32 / 35
ハンターの卵たち
食事休憩~突撃隣のお弁当~
しおりを挟む
「さて、普通のキャンプポイントの場合素材のある場所にはマーカーがついてたんだけど、現実になるとさすがにマーカーはないな」
「そうだね」
アキラは部屋を一通りぐるっと見回して言った。
祐希がそれに同意する。
「とりあえずお弁当にしない?」
そんなアキラの意気込みに水を差すようにゆえりが提案する。
「え? 早くね?」
「大雑把だけど九時半集合で廃ホテル到着が十時半、そして今は十一時半ね」
「早いだろ!」
「でもこの先に休憩出来る場所がある保証もないし」
なるほどとアキラもゆえりの懸念を理解する。
本来のクエストダンジョンはだいたい二時間程度で攻略するのが平均タイムとされていた。
VRMMOは四時間ぶっ続けで遊ぶと強制ログアウトになるので、ゲームデザインとしてその時間を越えないようになっていたのだ。
しかし、現実となってしまえばゴリ押しのタイムアタックなど出来ない。
そして強制ログアウトもない。
時間の管理は各人が注意して行うしかないのだ。
「俺は桜山さんに賛成だ。空腹状態というのは体がエネルギー不足になるということだ。満腹も逆に危険だから食べすぎない程度に食べ物を入れておいたほうがいい」
祐希がそう言えばもう決定と同じだ。
「わかった。じゃあ軽く食べておこう」
ということで、それぞれが弁当を広げる。
食堂の娘である村上幸子の弁当は、さすが、バランスの取れたお店屋さんのような内容だった。
特に卵焼きがいい。
「だ、だし巻き卵だ……と?」
「欲しいなら交換してあげてもいいよ。アキラくんのお母さん料理上手でしょ」
「ふっ、これでも食らえ!」
「な、……キャラ弁だ……と?」
「二人共、人に作ってもらったご飯には、ちゃんと礼儀を払って食べるものよ」
さっそく弁当トレードを始めた幸子とアキラにゆえりが釘を刺す。
「そう言う桜山の弁当は配給の冷凍食品と見た!」
「自分で作ってるんだからいいでしょ!」
現在食料を手に入れるには主に二つのルートがある。
一つが移動販売やセーフティゾーンにプレハブで作られたいくつかのチェーン店での買い物。
もう一つが、政府の支援政策による配給品だ。
これは人数割りで、ひと家族に一日の最低限のカロリーが配布される。
事前に予想されていたことだが、流通が困難になることで食料品の値段が高騰した。
政府が抑えてはいるが、それでもある程度の値上がりは仕方がないことだ。
嗜好品などは政府も抑える気がないのでバカみたいな値段に跳ね上がっている。
そこで、低所得者や、今回の異変で仕事を失った家庭などが最低限生きていけるようにしたのが配給政策だったのだ。
電気が生きている現在、保管の容易い冷凍食品がメインの配給品となっていた。
ゆえりの弁当の中身はその冷凍食品だったのである。
とは言え、ほかのメンバーが親に作ってもらっているなか自分で作っているのだから誰はばかることなどない。
「副部長はこのご時世にコンビニ弁当?」
「うちのマンションにコンビニチェーン店が入っているからね。知っての通り俺は一人暮らしだし」
「なるほど。てか今現在まだ流通を確保しているコンビニチェーンが怖い」
「大手は自動配送システムを使ってるんじゃなかったっけ?」
祐希のコンビニ弁当に対して感想を述べるアキラに、幸子が自分の知る話を投下する。
「自動配送だと襲われない?」
「人間がいなければヘイトが向かないからね」
アキラの言葉に祐希が答える。
「おおなるほど。そうかモンスターのヘイトは人間にしか向かないからAIロボなら高速道路を通れるのか!」
さすがの検証魔のアキラも盲点だったらしくいたく感動していた。
「で、さっきから隅っこでもそもそ食っている斉木の弁当はなんだ? ぬぬっ、これは、イモの煮っころがしにナスの味噌漬け、おにぎりにゆで卵! 全体的に茶色いこの独特の雰囲気は、お婆ちゃん弁当と見た!」
「うっさい、死ね!」
祭がアキラを睨みつける。
「やめなよ、斉木くんが怒るのも当然だよ。なんで人のお弁当にケチをつけるの?」
ゆえりがアキラを叱りつけた。
「ケチなんかつけてないだろ。誰が作ったかという話題を振っただけの話だ。斉木、別にお婆ちゃん弁当は恥ずかしくないぞ。実際美味そうじゃね? な、おれのプチトマトとそのイモの煮っころがしを交換してくれよ」
「お前、ほんと、物怖じしないな」
怒鳴りつけたのに全く動じないアキラを祭は呆れたように見て、イモを一つ弁当の蓋に乗せてやる。
「サンキュ、じゃあプチトマトな」
「そのレートは不公平だと思います」
「なんでだよ!」
「仲いいなお前ら」
他人の弁当交換で盛り上がるアキラとゆえりに、祭はぼそっと言った。
「そりゃあまぁ小中高と一緒だかんな」
「腐れ縁ね」
「腐ってねーし」
「普通はさ、中学校ぐらいで男女で遊ばなくならないか?」
「うーん、俺らはゲー研があったからかなぁ」
「趣味が一緒だったってことか」
「そーそー」
うんうんうなずくアキラに、祭はため息を吐く。
「ちょっとだけ、うらやましいかも」
誰にも聞こえない声でそう呟いた。
「そうだね」
アキラは部屋を一通りぐるっと見回して言った。
祐希がそれに同意する。
「とりあえずお弁当にしない?」
そんなアキラの意気込みに水を差すようにゆえりが提案する。
「え? 早くね?」
「大雑把だけど九時半集合で廃ホテル到着が十時半、そして今は十一時半ね」
「早いだろ!」
「でもこの先に休憩出来る場所がある保証もないし」
なるほどとアキラもゆえりの懸念を理解する。
本来のクエストダンジョンはだいたい二時間程度で攻略するのが平均タイムとされていた。
VRMMOは四時間ぶっ続けで遊ぶと強制ログアウトになるので、ゲームデザインとしてその時間を越えないようになっていたのだ。
しかし、現実となってしまえばゴリ押しのタイムアタックなど出来ない。
そして強制ログアウトもない。
時間の管理は各人が注意して行うしかないのだ。
「俺は桜山さんに賛成だ。空腹状態というのは体がエネルギー不足になるということだ。満腹も逆に危険だから食べすぎない程度に食べ物を入れておいたほうがいい」
祐希がそう言えばもう決定と同じだ。
「わかった。じゃあ軽く食べておこう」
ということで、それぞれが弁当を広げる。
食堂の娘である村上幸子の弁当は、さすが、バランスの取れたお店屋さんのような内容だった。
特に卵焼きがいい。
「だ、だし巻き卵だ……と?」
「欲しいなら交換してあげてもいいよ。アキラくんのお母さん料理上手でしょ」
「ふっ、これでも食らえ!」
「な、……キャラ弁だ……と?」
「二人共、人に作ってもらったご飯には、ちゃんと礼儀を払って食べるものよ」
さっそく弁当トレードを始めた幸子とアキラにゆえりが釘を刺す。
「そう言う桜山の弁当は配給の冷凍食品と見た!」
「自分で作ってるんだからいいでしょ!」
現在食料を手に入れるには主に二つのルートがある。
一つが移動販売やセーフティゾーンにプレハブで作られたいくつかのチェーン店での買い物。
もう一つが、政府の支援政策による配給品だ。
これは人数割りで、ひと家族に一日の最低限のカロリーが配布される。
事前に予想されていたことだが、流通が困難になることで食料品の値段が高騰した。
政府が抑えてはいるが、それでもある程度の値上がりは仕方がないことだ。
嗜好品などは政府も抑える気がないのでバカみたいな値段に跳ね上がっている。
そこで、低所得者や、今回の異変で仕事を失った家庭などが最低限生きていけるようにしたのが配給政策だったのだ。
電気が生きている現在、保管の容易い冷凍食品がメインの配給品となっていた。
ゆえりの弁当の中身はその冷凍食品だったのである。
とは言え、ほかのメンバーが親に作ってもらっているなか自分で作っているのだから誰はばかることなどない。
「副部長はこのご時世にコンビニ弁当?」
「うちのマンションにコンビニチェーン店が入っているからね。知っての通り俺は一人暮らしだし」
「なるほど。てか今現在まだ流通を確保しているコンビニチェーンが怖い」
「大手は自動配送システムを使ってるんじゃなかったっけ?」
祐希のコンビニ弁当に対して感想を述べるアキラに、幸子が自分の知る話を投下する。
「自動配送だと襲われない?」
「人間がいなければヘイトが向かないからね」
アキラの言葉に祐希が答える。
「おおなるほど。そうかモンスターのヘイトは人間にしか向かないからAIロボなら高速道路を通れるのか!」
さすがの検証魔のアキラも盲点だったらしくいたく感動していた。
「で、さっきから隅っこでもそもそ食っている斉木の弁当はなんだ? ぬぬっ、これは、イモの煮っころがしにナスの味噌漬け、おにぎりにゆで卵! 全体的に茶色いこの独特の雰囲気は、お婆ちゃん弁当と見た!」
「うっさい、死ね!」
祭がアキラを睨みつける。
「やめなよ、斉木くんが怒るのも当然だよ。なんで人のお弁当にケチをつけるの?」
ゆえりがアキラを叱りつけた。
「ケチなんかつけてないだろ。誰が作ったかという話題を振っただけの話だ。斉木、別にお婆ちゃん弁当は恥ずかしくないぞ。実際美味そうじゃね? な、おれのプチトマトとそのイモの煮っころがしを交換してくれよ」
「お前、ほんと、物怖じしないな」
怒鳴りつけたのに全く動じないアキラを祭は呆れたように見て、イモを一つ弁当の蓋に乗せてやる。
「サンキュ、じゃあプチトマトな」
「そのレートは不公平だと思います」
「なんでだよ!」
「仲いいなお前ら」
他人の弁当交換で盛り上がるアキラとゆえりに、祭はぼそっと言った。
「そりゃあまぁ小中高と一緒だかんな」
「腐れ縁ね」
「腐ってねーし」
「普通はさ、中学校ぐらいで男女で遊ばなくならないか?」
「うーん、俺らはゲー研があったからかなぁ」
「趣味が一緒だったってことか」
「そーそー」
うんうんうなずくアキラに、祭はため息を吐く。
「ちょっとだけ、うらやましいかも」
誰にも聞こえない声でそう呟いた。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる