87 / 296
竜の御子達
精霊祭の夜 其の二
しおりを挟む
周囲は急激に暗さを増し、狭い路地を歩くには普通は支障がある状態だったが、元々夜目が利くライカは元より、暗さ自体が物を見る障害にならないサッズには普通に昼間歩くのとそれ程変わらない。
二人は軽い足取りで、しかし急ぎすぎない速さで目的地へと向かっていた。
『それにしても酷い匂いだ、お前はこんな所で暮らしてよく平気だな』
『ああ、そうだこれ』
ライカは懐に手を突っ込むと、小さな布の塊を取り出す。
それをサッズの鼻先へと突きつけると、反射的に上げられた手に押し付けた。
『それを嗅いでれば少しはマシだよ』
『なんだこれ? ん? 甘い匂いだな』
『ハーブオイルを木の細かいチップに焚き込んだのが入ってるんだ』
『ハーブオイル? チップ? まぁなんか知らんが、助かる。でもこれお前の好みだな、ちょっと甘ったるい』
『俺用に作ってるから仕方ないよ。サッズは辛いような匂いが好きだったよね、花の匂いより青い草を千切った時の匂いとか好きだったし、とりあえず今はそれで我慢して』
『おう』
短いやり取りの間に、広場が見える場所に辿り着く。
二人が驚いた事に、そこにあったテント群は短い間にすっかり姿を消していた。
人が大勢いてよく見えないが、どうやら奥が明るいところを見ると、水路の周りには既に篝火が灯されているらしい。
コーン、コーンと木と木の打ち合わされる柔らかく響き渡る音が、人々を誘うように緩急を付けて鳴り、それに従っている訳でもないのだろうが、人の波が揺れるように動いている。
『うはあ、よくもまあ、ぞろぞろいるな』
その反応に、サッズを連れて人混みの中を突っ切る事に不安を覚えたライカは、大きく南側に回り込んで移動した。
思った通りレンガ地区に続く脇道は暗すぎるからか人気がなく、そこの渡り板を渡って水路沿いを城側から祭りの中心地まで辿る。
城側には城の下働きの人々や街道の整備の為に城内に場所を与えられている人夫達、警備も兼ねているのか、警備隊と守備隊の赤と黒の隊服も炎に照らされて並んでいた。
ライカはあえてその篝火の光の届く所までは進まず、篝火の明るさによって却って一段と見えにくくなった暗がりに留まる。
ふと思い至って水路の反対側を見ると、同じような暗がりにレンガ地区の住人らしき一団もいて、その内の少なくもない人数が彼等二人を呆けたように見ていた。
「うわ、知り合いがいないと良いな」
ライカはちょっと前の情けない気持ちが蘇って溜息を落としたが、連れの訝しげな眼差しと意識に、気分を切り替える。
『なんでもない。ほら、もう始まるみたいだよ』
ふとサッズを見て、その髪に枯葉がいくつか絡まっているのに気付き、それを取ってやり、何気なく自分の方も編まれた髪に手をやると、何かあらゆる方向に乱れている手触りを感じ、なぜ見られていたか納得した。
二人とも酷い有り様なのだ。
衣服など元が綺麗なものだけに何かいたたまれないような着崩れ方をしてる。
これでは注目されたとしても仕方がない。
納得して、ライカは慌てて自分も髪を解すと、他の編み方も知らないので、いつもの通りに一本に編み直し背に流した。
『うん、せっかく心配性どもが工夫してくれたんだから、そうしてる方が良いと思うぞ。さっきのは綺麗だったけど、背中ががら空きだし』
『背中や首を心配するような事なんて街中じゃまず起こらないけどね』
『人間同士だって争いはあるんだろ?』
『争いがそのまま命の取り合いや食らい合いじゃないんだ。竜族とは違うよ』
『相手の力を奪うんじゃなけりゃ何の為に争うんだ?』
『そうだね、ほとんどはお互いの意見の違いを主張する為かな?』
『意見が違うのは当たり前だろ?』
『人間は協力し合って暮らしてるから意見が違うと困る事もあるんだよ』
『う~ん、さっぱり分からねぇよ』
『サッズは馬鹿だから仕方ないよ』
『お前という奴は』
次の瞬間、ライカは頬がひっぱられる痛みを感じ、お返しとばかりにサッズに怒りの意識を明確に叩き付けて激しく抗議した。
どうもサッズはライカの頬を引っ張るという行為が気に入ったらしい。
ライカにとっては災難でしかなかった。
『心声しか聞こえないなぁ、口からはフガフガと変な音しか出てないぞ』
『心声が聞こえたなら止めろ!』
ライカの足が素早くサッズの足の後ろに延ばされ、そのまま掬い上げるように手前に引かれる。
サッズは空中で足踏みをするように片足を蹴上げた形になり、バランスを崩して背後に倒れ掛けたが、くるりと横に回転して体制を立て直した。
『心声は偶には聞こえない振りをするのが礼儀の時もあるだろ』
『サッズの場合は礼儀で聞かないんじゃなくて、都合の悪い事は聞き逃すんだろ』
『優しいお兄ちゃんを馬鹿呼ばわりするような奴の心声は聞こえないんだよ』
『正直者の心声を聞かないのは駄目だろ、サッズはもっと素直に真実を受け止めるべきだと思うな』
『お前の頭の中だけにある真実だろ』
二人が言い争いをしていると、突如、どよめくような人々の声が沸き上がり、すっかり意識をお互いに取られていたライカとサッズは、ふいを突かれた形でびくりとする。
二人が揃って振り向くと、視線の先では上半身の衣服を脱ぎ捨てた男が、その筋肉のうねりを炎の照りに映えさせて手に持つ長い得物を振り上げていた。
その手の中にある得物は、炎の照りに返す鈍い色から堅い金属と見て取れる。
ガチンと堅い音が響き、その男の、腕に返る反動を受けた弾みで反らされた体から飛び散る汗が炎を反射してキラキラと光った。
人々の間から「あ~」とも「ふ~」ともつかない声が溢れる。
『あれは何をしているんだ?』
『氷を割るんだって』
『氷?』
二人は、自分達の近くの方の水路の、闇に沈んだ表面を眺める。
それは固く、ひっそりとしていて、まだまだ人が乗れる程にぶ厚く見えた。
『割ってどうするんだ?』
『今年が実り多いように祈りを込めるんだって』
『? さっぱり意味が分からん』
『そりゃあ……』
『今度馬鹿とか言ったら鼻をつまみあげるぞ』
ライカが言い慣れた言葉をまた繰り返す気配を察して、サッズは機先を制する。
『サッズ、そろそろ真実を受け止めるべきだと思うよ』
『うるさい! 俺の頭が悪くてお前に迷惑を掛けたか?』
『ごめん、自覚してたんだね。でも、迷惑は掛かってるから』
サッズは無言でまたライカの頬をつまみあげた。
ライカはその手をぱしぱし叩き、同じく無言で抗議の姿勢を見せる。
その時、丸太で作られた楽器の音が一際高まり、人々の歓声が大気を震わせて沸き立った。
ぴしっという氷に亀裂が入る独特な音がどこか遠くで小さく連続して聞こえ、次いでギシギシと氷がひしめく音も聞こえる。
「あ、もう割れる」
ライカが思わず洩らした声を聞いた訳でもないだろうが、人々の間からも「割れるぞ」「いけ!」等という囃し立てる声が起こった。
見覚えのある逞しい体躯の男が金属の棒を軽々と頭上で回すと、風を切る鋭い音を観客たちの耳に届け、その勢いのまま振り下ろす。
「頭ぁ! いけぇ!」
野太い声が城側から多く上がり、バキリという岩でも割ったような凄い音が辺りに響いた。
途端に、水しぶきと共に厚い氷の断片が立ち上がり、幾多の炎で揺らめき、通常より赤く濃い火の色をその無色と濁った白とで形作られた表面に映し出す。
別の場所でも次々と得物が振り下ろされ、亀裂が走り割れ易くなったとはいえまだまだ分厚い氷を、それでも何箇所もで同じように立ち上がらせた。
炎の色が男達の汗と肉体と氷の壁を染め上げ、悲鳴のように上がる歓声がそれを祝福する。
