お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼

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登城する神殿騎士

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 その後駆けつけた都市警邏隊の者達がごろつき達を連行して行ったのを見届けると、ラルダスはアイメリアを伴って歩き出す。
 アイメリアは、ラルダスが都市警邏隊相手に身分を明かして簡単に事情を説明するのを見て、本当にこの人は神殿騎士なんだな、と改めて思った。
 神殿騎士と言えば、さまざまな物語に登場する、民衆の英雄のような存在だ。

 一般的な騎士は王や貴族に仕えていて、平民のことなどかえりみることがないが、神殿騎士は精霊を祀る精霊神殿に仕えているため、民の窮状を救うことが多い。
 そのため、平民は神殿騎士を心の拠り所にしているのだ。

 アイメリアも年頃の少女らしく、神殿騎士が乙女を救う物語などに憧れて夢想したことがある。
 それは、ある日神殿騎士が家を訪れて、両親や姉にアイメリアを家族として仲良く暮らすようにと諭すという、たわいもない空想だった。
 結局アイメリアは家族として扱われることなく家を追い出されてしまったが、順番は狂ってしまったものの、今の状態も神殿騎士に救われたと言っていいだろう。
 ラルダスは、たとえ顔は怖くても、優しい人に思える。
 アイメリアは、ラルダスに心から感謝していた。

「実は、家の管理を任せられる者を雇いたいと思っていたんだが、忙しくて手をつけられずにいたのだ。全く、騎士団寮で気楽に暮らしていた頃が懐かしい……」

 ラルダスは歩きながら、アイメリアに家に来ないか? と誘った説明を始める。

「まぁ俺の愚痴はともかくとして、もし君が構わなければ家の管理をお願いしたい。騎士団支給の家なので、従者用の部屋があるから、そこを自由に使うといいだろう」
「従者の方はいらっしゃらないのですか?」

 騎士に従者がつくのは当たり前のことなので、不思議に思ってアイメリアは訪ねた。

「ちゃんとした貴族家なら騎士として出仕をした時点で従者を伴うものなんだが、うちは貧乏子沢山でな、そんな余裕はない。そもそも俺自身が一般兵からの叩き上げなんだ。周りは早くなんとかしろとうるさいが、そんなツテもないし、おもねってくる奴等を傍に置く気にもならない。……で、今まで来ちまったんだ」

 ラルダスの告白に、アイメリアは事情を呑み込んでうなずく。
 従者は必要だが、時間をかけて選ぶ余裕もなかったラルダスにとって、行きずりで知り合ったアイメリアを雇うのは都合のいいことなのだ、と理解出来たのだ。

「そんで、悪いんだが、家に戻る前に用事を済ませなきゃならないんだ。君をそこらに放置しておく訳にもいかないし、正式雇用前だが、仮の従者として一緒に来てくれないか?」
「わかりました」

 アイメリアは素直にうなずいたが、ラルダスの用事の場所を見て、仰天することとなった。
 巨大な門構えにそびえ立つ塔、初めて外を見るアイメリアでは断言は出来ないが、もしかすると、これは王様が住まうというお城ではないだろうか?
 そう考えて、思わず大きく口を開けそうになり、アイメリアは慌てて表情を引き締めた。
 今はかりそめとは言え、ラルダスの従者なのだ。
 無様な行動を取れば、主人の汚点となってしまうだろう。
 アイメリアは、あえてなんでもないような涼しい顔をして、ラルダスに続いた。

「……あ、あなたは銀騎士ラルダスさま?」
「そうだ。呼び出しをいただき登城した。取次をお願いしたい」
「は、はい!」

 どこか慌てたような門番が引っ込むと、周辺にいる者達が小声で話す言葉がアイメリアの耳に届く。

「なんで騎士さまが徒歩なんだ?」
「知らないのか? 神殿騎士のラルダスと言えば野蛮人として有名だろ、自分の馬も食っちまったんだろうよ」
「そりゃあいい」

 噂をしているのは、そこそこ身なりのいい男達だった。
 貴族は登城の際には馬車を使うが、門の内側には馬車で入ることは出来ない。
 そのため、馬車から降りて順番待ちをしているのだ。
 城からの呼び出しは優先されるため、順番待ちは自分の用事のために城に来た者達ということになる。

 詳しい事情は知らないアイメリアにも、その身なりから、噂話をしているのが貴族であることが察せられた。
 すでにラルダスの身内のような心境となっていたアイメリアは、静かなまなざしをその小集団に向ける。
 噂をしていた男達は、アイメリアの視線に少しニヤつくと、丁寧に頭を下げてみせた。

 精霊の代理人であり、人の守護者である神殿騎士に対して、その一連の態度は失礼と言えるだろう。
 貴族という身分は、精霊の前ではなんら意味を持たない。
 その精霊の代理人でもある神殿騎士も、人界の権力構造から隔絶された存在となっている。
 貴族にとって面白くない存在であり、そのなかにあって悪い意味で目立つ者がいれば、少しでも貶めてやろうと考えるのは当然なのかもしれない。

 アイメリアは、そのような背景は知らなかったが、恩人の置かれた複雑な立場を、周囲の雰囲気からなんとなく察したのであった。
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