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露店での買い物
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アイメリアは食材の買い物のついでに、普段は立ち寄らない装飾品の店に寄ることにした。
と言っても、店舗をかまえているような店ではない。
市場に出ている露店の一つだ。
常設店舗の装飾品の店は、宝石などの高級品を中心に扱っているが、露店の場合は、手軽に買えるものが中心となっている。
しかも、店ごとに特徴があって、眺めているだけで飽きない。
今回スカーフを買おうと思う前から、アイメリアは通りがかりにいろいろな店を眺めるのが好きだった。
外での買い物ということ自体が、新鮮な体験で楽しいということもあったのだが。
「あ、よかった、お店出てた。もし何か買うならあのお店って決めてたんだ」
露店の場合、店主の気分や仕入れの状態次第で、店が開かれていなかったりするので、いざ欲しいときに店がないということもあり得る。
幸いにも、この日はアイメリアのお気に入りの店は開店していた。
「おばさん」
アイメリアは、店にいる体格のいい女性に声を掛ける。
いかにも農民という感じの日に焼けたツヤツヤの肌に、色鮮やかなパッチワークの衣装がひときわ目立つ。
以前商品を眺めていたときに話したところ、全てこの女性の手作りらしい。
なんでも、農家の女性は冬の間キルトやパッチワークの品物を内職として作ることが多いのだそうだ。
「おや、お嬢ちゃん、また見物かい? 今は暇だから好きなだけ見て行ってくれていいよ」
「ありがとうございます。でも、今日は買い物に来たんです」
「おやおや、ありがたいねえ。で、何が欲しいの? このスカートとかいいんじゃない?」
女性の見せたスカートは、なるほどとても可愛らしいものだった。
全体的に明るい色合いで、パッチワークの柄合わせが見事だ。
しかもところどころに刺繍が施されて、華やかさもあった。
「えっと、あのね。頭に巻くためのスカーフが欲しいんだけど」
「まぁまぁ。若い娘用のスカーフなら、これがオススメだよ。珍しいハギレを手に入れたんだけど、量が少なくてね、それでちょっと大きめのスカーフに仕上げたものさ」
確かに女性の勧めるスカーフは、ほかでは見ないような独特の染め物の生地を使っていて、エキゾチックなものである。
それを頭に巻けば、とてもおしゃれに違いない。
「私、騎士様のお家にお仕えしているの。だからあまり派手な感じじゃなくて、上品なものがいいと思うんだけど」
「なるほど、騎士様は頭の堅いお方が多いからねぇ。若い娘がおしゃれをするとうるさく言われてしまうかもしれないね」
「優しい方だからそんなことはないと思うけど。お客様がいらしたときとかに何か言われるかもしれないでしょう?」
「まぁまぁ若いのに、主思いのいい使用人だねぇ。……そうだね、こっちの緑と青のやつはどうだい? 差し色にピンクを使っているけど、華やかすぎないだろ?」
「あ、ほんとう。きれいですね」
アイメリアは女性の見せたスカーフをうっとりと見つめた。
女性の勧めるスカーフは、上品でありながら可愛らしさもあり、アイメリアはひと目で気に入ったのだ。
しかし、ところどころにわずかではあるが金糸で花の刺繍が入っていて、それが美しくもあるが、値段が高いのではないか? と不安にさせる。
「あ、あの、おいくらでしょうか?」
「そうさね、角銀貨一枚ってとこかな?」
「うーん」
角銀貨一枚と言えば、五人で食べられるパンが五個は買える金額だ。
アイメリアは一瞬躊躇したが、ラルダスから支度金はたっぷりもらっている。
なによりも、あまりみすぼらしい格好をしてしまえば、ラルダスの主としての器量が疑われる可能性があると考えた。
アイメリアの育ての親は大商人なのにケチだったが、使用人にはそれなりに立派な服装をさせていた。
それは、商売相手から侮られないためだ。
いい取引のためには、屋敷や装飾品だけでなく、使用人にも金を使うことで、自分が豊かであると示す必要がある、と養父は言っていた。
同時に、だからお前たちのためではない、と釘を刺すのも忘れないのが養父だ。
あまりいい間柄ではなかった養父だったが、それでも一代で成功した商人であることは間違いない。
そういった点で、アイメリアは養父の教えをよく学んでいたのだ。
「それください」
「まぁ、ありがとう。じゃあサービスでいいことを教えてあげるよ」
「ありがとうございます!」
いいことを聞く前にお礼を言うアイメリアを女性は笑ったが、すぐに丁寧に「いいこと」を教えてくれた。
それは、ふんわりと花のように見えるスカーフの結び方だ。
「若い娘はこのぐらいおしゃれじゃないと、ね」
「魔法みたいですね」
思わずそう言ったアイメリアに、露店の女性は笑う。
「あはは、魔法とはまた、たいそうな褒め言葉だね。いい取引が出来たよ。お嬢ちゃんに精霊の祝福がありますように」
「おばさんにも精霊の祝福がありますように」
お互いに幸いを祈る言葉を交わし、アイメリアは弾むような足取りで残りの買い物を済ませたのだった。
と言っても、店舗をかまえているような店ではない。
市場に出ている露店の一つだ。
常設店舗の装飾品の店は、宝石などの高級品を中心に扱っているが、露店の場合は、手軽に買えるものが中心となっている。
しかも、店ごとに特徴があって、眺めているだけで飽きない。
今回スカーフを買おうと思う前から、アイメリアは通りがかりにいろいろな店を眺めるのが好きだった。
外での買い物ということ自体が、新鮮な体験で楽しいということもあったのだが。
「あ、よかった、お店出てた。もし何か買うならあのお店って決めてたんだ」
露店の場合、店主の気分や仕入れの状態次第で、店が開かれていなかったりするので、いざ欲しいときに店がないということもあり得る。
幸いにも、この日はアイメリアのお気に入りの店は開店していた。
「おばさん」
アイメリアは、店にいる体格のいい女性に声を掛ける。
いかにも農民という感じの日に焼けたツヤツヤの肌に、色鮮やかなパッチワークの衣装がひときわ目立つ。
以前商品を眺めていたときに話したところ、全てこの女性の手作りらしい。
なんでも、農家の女性は冬の間キルトやパッチワークの品物を内職として作ることが多いのだそうだ。
「おや、お嬢ちゃん、また見物かい? 今は暇だから好きなだけ見て行ってくれていいよ」
「ありがとうございます。でも、今日は買い物に来たんです」
「おやおや、ありがたいねえ。で、何が欲しいの? このスカートとかいいんじゃない?」
女性の見せたスカートは、なるほどとても可愛らしいものだった。
全体的に明るい色合いで、パッチワークの柄合わせが見事だ。
しかもところどころに刺繍が施されて、華やかさもあった。
「えっと、あのね。頭に巻くためのスカーフが欲しいんだけど」
「まぁまぁ。若い娘用のスカーフなら、これがオススメだよ。珍しいハギレを手に入れたんだけど、量が少なくてね、それでちょっと大きめのスカーフに仕上げたものさ」
確かに女性の勧めるスカーフは、ほかでは見ないような独特の染め物の生地を使っていて、エキゾチックなものである。
それを頭に巻けば、とてもおしゃれに違いない。
「私、騎士様のお家にお仕えしているの。だからあまり派手な感じじゃなくて、上品なものがいいと思うんだけど」
「なるほど、騎士様は頭の堅いお方が多いからねぇ。若い娘がおしゃれをするとうるさく言われてしまうかもしれないね」
「優しい方だからそんなことはないと思うけど。お客様がいらしたときとかに何か言われるかもしれないでしょう?」
「まぁまぁ若いのに、主思いのいい使用人だねぇ。……そうだね、こっちの緑と青のやつはどうだい? 差し色にピンクを使っているけど、華やかすぎないだろ?」
「あ、ほんとう。きれいですね」
アイメリアは女性の見せたスカーフをうっとりと見つめた。
女性の勧めるスカーフは、上品でありながら可愛らしさもあり、アイメリアはひと目で気に入ったのだ。
しかし、ところどころにわずかではあるが金糸で花の刺繍が入っていて、それが美しくもあるが、値段が高いのではないか? と不安にさせる。
「あ、あの、おいくらでしょうか?」
「そうさね、角銀貨一枚ってとこかな?」
「うーん」
角銀貨一枚と言えば、五人で食べられるパンが五個は買える金額だ。
アイメリアは一瞬躊躇したが、ラルダスから支度金はたっぷりもらっている。
なによりも、あまりみすぼらしい格好をしてしまえば、ラルダスの主としての器量が疑われる可能性があると考えた。
アイメリアの育ての親は大商人なのにケチだったが、使用人にはそれなりに立派な服装をさせていた。
それは、商売相手から侮られないためだ。
いい取引のためには、屋敷や装飾品だけでなく、使用人にも金を使うことで、自分が豊かであると示す必要がある、と養父は言っていた。
同時に、だからお前たちのためではない、と釘を刺すのも忘れないのが養父だ。
あまりいい間柄ではなかった養父だったが、それでも一代で成功した商人であることは間違いない。
そういった点で、アイメリアは養父の教えをよく学んでいたのだ。
「それください」
「まぁ、ありがとう。じゃあサービスでいいことを教えてあげるよ」
「ありがとうございます!」
いいことを聞く前にお礼を言うアイメリアを女性は笑ったが、すぐに丁寧に「いいこと」を教えてくれた。
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「若い娘はこのぐらいおしゃれじゃないと、ね」
「魔法みたいですね」
思わずそう言ったアイメリアに、露店の女性は笑う。
「あはは、魔法とはまた、たいそうな褒め言葉だね。いい取引が出来たよ。お嬢ちゃんに精霊の祝福がありますように」
「おばさんにも精霊の祝福がありますように」
お互いに幸いを祈る言葉を交わし、アイメリアは弾むような足取りで残りの買い物を済ませたのだった。
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