空洞の丸太を叩いていた者達の周りで、仮面を付けた男女が唸るような声を上げて体を揺らし、飛び跳ねた。
暗がりに潜んでいた人々も歓声を上げてその身を激しく動かしている。
「振る舞い酒が出るぞー!」
城の中から声が上がり、人々の熱気も更に上がった。
樽に突きこまれた杓が振り上げられ、独特の香りを放つ液体が、一番に氷を割った男に振り撒かれ、巨大な杯が彼に渡される。
彼が杯を干すと、興奮した人々が次々と水路の渡りの道を踏んで押し寄せ、樽に群がった。
呆れた事に、水路に落ちる者が一人二人ならずいて、最初から待機している守備隊の者に助けられている。
どこからか肉の焼ける良い匂いも漂って来ていた。
『おもしろいなぁ、なんであんなに盛り上がってるんだ?』
『明日に希望が見えたからだよ』
言って、嬉しそうに笑うライカに、よく分かっていないながらもサッズも笑った。
ここでまた分からないと口に出す程サッズも愚かではない。
『食べ物がもらえるみたいだから行こう』
『は?』
家族以外の相手とは食べ物は奪い合うものだという認識しかないサッズには、ライカの言っている事が理解出来なかった。
だが、ふと、自分のいる場所が人間の世界である事を思い出して、サッズはニヤリと自分を笑う。
知らないものというのは考える必要はない物の事だとサッズは思っている。
初めての事ならばただその体験を味わえばいいのである。
何か新しい経験をする時、そこに自分自身の考えは必要ないし、むしろ邪魔だ。
無駄にものを考えるのが嫌いなサッズは、再会してからずっとそうであったように、末の家族に手を引かれて進んでいた。
元々サッズは好奇心の強い性質だ。
今までライカを探し当てる事に集中していたのでその性質は幾分か抑えられていたが、もはや他に考えるべき事もない。
『俺より前を行こうなんて、それこそ百年は早いぞ』
言って、反動を付けてライカの手を引くと、サッズはポジションを入れ替え、自分の方がより先んじようと走り出したのだった。
二人は軽い足取りで、しかし急ぎすぎない速さで目的地へと向かっていた。
『それにしても酷い匂いだ、お前はこんな所で暮らしてよく平気だな』
『ああ、そうだこれ』
ライカは懐に手を突っ込むと、小さな布の塊を取り出す。
それをサッズの鼻先へと突きつけると、反射的に上げられた手に押し付けた。
『それを嗅いでれば少しはマシだよ』
『なんだこれ? ん? 甘い匂いだな』
『ハーブオイルを木の細かいチップに焚き込んだのが入ってるんだ』
『ハーブオイル? チップ? まぁなんか知らんが、助かる。でもこれお前の好みだな、ちょっと甘ったるい』
『俺用に作ってるから仕方ないよ。サッズは辛いような匂いが好きだったよね、花の匂いより青い草を千切った時の匂いとか好きだったし、とりあえず今はそれで我慢して』
『おう』
短いやり取りの間に、広場が見える場所に辿り着く。
二人が驚いた事に、そこにあったテント群は短い間にすっかり姿を消していた。
人が大勢いてよく見えないが、どうやら奥が明るいところを見ると、水路の周りには既に篝火が灯されているらしい。
コーン、コーンと木と木の打ち合わされる柔らかく響き渡る音が、人々を誘うように緩急を付けて鳴り、それに従っている訳でもないのだろうが、人の波が揺れるように動いている。
『うはあ、よくもまあ、ぞろぞろいるな』
その反応に、サッズを連れて人混みの中を突っ切る事に不安を覚えたライカは、大きく南側に回り込んで移動した。
思った通りレンガ地区に続く脇道は暗すぎるからか人気がなく、そこの渡り板を渡って水路沿いを城側から祭りの中心地まで辿る。
城側には城の下働きの人々や街道の整備の為に城内に場所を与えられている人夫達、警備も兼ねているのか、警備隊と守備隊の赤と黒の隊服も炎に照らされて並んでいた。
ライカはあえてその篝火の光の届く所までは進まず、篝火の明るさによって却って一段と見えにくくなった暗がりに留まる。
ふと思い至って水路の反対側を見ると、同じような暗がりにレンガ地区の住人らしき一団もいて、その内の少なくもない人数が彼等二人を呆けたように見ていた。
「うわ、知り合いがいないと良いな」
ライカはちょっと前の情けない気持ちが蘇って溜息を落としたが、連れの訝しげな眼差しと意識に、気分を切り替える。
『なんでもない。ほら、もう始まるみたいだよ』
ふとサッズを見て、その髪に枯葉がいくつか絡まっているのに気付き、それを取ってやり、何気なく自分の方も編まれた髪に手をやると、何かあらゆる方向に乱れている手触りを感じ、なぜ見られていたか納得した。
二人とも酷い有り様なのだ。
衣服など元が綺麗なものだけに何かいたたまれないような着崩れ方をしてる。
これでは注目されたとしても仕方がない。
納得して、ライカは慌てて自分も髪を解すと、他の編み方も知らないので、いつもの通りに一本に編み直し背に流した。
『うん、せっかく心配性どもが工夫してくれたんだから、そうしてる方が良いと思うぞ。さっきのは綺麗だったけど、背中ががら空きだし』
『背中や首を心配するような事なんて街中じゃまず起こらないけどね』
『人間同士だって争いはあるんだろ?』
『争いがそのまま命の取り合いや食らい合いじゃないんだ。竜族とは違うよ』
『相手の力を奪うんじゃなけりゃ何の為に争うんだ?』
『そうだね、ほとんどはお互いの意見の違いを主張する為かな?』
『意見が違うのは当たり前だろ?』
『人間は協力し合って暮らしてるから意見が違うと困る事もあるんだよ』
『う~ん、さっぱり分からねぇよ』
『サッズは馬鹿だから仕方ないよ』
『お前という奴は』
次の瞬間、ライカは頬がひっぱられる痛みを感じ、お返しとばかりにサッズに怒りの意識を明確に叩き付けて激しく抗議した。
どうもサッズはライカの頬を引っ張るという行為が気に入ったらしい。
ライカにとっては災難でしかなかった。
『心声しか聞こえないなぁ、口からはフガフガと変な音しか出てないぞ』
『心声が聞こえたなら止めろ!』
ライカの足が素早くサッズの足の後ろに延ばされ、そのまま掬い上げるように手前に引かれる。
サッズは空中で足踏みをするように片足を蹴上げた形になり、バランスを崩して背後に倒れ掛けたが、くるりと横に回転して体制を立て直した。
『心声は偶には聞こえない振りをするのが礼儀の時もあるだろ』
『サッズの場合は礼儀で聞かないんじゃなくて、都合の悪い事は聞き逃すんだろ』
『優しいお兄ちゃんを馬鹿呼ばわりするような奴の心声は聞こえないんだよ』
『正直者の心声を聞かないのは駄目だろ、サッズはもっと素直に真実を受け止めるべきだと思うな』
『お前の頭の中だけにある真実だろ』
二人が言い争いをしていると、突如、どよめくような人々の声が沸き上がり、すっかり意識をお互いに取られていたライカとサッズは、ふいを突かれた形でびくりとする。
二人が揃って振り向くと、視線の先では上半身の衣服を脱ぎ捨てた男が、その筋肉のうねりを炎の照りに映えさせて手に持つ長い得物を振り上げていた。
その手の中にある得物は、炎の照りに返す鈍い色から堅い金属と見て取れる。
ガチンと堅い音が響き、その男の、腕に返る反動を受けた弾みで反らされた体から飛び散る汗が炎を反射してキラキラと光った。
人々の間から「あ~」とも「ふ~」ともつかない声が溢れる。
『あれは何をしているんだ?』
『氷を割るんだって』
『氷?』
二人は、自分達の近くの方の水路の、闇に沈んだ表面を眺める。
それは固く、ひっそりとしていて、まだまだ人が乗れる程にぶ厚く見えた。
『割ってどうするんだ?』
『今年が実り多いように祈りを込めるんだって』
