勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
882 / 885
第八章 真なる聖剣

987 傭兵団に連行される

しおりを挟む
 とりあえず、メルリルのおかげで、速攻でミディの父親との和解が成立した訳だが、そのままめでたしめでたしで終わることはなかった。

「あー。どうやら話はついたようだが、ここでは闘争を行うこと自体がご法度となっている。すまないが、全員詰所に来てもらえないかな?」

 村の警護の傭兵にしょっぴかれることとなったのだ。
 まぁこれは仕方ない。

「なんだと! 俺達は悪くないだろうが!」
「こら、一応両方から話を聞かないと判断出来ないからだろ。この人等もお役目なんだからごねるな」

 勇者が抗議を口にしたが、慌ててなだめる。
 問題が発生した場合、貴族相手と商人相手では対応の仕方を変える必要があるのだ。
 貴族の私兵相手なら、ある程度力押しで自分達の正しさを押し通すことが出来る。
 正しさを力で認めさせるのは、貴族の基本姿勢だ。
 貴族にとって敗北は恥でしかないので、敗北したことを外に漏らしたりはしない。

 だが、商人は違う。
 商人に一度目をつけられると、あっという間に要注意人物として覚書が回ってしまうのだ。

 商人と付き合うときに肝に銘じるべきなのが、駆け引きはしてもいいが、力でねじ伏せるようなことをしてはならないということである。
 彼らは自分達の流儀の外からの攻撃に対して、結束するからだ。
 物流と金を牛耳る商人連中を敵に回すのは、あまりにも危険過ぎる。

「むー、師匠がそう言うなら仕方がないな……」

 勇者はぶつぶつ言いながらも、警護の傭兵に従うことにしたようだ。
 そのほかの馬車のなかにいた仲間達も外に出て来る。
 勇者パーティの雰囲気に、何かただならぬものを感じたのか、あるいは、馬車と身なりから貴族と判断したのか、傭兵達にはどこか焦りのようなものが見えた。

 だが、俺達を連行するという意思は揺るがず、包囲にほころびはない。
 俺は傭兵というのは、もっとだらしない集団と思っていたので、これは意外だった。
 実際、今まで仕事などでかち合った傭兵団は、規律もゆるく、粗暴な者が多い印象だ。
 ここの傭兵達が特別統制が取れているのかもしれない。

「すまないが、馬車が壊れてしまった。どこか修理が出来るところを知らないか? 魔道を使った特殊な馬車だが、壊れたのは車輪だけだ。鍛冶師ならなんとかなるかもしれないと思う」
「ま、魔道の馬車……」

 俺が馬車のことを説明すると、警護の傭兵はひどく焦っていたが、「なんとかしてみる」とうなずいてくれた。

「すまない。金の心配は大丈夫だ。もしどうにもならないようなら、この地の教会に連絡して欲しい。勇者一行の馬車を預かってもらえないか? とな」
「ゆ、勇者一行!」

 傭兵の男は、仰天したように俺達をしげしげと見て、汗を流したが、ひたすら唇を引き結んでしっかりとうなずいてみせる。
 さすがに傭兵だけあって、下手な貴族の兵士より肝が座っているな。
 俺は感心しつつ彼らに付き従った。

 そんなやりとりの間に、少し離れた場所ではミディとその父が再会の抱擁を交わしている。
 隣でメルリルが簡単に事情を説明しているようだ。
 あっちは任せておいていいだろう。
 俺は万が一にも勇者が暴発しないように見張っておかないといけないからな。
 勇者が気にしなくても、ときどき目覚めてはろくでもないことをしでかす若葉もいる。
 周囲に一般人がいるときには細心の注意が必要だ。

 若干の緊張感と共に傭兵団の詰所に到着すると、俺と勇者、聖騎士とモンクと聖女、メルリルとミディとその父親、という風に分かれて小部屋に通された。

 なぜ引き離すのか? 仲間に危害を加えると大変なことが起きるぞ、などと半分脅しつつ尋ねたが、どうやら話を聞くための部屋が狭いため、人数を絞るしかなかったようだ。
 詰所に着いた段階で、俺達を案内してくれた戦士風の女性は、勇者に睨まれて少し涙目になりつつ説明してくれた。
 ちょっと脅かし過ぎた、とさすがに罪悪感にさいなまれてしまう。
 メルリルをミディ親子と一緒にしたのは、森人だからだろうな。

「あまりうちの接客担当をいじめないで欲しい」

 がっしりとした、いかにも傭兵という体つきの男が俺達のいる小部屋に入って来るなりそう言った。

「あれでも、うちの連中のなかでは外面がいいほうでな。がたいはそこそこいいが、肝っ玉はちと小さめなんだ。だが、飯が美味い。それが決め手となって傭兵団入りした奴よ」
「あー。正直悪かった。こっちとしても仲間と分断されると不安があるんでな」

 男の抗議に、俺は素直に謝った。
 しかし、これはまた、いかにも傭兵という男が出て来たな。
 目つきも鋭いし、何より、顎から首にかけて大きな傷跡がある。
 この傷を受けてよくもまぁ生きていたものだ。
 傷の治り具合から見て、教会から遠い場所でケガをして、簡単な処置だけをした、という感じだろう。
 こういう強運の人間は、だいたいにおいて手強い。

「じゃ、話を聞かせてもらおうか。賃金分の仕事をするのが傭兵の誇りって奴だからな」
 
 男はそう言って、ニヤリと笑ってみせたのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。