2 / 4
文字とパソコンを覚えた
しおりを挟む
「ファッションは自由だけど、そんな恰好でうろうろしているとトラブルに遭いやすいわよ。ご両親は何か言ってなかった?」
「両親とはもう長く会ってない」
最初の男からなぜか女に交代した。
まぁどっちでも、目的が果たせれば問題はないが。
「え? ほかにご家族は?」
「家族が光の使者探しに関係あるのか?」
「ほら、連絡先とか必要でしょう?」
「連絡先? 今すぐにはわからないということか?」
「そうね。君の探し物はちょっと難しいかもしれないわ」
「ううむ、家族とはもう十年以上会ってない」
「えっ!」
正直なところ、ドラゴンは人間ほど月日の流れを気にしないので、十年会ってないのか百年会ってないのかはっきりとはしないが、わりと最近妹に会ったような気もするので、十年ぐらいじゃないかと思う。
「もしかして、君、ストリートチルドレンだったりする?」
「うーむ、それなら常識がないのも納得だが。最近は育児放棄する親が多すぎないか? 同僚のボブのところなんかもう何年も不妊治療をしているのに全く子どもが出来ないと嘆いているのに、神は残酷だな」
お、どうやらこの男、神を知っているようだな。
しかし、そうか身勝手で片付けの出来ない奴だと思っていたが、その上残酷とは、恐れ入ったな。
そんな奴が本当に世界の秩序をどうにか出来るのか?
「ボブのところはどっちももう四十代でしょう? 諦めて養子縁組したほうがいいと思うんだけど、親のない子どもを愛情深く育てる家庭が必要よ」
「あの……」
何やら家族の話で盛り上がっているところを悪いが、俺の用事を忘れないで欲しい。
「あら、ごめんなさい。うーんと、一応控えておくからお名前を教えてくれる?」
「名前?」
しまった!
人間はお互いを名前で呼び合うんだったな。
確か社会を作って役割分担して生活をしているから呼び分けが必要なんだ。
全く考えてなかった。
「どうしたの? お名前は?」
「それが、名前はまだ無くって」
「えっ! 名前がないの? そんな、小さい頃に捨てられたのかしら? もしそうなら戸籍もないかも?」
「あー、ちょっと人種も違うようだし、移民の子かもしれないな。不法入国者かも。そっちの専門家を呼んで来るか」
「あ、君、少しここで待っていてくれる? 悪いようにはしないから」
「わかった」
二人が部屋を出て行く。
悪いようにはしないということは、いいようにもしないということだろう。
困ったもんだ。
ん? さっきから男のほうが何かいじっていた道具だな。
何やら光で図形のようなものが描かれているが……ふむ、なるほど、信号を発して、それを光に変換することで図形を形作っているのか。
もしかすると、これが噂に聞く文字というものか?
こことここが区切られているから、このかたまりで一つの意味になるのか。
ふむふむ、この文字のかたまりが何度も繰り返し出て来るな。
お、この絵を説明している文字がわかりやすいか。
なるほど、この単語が男でこの単語が女か。
これが名前を意味する文字。
するとこのひとかたまりの文字列は、さっきの会話の記録だな。
よしよし、だいたい理解出来た。
んん? この表示方法、ずいぶん無駄があるな。
この辺の命令を削って、ここで選択をして……と。
「待たせたな。おい! 何をしている? パソコンをいじっちゃダメじゃないか!」
「ん? ダメだったのか? 禁止されなかったのでつい、調べてしまった。珍しいものは好きなんだ」
「ダン、子どものすることなんだからそう目くじら立てないの」
「おい、なんか表示が変わってるぞ」
「ああ、表示までの間に無駄が多かったから、命令形をまとめておいた。その道具に満ちているエネルギー量から考えて、余分な命令形は削って別に避けておいたほうがいいと思ったからな。もし今使っていない形式を使いたいなら、こっちのキーを押せば追加出来るぞ」
「マジか! おい、ヒュー、見てみろよ、立ち上がるまで十分はかかっていたアプリが一瞬で立ち上がるようになっているぞ」
「うっそだろ! こいつどこの天才だ?」
何やら一人人間が増えている。
匂いからすると男か?