『? さっぱり意味が分からん』
『そりゃあ……』
『今度馬鹿とか言ったら鼻をつまみあげるぞ』
ライカが言い慣れた言葉をまた繰り返す気配を察して、サッズは機先を制する。
『サッズ、そろそろ真実を受け止めるべきだと思うよ』
『うるさい! 俺の頭が悪くてお前に迷惑を掛けたか?』
『ごめん、自覚してたんだね。でも、迷惑は掛かってるから』
サッズは無言でまたライカの頬をつまみあげた。
ライカはその手をぱしぱし叩き、同じく無言で抗議の姿勢を見せる。
その時、丸太で作られた楽器の音が一際高まり、人々の歓声が大気を震わせて沸き立った。
ぴしっという氷に亀裂が入る独特な音がどこか遠くで小さく連続して聞こえ、次いでギシギシと氷がひしめく音も聞こえる。
「あ、もう割れる」
ライカが思わず洩らした声を聞いた訳でもないだろうが、人々の間からも「割れるぞ」「いけ!」等という囃し立てる声が起こった。
見覚えのある逞しい体躯の男が金属の棒を軽々と頭上で回すと、風を切る鋭い音を観客たちの耳に届け、その勢いのまま振り下ろす。
「頭ぁ! いけぇ!」
野太い声が城側から多く上がり、バキリという岩でも割ったような凄い音が辺りに響いた。
途端に、水しぶきと共に厚い氷の断片が立ち上がり、幾多の炎で揺らめき、通常より赤く濃い火の色をその無色と濁った白とで形作られた表面に映し出す。
別の場所でも次々と得物が振り下ろされ、亀裂が走り割れ易くなったとはいえまだまだ分厚い氷を、それでも何箇所もで同じように立ち上がらせた。
炎の色が男達の汗と肉体と氷の壁を染め上げ、悲鳴のように上がる歓声がそれを祝福する。
空洞の丸太を叩いていた者達の周りで、仮面を付けた男女が唸るような声を上げて体を揺らし、飛び跳ねた。
暗がりに潜んでいた人々も歓声を上げてその身を激しく動かしている。
「振る舞い酒が出るぞー!」
城の中から声が上がり、人々の熱気も更に上がった。
樽に突きこまれた杓が振り上げられ、独特の香りを放つ液体が、一番に氷を割った男に振り撒かれ、巨大な杯が彼に渡される。
彼が杯を干すと、興奮した人々が次々と水路の渡りの道を踏んで押し寄せ、樽に群がった。
呆れた事に、水路に落ちる者が一人二人ならずいて、最初から待機している守備隊の者に助けられている。
どこからか肉の焼ける良い匂いも漂って来ていた。
『おもしろいなぁ、なんであんなに盛り上がってるんだ?』
『明日に希望が見えたからだよ』
言って、嬉しそうに笑うライカに、よく分かっていないながらもサッズも笑った。
ここでまた分からないと口に出す程サッズも愚かではない。
『食べ物がもらえるみたいだから行こう』
『は?』
家族以外の相手とは食べ物は奪い合うものだという認識しかないサッズには、ライカの言っている事が理解出来なかった。
だが、ふと、自分のいる場所が人間の世界である事を思い出して、サッズはニヤリと自分を笑う。
知らないものというのは考える必要はない物の事だとサッズは思っている。
初めての事ならばただその体験を味わえばいいのである。
何か新しい経験をする時、そこに自分自身の考えは必要ないし、むしろ邪魔だ。
無駄にものを考えるのが嫌いなサッズは、再会してからずっとそうであったように、末の家族に手を引かれて進んでいた。
元々サッズは好奇心の強い性質だ。
今までライカを探し当てる事に集中していたのでその性質は幾分か抑えられていたが、もはや他に考えるべき事もない。
『俺より前を行こうなんて、それこそ百年は早いぞ』
言って、反動を付けてライカの手を引くと、サッズはポジションを入れ替え、自分の方がより先んじようと走り出したのだった。
0
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる