二人武装して立っているのが見えた。
 
「警戒してるのかな?」

「間違いないでしょうね。念のため、余計な事は言わないでね」

 軽く視線を向けると、正面を見据えて堂々とゆっくり前進を続ける。さらに互いを明確に視認すると、手を振る等の挨拶を送る。
 そうして数分すると、武装した二人の前までやってきた。

 槍を持っているのかと思ったが、持っているのな農業用の柄の長い鎌と鋤だ。それ以外武装も無く防具も身につけていない。
 訓練を受けた動きでもなく、普通の村人っぽい。

 相対する前には、互いに「神官様だ」「神々の恩寵だ」などと余計な事を言い合っている。
 そしてハルカさん、もしくはハルカさんが着ている白い法衣に、強い期待を込めた視線を向けてきている。

 いつものことながら、彼女はよくウンザリしないものだ。オレだったら逃げ出すか、そもそもウザいお役目など背負いこまない。多少嫌でも、冒険者の方がよっぽど楽だろうに。

「ようこそ神官様。神殿も動いたのでしょうか?」

「私は近辺を巡回している神殿巡察官です。話は村の代表と行いますので、案内してください」

 彼女は最低限の名乗りをして、丁寧口調の実質的な命令をする。
 けど村人は、いっそう期待を大きくしたようで、一人を案内としてオレたちは村へとすんなり入れた。

 村の中は少しざわついていた。
 村の規模はかなり大きく、村の中央にある神殿も今まで見た中では一番大きい。
 とはいえ、小さな教会くらいの大きさだ。そしてその村の中心部当たりが、ざわつきの中心でもあるようだ。

 近づいて行くと、馬が10頭程度と幌付きの馬車も見える。異世界ファンタジーっぽい二足歩行の大きな鳥とかトカゲはいないようだ。いるというネット上での情報は、やはりガセだったのだろうか。
 馬と馬車の周りには、同じ武装をした者たちが10名ほど。この世界、いやこの国の軍隊だろう。

 その兵士たちも、オレたち、ではなく彼女を見つけると一様にざわついた。
 そのざわめきの中から一番立派な身なりの人が現れ、向こうから近づいてくる。

 出で立ちは、仕立ての良い旅行服か軍服に軽装の鎧。腰には豪華な装飾が施されたロングソードをさしている。
 宝塚にでも出てきそうな感じだけど、体格からして成人男性なのは間違いなさそうだ。

 相手がたどり着くまでに、こちらも馬を下りて応対の準備をする。ハルカさんがそうするという事は、相応の身分の人なのだろう。

「これは神殿巡察官のルカ様、この出会いに神々に深く感謝を。さて、まずはそちらの方にご挨拶をさせて頂いてもよろしいでしょうか」

「ご無沙汰しておりますアクセル卿。私たちは近隣の村々を巡察しつつ南より彼の地に至ったため、詳しい状況を存じあげません。我が従者への挨拶よりも、詳しいお話をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「もちろんです。立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」

 完璧と思わせる仕草で軽く挨拶をして、そのまま流れるようにオレたちを案内する。
 ハルカさんがアクセルと言った男の部下や従者と思われる人たちの動きも洗練されていて、自然と馬の手綱をとって馬をあずかってくれる。
 なんだか、初めてガチなファンタジー世界に来た気分にさせられるほどだ。

 案内された恐らく村長宅と思われる大きな部屋の居間には、中央にテーブルが置かれて地図のようなものが広げられている。
 見た感じ臨時の司令部のようになっていたが、今は人払いされている。

 そして部屋の中央辺りまで来ると、アクセルさんが振り向いて優雅に挨拶をする。

「では改めて挨拶を。我が名はアクセル・ルドルフ・マルムスティーン。マルムスティーン辺境伯第三子にして、アースガルズ王国より魔導騎士の位を授かっております」

 騎士様だ。しかもお貴族様だ。

 見た目は金髪碧眼の白人イケメンで、スラリと背が高く容姿は文句の付けようが無い。年齢は見た目で20才前後だろう。
 仕草も洗練されていて嫌味がなく、見ていて気持ちいいくらいだ。
 モデルや俳優と言われても素直に信じそうで、自分との差がありすぎてもはや嫉妬心すら湧かない。逆に憧れてしまいそうだ。

「えっと、申し訳ありません。ぶ、不調法者なので、どう返答していいのか分かりませんが、オレはショウ。いちおうハルっ、ルカ様の従者ってことになってます」

「ショウ君、それでもぶっちゃけすぎ。まあ、アクセルには、変に取り繕わなくていいわよ。アクセルもショウ君虐めない」

 彼女の言葉に、騎士様が爽やかに笑う。
 照明もろくに無い屋内なのに、何かキラキラした背景すら見えそうだ。

「これは失礼。では、ざっくばらんに。名乗りはもういいよね。ボクの事はアクセルと呼んでほしい。で、君のことはショウと呼んでいいのかな?」

 握手はこの世界でも同じなので、アクセルさんが差し出して来た右手を取る。思ったより、ガッシリした手だ。
 貴族の手というより戦士の手という感じがする。

「はい。ショウで構いません。よろしくお願いします。じゃオレもアクセルさんで」

「丁寧語も敬称もいらないよ。ついでに深いお辞儀も」

「けど、オレより目上ですよね」

「なるほど、ルカと同じ世界の人だ」

 アクセルさんが、そう言って破顔する。
 笑顔がまぶし過ぎる。

「ええ、バレバレでしょ。行く先々で誤摩化すのも大変なの」

 彼女が『ヤレヤレだぜ』なポーズをしている。
 そんな事より、オレには気になる事がある。それを質そうとすると、先手を打たれた。

「あ、そうそう、アクセルは私の巡察を援助してくれているの」

「ルカはボクの命の恩人なんだ。援助くらい当然だよ。それにこの地域での巡察はこちらが頼んでるようなもので、凄く助かっているんだ。本当はもっと色々とお礼をしたいのだけれど、いつも断られていてね」

「その話は随分前に話がついたでしょ」

「うん。でも、ボクの気持ちは今も変わらないよ」

 見つめ合っているし、なんだか仲が良さそうだ。
 そう思ったのも顔に出ていたのだろう、彼女がオレにジト目な視線を向けてくる。

「……念のため言っておくけど、アクセルは既婚者よ。しかも周りが引くくらいアクセルが奥さんにべた惚れ。男は奥さんに合わせてくれないくらい大切にしてるの」

「アハハ、ボクとゲルダの仲をそんなに褒めないでくれ」

「褒めてない。アクセルに引いてるの」

「男女が愛し合うのは良い事だし、神々も奨励される事だろ。けど、もしゲルダに会っていなかったら、ルカに惚れていたかもね。ルカも凄く魅力的だし」

「ハイハイ、ありがと。ショウ君も、この愛妻家のくせに口軽な男に何か言ってやりなさい」

 コミュ症気味のオレでは、何もかもぼーぜんだ。完全に置いて行かれている。
 すると彼女が、軽くため息をつくと会話を切り替える。
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