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第八章 真なる聖剣
979 尾のない獣
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後味の悪い王都からの出立の後、俺達は、ようやく森人の森に最も近い大きな街に到着した。
以前俺がホームタウンにしていたこともある、冒険者が多い街だ。
地元の人間や、訪れる者達からは『熱き狩人の街』と呼ばれていたっけな。
冒険者以外に商人も多く、魔物素材、森の資源、そして東にそびえ立つ熱の山を含む山岳地帯からの鉱物資源が取引されている。
冒険者の目的も基本的にはそういった資源の調達だ。
ただし、東の山岳地帯の裾野には、王国の民ではない異民族の集落が点在していて、伝統的に、というかちょくちょく王国とは小競り合いを繰り返していた。
そんな場合の戦いに、冒険者が駆り出されることもある。
そして、この街では、冒険者は使い捨ての駒のように扱われていた。
俺が嫌気が差してホームを変えたのも、それが原因だ。
まぁ宿は多いし、施設は立派なので、快適に宿泊出来る場所ではあるから、長旅のときには便利な街ではあるんだけどな。
ただ、森人であるメルリルにいちゃもんをつける輩が現れないとも限らないので、念の為聖女に以前使った目くらましを掛けてもらって、メルリルを平野人のように見せることにした。
平野人の一方的な都合で姿を偽らせてしまうのは気がとがめるが、進んで嫌な思いをすることもないだろう。
だが、俺の配慮も現実の前では無力であった。
「獣のような耳と獣のような尾っぽがあるんだ。しかも言葉も通じねえ。獣だろ、こいつ」
道の真ん中に人だかりが出来ていて、嫌な予感がしたので、仲間達を馬車に待たせて近づいてみると、案の定、ろくでもない事態が発生していたのである。
うずくまっていたので、少年か少女かよくわからなかったが、森人の子どもが裸にひん剥かれて、男達に蹴られたり、鞘に収められたままの剣で突き回されたりしていたのだ。
「お前ら! 何をしている」
俺は思わず怒気を発しながらその輪へと押し入った。
ミホム王国では他種族と平野人は同じ人間として扱われる。
というか、神の盟約を奉じる大聖堂の教えでは、他種族も同じ人間と定義されているのだ。
このような非道が許されるはずもないが、この街は荒くれ者が多い上に、他種族とたびたび争っている。
そのためにこういうことがよくあるのだ。
「あん? なんだおっさん。変な正義感を振りかざすと、この街じゃあやっていけないぞ?」
「俺達はただ、獣をしつけているだけだよ。あっちへ行け!」
予想通りの言い草に、俺は久々に獰猛な気持ちが胸中に沸き起こるのを感じた。
「子どもを虐めてそれを誇るなど人間の所業ではない。つまりお前たちは人間じゃない。お前達の理屈なら、何をしてもいいってことになるな?」
「はあ?」
「めんどくせえおっさんだな。いいから死んどけ」
気が短いのか、一人が街中であるのにも関わらずいきなり剣を抜き放つ。
俺は男が剣の柄に手を掛けた瞬間に、相手の懐に踏み込んでいたので、剣を持つ手を軽々とひねることが出来た。
余裕ぶっている奴は扱いやすい。
相手の警戒心が上がる前に沈黙してもらおう。
剣を抜いた男の首筋を殴りつけ、倒れたところを頑丈なブーツで蹴りつけて肋を何本かへし折る。
まだ事態が飲み込めていない仲間共は、何もさせないまま、簡単に意識を刈り取れた。
バカの相手は楽でいい。
俺は素早く荷物から毛布を取り出すと、倒れて震えている森人の子どもに掛けて、有無を言わさずにかっさらい、魔道馬車に突っ込んだ。
「乱暴者に捕まっていたぶられていたようだ。ミュリア、治癒を頼む。あと、何か着せてやってくれ」
「まぁ、なんてこと!」
聖女は、突然任された荷物が子どもだと理解すると、目に涙を浮かべながらさっそく治療を開始する。
「乱暴者はどこだ? 二度と他人をなぶることが出来ないようにしてやろう」
底冷えのする雰囲気となった勇者が言ったが、さすがにお前がやらかすとあいつらが死んでしまう。
いくら勇者でも一方的な殺戮は罪になる。
俺は「もう俺が叩きのめして来たから大丈夫だ」と言って、勇者を止めた。
「弱いものをなぶるような奴らは反省などしない。ここで禍根を断つべきだ」
と、勇者はなおもぶっそうなことを言っていたが、俺は馬車の扉を閉めて素早く御者台に座り、馬車を動かし、現場から離れる。
こういうときは物理的に距離を離すのが一番なのだ。
「ダスター、何があったの?」
御者台の俺の隣に座っていたメルリルには、事態が把握出来なかったのだろう。
そう俺に尋ねて来た。
「森人の子どもが乱暴者に捕まっていた。今ミュリアが治療している」
「えっ!」
メルリルの顔がさっと強ばる。
「十分に離れたら一旦馬車を止める。あの子が気づいたら、メルリルが安心させてやってくれ」
「うん」
不安そうなメルリルの顔を見ていると、勇者の言う通り、あの馬鹿共を二度と悪さが出来ないようにしておいたほうがよかったかな? と、改めて思ってしまいそうになる。
俺は慌てて頭を振って昇った血を下げつつ、自分の感情の動きにため息をつくのだった。
以前俺がホームタウンにしていたこともある、冒険者が多い街だ。
地元の人間や、訪れる者達からは『熱き狩人の街』と呼ばれていたっけな。
冒険者以外に商人も多く、魔物素材、森の資源、そして東にそびえ立つ熱の山を含む山岳地帯からの鉱物資源が取引されている。
冒険者の目的も基本的にはそういった資源の調達だ。
ただし、東の山岳地帯の裾野には、王国の民ではない異民族の集落が点在していて、伝統的に、というかちょくちょく王国とは小競り合いを繰り返していた。
そんな場合の戦いに、冒険者が駆り出されることもある。
そして、この街では、冒険者は使い捨ての駒のように扱われていた。
俺が嫌気が差してホームを変えたのも、それが原因だ。
まぁ宿は多いし、施設は立派なので、快適に宿泊出来る場所ではあるから、長旅のときには便利な街ではあるんだけどな。
ただ、森人であるメルリルにいちゃもんをつける輩が現れないとも限らないので、念の為聖女に以前使った目くらましを掛けてもらって、メルリルを平野人のように見せることにした。
平野人の一方的な都合で姿を偽らせてしまうのは気がとがめるが、進んで嫌な思いをすることもないだろう。
だが、俺の配慮も現実の前では無力であった。
「獣のような耳と獣のような尾っぽがあるんだ。しかも言葉も通じねえ。獣だろ、こいつ」
道の真ん中に人だかりが出来ていて、嫌な予感がしたので、仲間達を馬車に待たせて近づいてみると、案の定、ろくでもない事態が発生していたのである。
うずくまっていたので、少年か少女かよくわからなかったが、森人の子どもが裸にひん剥かれて、男達に蹴られたり、鞘に収められたままの剣で突き回されたりしていたのだ。
「お前ら! 何をしている」
俺は思わず怒気を発しながらその輪へと押し入った。
ミホム王国では他種族と平野人は同じ人間として扱われる。
というか、神の盟約を奉じる大聖堂の教えでは、他種族も同じ人間と定義されているのだ。
このような非道が許されるはずもないが、この街は荒くれ者が多い上に、他種族とたびたび争っている。
そのためにこういうことがよくあるのだ。
「あん? なんだおっさん。変な正義感を振りかざすと、この街じゃあやっていけないぞ?」
「俺達はただ、獣をしつけているだけだよ。あっちへ行け!」
予想通りの言い草に、俺は久々に獰猛な気持ちが胸中に沸き起こるのを感じた。
「子どもを虐めてそれを誇るなど人間の所業ではない。つまりお前たちは人間じゃない。お前達の理屈なら、何をしてもいいってことになるな?」
「はあ?」
「めんどくせえおっさんだな。いいから死んどけ」
気が短いのか、一人が街中であるのにも関わらずいきなり剣を抜き放つ。
俺は男が剣の柄に手を掛けた瞬間に、相手の懐に踏み込んでいたので、剣を持つ手を軽々とひねることが出来た。
余裕ぶっている奴は扱いやすい。
相手の警戒心が上がる前に沈黙してもらおう。
剣を抜いた男の首筋を殴りつけ、倒れたところを頑丈なブーツで蹴りつけて肋を何本かへし折る。
まだ事態が飲み込めていない仲間共は、何もさせないまま、簡単に意識を刈り取れた。
バカの相手は楽でいい。
俺は素早く荷物から毛布を取り出すと、倒れて震えている森人の子どもに掛けて、有無を言わさずにかっさらい、魔道馬車に突っ込んだ。
「乱暴者に捕まっていたぶられていたようだ。ミュリア、治癒を頼む。あと、何か着せてやってくれ」
「まぁ、なんてこと!」
聖女は、突然任された荷物が子どもだと理解すると、目に涙を浮かべながらさっそく治療を開始する。
「乱暴者はどこだ? 二度と他人をなぶることが出来ないようにしてやろう」
底冷えのする雰囲気となった勇者が言ったが、さすがにお前がやらかすとあいつらが死んでしまう。
いくら勇者でも一方的な殺戮は罪になる。
俺は「もう俺が叩きのめして来たから大丈夫だ」と言って、勇者を止めた。
「弱いものをなぶるような奴らは反省などしない。ここで禍根を断つべきだ」
と、勇者はなおもぶっそうなことを言っていたが、俺は馬車の扉を閉めて素早く御者台に座り、馬車を動かし、現場から離れる。
こういうときは物理的に距離を離すのが一番なのだ。
「ダスター、何があったの?」
御者台の俺の隣に座っていたメルリルには、事態が把握出来なかったのだろう。
そう俺に尋ねて来た。
「森人の子どもが乱暴者に捕まっていた。今ミュリアが治療している」
「えっ!」
メルリルの顔がさっと強ばる。
「十分に離れたら一旦馬車を止める。あの子が気づいたら、メルリルが安心させてやってくれ」
「うん」
不安そうなメルリルの顔を見ていると、勇者の言う通り、あの馬鹿共を二度と悪さが出来ないようにしておいたほうがよかったかな? と、改めて思ってしまいそうになる。
俺は慌てて頭を振って昇った血を下げつつ、自分の感情の動きにため息をつくのだった。
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