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ハンターの卵たち
ハンター養成所
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世界が劇的に変わってから二年の歳月が流れた。
当時中学二年だったアキラはなんとか無事高校生となり、青春真っ只中の日々を過ごしている。
二年前の元旦にゲームが現実に侵食するという異常事態が発生し、現在に至るまでその犯人は特定されていない。
いくつかの古くから存在する魔術結社が槍玉に挙げられていたが、名前が知られているところは正式に自分たちは関わっていないと表明していた。
驚きなのはそういった魔術結社に加入しているのが名だたる学者や政治家、資産家たちだったということだろう。
魔術なぞ存在しなかったはずの世界で最もリアリストであるはずの立場の人間こそが非現実を楽しんでいたということか。
ともあれ、そういった世界情勢は狭い範囲で生きているアキラ少年には関係のないことだった。
ニュースが流れているものを聞き流す程度の興味しか惹かない。
現在のアキラにとって大切なものは、ハンター養成所での成績なのだ。
異常事態のために制定された法律によって、ハンター制度が発足して丸二年になる。
ハンターには十八歳からしか登録出来ないが、いきなりハンター登録をしてモンスターと戦うのは難しく事故が多発した。
そこで急ぎ設置されたのがハンター養成所だ。
ハンター自体は十八歳からだが、養成所には十六歳から入れる。
五月生まれのアキラはつい先日、このハンター養成所に登録した新人だった。
とは言え、アキラはモンスターとの戦いは、既にこっそりと十三歳の頃から続けているので、いまさらモンスターとの戦い方を習うということにはあまり意義を感じていなかった。
ただ、ハンター養成所を好成績で卒業すると、ハンターの正式登録の際に優遇措置があり、それは気になっていた。
「一ヶ月の研修免除とランクスキップ、それとハンター保険の掛け金減額か」
「それだけじゃないだろ。トップ3卒業ならレアアイテムの贈与がある」
朝食の席でパンフレットを改めて読んでいたアキラの呟きに、父の天崎ハヤトが補足する。
アキラの父は二年前世界が変わってすぐに世界に適合した人間の一人だった。
もともと両親共に病気一歩手前ぐらいのゲーマーだった二人は、現実でゲームと同じようなことが出来ることを喜びと共に受け入れたのだ。
魔法剣士から聖騎士にクラスチェンジしたアキラの父は、神官の母と共に、さっそくハンター登録してこのエリアの守護神とか言われているようだった。
両親揃って警察や自衛隊、また私設のハンターギルドなどからも協力要請があるらしい。
本来の仕事のほうはそもそもがほとんど出社せずにVRオフィスで仕事を行う会社だったので、きちんと両立出来ているとのことだった。
アキラは社員がハンターやっててOKとか懐の深い会社だなと思っている。
「アキくんはハンター一本でやっていくつもり? もし世界が元通りになったらどうするの?」
「元通りになったらプロゲーマーになるよ」
「うふふ、さすが私たちの子どもね」
「全く、ミコトそっくりで前向きだな」
「ううん、ハヤトさんそっくりで情熱的だわ」
「だからいちゃつくなって言ってるだろ! 行って来ます!」
「あらあら行ってらっしゃい」
「モンスターに注意するんだぞ。スコープグラスでハザードマップをONにしておけ」
「わかってるって」
モンスターの活動範囲をある程度限定したと言っても、セーフティエリアがなんらかの問題で機能しなくなる場合もあるし、突然レイドボスクラスのモンスターが出現する可能性もある。
しかし学校の授業のほとんどはVR授業で家で受けることが出来るが、ハンター養成所は多少危険であっても直接出向かなければならないのだ。
何しろ魔法を使ったり、モンスターとの模擬戦闘を行ったりと実技がかなり多いため、VRでは意味がないのである。
アキラは中学でゲーム研究会という部活をやっていて、中学生の間はその仲間と狩りを行っていた。
高校になると進学先が違ったり学年の違いなどで何人かとはあまり会えなくなったが、パーティを組む場合には今も頼もしい仲間だった。
彼らは全員ハンター養成所に登録する予定だ。
高一組では桜山ゆえりが四月生まれで最初に登録して、次が今月五月に登録したアキラ、かなり遅れて村上幸子が十一月の誕生日待ちである。
途中、パトロールの警官たちに愛想を振り撒いて、アキラは元ドーム型屋内競技場だったハンター養成所へと到着した。
ドームの周辺には二重にテント杭が張り巡らされている。
ドームの膨大な敷地をカバーするのにかなりの数のテント杭が必要だったとアキラは聞いていた。
受付にカードを渡して出席チェックを受ける。
ハンター予備生のカードでベースカラーは白だ。
魔法職はベースカラーが青なのでアキラとしてはそこはかとない差別を感じる。
モンスターには魔法攻撃しか通じないことでハンターの花形は魔法職だ。
とは言え、物理職でも属性武器があれば活躍出来る。
普通は序盤にどうやって属性武器を手に入れるかという問題になる訳だが、その問題をアキラたちはもうクリアしていた。
「おはー」
「はよー」
グラウンドに行くと大勢のなかからゆえりがめざとくアキラを発見してやって来た。
その様子に、周囲からのすさまじい視線が集まる。
そう、ゆえりは既にこのハンター養成所で有名人となっていたのだ。
なにしろ魔法職でしかも自分で魔法をデザイン出来る「深淵の魔術師」である。
そりゃあ注目されるよなとアキラも思った。
とは言え、嫉妬の対象になるのはあまり気持ちのいい感覚ではない。
アキラが物理職ということもあって、釣り合いが取れないと思われているのが特にアキラには癪に障るのだ。
当時中学二年だったアキラはなんとか無事高校生となり、青春真っ只中の日々を過ごしている。
二年前の元旦にゲームが現実に侵食するという異常事態が発生し、現在に至るまでその犯人は特定されていない。
いくつかの古くから存在する魔術結社が槍玉に挙げられていたが、名前が知られているところは正式に自分たちは関わっていないと表明していた。
驚きなのはそういった魔術結社に加入しているのが名だたる学者や政治家、資産家たちだったということだろう。
魔術なぞ存在しなかったはずの世界で最もリアリストであるはずの立場の人間こそが非現実を楽しんでいたということか。
ともあれ、そういった世界情勢は狭い範囲で生きているアキラ少年には関係のないことだった。
ニュースが流れているものを聞き流す程度の興味しか惹かない。
現在のアキラにとって大切なものは、ハンター養成所での成績なのだ。
異常事態のために制定された法律によって、ハンター制度が発足して丸二年になる。
ハンターには十八歳からしか登録出来ないが、いきなりハンター登録をしてモンスターと戦うのは難しく事故が多発した。
そこで急ぎ設置されたのがハンター養成所だ。
ハンター自体は十八歳からだが、養成所には十六歳から入れる。
五月生まれのアキラはつい先日、このハンター養成所に登録した新人だった。
とは言え、アキラはモンスターとの戦いは、既にこっそりと十三歳の頃から続けているので、いまさらモンスターとの戦い方を習うということにはあまり意義を感じていなかった。
ただ、ハンター養成所を好成績で卒業すると、ハンターの正式登録の際に優遇措置があり、それは気になっていた。
「一ヶ月の研修免除とランクスキップ、それとハンター保険の掛け金減額か」
「それだけじゃないだろ。トップ3卒業ならレアアイテムの贈与がある」
朝食の席でパンフレットを改めて読んでいたアキラの呟きに、父の天崎ハヤトが補足する。
アキラの父は二年前世界が変わってすぐに世界に適合した人間の一人だった。
もともと両親共に病気一歩手前ぐらいのゲーマーだった二人は、現実でゲームと同じようなことが出来ることを喜びと共に受け入れたのだ。
魔法剣士から聖騎士にクラスチェンジしたアキラの父は、神官の母と共に、さっそくハンター登録してこのエリアの守護神とか言われているようだった。
両親揃って警察や自衛隊、また私設のハンターギルドなどからも協力要請があるらしい。
本来の仕事のほうはそもそもがほとんど出社せずにVRオフィスで仕事を行う会社だったので、きちんと両立出来ているとのことだった。
アキラは社員がハンターやっててOKとか懐の深い会社だなと思っている。
「アキくんはハンター一本でやっていくつもり? もし世界が元通りになったらどうするの?」
「元通りになったらプロゲーマーになるよ」
「うふふ、さすが私たちの子どもね」
「全く、ミコトそっくりで前向きだな」
「ううん、ハヤトさんそっくりで情熱的だわ」
「だからいちゃつくなって言ってるだろ! 行って来ます!」
「あらあら行ってらっしゃい」
「モンスターに注意するんだぞ。スコープグラスでハザードマップをONにしておけ」
「わかってるって」
モンスターの活動範囲をある程度限定したと言っても、セーフティエリアがなんらかの問題で機能しなくなる場合もあるし、突然レイドボスクラスのモンスターが出現する可能性もある。
しかし学校の授業のほとんどはVR授業で家で受けることが出来るが、ハンター養成所は多少危険であっても直接出向かなければならないのだ。
何しろ魔法を使ったり、モンスターとの模擬戦闘を行ったりと実技がかなり多いため、VRでは意味がないのである。
アキラは中学でゲーム研究会という部活をやっていて、中学生の間はその仲間と狩りを行っていた。
高校になると進学先が違ったり学年の違いなどで何人かとはあまり会えなくなったが、パーティを組む場合には今も頼もしい仲間だった。
彼らは全員ハンター養成所に登録する予定だ。
高一組では桜山ゆえりが四月生まれで最初に登録して、次が今月五月に登録したアキラ、かなり遅れて村上幸子が十一月の誕生日待ちである。
途中、パトロールの警官たちに愛想を振り撒いて、アキラは元ドーム型屋内競技場だったハンター養成所へと到着した。
ドームの周辺には二重にテント杭が張り巡らされている。
ドームの膨大な敷地をカバーするのにかなりの数のテント杭が必要だったとアキラは聞いていた。
受付にカードを渡して出席チェックを受ける。
ハンター予備生のカードでベースカラーは白だ。
魔法職はベースカラーが青なのでアキラとしてはそこはかとない差別を感じる。
モンスターには魔法攻撃しか通じないことでハンターの花形は魔法職だ。
とは言え、物理職でも属性武器があれば活躍出来る。
普通は序盤にどうやって属性武器を手に入れるかという問題になる訳だが、その問題をアキラたちはもうクリアしていた。
「おはー」
「はよー」
グラウンドに行くと大勢のなかからゆえりがめざとくアキラを発見してやって来た。
その様子に、周囲からのすさまじい視線が集まる。
そう、ゆえりは既にこのハンター養成所で有名人となっていたのだ。
なにしろ魔法職でしかも自分で魔法をデザイン出来る「深淵の魔術師」である。
そりゃあ注目されるよなとアキラも思った。
とは言え、嫉妬の対象になるのはあまり気持ちのいい感覚ではない。
アキラが物理職ということもあって、釣り合いが取れないと思われているのが特にアキラには癪に障るのだ。
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