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探り合う思いやり
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朝も暗いうちからいつものように起き出したラルダスは、小石一つないようにきれいに整備された我が家の鍛錬所で汗を流しつつふと考えた。
(お礼を……するべきなのでは?)
きわめてまっとうな子ども時代を送ったラルダスは、母親から言い含められていたことがある。
『いいこと、感謝というのは口先や心のなかで済ませるものではないの。本当に感謝しているなら、形あるもので示すべきなの』
母親がそんなことを子ども達に言うたびに、横で聞いている父親が焦った顔をしていたものだ。
ようするに、父親は形で示さなかったのだろう。
ラルダスの両親は決して不仲ではないが、仲睦まじくもなかった。
六人も子どもを作ったのだから、険悪な間柄ではなかったのだろうが、お互いの間に、何らかのわだかまりがあったのは確かだ。
「教訓は活かされてこそ意味がある」
一人呟くラルダスであった。
「きょーのー、シチューはー、おいしー」
「昨日、帰ってくるって教えてもらってよかった、ね」
ささやき声達の言葉に、アイメリアはにっこりと笑ってうなずく。
騎士団長補佐官の女騎士、ダハニアが、前日のうちにラルダスが今日は休みであることを教えてくれていたのだ。
おかげで、保存が難しい材料を使った少し手のかかる料理も出来る。
「朝はシチューで、お昼は残ったシチューを使ったグラタンにするの。果物も買ったから、新鮮なうちに食べていただきましょう」
ささやき声達も楽しげだが、それはアイメリアの心の写し鏡でもあった。
毎日のようにダハニアが家に立ち寄ってくれるので寂しくはないが、やはりラルダスが家にいるというのは特別なことなのだ。
それに、げっそりと疲れ果てていたラルダスが、ちゃんとした睡眠や食事やささやき声達のケアによって元気になって行くのを見るのも、アイメリアにとって楽しいことだった。
おかげで、最近のアイメリアの毎日は、これまでの人生でほぼ感じたことのないワクワク感に満ちあふれている。
どんな家にすればラルダスが快適に過ごせるのだろう? どんな料理が好きだろう? そんなことを考えているときが最も充実していると言って過言ではない。
「アイメリア」
そんなアイメリアに、鍛錬を終えたらしいラルダスが声を掛けた。
「はい!」
振り向くと、半裸で汗を拭いているラルダスの姿がある。
「きゃあ!」
「ん? あ、ああすまない……」
自分の姿が若い女性相手に不適切なものであったことに気づいたラルダスは、慌てて扉の向こう側に姿を隠した。
「違うんだ。その、そういう変態的な行為に及ぼうとした訳じゃない」
世の中には若い女性に自分の裸を誇示する変質者がいることを、治安維持に関わっているラルダスは知っている。
そのため、慌てて弁明することとなった。
「え、ええ、大丈夫です。わかっています」
ラルダスの言葉に、アイメリアも真っ赤になりながら理解を示す。
ラルダスは今まで家で一人で過ごして来たのだ、裸だろうがどんな格好だろうが、平気でうろついていたのだろう。
そういうことに考えが及ばないアイメリアではない。
「そ、その済まない。つい、浮かれて」
「え?」
浮かれたというラルダスの言葉にを不思議に思いつつ、アイメリアも自分の態度は使用人らしくないな、と反省した。
主のやることは全て正しいぐらいの考えで働かなければならないと、養父母の屋敷の使用人達は言っていたのだ。
半裸を見たぐらいでいちいち悲鳴を上げるのはよくない。
「その、だな。今日一緒に外出しないか?」
「え?……」
ラルダスの言葉を、外で食事をしようということだと思ったアイメリアは、悲しそうにシチュー鍋を見た。
だが、今考えたことを思い出し、気持ちを切り替えようとする。
ラルダスはラルダスで、アイメリアの返事が微妙であることに気づき、同時に美味しそうな匂いに空腹を覚えた。
そして、話を急ぎすぎるのはよくないと思い直す。
「あ、いや、話の続きは、朝食の席でしよう」
「はい!」
どうやら朝食は食べてもらえるとわかってアイメリアの声も弾む。
アイメリアもラルダスも互いの気持ちを思いやりつつ、まだまだ噛み合わない二人だった。
(お礼を……するべきなのでは?)
