ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

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避難している人たち

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 副部長の住むマンションは駅近物件だったが、それでも到着するまでに数体のモンスターに絡まれることとなった。
 しかし、賢者である副部長と、深淵の魔術師のゆえりの二人が前後を固め、見つけ次第モンスターに強力な魔法をぶちかますことによって、限りなく力技にちかい強引さで無事に到着することが出来た。
 当然二人ともレベルカンスト組である。

「狩りに意味があったんですかねぇ」

 今のところ役立たずなアキラなどはそうボヤくが、部長が「全員が今の世界で何が出来るかを知ることが大切なのだ」と、胸を張って言ったので、そういうものかと納得した。

「おお、格好いい」

 そびえ立つタワーマンションに幸子が感動の言葉を漏らす。
 村上幸子は地元商店街の子で、自宅はお店件住居だ。周辺がかなり騒がしいらしく、マンションに憧れがあるようである。
 しかし、幸子の感動はほかの部員にも共有されるところだった。
 マンションの一階部分にはカフェやコンビニが入っているし、小さな公園まである。
 いたれりつくせりという感じのマンションだ。
 入口の自動ドアがそのまま開いたので、驚いたアキラは副部長に尋ねた。

「セキュリティどうなってんの?」
「ああ、顔認証で自動で判別するんだ」
「神さま未来に生きすぎだろ」

 タワーマンションは現在のゲームのような世界よりも驚愕だった。
 SFか何かの世界のようだ。
 少なくとも、アキラの住んでいる世界とは違う。
 中に入ると、まるでホテルのような広々とした豪華なエントランスホールとなっている。
 ここって人が日常的に住むような場所なのかな? と、アキラは重ねて思ってしまった。
 エントランスのソファーには、何人かの老若男女が座ったり横になったりしている。
 何かを食べている人もいて、どうやらマンション側からの振る舞いがあったらしいとわかる。
 彼らは入口が開いた気配を感じて、一斉にアキラたちを見た。
 そして、驚愕の表情を貼り付けている。
 それはそうだろう。なにしろ外は危険地帯なのだ、そこから学生の集団が入って来れば驚くに違いない。
 しかもその学生たちは何かに追われている様子でもないのだ。

「き、君たち」
「はい、なんでしょう?」

 避難している人たちのうち、一人の壮年男性がアキラたちに声をかけた。
 部長が代表して返事をする。

「君たち、外は安全なのかね?」
「いいえ、モンスターがいっぱいいます。政府がなんらかの対策を取るまでしばしここにいたほうがいいでしょうね」

 その男性はアキラたちが外から平気な顔で帰って来たので外が安全だと誤解したのだろう。
 部長が外部向けの愛想のいい顔で、丁寧に説明した。

「だ、だが、君たちは平気そうじゃないか」
「俺たちは魔法が使えますから」
「なんだと?」

 魔法と言われて、男性は一瞬よくわからないという顔になった。
 それはそうだろう。
 現実社会において、魔法が使えるなどという言葉を聞く機会は今までなかったに違いない。
 部長にしても、今まで言う機会はなかったはずだ。

「そ、それなら、私を家まで送ってもらえないだろうか? いや、会社まででいい。この大変なときに何もしない訳にはいかないからね」

 部長はその男の言い分に呆れたように黙った。
 相手にしない考えのようだ。
 だが、ゆえりは、少しだけ何かを考えているようだった。
 もしかして、手を貸してやるつもりだろうか? と、アキラは驚きと共に考える。
 そのとき、すっと、男性の前に立ちふさがった者がいた。
 普段穏やかな副部長である。

「あなたは、縁もゆかりもない学生にあなたのために命をかけろとおっしゃりたいのですか?」

 氷のムチもかくやという冷たさと厳しさのある態度だ。
 部員たちはびっくりして副部長の顔を見た。

「そ、そういうつもりではない」
「ではどういうおつもりでおっしゃったのですか? 外は危ないと確認した上での話でしたよね。大人としての自覚がないのではありませんか?」
「う、ぐっ」
「失礼します」

 ポカーンとした部員たちに少し困ったような顔を見せた副部長はいつもの彼であった。
 とりあえず、全員でエレベーターに乗り込む。

「珍しく怒ったな」

 部長が代表して副部長に言った。
 軽い、揶揄するような言い方で、冗談に紛らわせてもいいのだぞという意図が透けて見える。

「……大人の身勝手には我慢ならないんだ。でも、みんなをびっくりさせたな。悪かった」
「い、いえ、ありがとうございました」

 ゆえりが頭を下げる。
 なんとなく雰囲気に流されてあの大人の言うことをきいてしまいそうになっていたのだろう。
 何しろここで魔法が自在に使えるのはゆえりと副部長だけだ。

「お礼を言われることでもないよ。俺のわがままだから」

 副部長はそう言って笑った。
 その表情はいつものやさしくて頼もしい神さま副部長のものだった。
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