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第一部

017「夢バレ(1)」

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 目覚めると、自分の部屋だった。
 違和感は結構あるけど、そのうち慣れてくるとのことだ。

 それに二日目も、ちゃんと『夢』の内容のことを昨日の出来事のように詳しく覚えていたし、これで『夢』が普通の夢ではない事も確定と思っていいだろう。

 そして今日は、今までより1時間早く目覚ましをセットしていたが、それよりも少し早く目が覚めた。けど、もう一眠りという感じでもないし、何より『夢』の記録を取るために起き上がる。
 おぼろげな事が多いというが、かなり詳細に記憶に残っている。書いていると色々思い出したりして結構楽しい。

 一方、学校は退屈だった。いや、普通といえば普通。いつも通り特に何も無い。

 季節は初夏並の熱さながら五月の末頃。
 そろそろ衣替えの季節で、中間テストが終わって校内には弛緩した空気が流れていた。
 一年生のオレ達も、ようやく新しい学校に慣れてきたところだ。

 オレ、月待翔太(つきまちしょうた)は高校一年生。この春から高校に通い始めたばかり。
 珍しい名字らしく、父方の実家は九州だけどほとんど行ったことはない。

 学校は偏差値で言うと真ん中ちょい上くらいの、どこにでもあるような公立高校。
 それでもオレとしては、高校受験では当時の自分なりに頑張ってその程度に行くのが精一杯だった。

 オレの体格は中肉中背。身長は16才の平均よりほんの少し高めの170センチ代前半。
 大人になるまでに、もう少し伸びて欲しいところだ。

 特技は一応剣道ということになっている。
 中学で最初にできた友人につき合うという理由だけで、中学では剣道部に入っていた。おかげでそれなりに鍛えられた筈なので、体つきは悪くないと思う。
 少なくとも脂肪の塊にはなっていない。

 ただ、剣道部に属したからといって、オレ自身に向上心や主体性がないので強くなる筈もなかった。
 中学卒業まで初段以上にはなれなかった。叫ぶのが特に苦手だった。対戦相手との試合は何とか形にはなったが、才能に目覚めたりもしていない。
 だから、高校に上がっても剣道を続けようという気はなく、文化系一択だった。

 正直部活はあまりしたくなかったのだけど、この学校は部活推奨という方針の学校だったから、クラブに属したに過ぎない。
 成績が今ひとつな以上、さらに推薦などで進学するつもりなら内申点は大切だ。

 そしてオレの平凡な能力と趣味とも言えない寂しい生活習慣に従い、文芸部を選択した。
 文字媒体を読むのは、子供の頃からけっこう好きだった。媒体に特にこだわりはなく、スマホやパソコンで読むのも本で読むのも好きだったし、図書館や大きな本屋に長時間いることも苦ではない。

 なおオレ自身の自己評価だけど、才能のある人間だとは思っていない。何をしても辛うじて平均よりほんの少し上、それが希望的観測上におけるオレのポジショニングだ。

 けど、全てが平均ちょい上という事もなく、弱点や欠点もいっぱいあった。
 陰キャな方で、友達作りは下手な方だった。
 それでも中学は部活をしていたおかげで、人並みに友人もいたと思う。剣道を続けられた大きな理由だ。

 しかし高校に入って、学校生活は一変した。
 同じ中学から今の高校にきた中に、オレのなけなしの友人、知人が少なかったからだ。
 こんなことなら、ちょっと無理して親と中三の時の担任教師の薦めで、この高校に進むんじゃ無かったと悔やんだりもした。

 そして生来の陰キャな性格もあってクラスに馴染むのも遅れ、最低限の学友と言える以上のクラスメイト、いや友人を作ることに失敗していた。

 クラス内では、オレと同じような雰囲気の連中と少しくらい話しはするが、外でつるんだり遊ぶ事はない。
 SNSなどスマホでのつながりも、最低限のクラスメイト以上の関係はほとんどない。SNSを使う事も少ない。
 クラス内でのヒエラルキーはほぼ底辺だ。

