31 / 35
ハンターの卵たち
キャンプポイント
しおりを挟む
「おいおい、エレベーター動かなくなっちまったぞ!」
祭がぎょっとしたように声を上げた。
「しっ、宝玉の樹は目がない代わりに音に敏感なモンスターなんだ。気づかれると囲まれる可能性がある」
「うっ」
慌てて祭は口を押さえ、周囲を見回した。
特に動くものはなく、ほっとした様子を見せる。
「で、大丈夫なのかよ?」
今度は声を抑えて尋ねた。
「大丈夫とは言えないかな。なにしろ始めて尽くしのダンジョンだからね」
「うはぁ、頼むぜ」
「もしボス戦まで一方通行だった場合、その時は俺の指示に従ってくれるかな?」
「そりゃあかまわないぜ。何しろ俺はEOMのルールとか全くわからんからな」
「ありがとう斉木くん」
祐希の提案に心良く応じた祭に祐希は礼を言う。
「あんなこと言ってるけど、絶対二つ三つ脱出手段を考えてるんだろう? 神様は頼りになるんだぜ」
アキラが祐希に対する信頼を表明した。
「かいかぶりはよくない。それとその呼び方はやめろと言ったよね?」
「あ、すみません……」
睨まれてアキラは沈黙する。
祐希は怒らせると怖い先輩なのである。
「とりあえず探索だね。サーチで罠を探るんで、範囲内の先頭にアキラ、後衛に桜山さん、僕の左右に村上さんと斉木くんで」
「OK」
祐希の言葉を聞くなり、するするとアキラが動く。
さきほどのサーチの範囲の一番先端部分までスニークを使って進んだ。
「ん? 副部長、ちょっと来てくれ」
「どうした?」
周囲は相変わらず暗闇だが、彼らのいるのは両側に扉が並ぶ通路だ。
本来のままの姿ならこの両側にあるのはホテルの客室のはずである。
「ほかの部屋は開かないけど、この部屋だけ鍵がかかってない」
「ほう? サーチ」
阿吽の呼吸でアキラがドアを開いた瞬間祐希がサーチをかけた。
「問題ないみたいだな。いや、これは……」
「どったの?」
「見てみろ、部屋の真ん中に焚き火があるぞ」
「へ?」
言われて、アキラはビジネスホテルの客室らしく狭く短い廊下の先にある部屋を見た。
確かに揺らめく炎と照り返しが見える。
「おいおい、火事かよ」
いつの間にかついて来ていた祭が眉をしかめてその光景を見て言った。
「いや、あれはキャンプポイント。ええっとわかりやすく言うとセーフポイントだ」
「は?」
「本来のダンジョンではそうだった」
「ホテルの客室で焚き火とか、常識のないダンジョンだな」
祭の的外れな非難にアキラがあははと笑う。
それからスニークをかけなおしてなかへと入り込み確認する。
「うん。大丈夫だ。マジでキャンプポイントだ」
「驚いたな。いや、驚くべきじゃないのかもしれないが。桜山さん、村上さん、安全が確認されたから入って来て」
「はい」
「オッケー」
全員で入ると狭いビジネスホテルの客室だが、なぜか客室にあって当然のベッドがなかったのでなんとか全員がゆったり座ることが出来た。
「キャンプポイントということはアレがあるんじゃね?」
「確かに」
アキラと祐希が何事かうなずき合う。
「アレ?」
勝手のわからない祭が尋ねた。
「素材アイテムだ」
「おお、採集ポイントか」
「カリテンにもあるよな。もっともカリテンの場合はフィールドにそのまんまあるんだけどEOMの場合は採集ポイントは戦闘フィールドとは別なんだ。基本的に安全なエリアになっている」
「なるほど。楽だな」
「まぁEOMでは生産職と戦闘職がはっきりと別れているからね。安全フィールドに入るのに戦闘フィールドを経由する必要はあるけど、到達すると籠もって生産出来るようになっているんだ」
「へー、でもさ、それってよく言うBOTとかはどうなんだ?」
「おいおいEOMはVRだぜ? 脳波をサーチされてるんだからBOTの入り込む隙はないさ。確かカリテンはVR以前からのシリーズだからそのままBOT対策が活きてるんだよ」
「なるほどね」
祭は納得すると焚き火の炎を不思議そうに見て、ついっと手を差し込んだ。
「きゃあ!」
ゆえりが悲鳴を上げる。
「熱くないな」
「何やってんの? お前」
さすがにアキラが呆れたように言った。
「いやだって、本物の火だったら危ないだろ」
「手を突っ込んだらお前が危ないだろ」
「火は一瞬手を突っ込むぐらいなら危なくないぜ」
「信じられん野郎だな」
アキラは肩をすくめる。
とりあえず彼らはしばらくここで休みながら素材採取をすることにしたのだった。