きわめてまっとうな子ども時代を送ったラルダスは、母親から言い含められていたことがある。
『いいこと、感謝というのは口先や心のなかで済ませるものではないの。本当に感謝しているなら、形あるもので示すべきなの』
母親がそんなことを子ども達に言うたびに、横で聞いている父親が焦った顔をしていたものだ。
ようするに、父親は形で示さなかったのだろう。
ラルダスの両親は決して不仲ではないが、仲睦まじくもなかった。
六人も子どもを作ったのだから、険悪な間柄ではなかったのだろうが、お互いの間に、何らかのわだかまりがあったのは確かだ。
「教訓は活かされてこそ意味がある」
一人呟くラルダスであった。
「きょーのー、シチューはー、おいしー」
「昨日、帰ってくるって教えてもらってよかった、ね」
ささやき声達の言葉に、アイメリアはにっこりと笑ってうなずく。
騎士団長補佐官の女騎士、ダハニアが、前日のうちにラルダスが今日は休みであることを教えてくれていたのだ。
おかげで、保存が難しい材料を使った少し手のかかる料理も出来る。
「朝はシチューで、お昼は残ったシチューを使ったグラタンにするの。果物も買ったから、新鮮なうちに食べていただきましょう」
ささやき声達も楽しげだが、それはアイメリアの心の写し鏡でもあった。
毎日のようにダハニアが家に立ち寄ってくれるので寂しくはないが、やはりラルダスが家にいるというのは特別なことなのだ。
それに、げっそりと疲れ果てていたラルダスが、ちゃんとした睡眠や食事やささやき声達のケアによって元気になって行くのを見るのも、アイメリアにとって楽しいことだった。
おかげで、最近のアイメリアの毎日は、これまでの人生でほぼ感じたことのないワクワク感に満ちあふれている。
どんな家にすればラルダスが快適に過ごせるのだろう? どんな料理が好きだろう? そんなことを考えているときが最も充実していると言って過言ではない。
「アイメリア」
そんなアイメリアに、鍛錬を終えたらしいラルダスが声を掛けた。
「はい!」
振り向くと、半裸で汗を拭いているラルダスの姿がある。
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自分の姿が若い女性相手に不適切なものであったことに気づいたラルダスは、慌てて扉の向こう側に姿を隠した。
「違うんだ。その、そういう変態的な行為に及ぼうとした訳じゃない」
世の中には若い女性に自分の裸を誇示する変質者がいることを、治安維持に関わっているラルダスは知っている。
そのため、慌てて弁明することとなった。
「え、ええ、大丈夫です。わかっています」
ラルダスの言葉に、アイメリアも真っ赤になりながら理解を示す。
ラルダスは今まで家で一人で過ごして来たのだ、裸だろうがどんな格好だろうが、平気でうろついていたのだろう。
そういうことに考えが及ばないアイメリアではない。
「そ、その済まない。つい、浮かれて」
「え?」
浮かれたというラルダスの言葉にを不思議に思いつつ、アイメリアも自分の態度は使用人らしくないな、と反省した。
主のやることは全て正しいぐらいの考えで働かなければならないと、養父母の屋敷の使用人達は言っていたのだ。
半裸を見たぐらいでいちいち悲鳴を上げるのはよくない。
「その、だな。今日一緒に外出しないか?」
「え?……」
ラルダスの言葉を、外で食事をしようということだと思ったアイメリアは、悲しそうにシチュー鍋を見た。
だが、今考えたことを思い出し、気持ちを切り替えようとする。
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そして、話を急ぎすぎるのはよくないと思い直す。
「あ、いや、話の続きは、朝食の席でしよう」
「はい!」
どうやら朝食は食べてもらえるとわかってアイメリアの声も弾む。
アイメリアもラルダスも互いの気持ちを思いやりつつ、まだまだ噛み合わない二人だった。
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