ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
30 / 35
ハンターの卵たち

二階へ

しおりを挟む
「とりあえず神龍シン・ドラゴンには行かない」

 祐希がそう宣言すると、全員が納得顔でうなずいた。
 もともとVRMMOゲームEOMエピソード・オブ・マインを遊んでいたメンバーはレベルカンストしてはいるが、実際の命のやりとりで同レベル帯のボスとやり合うのは危険過ぎるというのが全員の結論だ。

「じゃあどこまで行く?」

 アキラが真剣な面持ちで尋ねる。
 勉強するときには決して見せない真面目な顔だ。

「順番通りなら火鼠ファイアーラットの次のフロアは宝玉の樹ジュエリーツリーのはずだ。レベル的に安全マージンが大きく取れる上にアイテムが美味しい。宝玉の樹ジュエリーツリーをしばらく狩ったら戻ろう」
「りょーかい!」
「わかった」

 仲間たちと祭も共にうなずく。

「さて、そうと決まれば次のフロアへの行き方なんだけど、階段はロビー中央の大きな階段と非常階段か。サーチしながら調べよう」

 全員で戻ってまずは非常階段を調べる。
 しかし非常階段の防火扉は閉まっていて、押しても引いても開かなかった。

「ということは中央階段か」

 元は赤絨毯が敷いてあったのだろう大きな階段を上る。
 しかし、広い踊り場に立ったゆえりは驚愕した。

「階段がない……」

 なんと踊り場から先の階段が消失していたのだ。

「なるほど。ダンジョンになったせいで少々造りが変わったということか」

 アキラが興味深そうに言う。
 全員で踊り場のあちこちを探ったが、そこから上には手すりはあっても階段はない。
 手すりは壁と一体化したオブジェのようになっていた。

 仕方なく中央階段を降りる。
 と、それを待っていたかのように、チーンと言う、金属的な音が響いた。

「え? これって」

 幸子がビクッとしてゆえりに抱きつく。
 抱きつかれたゆえりも顔色が悪い。

「エレベーターの到着音だな。行ってみよう」

 アキラが率先して走り出す。

「アキラ、サーチ範囲を出るな!」

 祐希が注意するが、アキラは平気な顔で答えた。

「エレベーター前はさっき通ったじゃないか」

 そう客用エレベーターは最初のモンスターフロアである火鼠ファイアーラットのいたカフェらしき場所への通路の途中にあった。
 そのときは確かに稼働を示す光はついていなかったはずだ。
 客用エレベーターの前に到着したアキラは、そこに大きく口を開けたエレベーターのカゴを見た。
 なかの照明もあかあかと灯されている。

「なんかホラーっぽいよなぁ」
「乗ったら上から何かが落ちて来たり、エレベーターを吊り上げているワイヤーが切れたりするんだよね」

 アキラの言葉に幸子が応じた。

「お前らいい加減にしろよ!」

 祭が泣きそうな顔で言う。
 どうやらホラーは苦手のようだ。
 そしてもう一人、無言で祐希の背後に隠れているゆえりが射殺すような目でアキラと幸子を睨んでいた。

「ごめん、悪かったって、ゆえりちゃん、機嫌直して、ね?」

 幸子が慌ててゆえりを宥める。

「あー、まぁここはダンジョンな訳だからホラー展開はないと思う」
「思う?」

 アキラの言葉にゆえりがすかさずツッコむ。
 曖昧さを許さない強い意思が感じられた。

「まぁまぁ二人共。とにかく行ってみよう。いろいろ考えるよりも行動だよ」
「神さまはいい事言うなー」

 祐希の提案にアキラがうんうんとうなずく。
 穏やかな知性派に見えるが、祐希も意外と行動的なタイプだ。
 どちらかと言うとコンビを組んでいた元ゲー研の部長今田洋介のほうが慎重派であった。

 とりあえず一人で残されるのは嫌なので、全員がエレベーターの狭い箱に乗り込む。
 ホテルのエレベーターだけあって、狭いと言っても五人が乗り込んでも十分に余裕があった。

 チンッと軽い音と共に扉が閉まり、全員に緊張が走る。
 もしこのエレベーター自体が罠であったりしたら、下手をすると全滅の怖れがあった。
 もちろん事前に祐希がサーチで調べてはいるが、変化した世界の法則を完全に解明した者はまだいないのだ。
 もしもということはある。

「ボタンは無反応、と」

 予想されたことだったが、階層を表示したボタンを押しても反応はない。
 しばらく昇っていくエレベーター独特の浮遊感があり、スーッと止まった。
 チンッと再びの軽い音と共に扉が開く。

 まずは祐希がサーチをかけて扉の正面を調べ、踏み出した周辺を再びサーチした。

「大丈夫。何もないようだ」

 全員がぞろぞろとエレベーターから吐き出され、カタンという軽い音と共に扉が閉まる。
 そしてエレベーターは再び沈黙した。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【プロット】ミコナとかぷせるあにまるず

せんのあすむ
ファンタジー
十歳の少女ミコナが暮らすその世界は、亡くなった人の魂が帰ってこれるという不思議なところ。 今よりもっと幼い頃に母親を病気で亡くした彼女のために、彼女の父親(ハカセ)は、帰ってきた母親の魂を自身が作った<かぷせるあにまる>に封入する。 けれど、ミコナへの想いがとても強かった母親の魂は一つには入りきらず、五つのかぷせるあにまるに分割して収められることとなった。 でも、ミコナの母親の魂を収めたかぷせるあにまるは、なぜか、タカ、トラ、オオカミ、サメ、ティラノサウルスと、どれもとても強そうな動物達の姿に。 こうして、ミコナと五体の<かぷせるあにまるず>による、少し不思議で、でもとても楽しい日常が始まったのだった。       こちらはかなりまとまりがなくなってしまったので、プロットということにします。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

処理中です...