ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

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ゲーマーの時代

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「この大鎌、テラスで振ってみてもいいかな?」

 部長がワクワクとした顔で言ったが、「却下」と、副部長がにこやかに断った。
 そんなことをしている間にすり鉢とすりこぎを見つけて来た副部長が薬草二束をすり鉢に入れて擦り始める。

「よし、そろそろ」

 副部長がそう言った瞬間、すり鉢からポンという、シャンパンを開けたときのような音が響き、特殊効果のような煙が出た。

「なんだ?」
「もうなんでもありだな」

 驚いたアキラがマジマジと見ているその目の前に、ポーション瓶が転がった。

「へ?」

 幸子が何か信じられないものを見たという顔で、そのポーション瓶と副部長の顔を見比べる。

「え? なんで、どういうこと? なんですり鉢で薬草を擦ったら瓶入りのポーションが出て来る訳?」
「理屈はわからないが、薬草を持ったときに出来るという確信を感じたんだ。こればっかりは他人に説明出来ない」

 幸子の疑問に副部長が困ったように言った。
 ゲームが現実になった結果物理法則が崩壊したらしい。

「つまり調合もスキルで行う限りは魔法のようなものと思っていいのかな。薬草もポーションも形としては物質のように見えているけど、結局のところ魔法物質にすぎない、と」

 アキラの分析に副部長がうなずく。

「そう考えていいと思う。本来の物理法則を当てはめることは出来ないけど、物理法則がなくなった訳じゃない。つまり俺たちの認識が捻じ曲げられていると考えることが出来る」

 副部長の話に、部長が度入りのスコープグラスをくいっと持ち上げた。

「つまりあれだな。俺たちの脳がそこに物質があると判断しているが、本来はそこには何もない訳だ。これは怖いな。もしこのポーションが効果があるとしたら、体が錯覚を起こしてケガを治すということになる」
「逆に考えたらどうかな?」

 部長の話にゆえりが意見を述べた。

「つまりモンスターの攻撃で受けた負傷や状態異常自体が体が感じている錯覚で、そのポーションとかはモンスターの攻撃による負傷や状態異常にだけ効果を発揮するみたいな」

 ゆえりの言葉に部員全員がざわめいた。

「もし桜山の言う通りなら、モンスターから攻撃されても本当はケガしないと思っていれば大丈夫ってことじゃないか?」

 アキラが眉を潜めてそう言った。

「確かにその可能性はある。だが、見た目も体が感じる痛みも本物にしか感じることが出来ないならどうやって判断する?」

 部長がアキラの言葉の問題点を指摘する。

「ん~、機械の認識に頼るとか」
「それはどうかな? テレビが実際にモンスターを映しているし、死人も出ている。そもそもこの世界変革魔法のベースに使われているのはVRゲームだぞ。デジタルの世界のほうにより親和性が高いと思わないか?」
「ああ~、そうか」

 部長に論破されてアキラががっくりとうなだれる。

「でも、目の付け所はいいと思う。なんらかの方法で被害が本物ではないと認識することが出来たら、後は単なるゲームが現実世界で遊べるようになったというだけの話」

 そう言って、部長が怪しい笑みを口元に浮かべた。

「そうなれば、もう高いゲーム機など買う必要はない。俺たちはいつでもどこでもゲームをやり放題だ! 俺たちの時代がやって来たのだ!」

 ハーッハッハッハッ! と、高笑いを始める部長を放置して、アキラはこの情報を検証掲示板にアップした。
 するとすぐにレスが付き、「面白い」という意見や、「危険じゃね? 誰が検証するんだよ」などの不安を煽る意見などが現れ始める。
 これでいいとアキラは思った。
 ネタさえ盛り上がれば全国各地の優秀なゲーム脳連中が体を張って検証してくれるだろう。
 もちろん自分もやるけどな、とアキラは自覚のないゲーム脳らしいことを考えたのだった。

「あ、ニュース」

 ほとんど放置されていたテレビ画面を観ていたらしいゆえりが、全員の意識をテレビに誘導する。

『これより特殊編成された自衛隊と警察の合同部隊がテスト稼働することになりました。仮に「魔法部隊」と名付けられたこの特殊部隊は、各地に配属され、避難民救出を行うことになります』
「お~、意外と対応が早い」
「これは自衛隊と警察のトップ付近にゲーマーがいるな」

 観ているほうは身勝手なこと言っていたが、アキラには一つの懸念があった。

「なぁ、公的討伐部隊が動き始めたら俺たちの狩り、違法ということにならないかな?」
「ありえるね」

 アキラの意見にゆえりがうなずく。

「ん~、どうかな」

 その意見に疑問を投げかけたのは副部長だ。

「どういうこと?」

 アキラは副部長に食いついた。

「考えてもみてくれ。いかに自衛隊と警察で魔法部隊を作ったとしても、モンスターは全国各地のセーフティゾーンやホーム以外の場所のどこにでも現れるんだよ? とうてい手が足りないよ」
「なるほど」
「と言っても昨夜の事件みたいに魔法使いが勝手に暴れて無法地帯になっても困る」
「確かに」
「俺の考えるに、登録制でハンター資格を与えて、その資格持ちがモンスターを狩れるようにするんじゃないかな?」
「おおっ、それ、ありそうだ」

 感動したアキラは、さっそく「【現実?】モンスターと魔法を考える【ゲーム?】Part12」というスレッドにこの意見を書き込んだ。
 ついでにSNSにもポーションの画像やドロップアイテムの画像付きで検証結果を書き込み、そこにこの意見付け加える。
 掲示板のほうだとマニアな連中がいろいろ熱心に動いてくれるが、現実社会への影響力はそれほど大きくない。
 しかし、SNSの場合、マニアックな人以外にも意見が拡散されて、社会的な影響を及ぼすことがある。
 それを狙ったのだ。

「俺たちの時代……か」

 部長の妄想も案外現実になるかもしれないと、アキラは少し興奮を感じながらそう思った。
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