ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

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人間はたくましいと少年は思った

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「マジかぁ……」

 もはやそれしか言えずにアキラは両親を見た。
 二人はアキラが物心がついた頃からすでにゲーム脳の筋金入りのゲーマーだった。
 昔はパソコンやスマホで遊ぶMMOを、今はVRMMOをやりこんでいるものだから、よく現実でゲームのアイテム名や魔法名、技名を言い出したりすることがあったのだが、それがこんな結果を生むなんて誰が考えただろう。
 人間何が役立つかわからないものだ。

 だが、そんな感慨にふけっている暇は、実はなかったようだ。

「ウォオオオオン!」
「ギャー! 犬が!」
「キャー! コウモリがぁ!」

 周囲から悲鳴が上がり始める。
 ほかのご近所さんが襲われ始めたらしい。

「いけない! 天なる裁きを! ホーリーレイン!」

 アキラの母が両手を広げて魔法名を唱える。
 普段なら単なる痛い人だが、このときは違った。
 母の手から光が生まれ、それが天に吸い込まれたかと思うと、空の文字が一瞬消えて頭上が白い光で埋め尽くされる。
 そしてキラキラとした光が降り注いだ。
 攻撃魔法をあまり持たない神官の、希少な攻撃魔法のなかで最上位がホーリー系統であり、そのホーリー系統には三つの派生技がある。
 一つが単体技のホーリーレイ、次に多段攻撃のホーリースプラッシュ、そして範囲攻撃のホーリーレインだ。
 このホーリー系は魔特攻を持っている。
 つまり魔なるものに対して使う場合にのみ、威力が倍増するのだ。
 倍増比率は神官の格によって決まる。
 神官の格はレベルとは別に存在する、徳という隠しステータスによって決定されるのだが、父の話によると母のホーリーはかなり強いということだった。

「キャイン!」
「ギャアアアア!」

 そこかしこからモンスターらしき悲鳴が聞こて来る。

「みなさん! 外は危ないです! 何か国から発表があるまで家のなかで待機しましょう!」

 父が自慢のよく通るボイスで叫んだ。
 昔は「歌ってみた」とかの動画で一世を風靡したことがあるとの嘘くさい自慢をアキラはよく聞かされていた。
 実際、声はいいとアキラも思う。

「あ、ありがとうございます」
「おやすみなさい」

 ご近所さんが声をかけて家に戻って行く。範囲内の人たちは無事に家に逃げ込んだようだった。
 それ以外の人たちについてはアキラたち家族の守備範囲外だ。

「俺たちも戻ろう」
「ええ。ほら、アキくんも」
「あ、うん」

 衝撃的な現実に翻弄されているのはどうやら自分だけらしい。アキラはなんとなくそう思った。
 玄関を入りドアを閉める。

「でも、家が安全って訳じゃなくね?」
「どうかしら、普通ホームは安全地帯でしょ?」
「いや、ゲームじゃないんだからさ」
「でもゲームの魔法使えたわよ」
「まぁそうだけど……」

 母の理屈に反論出来ず、沈黙する。アキラはともかく情報を確認することにした。
 装着しっぱなしだったスコープグラスでSNSをチェックする。
 そこには「宇宙人の侵略だ!」とか「デスゲームがリアルに始まった!」などの無責任な発言が溢れていて、カオスな状態だ。
 アンケートをやっている人も多く、原因はどれだと思う? という四択問題なども賑わっている。
 ここで原因を調べるのは無理だなとアキラは早々に見切りをつけ、趣味人の集まる掲示板をチェックしてみた。
 なかでも馴染みのゲーマーチャンネルを覗いてみる。
 そこには現実でゲームの技が使えたという書き込みが散見された。
 やっぱりゲームの技が使えるのか、とアキラはうなる。しかも書かれているゲームはバラバラだ。
 共通しているのはVRのMMOかMO、つまり多人数タイプの魔法があるファンタジー系オンライゲームということぐらいである。

「この現象、日本か中国を時間の起点にしているっぽいな。アメリカとかはまだ年が変わってないのに同じ状態になっている」

 父がまた例のアナログな箱……ではなく、高性能パソコンをチェックして報告して来た。
 
「でも日本もカウントダウンはとっくに終わってからサバ落ちしたよね?」
「あー、ということは時差を考えると中国の新年に合わせて開始されたのか」

 なるほどとアキラは思ったが、今のところこの情報に意味はない。
 それよりも大事なことがあった。

「それより親父、さっきレベルアップがどうこう言ってたよね。どうやってわかったんだ?」
「それな。実は父さんにもよくわからんのだ。こう頭のなかに閃いたというか、あ、レベルアップしたとわかったというか」
「うわっ、使えね-」
「酷いぞ、アキラ」

 父が傷ついた顔をしたが、アキラは気にせず現在の状況の検証を自分なりに続けた。
 問題はステータスをどうやってチェックするかだ。
 SNSや掲示板では「ステータスと唱えてみたが何も出ず」というのがすでに検証済みとなっていた。

「EOMのステータスチェックは右腕のデバイスメニューから行ってたよな」

 実はゲームがVRに移行してから、視界の片隅にずっとアイコンがあるメニュー画面は下火となった。
 単純に邪魔だし、不自然ということで、腕時計型や紋章タイプなどの装着タイプのメニューが増えたのだ。
 アキラがやっていたEOMでは手首のところに装着デバイスがあり、それに触れることでメニューを選んでステータスや装備などの確認が出来た。
 しかし、現実にはそういうものは存在しない。

「う~ん。あ、そうだ!」

 EOMでは登録時にSNSとのヒモ付がされる。
 そこで思いついたのが、SNSのプロフィールだ。実はSNSのプロフィールはハード側に登録していて個体識別で連携している。
 アキラはスコープグラスのメニューからプロフィールを選択してみた。

「お、あった!」

 そこにはEOMでお馴染みのステータスが表示されていた。
 それを見ると、EOMの自キャラと同じステータスのようだ。

「親父、母さん、ステータスは登録プロフィールから見れるみたいだ」
「おお、でかした! お、あるある。これで念願のクラスチェンジが出来るぞ。あ、家のホーム設定画面もあった。危ね、これ設定しておかないと安全地帯じゃなかったりするのかな?」
「大変、メガネ取って来なくっちゃ」
「おっ、久々に母さんのメガネ姿が見れるな。メガネ萌え!」
「もう、お父さんがそんなだからあのメガネあんまりかけたくないのよ」
「なんだ、照れてるのか?」

 両親の不毛な属性萌えとイチャイチャを聞き流し、これからのことを考えてみる。

「家が安全地帯なのはいいけど、外に出るときはどうしたらいいんだ?」

 今は冬休みだからいいが、休み明けはどうしたらいいのだろう。いや、それ以前に、買い物とか出来るのだろうか? ネットショッピングだって、配達の人、来れないんじゃ?
 世界が変わってワクワクしながらも、現実的な悩みも尽きないアキラであった。
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