 もちろんだけど、高校デビューとかあり得ない。
 正直、ボッチ一歩手前だ。
 向上する努力もしていないのだから、当然の結果だろう。

 そうした中で、文芸部はオレにとって最後の砦に等しかった。
 中学時代の部活の経験から、同じ事をしている者同士はうち解けやすいという淡い期待があったからだ。
 そこまで思うのなら剣道部を選択すべきだたと言われるかも知れないが、残念ながらこの高校には剣道部がなかった。体育も剣道ではなく柔道だ。

 だからこそ、消極的文字好き(文学好きではない)としては、入るクラブは文芸部以外あり得なかった。
 オタク寄りの趣味だから、漫画クラブのようなクラブでもよかったかもしれないが、俺にはまるで画才はなかった。文芸部も消極的選択の結果なのだ。

 文芸部は、普段部室にいる人数は少ない。
 文芸部とは、本来自ら文学的な創作活動、批評活動をするのが本分だけど、それを真面目にやりたいという者はやはり少数派だ。本離れ文字離れが叫ばれて久しい昨今では尚更のようだ。
 それでもこうした部が存続し続けている理由の一つは、この学校の方針故だ。

 まあ、極度に無口な美少女が、窓辺の明かりを頼りに一人静かに本を読んでいれば多少話も違っているかもしれないが、残念ながら見たことはない。

 けれど、オレと似たような思惑を持っている者も中にはいる。
 ただだべりたい者、同じ趣味の者と話したい者、主にネット以外のオフでそうしたコミュニケーションを求める者だ。

 部活必須の学校なので「らくそうだから」と文芸部を選ぶ者もいるが、文系クラブにも最低限の活動成果も求める学校なので、1ヶ月の仮入部期間が終わる頃にはそうした連中もほぼ淘汰された。
 そしてオレたち新入生も、そろそろ本格的に何かを書かねばならない。

 そして基本的に普段の人口密度は低いのだけど、部会日、活動日が存在するので人口密度が高まる日もある。今日はそうした日だった。

 元マンモス高の名残で部室棟となっている旧校舎の一角に陣取る部室には、10名数名の部員がそれぞれ本を読んだり数名の輪を作ってだべっている。
 お菓子を広げている女子部員もいる。
 これぞ由緒正しき文化部の姿と言える情景だ。
 この時ばかりは、オレも孤独ではなかった。学友ではなく友人と呼べるヤツもできた。


「何、ニヤついてるんだよ。ちょいキモいぞ」

 そうツッコミを入れてきたのは、オレの数少ない友人のひとり元宮拓海(もとみやたくみ)。
 見た目はイケメン寄りで、背丈も体格もオレよりいい。中学時代は運動部だったらしく、スポーツもそれなりにできるらしい。
 なのになんで文芸部にと聞いてみると、オタクだからだそうだ。

 しかも基本的に気のいいヤツで、クラス内ではそこそこの地位を得ているみたいだ。
 陽キャで社交的というのは、実にうらやましい。
 けど最初にオレに話しかけてきたのはタクミなので、オレとしてはこいつに救われたと言えるかもしれない。

「別に。これだけ人が揃うの、久しぶりだと思っただけ」

「確かに。連休明けの新入生発表会以来かもな」

「だろ。部員もほとんど顔を出してる」

「流石というべきか、三年の数は少ないけどなぁ」

「進学校でもないのに受験勉強かぁ。嫌だねえ現実は」

 そう言いつつ、二人して部室内を軽く見渡す。

「まったくだ。『夢』にでも行けたら、多少は気が紛れるのにな」

 そこでオレは、思い出したように隣に座っていたタクミの方に顔を向ける。
 表情の変化など何か少しでも情報が欲しいと思ったからだ。
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