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モンスターとの追い掛けっこ
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「モンスターがうじゃうじゃいるっていう感じじゃないんだけど、それなりのエンカウント率だな」
アキラはスニーキングスキルを発動しながら待ち合わせ場所に向かっていた。
モンスターに気づかれることはなく、戦闘をパス出来たのはいいが、歩きなのでけっこうキツイ。
列車やバスが使えないのは辛かった。
ちなみにエンカウントとはモンスターとの遭遇のことである。
街中にモンスターたちがあちこちにいるという感じではなく、ところどころにうろついている感じだ。
野良猫や鳩、カラスなどの動物と似た感じと思えばいい。
「そう言えば、外の動物たちは大丈夫なのかな?」
ふと気づいてアキラは周囲を見渡した。
いつもうるさいカラスたちならすぐに見つかるだろうと思ったのだ。
「お、いた」
カラスは無事のようだったが、電線の上や高い建物の上でじっとしていて、いつものうるさい鳴き交わしをしていない。
「モンスターを用心してるのかな?」
と、見ているうちに空の彼方からなにやら赤いものが現れた。
ファイヤーイーグルだ。
このモンスターは炎を纏った猛禽類で、火の羽を飛ばす攻撃をして来る。
ファイヤーイーグルはカラスがその視界に入っているであろうと思われるほど近くに止まったが、特にカラスに対してリアクションすることはなかった。
カラスのほうは、新参者に対して不審をあらわにギャアギャアと騒ぎ立てていたが、知らんぷりだ。
「人間だけがターゲットなのか」
倒したら光となって消えることといい、モンスターは生物ではない。
つまりプログラムに従って動いているVRMMOのモンスターとほぼ同じと思っていいだろう。
「こっちもそのほうが気が楽だしね」
アキラは用心しつつ、ついでに時折周囲の様子を観察しつつ部活の仲間との合流場所に急いだ。
アキラの家は郊外の住宅地にある。
部活の仲間の大半は繁華街周辺に住んでいて、いわゆる駅近組だ。
タワーマンション住まいもいる。
そういえばマンションのような集合住宅のホーム設定はどうなっているのだろうとアキラは思った。
まぁ合流したら聞いてみればいいだけの話だ。
いつもは車や人の多い大通りや、なかなか開かない踏切が、物音一つしない無人の場所となっているのは、アキラにとって新鮮でもあり、恐ろしくもあった。
「ゴーストタウンみたいだな」
STGと呼ばれる銃を撃ち合うゲームでは、よく廃墟が銃撃戦の舞台になったりするが、その魅力はなんといっても遮蔽物の多さであり、お互いに相手の居場所を掴みにくいところだろう。
ときおり、敵と味方が角で鉢合わせという事態もよく発生するのだ。
このときのアキラとモンスターのように。
「うわっ!」
待ち合わせ場所の駅前広場へと続く商店街を抜けようとしたところ、横道から突然飛び出して来たモンスターとアキラは衝突してしまった。
索敵スキルを持っていない悲しさである。
衝突してしまえばスニークもへったくれもない、たちまち相手のモンスターに発見されてしまった。
相手はラッキーモンキーと呼ばれるモンスターだ。
名前でわかる通り猿系のモンスターである。
何がラッキーなのかというと、ドロップアイテムにレアが含まれていて、しかもレアを落とす確率が高いからなのだが、その分、同レベル帯のモンスターよりも倒しにくい相手だ。
今の攻撃手段を持たないアキラにとって、全く嬉しくないモンスターだった。
「たしかこいつの素早さは俺とどっこいだったはず。やべえ」
「キキッ!」
さっそくひっかき攻撃を仕掛けてくるのを避け、アキラは躊躇なくダッシュして走り出す。
「韋駄天!」
そしてスキル発動。