なんだか嫌な臭いが混ざっているな。
「お前、最近疲れやすくないか? 内臓に血液が回っていない箇所があるぞ。その部分が嫌な臭いを発生させている」
「は? 何言ってるんだ? 坊主」
「ヒュー、この子、変な宗教にはまっているみたいなの。光の使者を探してるとか言ってるんだけど」
「光の使者だって? あー、そう言えば昔、亜人排斥運動の首謀者がそういう救世主がどうのってぶち上げてなかったか?」
「あああの悪質な差別主義のテロリスト集団ね! こんな子どもを洗脳しようなんて酷い連中!」
おお、この男、どうやら光の使者についての情報を持っているようだ。
「きっとそいつだ。今どこにいるんだ?」
俺がそう尋ねると、三人はものすごく微妙な表情になった。
「悪いことは言わないから、あんな連中とは関わらないほうがいいわ。あなたぐらい頭がよければ、孤児でも特待生になれる制度もあるし」
「いや、光の使者が見つからないと困る。そいつが俺を殺しに来ると言うからのんびりしていたのに、なかなか来ないもんで、無駄飯食いとか、さぼり魔とか不名誉な言われようをしているのだ。けっしてさぼりたくてさぼっていた訳じゃないのに。だってそうだろ、何か重要な仕事をしているときに殺されて中断されてはたまらないじゃないか?」
俺がそう事情を話した途端、その場にいた三人の雰囲気が変わった。
それまではなんだかのんびりとだらけた気配だったのが、ピンと張りつめた弓の弦のような感覚が生じる。
「殺すだと? そう脅されたのか?」
「なんてこと、あの頭のおかしいテロリスト集団! 異種族でもない子どもにそんなこと言うなんて!」
「ん? 俺は魔族だそうだから異種族ではあるぞ」
俺の言葉に全員がパッと反応した。
「ダメ、魔族なんて汚い言葉を口にしちゃ。とっくの昔になくなった差別用語なんだから」
「くそっ、やっぱりあの連中、まだ凝りてなかったんだな」
三人の意識が怒りに占められて行く。
その怒りはどうやら俺に向けられたものではなさそうだが、怒りに支配された者というのは、だいたいにおいて話が通じない。
俺は、ため息を吐くと、彼等の隙をついて、そっとその場を抜け出した。
まぁ情報がなかった訳じゃないし、よしとするか。
「両親とはもう長く会ってない」
最初の男からなぜか女に交代した。
まぁどっちでも、目的が果たせれば問題はないが。
「え? ほかにご家族は?」
「家族が光の使者探しに関係あるのか?」
「ほら、連絡先とか必要でしょう?」
「連絡先? 今すぐにはわからないということか?」
「そうね。君の探し物はちょっと難しいかもしれないわ」
「ううむ、家族とはもう十年以上会ってない」
「えっ!」
正直なところ、ドラゴンは人間ほど月日の流れを気にしないので、十年会ってないのか百年会ってないのかはっきりとはしないが、わりと最近妹に会ったような気もするので、十年ぐらいじゃないかと思う。
「もしかして、君、ストリートチルドレンだったりする?」
「うーむ、それなら常識がないのも納得だが。最近は育児放棄する親が多すぎないか? 同僚のボブのところなんかもう何年も不妊治療をしているのに全く子どもが出来ないと嘆いているのに、神は残酷だな」
お、どうやらこの男、神を知っているようだな。
しかし、そうか身勝手で片付けの出来ない奴だと思っていたが、その上残酷とは、恐れ入ったな。
そんな奴が本当に世界の秩序をどうにか出来るのか?
「ボブのところはどっちももう四十代でしょう? 諦めて養子縁組したほうがいいと思うんだけど、親のない子どもを愛情深く育てる家庭が必要よ」
「あの……」
何やら家族の話で盛り上がっているところを悪いが、俺の用事を忘れないで欲しい。
「あら、ごめんなさい。うーんと、一応控えておくからお名前を教えてくれる?」
「名前?」
しまった!
人間はお互いを名前で呼び合うんだったな。
確か社会を作って役割分担して生活をしているから呼び分けが必要なんだ。
全く考えてなかった。
「どうしたの? お名前は?」
「それが、名前はまだ無くって」
「えっ! 名前がないの? そんな、小さい頃に捨てられたのかしら? もしそうなら戸籍もないかも?」
「あー、ちょっと人種も違うようだし、移民の子かもしれないな。不法入国者かも。そっちの専門家を呼んで来るか」
「あ、君、少しここで待っていてくれる? 悪いようにはしないから」
「わかった」
二人が部屋を出て行く。
悪いようにはしないということは、いいようにもしないということだろう。
困ったもんだ。
ん? さっきから男のほうが何かいじっていた道具だな。
何やら光で図形のようなものが描かれているが……ふむ、なるほど、信号を発して、それを光に変換することで図形を形作っているのか。
もしかすると、これが噂に聞く文字というものか?
こことここが区切られているから、このかたまりで一つの意味になるのか。
ふむふむ、この文字のかたまりが何度も繰り返し出て来るな。
お、この絵を説明している文字がわかりやすいか。
なるほど、この単語が男でこの単語が女か。
これが名前を意味する文字。
するとこのひとかたまりの文字列は、さっきの会話の記録だな。
よしよし、だいたい理解出来た。
んん? この表示方法、ずいぶん無駄があるな。
この辺の命令を削って、ここで選択をして……と。
「待たせたな。おい! 何をしている? パソコンをいじっちゃダメじゃないか!」
「ん? ダメだったのか? 禁止されなかったのでつい、調べてしまった。珍しいものは好きなんだ」
「ダン、子どものすることなんだからそう目くじら立てないの」
「おい、なんか表示が変わってるぞ」
「ああ、表示までの間に無駄が多かったから、命令形をまとめておいた。その道具に満ちているエネルギー量から考えて、余分な命令形は削って別に避けておいたほうがいいと思ったからな。もし今使っていない形式を使いたいなら、こっちのキーを押せば追加出来るぞ」
「マジか! おい、ヒュー、見てみろよ、立ち上がるまで十分はかかっていたアプリが一瞬で立ち上がるようになっているぞ」
「うっそだろ! こいつどこの天才だ?」
何やら一人人間が増えている。
匂いからすると男か?
なんだか嫌な臭いが混ざっているな。
「お前、最近疲れやすくないか? 内臓に血液が回っていない箇所があるぞ。その部分が嫌な臭いを発生させている」
「は? 何言ってるんだ? 坊主」
「ヒュー、この子、変な宗教にはまっているみたいなの。光の使者を探してるとか言ってるんだけど」
「光の使者だって? あー、そう言えば昔、亜人排斥運動の首謀者がそういう救世主がどうのってぶち上げてなかったか?」
「あああの悪質な差別主義のテロリスト集団ね! こんな子どもを洗脳しようなんて酷い連中!」
おお、この男、どうやら光の使者についての情報を持っているようだ。
「きっとそいつだ。今どこにいるんだ?」
俺がそう尋ねると、三人はものすごく微妙な表情になった。
「悪いことは言わないから、あんな連中とは関わらないほうがいいわ。あなたぐらい頭がよければ、孤児でも特待生になれる制度もあるし」
「いや、光の使者が見つからないと困る。そいつが俺を殺しに来ると言うからのんびりしていたのに、なかなか来ないもんで、無駄飯食いとか、さぼり魔とか不名誉な言われようをしているのだ。けっしてさぼりたくてさぼっていた訳じゃないのに。だってそうだろ、何か重要な仕事をしているときに殺されて中断されてはたまらないじゃないか?」
俺がそう事情を話した途端、その場にいた三人の雰囲気が変わった。
それまではなんだかのんびりとだらけた気配だったのが、ピンと張りつめた弓の弦のような感覚が生じる。
「殺すだと? そう脅されたのか?」
「なんてこと、あの頭のおかしいテロリスト集団! 異種族でもない子どもにそんなこと言うなんて!」
「ん? 俺は魔族だそうだから異種族ではあるぞ」
俺の言葉に全員がパッと反応した。
「ダメ、魔族なんて汚い言葉を口にしちゃ。とっくの昔になくなった差別用語なんだから」
「くそっ、やっぱりあの連中、まだ凝りてなかったんだな」
三人の意識が怒りに占められて行く。
その怒りはどうやら俺に向けられたものではなさそうだが、怒りに支配された者というのは、だいたいにおいて話が通じない。
俺は、ため息を吐くと、彼等の隙をついて、そっとその場を抜け出した。
まぁ情報がなかった訳じゃないし、よしとするか。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた
藤岡 フジオ
ファンタジー
遥か未来の地球。地球型惑星の植民地化が進む中、地球外知的生命体が見つかるには至らなかった。
しかしある日突然、一人の科学者が知的生命体の住む惑星を見つけて地球に衝撃が走る。
惑星は発見した科学者の名をとって惑星ヒジリと名付けられた。知的生命体の文明レベルは低く、剣や魔法のファンタジー世界。
未知の食材を見つけたい料理人の卵、道 帯雄(ミチ オビオ)は運良く(運悪く?)惑星ヒジリへと飛ばされ、相棒のポンコツ女騎士と共に戦いと料理の旅が始まる。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる