ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

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スニーキングスキルの検証

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「母さん! ちょっと出て来る」
「えっ! 危ないわよ!」

 アキラの言葉に、母は慌てたように止めた。
 当然だろう。現在外は危険地帯。モンスターがいるのだ。

「大丈夫。俺、スニーキングスキルがあるから」
「こら、アキラ。ぶっつけ本番はダメだぞ。まずは家に逃げ込める範囲で試してからにしろ」

 アキラの父は、現実的なのかゲーム脳なのか、もはや今となってはわからないアドバイスをする。

「わかった」

 アキラもその辺は承知しているので、いきなり遠出をするつもりはなかった。
 まずは玄関に荷物を置いて、単身外に出る。
 玄関先にいきなりモンスターが待ち受けているということはなかった。
 一安心だが、緊張を解くことなく、アキラは小さく「スニーク」と唱えた。
 一見して何か変わったとも思えないが、アキラは玄関から踏み出してその先へと進んだ。

「モンスターは……おっ、いた」

 家の前の道路の先にいたのは、フットラビットというモンスターだ。
 フットラビットは脚が異常に発達したウサギのモンスターで、見た目はカンガルーに似ている。
 それほど強くなく、基本は臆病だが、弱いプレイヤーを見ると襲って来るという初心者向けのモンスターだった。

「ん~。よく考えたらレベル差があるから攻撃して来ないんじゃね? いや、まてよ。昨夜ガーゴイルは攻撃して来たよな。あいつレベルいくつだったんだ? 俺レベルカンストだぞ。それとも現実になったからレベル上限が外れた? いや、イベントモンスターはプレイヤーの上限以上の奴もいたっけ」

 またしても新たな疑問が出て来た。
 ともあれ、アキラは普通に歩いてフットラビットに近づいた。
 地面の臭いをかぎつつ周囲を警戒するフットラビットはアキラに気づかない。
 あと3メートル、2メートル、1メートル。
 真後ろに立っても気づいてないようだった。
 アキラの持つスニーキングスキルは、完全隠密スキルではない。
 気づかれにくいだけのスキルであって、完全に見えないわけではないのだ。
 そこで、アキラはフットラビットの正面に回った。
 フットラビットはしばし、自分の目の前にいる存在が何かわからないといった感じで戸惑っていたが、やがて目が赤くなり、敵意をみなぎらせ始める。
 
「キシャーッ!」

 攻撃が来た。フットラビットの基本攻撃の体当たりだ。
 ドン! という衝撃と共に、アキラはよろめく。

「レベル差あるのに、攻撃通るのか。やっぱ現実化していろいろ変わってるんだな」

 アキラはお返しとばかりにフットラビットを殴る。
 しかし、相手には全然効いてないようだった。

「こっちの物理攻撃は全然通らないのかよ! ズルくね?」

 アキラは文句を言いつつ家へと駆け戻る。

「いて! いてっ!」

 フットラビットのほうが足が早いので、さんざんどつかれながら、ようやく家に辿り着くと、玄関に仁王立ちした父の姿があった。

「光を我に! スターライトエッジ!」

 包丁を手にした父が、淡い光のエフェクトを撒き散らしながらフットラビットに斬りかかった。
 いろいろと辛い絵柄である。
 斬られたフットラビットはカシャーンという効果音と共に砕け散った。

「ふぅ。で、どうだった?」

 父が残心の後に包丁で切り払いを行い、アキラに声を掛ける。
 それやる必要ある? と、息子であるアキラは冷めた目で見ながらも、問い掛けに答えた。

「スニークは使えた。間近で正面にいなければ気づかれないっぽい」
「そうか。だが、心配だな。父さんが一緒に付いていこうか?」
「はっ? やめてよ恥ずかしい」
「いや、非常時なんだし、恥ずかしいとかないだろ」
「い・や・だ!」

 アキラは言い捨てると、玄関先においてあった荷物の入ったリュックを担ぎ、手にスコープグラスを持つと、素早く走り出した。

「あ! グラスはずっと装着しておくんだぞ! 何かあったら呼べば父さんが必ず駆けつけるからな!」

 どこの正義の味方だよ、と思いながらも、アキラはスコープグラスはきちんと装着した。
 いざというときの連絡手段は必須だし、仲間と行き違いになったら困るからだ。

「よし! 年明け一番の狩りだ!」

 現実世界だが、VRMMOのようになってしまった世界だからこそ、そこにアキラは新鮮なワクワク感を覚えた。
 スニークを発動して注意深く進みながらも、気持ちの高ぶりを抑えることは出来なかったのである。
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