韋駄天は、短距離三倍速スキルで、二〇〇m程を通常の三倍の速さで走り抜けることが出来る。
ラッキーモンキーのひっかき技の硬直はごく僅かなものだが、そのスタートダッシュの差に韋駄天をプラスして差を広げることに成功した。
とは言え、ラッキーモンキーが追っかけて来ることは間違いない。
アキラは必死で考えた。
未攻撃のモンスターからのヘイトが消滅する距離はだいたい五〇〇mとされている。
ラッキーモンキーの素早さがアキラと同じ程度なら、このまま走っても距離は開くことはない。
疲労があるアキラに分が悪いのは間違いない。
「コーナーはどうだ?」
VRMMO時代なら、しょせんプログラムであるモンスターは動きが柔軟性に欠けるので、コーナーや障害物に遭遇すると、それにぶつかるか、或いは行動の判断による戸惑いで減速させることが出来た。
試しにアキラは商店街にある街路樹をS字を描くように駆け抜ける。
すると、ラッキーモンキーはバカ正直にアキラを追わずにそのまま真っすぐ追っかけて来る。
「くっそ、こっちがタイムロスしただけかよ」
やはり現実に顕現したモンスターは、その知能や行動が生物的になっているようだ。
「それなら」
アキラは追いついて来たラッキーモンキーの直前で急制動をかけて直角に曲がる。
ラッキーモンキーはその動きについて来れずに、まっすぐ進んでしまい、慌ててアキラを探してまた追い掛けて来た。
「よし、相手を人間と思って対処するのがいいみたいだ」
少なくとも猿系モンスターは人間に近い動きをする。
アキラはそう考えて相手を翻弄しようと思った。
だが。
「キキッ! キキキッ!」
「うわっ!」
別の角から別のラッキーモンキーが出て来て、アキラは慌てて方向転換する。
さらに続々とラッキーモンキーが増えていた。
「くっそ、群れを作るのか」
ゲーム中では多くても二匹しか群れないモンスターだったラッキーモンキーは、現実ではかなりの大所帯のようだ。
「万事休すか」
はぁ、と、アキラは大きく息を吐いてラッキーモンキーたちを見据える。
アキラの背後にはゴールの駅前広場の看板があった。
アキラはスニーキングスキルを発動しながら待ち合わせ場所に向かっていた。
モンスターに気づかれることはなく、戦闘をパス出来たのはいいが、歩きなのでけっこうキツイ。
列車やバスが使えないのは辛かった。
ちなみにエンカウントとはモンスターとの遭遇のことである。
街中にモンスターたちがあちこちにいるという感じではなく、ところどころにうろついている感じだ。
野良猫や鳩、カラスなどの動物と似た感じと思えばいい。
「そう言えば、外の動物たちは大丈夫なのかな?」
ふと気づいてアキラは周囲を見渡した。
いつもうるさいカラスたちならすぐに見つかるだろうと思ったのだ。
「お、いた」
カラスは無事のようだったが、電線の上や高い建物の上でじっとしていて、いつものうるさい鳴き交わしをしていない。
「モンスターを用心してるのかな?」
と、見ているうちに空の彼方からなにやら赤いものが現れた。
ファイヤーイーグルだ。
このモンスターは炎を纏った猛禽類で、火の羽を飛ばす攻撃をして来る。
ファイヤーイーグルはカラスがその視界に入っているであろうと思われるほど近くに止まったが、特にカラスに対してリアクションすることはなかった。
カラスのほうは、新参者に対して不審をあらわにギャアギャアと騒ぎ立てていたが、知らんぷりだ。
「人間だけがターゲットなのか」
倒したら光となって消えることといい、モンスターは生物ではない。
つまりプログラムに従って動いているVRMMOのモンスターとほぼ同じと思っていいだろう。
「こっちもそのほうが気が楽だしね」
アキラは用心しつつ、ついでに時折周囲の様子を観察しつつ部活の仲間との合流場所に急いだ。
アキラの家は郊外の住宅地にある。
部活の仲間の大半は繁華街周辺に住んでいて、いわゆる駅近組だ。
タワーマンション住まいもいる。
そういえばマンションのような集合住宅のホーム設定はどうなっているのだろうとアキラは思った。
まぁ合流したら聞いてみればいいだけの話だ。
いつもは車や人の多い大通りや、なかなか開かない踏切が、物音一つしない無人の場所となっているのは、アキラにとって新鮮でもあり、恐ろしくもあった。
「ゴーストタウンみたいだな」
STGと呼ばれる銃を撃ち合うゲームでは、よく廃墟が銃撃戦の舞台になったりするが、その魅力はなんといっても遮蔽物の多さであり、お互いに相手の居場所を掴みにくいところだろう。
ときおり、敵と味方が角で鉢合わせという事態もよく発生するのだ。
このときのアキラとモンスターのように。
「うわっ!」
待ち合わせ場所の駅前広場へと続く商店街を抜けようとしたところ、横道から突然飛び出して来たモンスターとアキラは衝突してしまった。
索敵スキルを持っていない悲しさである。
衝突してしまえばスニークもへったくれもない、たちまち相手のモンスターに発見されてしまった。
相手はラッキーモンキーと呼ばれるモンスターだ。
名前でわかる通り猿系のモンスターである。
何がラッキーなのかというと、ドロップアイテムにレアが含まれていて、しかもレアを落とす確率が高いからなのだが、その分、同レベル帯のモンスターよりも倒しにくい相手だ。
今の攻撃手段を持たないアキラにとって、全く嬉しくないモンスターだった。
「たしかこいつの素早さは俺とどっこいだったはず。やべえ」
「キキッ!」
さっそくひっかき攻撃を仕掛けてくるのを避け、アキラは躊躇なくダッシュして走り出す。
「韋駄天!」
そしてスキル発動。
韋駄天は、短距離三倍速スキルで、二〇〇m程を通常の三倍の速さで走り抜けることが出来る。
ラッキーモンキーのひっかき技の硬直はごく僅かなものだが、そのスタートダッシュの差に韋駄天をプラスして差を広げることに成功した。
とは言え、ラッキーモンキーが追っかけて来ることは間違いない。
アキラは必死で考えた。
未攻撃のモンスターからのヘイトが消滅する距離はだいたい五〇〇mとされている。
ラッキーモンキーの素早さがアキラと同じ程度なら、このまま走っても距離は開くことはない。
疲労があるアキラに分が悪いのは間違いない。
「コーナーはどうだ?」
VRMMO時代なら、しょせんプログラムであるモンスターは動きが柔軟性に欠けるので、コーナーや障害物に遭遇すると、それにぶつかるか、或いは行動の判断による戸惑いで減速させることが出来た。
試しにアキラは商店街にある街路樹をS字を描くように駆け抜ける。
すると、ラッキーモンキーはバカ正直にアキラを追わずにそのまま真っすぐ追っかけて来る。
「くっそ、こっちがタイムロスしただけかよ」
やはり現実に顕現したモンスターは、その知能や行動が生物的になっているようだ。
「それなら」
アキラは追いついて来たラッキーモンキーの直前で急制動をかけて直角に曲がる。
ラッキーモンキーはその動きについて来れずに、まっすぐ進んでしまい、慌ててアキラを探してまた追い掛けて来た。
「よし、相手を人間と思って対処するのがいいみたいだ」
少なくとも猿系モンスターは人間に近い動きをする。
アキラはそう考えて相手を翻弄しようと思った。
だが。
「キキッ! キキキッ!」
「うわっ!」
別の角から別のラッキーモンキーが出て来て、アキラは慌てて方向転換する。
さらに続々とラッキーモンキーが増えていた。
「くっそ、群れを作るのか」
ゲーム中では多くても二匹しか群れないモンスターだったラッキーモンキーは、現実ではかなりの大所帯のようだ。
「万事休すか」
はぁ、と、アキラは大きく息を吐いてラッキーモンキーたちを見据える。
アキラの背後にはゴールの駅前広場の看板があった。
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