ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

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ハンターの卵たち

キャンプポイント

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「おいおい、エレベーター動かなくなっちまったぞ!」

 祭がぎょっとしたように声を上げた。

「しっ、宝玉の樹ジュエリーツリーは目がない代わりに音に敏感なモンスターなんだ。気づかれると囲まれる可能性がある」
「うっ」

 慌てて祭は口を押さえ、周囲を見回した。
 特に動くものはなく、ほっとした様子を見せる。

「で、大丈夫なのかよ?」

 今度は声を抑えて尋ねた。

「大丈夫とは言えないかな。なにしろ始めて尽くしのダンジョンだからね」
「うはぁ、頼むぜ」
「もしボス戦まで一方通行だった場合、その時は俺の指示に従ってくれるかな?」
「そりゃあかまわないぜ。何しろ俺はEOMのルールとか全くわからんからな」
「ありがとう斉木くん」

 祐希の提案に心良く応じた祭に祐希は礼を言う。

「あんなこと言ってるけど、絶対二つ三つ脱出手段を考えてるんだろう? 神様は頼りになるんだぜ」

 アキラが祐希に対する信頼を表明した。

「かいかぶりはよくない。それとその呼び方はやめろと言ったよね?」
「あ、すみません……」

 睨まれてアキラは沈黙する。
 祐希は怒らせると怖い先輩なのである。

「とりあえず探索だね。サーチで罠を探るんで、範囲内の先頭にアキラ、後衛に桜山さん、僕の左右に村上さんと斉木くんで」
「OK」

 祐希の言葉を聞くなり、するするとアキラが動く。
 さきほどのサーチの範囲の一番先端部分までスニークを使って進んだ。

「ん? 副部長、ちょっと来てくれ」
「どうした?」

 周囲は相変わらず暗闇だが、彼らのいるのは両側に扉が並ぶ通路だ。
 本来のままの姿ならこの両側にあるのはホテルの客室のはずである。

「ほかの部屋は開かないけど、この部屋だけ鍵がかかってない」
「ほう? サーチ」

 阿吽の呼吸でアキラがドアを開いた瞬間祐希がサーチをかけた。

「問題ないみたいだな。いや、これは……」
「どったの?」
「見てみろ、部屋の真ん中に焚き火があるぞ」
「へ?」

 言われて、アキラはビジネスホテルの客室らしく狭く短い廊下の先にある部屋を見た。
 確かに揺らめく炎と照り返しが見える。

「おいおい、火事かよ」

 いつの間にかついて来ていた祭が眉をしかめてその光景を見て言った。

「いや、あれはキャンプポイント。ええっとわかりやすく言うとセーフポイントだ」
「は?」
「本来のダンジョンではそうだった」
「ホテルの客室で焚き火とか、常識のないダンジョンだな」

 祭の的外れな非難にアキラがあははと笑う。
 それからスニークをかけなおしてなかへと入り込み確認する。

「うん。大丈夫だ。マジでキャンプポイントだ」
「驚いたな。いや、驚くべきじゃないのかもしれないが。桜山さん、村上さん、安全が確認されたから入って来て」
「はい」
「オッケー」

 全員で入ると狭いビジネスホテルの客室だが、なぜか客室にあって当然のベッドがなかったのでなんとか全員がゆったり座ることが出来た。

「キャンプポイントということはアレがあるんじゃね?」
「確かに」

 アキラと祐希が何事かうなずき合う。

「アレ?」

 勝手のわからない祭が尋ねた。

「素材アイテムだ」
「おお、採集ポイントか」
「カリテンにもあるよな。もっともカリテンの場合はフィールドにそのまんまあるんだけどEOMの場合は採集ポイントは戦闘フィールドとは別なんだ。基本的に安全なエリアになっている」
「なるほど。楽だな」
「まぁEOMでは生産職と戦闘職がはっきりと別れているからね。安全フィールドに入るのに戦闘フィールドを経由する必要はあるけど、到達すると籠もって生産出来るようになっているんだ」
「へー、でもさ、それってよく言うBOTとかはどうなんだ?」
「おいおいEOMはVRだぜ? 脳波をサーチされてるんだからBOTの入り込む隙はないさ。確かカリテンはVR以前からのシリーズだからそのままBOT対策が活きてるんだよ」
「なるほどね」

 祭は納得すると焚き火の炎を不思議そうに見て、ついっと手を差し込んだ。

「きゃあ!」

 ゆえりが悲鳴を上げる。

「熱くないな」
「何やってんの? お前」

 さすがにアキラが呆れたように言った。

「いやだって、本物の火だったら危ないだろ」
「手を突っ込んだらお前が危ないだろ」
「火は一瞬手を突っ込むぐらいなら危なくないぜ」
「信じられん野郎だな」

 アキラは肩をすくめる。
 とりあえず彼らはしばらくここで休みながら素材採取をすることにしたのだった。
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