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第一部

032「魔力回復(2)」

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 結局、小難しい話に戻ってしまった。
 でも負けないぞ。会話が続けられないし。
 
「けどノヴァの辺りとかは、古代遺跡と原生林と魔物ばかりって言うよな」

「確かにあの辺りは、まだ人は少ないわね。けど、この世界の文明地域から見れば特殊だし、人の世界から見れば辺境にあるから関係ないと思うなあ」

「そうかー。じゃあ、亜人とかは? エルフやドワーフ、獣人もいるんだろ」

「亜人はだいたいは人より強い種族だけど、繁殖力は人より劣るから数が少ないわね」

「そうなんだ。何にせよオレには分からないことばかりだ」

「私も同じよ。それにしても話題逸れちゃったわね。他、聞きたいことない?」

 小難しい話題に彼女も飽きて来たのか、気分転換のような明るめの声で問いかけてくる。
 とはいえ、何を聞いていいのかすら分からないのが実情だ。
 だから思いついたままを問いかける事にした。

「うーん。あっ、そうだ、村々の巡回だったら、魔力のある人を探したりしないのか?」

「そういうのは、国か神殿組織全体で専門の巡回をしてるわ」

「じゃあ、しなくていいのか」

「ええ。たまに、私みたいに巡察してる人が、高い素質の人を見つけることはあるけどね」

「そういうのは、ファンタジー世界のイベントっぽいな」

「そんなにいいものじゃないわよ。素質のある人をお金で買うようなものだもの」

「奴隷でもないのに?」

「そうよ。賢者が勇者を見つけ出す、みたいないい話じゃないのよ。さ、そろそろ出ましょうか。篭りきりだと、村の人に変な勘ぐりされるかもよ」


 駄弁っているうちに多少は魔力も回復してきたので、動き出すことにする。
 そうして神殿から出てきたが、日はもうかなり高い。それでも、昼から出発しても、ハイホースの足なら十分次の村に夕方までにたどり着ける時間だそうだ。

 そして何もない村なので、夜のうちに頼んでおいた保存のきくなるべく高カロリーである程度保存のきく食料と水、薄めたワインを補充する。

 そしてオレは、何かできることはないかと思案した末に、鍛冶がいるので剣を見てもらうことにした。
 二度も使ってるし、専門家がいるなら手入れするべきだと思ったからだ。

「従者様、この剣はオラに手入れは無理だで。ただ、血糊拭き取ってきれいにしておくだけで十分かもすんね」

「やっぱりそうかー」

 鍛冶の言葉に、彼女が一人納得している。

「何か知ってるのか?」

「自分の使っている武器くらい、ちゃんと見ておきなさい」

 そう言われて、改め剣を見てみる。
 両手直剣。ファンタジー的には、刀身幅の広いバスタードソードかグレートソードやクレイモアに当たると思われる。
 こっちのオレの腕力なら片手でも楽々振り回せるので、大きさや重さを考えなければバスタードソードと言えるかもしれない。

 こんな重いものをブンブン振り回して肩が外れないんだから、この体はたいしたもんだと感心する。
 見た目は簡素な作りで、柄とかに模様や装飾はない。
 剣は黒光りしているが、変な文様もなければ大きな宝石がはまっているわけでもなく、呪文やお約束のルーン文字が彫り込まれたりはしていない。

「従者様。それは鉄でも鋼でもないだよ」

 しげしげと眺めるオレに鍛冶は言った。
 鉄以外に何かあるのだろうか。

「ハルカさん分かる?」

「魔力が染み込んだ鉱石を材料にしているのよ。ホラ私のも」

 そう言ってシャラリと引き抜いた彼女の剣は白銀色に輝き、よく見ると薄く虹のように表面が揺らめいている。

「私の剣は鎧と合わせて魔銀、ミスリル製ね。軽くて切れ味抜群。これは魔力を込めて切れ味や威力もさらに上げられるわ。多少刃こぼれしても、勝手に再生してくれるし」

「オレのはハルカさんのと違う色だな」

「黒っぽいから多分魔鋼ね」

 鍛冶の人は、興味はあれども訳がわからないという顔をしているので、彼女に聞くしかない。ネットの情報もこの辺は諸説ありすぎる。

「く、詳しくお願いしゃす」

「えーっと、魔鋼がアダマンタイト、魔銀がミスリル、魔金がオリハルコンというのが基本かしら。
 あと、神鋼、ヒヒイロカネっていうチタンが魔鋼化した凄く硬いやつもあるわね。オタクは、なんとかリウムって言ってたけど」

「まとめサイトだと、アダマンタイトは硬いけど魔法を通しにくい。ミスリルは軽くて魔法を通しやすい。オリハルコンはどれよりも硬くてミスリルよりも魔法を通しやすい。でいいのか?」

「正解。どれも長い年月をかけて魔力が浸透して、普通の金属ではありえない強さや能力を持っているってのが通説ね。
 一部の亜人にしか加工できないと言われてるけど、高位の錬金術士なら種族を問わず加工は可能よ」

 良かった。この知識なら、あっちで探せば詳しく分かりそうだ。
 けど、疑問は残る。

「なるほどね。で、なんでオレは初期装備で魔法の剣なんて持ってるんだ。ハルカさんもそうだったの?」

「いいえ。これは後から手に入れたものよ。ショウ君は、運が良かったんじゃないの。初期のマジックアイテム持ちは少ないけどいるわよ。私も初期に発動媒体持ってたし」

「初期特典ねえ。魔力の高さといい、キャラメイクガチャが良かったんだな」

「そうかもね。けど、出現時のアイテムは謎が多いままだから、一度どこかで鑑定してもらう事をお勧めするわ」

「鑑定できるのか?」

「とりあえず大きな街に行けばノープロブレム。大きな神殿でもできるわよ。あとは、それなりの魔法使い捕まえるかね。お勧めはノヴァまで行くことだけど」

「なるほどね。じゃあ、オレの当面の目標はノヴァを目指すことだな」

「そうね。けど、しばらくは私のこと手伝ってね」

「もちろん。仰せのままに」

 鍛冶屋の次に、また村長の元に戻る。
 手に入れたいものがあったからだ。

「馬でございますか?」

「そう、乗用馬でいいからないかな。ちゃんとお金は払うから」

「とんでもございません。あれだけ多数の者を癒していただいたのに、対価の一つとしてお譲りいたします。
 ですが、当村には乗用馬はもちろん、馬はおりません。ロバならおりますが、魔馬に付いていくのは難しいかと」

「村長、直接の対価は最小限でよいと申し上げた筈です」

 ハルカさんが、一瞬オレに余計なことを言ったという目線を向ける。
 馬ってそんなに高いのか?

「しかし、わずかな食料を差し出すだけでは、私どもの面目が立ちませぬ。近在にいた魔物も退治して頂いたとのことですので、合わせて何か別の対価をお受け取りください。切にお願い申し上げます」

 土下座じゃないけど、平身低頭状態だ。実際、跪いて頭下げてる。
 これを断るのは難しいだろうな。

「では、神殿への寄付としてお受け取ります。ですが私には受け取る資格がないので、本日の事はここに一筆残し、さらに神殿に報告しておきますので、神殿の寄付を求める使いに渡してください」

 屁理屈を並べているように見えるが、要するに世俗との関わりをあまりしたくないのかもしれない。
 しかし案外簡単にこの案は受け入れられた。つまり彼女の行いは、個人ではなく神殿と考えているのだ。
 そしてその後、手早く準備を整えると早々にオレにとっての初めての村を後にした。

「もーっ、面倒はゴメンだから余計なこと喋らない!」

 案の定、二人きりになったら怒られた。と言っても、注意レベルでマジ怒りじゃない。ここ数日で、少し彼女の事が分かってきた。
 それにちょっと膨れっ面だけど、これはこれで可愛い。美人は得だと思うより、顔がニヤけてしまいそうになるほどだ。

「イエス・マム。けど、これじゃボランティアで働き損じゃないのか?」

「個人で何か強請(ねだ)ってたって神殿に話が伝わったら、後が面倒なのよ。それに別にお金には困ってないし」

「お金持ちなのか。いいなー」

「昔、稼いでたからね」

「……昔のこと、聞いてもオーケー?」

「女の子から話すと言わない限り聞かないのがマナーだと思うんだけど」

「だよなー。それにオレはハルカさんの素性は何だって構わないよ。どうせオレは、住所不定無職だし」

「なに拗ねてるのよ。まだ知り合って三日でしょ。それとこっちで冒険者していれば、そのうち稼げるようになるわよ」

「どっちも、これからに期待しとくよ」

「できれば、お金だけにしときなさい」

 異世界に来ても、世知辛さは変わらないらしい。
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