祭がぎょっとしたように声を上げた。
「しっ、宝玉の樹は目がない代わりに音に敏感なモンスターなんだ。気づかれると囲まれる可能性がある」
「うっ」
慌てて祭は口を押さえ、周囲を見回した。
特に動くものはなく、ほっとした様子を見せる。
「で、大丈夫なのかよ?」
今度は声を抑えて尋ねた。
「大丈夫とは言えないかな。なにしろ始めて尽くしのダンジョンだからね」
「うはぁ、頼むぜ」
「もしボス戦まで一方通行だった場合、その時は俺の指示に従ってくれるかな?」
「そりゃあかまわないぜ。何しろ俺はEOMのルールとか全くわからんからな」
「ありがとう斉木くん」
祐希の提案に心良く応じた祭に祐希は礼を言う。
「あんなこと言ってるけど、絶対二つ三つ脱出手段を考えてるんだろう? 神様は頼りになるんだぜ」
アキラが祐希に対する信頼を表明した。
「かいかぶりはよくない。それとその呼び方はやめろと言ったよね?」
「あ、すみません……」
睨まれてアキラは沈黙する。
祐希は怒らせると怖い先輩なのである。
「とりあえず探索だね。サーチで罠を探るんで、範囲内の先頭にアキラ、後衛に桜山さん、僕の左右に村上さんと斉木くんで」
「OK」
祐希の言葉を聞くなり、するするとアキラが動く。
さきほどのサーチの範囲の一番先端部分までスニークを使って進んだ。
「ん? 副部長、ちょっと来てくれ」
「どうした?」
周囲は相変わらず暗闇だが、彼らのいるのは両側に扉が並ぶ通路だ。
本来のままの姿ならこの両側にあるのはホテルの客室のはずである。
「ほかの部屋は開かないけど、この部屋だけ鍵がかかってない」
「ほう? サーチ」
阿吽の呼吸でアキラがドアを開いた瞬間祐希がサーチをかけた。
「問題ないみたいだな。いや、これは……」
「どったの?」
「見てみろ、部屋の真ん中に焚き火があるぞ」
「へ?」
言われて、アキラはビジネスホテルの客室らしく狭く短い廊下の先にある部屋を見た。
確かに揺らめく炎と照り返しが見える。
「おいおい、火事かよ」
いつの間にかついて来ていた祭が眉をしかめてその光景を見て言った。
「いや、あれはキャンプポイント。ええっとわかりやすく言うとセーフポイントだ」
「は?」
「本来のダンジョンではそうだった」
「ホテルの客室で焚き火とか、常識のないダンジョンだな」
祭の的外れな非難にアキラがあははと笑う。
それからスニークをかけなおしてなかへと入り込み確認する。
「うん。大丈夫だ。マジでキャンプポイントだ」
「驚いたな。いや、驚くべきじゃないのかもしれないが。桜山さん、村上さん、安全が確認されたから入って来て」
「はい」
「オッケー」
全員で入ると狭いビジネスホテルの客室だが、なぜか客室にあって当然のベッドがなかったのでなんとか全員がゆったり座ることが出来た。
「キャンプポイントということはアレがあるんじゃね?」
「確かに」
アキラと祐希が何事かうなずき合う。
「アレ?」
勝手のわからない祭が尋ねた。
「素材アイテムだ」
「おお、採集ポイントか」
「カリテンにもあるよな。もっともカリテンの場合はフィールドにそのまんまあるんだけどEOMの場合は採集ポイントは戦闘フィールドとは別なんだ。基本的に安全なエリアになっている」
「なるほど。楽だな」
「まぁEOMでは生産職と戦闘職がはっきりと別れているからね。安全フィールドに入るのに戦闘フィールドを経由する必要はあるけど、到達すると籠もって生産出来るようになっているんだ」
「へー、でもさ、それってよく言うBOTとかはどうなんだ?」
「おいおいEOMはVRだぜ? 脳波をサーチされてるんだからBOTの入り込む隙はないさ。確かカリテンはVR以前からのシリーズだからそのままBOT対策が活きてるんだよ」
「なるほどね」
祭は納得すると焚き火の炎を不思議そうに見て、ついっと手を差し込んだ。
「きゃあ!」
ゆえりが悲鳴を上げる。
「熱くないな」
「何やってんの? お前」
さすがにアキラが呆れたように言った。
「いやだって、本物の火だったら危ないだろ」
「手を突っ込んだらお前が危ないだろ」
「火は一瞬手を突っ込むぐらいなら危なくないぜ」
「信じられん野郎だな」
アキラは肩をすくめる。
とりあえず彼らはしばらくここで休みながら素材採取をすることにしたのだった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる