ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
21 / 35
ハンターの卵たち

カリテンから来た男

しおりを挟む
「今日はパーティを組んでの模擬戦闘だ。予備生の間は固定を組まずにランダムな組み合わせでチームを組んで仲間のジョブに合わせた動きを考えるのが課題となる」

 ハンター養成所のこの訓練過程の必要性はアキラにもよく理解出来た。
 自分以外のジョブのゲームと現実の違いを理解することで、お互いの出来ること出来ないことを把握することが出来る。
 ゲームのときの攻略情報と同じパーティの組み合わせは現実となった今では正しく機能しないのだ。
 その一番の理由が、物理系の攻撃が無力となったことにある。
 いや、無力と言う訳ではないなとアキラは思った。
 モンスターに対しては無力というだけだ。
 そのゲームのなかのステータスはちゃんと現実に反映されてはいるのだ。

 そしてそれこそが、物理系ジョブの立場が更に微妙になってしまった理由でもある。
 つまり物理系の攻撃は人間に対してのみ有効なのだ。

「PK専用ジョブみたいな扱いになっちまったからなぁ物理職は」

 実際は属性武器さえあればモンスターとも戦えるのでその認識は正しくないのだが、役立たずとしてさんざんネタにされた物理系ジョブの何人かが傷害事件を起こしてしまったのがまずかった。
 それ以来物理系ジョブに対する世界の目は何枚ものフィルターがかかってしまったのだ。

「さて、チームはどうなっているかな?」

 アキラはスコープグラスにファイルが落ちて来るのを待って開封する。
 そこには知っている名前と見知らぬ名前が書かれていた。
 一人は「神谷祐希」。
 中学時代ゲー研で副部長を努めていた神のごとく慈悲深き男だ。
 学年的には一学年上だが、この養成所では十八歳未満は全部ブッコミなのでそういうことはあまり関係ない。
 実は今しばらくはアキラと祐希の年齢は同じであるという事実もあった。
 もう一人は「斉木祭」、アキラの知らない名前である。

「ふむ、さすがに同じ学校の同学年である桜山さんとは組ませなかったか。目的から考えたら当然だな」

 このチーム分けの目的は初めての相手とのチームプレイだ。
 当然知らない同士を組ませようとするだろう。
 しかし、学校も学年も違う祐希とアキラがまさか知り合いとは気づけなかったようだ。

 アキラは「これってズルになるのかな?」と、考えてみたが、チーム分けをしたのは自分ではないので気にしないことにした。

 ファイルを読み込ませると、グラウンドのエリア情報にマーカーが光る。
 チームメンバーのいる場所を示しているのだ。
 各々が合流に動き出し、すぐに三人が集合した。

「神さまお久しぶりです!」

 アキラは祐希に丁寧なおじぎをする。

「やめるんだ、誤解されるだろ?」
「うす!」

 祐希の目のなかに本気の色合いを見て、アキラはすぐに態度を改めた。
 祐希は普段優しいだけに怒ると怖いのである。

「おう、お前たちが俺のチームか?」

 もう一人、斉木祭は筋肉質で背が高い神経質そうな男だった。
 いわゆる細マッチョという感じだ。

「ええっと、俺は天崎アキラです。よろしく」
「神谷祐希だ。よろしく頼むよ」

 いきなり不良学生のようにかまして来た斉木だったが、アキラのわざとらしい自己紹介と、ソフトな祐希の自己紹介に少し戸惑いが見える。
 差し出された祐希の手を取りこそしなかったが、複雑な表情で自己紹介を返した。

「俺様は斉木祭だ!」

 この世に俺様とか自称する奴が生き残っていたのか、と、アキラは驚愕した。
 もちろん顔には出さなかった。

「それで斉木くんのジョブは何だい?」

 天然の祐希はそんな斉木に対してにこやかに問いかけた。

「ゆ、弓使いだ」
「弓師か、基本ジョブだね」
「違う、弓使いだ」

 斉木の訂正に、アキラと祐希はしばし考えてああと得心した。

「カリテンか」
「カリテン組なんだ。珍しいね」

 珍しいどころではない。
 物理ジョブバッシングで最も割を食ったのがこのカリテンと呼ばれるゲーム、「狩人の天地」の元プレイヤー達だったのだ。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【プロット】ミコナとかぷせるあにまるず

せんのあすむ
ファンタジー
十歳の少女ミコナが暮らすその世界は、亡くなった人の魂が帰ってこれるという不思議なところ。 今よりもっと幼い頃に母親を病気で亡くした彼女のために、彼女の父親(ハカセ)は、帰ってきた母親の魂を自身が作った<かぷせるあにまる>に封入する。 けれど、ミコナへの想いがとても強かった母親の魂は一つには入りきらず、五つのかぷせるあにまるに分割して収められることとなった。 でも、ミコナの母親の魂を収めたかぷせるあにまるは、なぜか、タカ、トラ、オオカミ、サメ、ティラノサウルスと、どれもとても強そうな動物達の姿に。 こうして、ミコナと五体の<かぷせるあにまるず>による、少し不思議で、でもとても楽しい日常が始まったのだった。       こちらはかなりまとまりがなくなってしまったので、プロットということにします。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...