ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
23 / 35
ハンターの卵たち

山間部の事情

しおりを挟む
 仮のパーティを組んだら的をモンスターに見立てて実際に戦ってみる。
 とは言え、的は動かない丸太なので、あまり緊張感がない。
 アキラたちはそれぞれ練習用の武器を手にして実践訓練を行った。

「……和弓しかなかった」

 カリテンで弓使いをやっていたという斉木祭は、支給された練習用の武器に不満を漏らす。
 まぁカリテンで使うのは洋弓に似た別の何かなので、何を使っても違和感は拭えないはずだ。

「俺は短剣でやってみる」

 現在アキラが使っているのは属性武器の風のブーメランなのだが、ブーメランという武器は一般的ではないので、練習用の武器にはなかったのだ。
 とは言えアキラのジョブである軽業師は短剣を得意とするジョブなので、これはこれで問題はない。

 そして、このパーティの頭脳である神谷祐希は賢者である。
 賢者の武器と言えばロッドだが、練習用にはいわゆるタクトと呼ばれる指揮棒が与えられた。

「実はこれでも魔法は使えるんだよな」
「本物の杖を使うと威力が大きくなるからでは?」
「そうなんだろうね」

 そんな風に和気あいあいと実戦シミュレーションを繰り返したのであった。

「お疲れ! 初めての養成所はどうだった?」
「う~ん、初心者向け講座?」
「あはは。その為の養成所だもの、当然でしょ」

 養成所のプログラムを終えると、別にパーティを組んでいたゆえりがアキラと祐希の元へとやって来た。
 元同じ部活メンバーだ。遠慮などない。
 しかし、まだ一緒にいた祭は、可哀想なぐらい真っ赤になって慌てた。

「お、女!」
「ん? こちらの方は?」

 ゆえりが尋ねる。
 
「おう、聞いて驚け! なんとカリテンメインでやってたのに逆境にくじけずハンターを目指す根性ある若者、斉木祭くんだ!」
「は、初めまして!」
「アキラくんたらまたそんな風にからかって! カリテンプレイヤーなら深刻な問題でしょ! ええっと、斉木くん? 私桜山ゆえり、ゆえりって呼んでね。EOMでは深淵の魔術師をやっていたわ」
「おーい、斉木、聞こえているか?」

 すっかりガッチガチに固まっている祭をアキラがつつく。
 すると、やっと再起動したらしい祭は、真っ赤な顔のままペコペコ頭を下げた。

「こ、こちらこそよろしくお願いしまっす! お、俺は弓使いで、カリテンです!」
「やべー。こっちが恥ずかしくなるぐらい舞い上がってる」

 すっかり鑑賞モードになっているアキラがニヤニヤと笑う。

「こら」

 その頭を祐希が軽く小突く。

「帰りはどっち方向なんだい? 斉木くんもよかったら一緒に帰らないか?」
「へ? いや、俺はシャトルバスを使うから」
「え? もしかして斉木くんって家が遠いの?」

 ハンター養成所には駅からのシャトルバスが往復している。
 駅を安全圏に設定してからは電車も復活して少し遠い場所とも行き来が出来るようになった。
 その駅を使うということは、電車を使わなければならない場所ということだ。
 ここは地方都市なので、電車は日常の交通機関というよりも遠方に行くためのものという認識がある。

 ちなみに新幹線や飛行機はまだ安全が確保出来ていない。

「あ、ああ。山のほうなんだ」
「え? 大丈夫なのか? 山間の街は危ないからって避難した人が多いって聞いてるけど」

 アキラはさすがに心配になって尋ねた。
 山奥にある街には今の時代でもゲーマーは少ない。
 なにしろお年寄りが圧倒的に多いからだ。

「うちは食堂をやっていて、避難しない人への食事の配達とかやっているんだ。街には二人ぐらいEOMの魔法職がいて、あと駐在さんが新規登録してレベル上げして頑張ってる」
「その駐在さん、いい人ね」

 ゆえりがしみじみと言った。
 実は、当初問題になったのは、ゲームをやっていた人間しかモンスターに対処出来ないということだった。
 今やゲームにログイン出来ないのだから、今のジョブ持ちが将来的に死んでしまった未来には、人類はモンスターに対処出来ないということになる。

 ところがこれを解決した者たちがいた。
 アキラも常連になっている解析掲示板の暇人たちだ。

 ゲームにログインしようとしても弾かれるが、ログインボタン自体は出るのである。
 これはもしかして現実がゲームになったから既にログインしているという判断なのでは? と仮説を立てた人間がいて、それなら新規登録はどうなるんだ? という疑問を解決するために実験したのだ。

 結果として、新規登録は出来て、キャラクターメイキングまで進めることが判明した。
 キャラクターメイキングをして、ゲームスタートすると弾かれる。
 つまり初期状態だが、ジョブを手に入れることは出来たのだ。

 これは大いなる発見だった。
 この検証結果が広まるやいなや、警察や軍などの公的武装機関所属でジョブを持たなかった人間が次々と新規登録をしてジョブ持ちになった。

 だが、問題はレベル上げである。
 モンスターは各地にランダムに出現する為、レベル上げに丁度いいモンスターを見つけるのは至難の業だったのだ。

 それでも、高レベルのジョブ持ちの協力を得ながら、彼らはレベル上げをしているらしい。

「そっか、斉木は自分の街の人を助けるためにハンターになりたいんだな」

 アキラはすっかり感心して言った。
 祭は再び挙動不審になりつつ怒鳴る。

「そ、そんなんじゃねえよ! 俺は強いモンスターをぶっ倒したいだけだ!」

 しかし神のごとく慈悲深い祐希や、人懐っこいゆえりにはそんな悪ぶった態度は通用しなかった。

「偉いな。斉木くんを尊敬するよ」
「かっこいい!」

 そうして斉木祭は、アキラたちからすっかり凄いやつ認定されてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【プロット】ミコナとかぷせるあにまるず

せんのあすむ
ファンタジー
十歳の少女ミコナが暮らすその世界は、亡くなった人の魂が帰ってこれるという不思議なところ。 今よりもっと幼い頃に母親を病気で亡くした彼女のために、彼女の父親(ハカセ)は、帰ってきた母親の魂を自身が作った<かぷせるあにまる>に封入する。 けれど、ミコナへの想いがとても強かった母親の魂は一つには入りきらず、五つのかぷせるあにまるに分割して収められることとなった。 でも、ミコナの母親の魂を収めたかぷせるあにまるは、なぜか、タカ、トラ、オオカミ、サメ、ティラノサウルスと、どれもとても強そうな動物達の姿に。 こうして、ミコナと五体の<かぷせるあにまるず>による、少し不思議で、でもとても楽しい日常が始まったのだった。       こちらはかなりまとまりがなくなってしまったので、プロットということにします。

処理中です...